【完結】いちばん小さな大魔王!   作:コントラポストは全てを解決する

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第39奏 焦り

 日菜先輩とのデートから一週間が経った。日菜先輩はあの日から事あるごとに俺の元に訪れては、気分の赴く場所へ俺を連れまわしていた。ある時は東京から少し離れた田舎の農場へ。またあるときは千葉のネズミの国へ。そして時々俺のうちへと、日菜先輩は自由の限りをつくしていた。 

 そんな忙しい一週間も前述通り終わりを告げ、今日からまた新しい一週間が幕を開けた。

 

「りゅう兄、髪が結べない……」

「あー……今日湿気が酷いからな」

 

 生憎な事に、今週は月曜から雨だ。おかげであこの癖っ毛が大暴走である。梳かしても梳かしても、この紫色の髪は湿気で何度もピンと跳ねるのだ。正直人をイラつかせる天才だと思った。あこの髪の毛じゃなければ、ばっさり切る事を俺はお勧めしていただろう。

 

「……今日はいつにも増してしつこいな。寝癖直し使ってみるか」

 

 洗面所から持ってきた寝癖直しを早速使ってみたが、それでもなお数箇所跳ね続ける所があった。

 家を空ける時間が迫る中、俺は他にも色々と手を施してみる。しかし、

 

「う〜ん……いまいちだな……」

 

 結果は俺の惨敗だった。

 

「直らないならこのままでも良いよ?あこ、気にしないから」

「そう言うわけにはいかないさ。あこは女の子なんだから、身だしなみにはしっかり気を使わないと」

「偶には崩れた髪形も良いと思うけどなー」

「俺がいない時にやってくれ。気になっちまうから」

 

 服と髪の乱れは心の乱れと誰かが言っていた。つまり、俺が人の身だしなみを気にしてしまうのは仕方のないこと。出来ることならあこの要望を聞いてあげたいが、こればっかりは気になってしまうので勘弁して欲しい。それに、あこの可愛さを生殺しにした状態にはしておきたくはないのだ。

 

「──よし。この髪型なら大丈夫だろ」

「おぉー」

 

 俺がセットした髪を見て、あこは感心したような声を出す。鏡の中に写っていたのは、サイドテールに髪を纏めたあこの姿だった。

 

「花音先輩も毛先がよく跳ねてるけど、何故か違和感湧かないからな。サイドテール様様だ。似合ってるぞ」

「にへへ〜。ありがと、りゅう兄」

 

 俺の方に振り返り、あこがニッと笑う。あまりの可愛さに俺のライフがミリ残りまで削がれた。

 魔王様の精神攻撃を何とか耐えた後、そう言えば遅刻ギリギリだったんだと思い出し、俺はあこと一緒に急いで玄関まで向かった。

 靴を履いてビニール傘を持って、玄関のドアを開け傘の開閉ボタンをポチッと一回押す。

 

 そして傘が持ち手を残し、お向いさん家の塀の中までバシュッと飛んで行った。

 

「……今日ロケット打ち上げる国は打ち上げ成功率百パーだろうな。最高」

「りゅう兄、あこの傘の中入る?」

「頼む」

 

 換えの傘もなく、コンビニに買いに行ってる時間もなかったので、俺はあこの傘の中に入れて貰う事にした。

 

 

 それから学校を目指し歩く事十数分。花咲川と羽丘学園が遠目から見え始めた頃、日菜先輩とばったり出会った。

 俺とあこを見た瞬間に悔しさと驚きが入り交じった顔を日菜先輩は一瞬見せたが、その後何事もなかったように笑顔を作る。

 

「おはよう。竜君、あこちゃん」

 

 笑顔でそう言った日菜先輩の顔は何処か悲しそうで、下手に触れたら崩れてしまいそうだった。

 そんな日菜先輩の様子を見たあこが、俺の制服の裾をキュッと掴んで来る。きっとあこも、俺と同じように日菜先輩の異変に気づいたのだろう。

 

「……おはようございます日菜先輩。いつもこれぐらいの時間に来てるんですか?」

「そうだよ。まあいつもはもうちょっと遅いけどね。今日は部室に用事があるんだ」

「そうですか。天文部で何かするんですか?」

「あー違う違う。ただの掃除だよ。そう言う訳だから、バイバイ!」

 

 信号が青色に変わったのと同時に、日菜先輩は走り去って行った。俺とあこは、しばらくの間その場に立ち尽くしてしまう。

 

「あこ、どう思う?」

「なんか、余裕がないって感じだった。こう……てっぽう向けられてるみたいに」

「やっぱそう見えるよなぁ」

 

 先程の日菜先輩の様子は、切羽詰まったと言う言葉そのものだったと思う。心の中が焦燥一色に染まっており、指で小突けば崩壊してしまう──そんな危うさを持っていた。

 

「紗夜先輩と喧嘩でもしたのか、それとも──」

「それとも?」

「……んや、何でもない。さ、遅刻する前に俺達も行こう」

 

 日菜先輩は俺とあこを見てから焦り出していた。いや、正確に言えば一瞬だけあこを見て、その後はずっと俺を見ていたのだ。もしかしたら俺が関係しているかもしれない。

 俺は原因の究明を急ぎながら、校舎に向けて歩みを進めた。

 

 

 ____

 

 

 

 その日の昼休み、蘭に今朝の事を相談してみた。

 

「絶対竜介が原因だと思う」

「だよなぁ……」

 

 こころの時に学んだが、俺はいつの間にか相手の大切な物になっている節があるらしい。それも、相手を依存させる程に。

 仮に俺が日菜先輩にとってそう言う存在になっていた場合、俺はどうするべきだろうか。さすがに額合わせは出来ない。あれを実行するのはこころだけと決めているのだ。

 俺は対策案を練りつつ、心の中で決意を固める。

 

「それにしても、今年に入ってから皆とのイザコザが増えたなぁ。やっぱりあれなの?思春期特有のってやつ?」

「……多分、溜め込んだ想いが爆発してるだけだと思う」

「爆発する前に俺にぶつけてくれると助かるんだが……」

「そうポンポンぶつけられる程軽い想いじゃないから」

 

 ムスっと不機嫌そうに、蘭がエビフライを口に放り込みながら言った。

 

「そもそも、竜介があこと付き合えば全部丸く収まるんだけど。あたしもそろそろ限界」

「え、何?蘭も俺がいないと生きていけないとか言うタイプなの?さすがベイベー」

「はっ?」

「おっと、ゴミを見る目ですね」

 

 キッと鋭い視線が俺を襲う。どうやら蘭は違ったようだ。生まれて初めて『え、こいつ俺の事好きなの?』を体験した。思ったより恥ずかしくないというのが正直な感想。

 

「とは言ってもな、皆簡単に告れ告れ言うけど、結構勇気いるんだぞ告白って。ほら、よく言うだろ。好きの二文字が出てこないってやつ」

「まあ……そうだけど」

「だろ?だから一概に俺が悪いってわけでもないと思う訳よ。てかさ、あこもあこで鈍感なわけでさ」

「責任転嫁