【完結】いちばん小さな大魔王! 作:コントラポストは全てを解決する
日菜先輩とあこと俺の三人で料理をする事になった。例に漏れず日菜先輩は何でもそつなくこなし、あこはあこでポテンシャルを秘めていたせいか随分と上達していた。現在、俺が料理中に暇を持て余すと言う非常事態が発生している。
「はい、りゅう兄。野菜切れたよ」
「おう、サンキュ。そしたら茹でといてくれ」
「分かった。……ピーマン抜いて良い?」
「ダメだぞ」
最近はちょっとずつ受け入れているピーマンだが、やはりあこは隙あらば抜こうとしてしまう。そこがまた可愛くて可愛くて仕方がない結婚したい。
グツグツと沸騰する鍋の中に、野菜と肉が雪崩る様に入って行く。後は適当なタイミングでシチューの素を入れればお昼ご飯は完成だ。
今日はお昼からシチューと言う、ちょっとした贅沢を思い切って実行してみた。パンは自家製、肉は北沢精肉店、野菜は八百屋のおじちゃん厳選の品。文句なしのパーフェクトハーモニー。
「あ、日菜先輩って何か嫌いな食べ物ってありますか?」
「え、前に教えたじゃん……」
「薄口の物は嫌いって言うのは覚えてますけど、なんか食材で嫌いな物とかを」
「なんだそう言う事か……良かった……」
心底安心したように胸を撫で下ろす日菜先輩。そこまで重く受け止める話でもないと思うのだが。
「日菜先輩、意外と小さい事気にしますね」
「べ、別に良いじゃん。あたしにとっては大事な思い出なんだし……。りゅ、竜君はそう言う人イヤなの?」
「いえ、可愛いくて良いと思いますよ?」
「そ、そっか……」
日菜先輩がデレた。いつも活発な日菜先輩のしおらしくなる瞬間が見れるとは。明日は雪が降るなーと呑気に思いつつ、割と痛いあこのパンチを俺は耐える。魔王のパンチは結構痛い。
そんな平和な一幕は一度下ろし、俺は鍋の中を覗く。良い感じにシチューの素が溶け込んでおり、程よいクリームの匂いを漂わせていた。完成と見てよさそうだったので、俺は食器達を戸棚から取り出し盛り付ける。
「はい、あこと日菜先輩の分。飲み物持っていくので先に座っててください」
『はーい』
元気な返事と共にそれぞれの皿を持った二人を見送りながら、俺は冷蔵庫から取り出した麦茶を入れた。
「……竜君、可愛いマグカップ使うんだね」
ふと声をした方を見ると、日菜先輩がカウンタ越しからこちらを覗いていた。水族館であこに買った、取手がイルカ型のマグカップが気になっているようだ。
「これ、あこのですよ?」
「あ、そうなんだ。家から持ってきたの?」
「いえ、少し前に買ったんですよ。水族館に出かけたので土産として」
「水族館……え、デート!?」
カウンタの重量制限など気にしていない様子で、日菜先輩がズイっと俺の元まで顔を寄せてる。
「デート……とは違うと思いま──」
「こうしちゃいられない!竜君、明日あたしとデートしに行くよ!」
「……ふぁ?」
あことのデート疑惑を弁明する暇もなく、俺は日菜先輩にデートの約束を取り付けられた。
___
時はすっ飛び翌日の昼過ぎ。俺は日菜先輩に腕を引っ張られながらショッピングモールの中を彷徨っていた。
「あっ、あそこの喫茶店るんって来た」
「そこのお店、結構美味しいですよ。前に麻弥さんと来たので味は保証します」
「……他の所行く」
俺が巡回済みである事を告げると、日菜先輩はまた別の方向へと俺を引っ張る。何故かは分からないが、急にお気に召さなくなったらしい。
「ここのお店は……」
「和風レストランですね。子供用の刀のレプリカが人気です。イヴがはしゃいでました」
「じゃあここもダメ」
再び腕を掴まれ、今度は住宅街とショッピングモールの狭間にあるアイスクリーム屋に連れて来られた。
「さすがにここなら……」
「ここ、彩先輩のお気入りの店ですね。お忍び芸能人みたいになれるって言ってました。実は結構人気なんですけどね。穴場って言うやつです」
「次!」
日菜先輩は必死な顔で、俺がまだ一度も言ったことがない店を探し続けた。
喫茶店、たこ焼き屋、移動販売のクレープ屋、自営業の飲食店、灯台もと暗し作戦でCircle手前の売店など、たくさんの店を回った。しかし、どこも俺が誰かしらと行った事がある店だったため、日菜先輩は先に述べた場所全てをスルーする羽目になった。
そして今は、何故かは分からないがショッピングモール手前の鉄道模型店に来ている。
「さ、さすがにここなら……」
「ここも千聖先輩と前に来た所ですね。電車の事を知れば電車が得意になるかもって言う訳分かんない理由で駆り出されました。結局ダメでしたが」
「なんか竜君、あたし意外のパスパレの子と出かけすぎじゃない?」
出かけすぎと言うより、日菜先輩が誘わなすぎと言った方が正しい気がする。他の面子なんて俺の予定を気にする事なく電話かけてくるし。まあ断らない俺も俺だが。
「もう行く場所がない……。竜君の周り、キャラ強い子が多すぎるよ……」
「日菜先輩がそれを言いますか」
「何処かないのー?竜君が誰とも言った事がない場所……」
日菜先輩の無茶ぶりに、俺は一度頭を捻ってみる。
「……あるにはありますけど……」
「ほんと!?」
「はい。一応──」
俺が提案したのは、爺ちゃんの墓場と墓のお供え用にとよく立ち寄る花屋の二つだった。だが、当然の如く日菜先輩に却下される。
「日菜先輩はワガママですねー」
「お墓はさすがにないよ……」
「となると、もう行く宛てがないですね」
「そんなぁ〜……」
電柱にもたれ掛かりながら、日菜先輩は万策尽きた様子で嘆く。俺のコミュ力の高さ故に起こってしまった惨劇。だが俺は謝らない。
「そもそも、“俺が誰とも行った事ない場所”に拘る必要ありますか?」
「……だってそれぐらいしないと、竜君忘れちゃうかもしれないじゃん……」
一体どんな理由があって俺を連れ回していたのかと思ったら、案外可愛い理由だった。ただ、俺はそう易易と相手との思い出を忘れてあげる程優しくはない。誰かとの思い出があるからこそ、俺と言う人間は生きていけるのだ。
「じゃあ、そうですね……俺が日菜先輩としか行った事ない場所、行きましょうか」
「そ、そんな場所あったっけ?」
「忘れちゃうなんて酷いですねー」
「ま、待って!今思い出すから!」
慌てふためき脅された様な顔で日菜先輩は記憶を探る。けれど、いくら考えても思い出せなかったのか、日菜先輩は泣き出しそうになっていた。
「あたし、最低だ……」
「あはは。そこまで思い詰めなくても良いですよ。じゃ、行きましょうか」
「うん……」
俺は暗い表情を作る日菜先輩の手を引きながら、何とか元気づけようと励ましていた。このままだと、目的地に着く前に日菜先輩が泣き出してしまいそうだ。
そうして俺達がやってきたのは、氷川家の日菜先輩の部屋。アロマキャンドルが数個飾ってあるデスクが特徴的な場所だ。
「あたしの部屋……」
「はい。俺と日菜先輩の思い出がたくさん詰まった場所ですよ」
端の開きは紗夜先輩と日菜先輩が喧嘩をして距離が離れてしまっていた時、お互いの事情を聞くために一度それぞれの部屋にお邪魔をさせて貰った事からだった。それから仲直りをし、今は遊ぶためやギター御教授のためにお邪魔させて貰っている。
「この場所なら、日菜先輩のご要望に沿っていると思いますが、どうですか?」
「うん。バッチリだよ……竜君……」
答えた日菜先輩は、少し涙ぐんでいた。
「泣く事でもないと思いますが……」
「だって……何処にも良い場所なかったし……。早くしないと、竜君があたしを忘れちゃうかもしれないから……」
「俺の事老人か何かだと思ってます?」
さすがの俺でもそんな早くに物事や人物を忘れたりはしない。……最近ちょっと買い忘れを起こすようになったが、俺はまだ大丈夫なはずだ。
ほんの少しの不安に駆られながら、俺は気晴らしに日菜先輩のギターを握った。
「繋げ〜この想い〜♪」
適当にメロディを作りながら、なんとなく思い浮かんだ歌詞を口ずさんでみる。軽く弾いたギターの音と控えめに出した俺の声が部屋に響いた。
「……竜君、上手くなったね」
「自主練も結構しましたからね。結構様になってると思いません?」
「自分で言ったらダメだと思うよ」
日菜先輩にツッコまれ、俺は「確かに」と笑った。自画自賛しておいてあれだが、実はまだ苦手な部分がたくさんあるのだ。
「弦抑える指の動きって、結構独特ですよね」
「そうかなー?ポーンってやればすぎ出来るようになるよ」
「なるほど……」
日菜先輩の相変わらずの説明に俺は苦笑いを返す。
「竜君、あたしの教え方じゃ分からないでしょ?」
「はい。さっぱり分かりません。日菜先輩は言葉よりも実践で教えてくれた方が分かりやすいです」
「実践……かぁ」
その考えはなかったと言った様子で、日菜先輩は一度天井を見上げた。
「小学生の時も、そうやって教えれば良かったのかな?」
日菜先輩が言っているのは、きっと日菜先輩が孤立する原因になった話の事だろう。
小学生の頃、勉強で分からない所があった子に、日菜先輩なりの指導を施してみたが理解されず、何故その程度の事が出来ないのかと言葉を漏らしてしまった子供故の若き日の過ち。
「どうでしょうねぇ……。俺みたいな直感タイプのバカだったら効果あるかもしれませんけど。うーん……」
「まあ、他人の事は分からないから良いけどさ。それに分からないからこそ面白い事だってあるし。彩ちゃんや竜君みたいな」
「俺ですか?」
「うん。そうだよ」
俺にそこまでの魅力があるのか分からないが、日菜先輩が面白いと言うのだから俺は面白いのだろう。変な風に見られてないと良いが。
そんな不安に俺が煽られていると、日菜先輩が俺の隣に座り手を握って来た。不覚にもドキッとしてしまう。
「あたしはさ、竜君の全部を知りたいんだ。気になるから」
「そ、そうですか。まあ、俺はシンプルなので、すぐ理解出来ると思いますよ」
「だと良いんだけどね〜。やっぱり時間掛かっちゃいそう。ねえ、竜君──」
手を繋いだまま、日菜先輩が俺の瞳をジッと見つめて来る。その瞳は何処か潤んでいて、何かを期待している様だった。
まさか……まさかとは思うがこの先輩──
「日菜先輩、キスはダメですよ?」
「でも、キスすれば相手の事が分かるってリサちゃんが……」
「それは出任せです。人伝をそんな簡単に信じちゃいけません」
「ちぇー……」
唇を尖らせながら、日菜先輩は愚痴を零す。そこまで俺に心を許してくれるのはありがたいが、いつか好きな人が出来た時のために取っておくのが一番だと俺は思う。……日菜先輩とキスを交わした瞬間、紗夜先輩が俺を殺しに来そうで怖いなんて言えない。ただでさえ昨日のラジオ放送で前科持ちの身になっているのに、そこに日菜先輩とキスしたと言う事実なんか持ったら、俺は冷凍ポテト……いや、業務用冷蔵庫の刑に処されてしまうだろう。
「日菜先輩。ちょっと話が変わってしまうのですが、昨日のラジオの放送日っていつですか?」
「え、今日のお昼に放送し終わったよ?ショッピングモールでも流れてたじゃん」
「マジですか……」
よりにもよって今日だった。しかも俺は今敵陣の拠点中心にいる。シンプルにおわた。
「どうしたの竜君?友希那ちゃんに追い詰められた野良猫みたいな顔してるけど」
「たった今ピンチに陥りまして。場合よっては明日までこの部屋に籠城する事になるかもしれません。紗夜先輩──妖怪ポテト鬼から逃げるため……」
「誰が妖怪ですか」
俺の気のせいかもしれないが、背後──部屋の入口の方から妖怪ポテト鬼の声が聞こえて来た。俺は恐る恐る背後へと視線を移す。
「……おかえりなさいませ。紗夜先輩」
「はい。ただいま──と言うとでも思いましたか?どうやら神楽君とは明日の朝まで語り合わなければならないようですね。幸いな事に今日は泊まっていくようですし」
マジキチスマイルを浮かべた紗夜先輩が、部屋に入ろうと一歩足を踏み出す。
このまま行くと紗夜先輩が日菜先輩の部屋に入ってしまう。俺と日菜先輩が一緒にいる状態での入室はいけない。ここは大切な思い出の場所だから。
「ストップ!紗夜先輩ストップ!今はダメです!」
「え、あの、ちょっと──」
お相撲さんよろしく紗夜先輩を廊下の壁際まで押し返す。入室ギリギリだったが何とか間に合った。唯一の失敗点をあげるなら、紗夜先輩に壁ドンをしてしまった事だろうか。珍しく紗夜先輩が気まずそうな顔をしていた。申し訳ない。
「す、すいみません急に……。でも、今はダメなんです。ここは日菜先輩と俺の大切な場所だから……」
「ち、近いです!」
「へぶっ」
紗夜先輩にカバンから取り出された冷凍ポテトで殴られた。いつでも俺を殴れるように冷凍ポテト常備してるとか、この人殺意と意識が高すぎる。
「な、殴りましたね……あこにも殴られ──頭突きされた事しかないのに……」
「う、うるさいですよ!だいたい神楽君はですね、いつもいつも女性との距離感を見誤ってて……と、取り敢えずハレンチですよ!」
「これが俺の普通なので諦めてください。……最近乙女王子とか女装似合いそうとかモロッコ行けとか言われてる俺の気持ちが分かりますか!?」
「知らないですよ!?」
段々とお互いにヒートアップしていき、しばらくの間なんでもハレンチ認定系風紀委員女子と純情乙女系スパダリ男子の口論会を繰り広げていた。
両者言いたい事が言い終わると、息を切らしながらクールダウンに入る。
「……すいません言い過ぎました」
「わ、私も少し大人気なかったですね……」
伝う汗を拭いながら、俺と紗夜先輩は和解の握手をした。
「ポテト温めますね」
「お願いします神楽君。先に下りてます」
嵐の後の快晴の様に、紗夜先輩はホクホク笑顔で階段を下りて行った。
一時はどうなるかと思ったが、何事も無く事は過ぎ去った。俺は大事な場所を守れたようだ。これで日菜先輩も一安心だろう。
「お姉ちゃんに竜君取られた……」
「えー……」
部屋の隅っこでネガティブオーラを出しながら体育座りをしている日菜先輩がいた。可愛い。
初めて閑話休題と言う語句を使った。多分これは遊べる言葉。
今回はハーレム漫画の主人公が書けた気分だった。王道すこ。ラブコメの波動を感じる。
紗夜先輩のポテトネタがやっと出せた。この日のために雑コラ作りました。
偽三羽烏及びメタルビルドに出会った時や、ハザードレベルが爆上がりした時にお使いください。
【挿絵表示】
修正版
【挿絵表示】
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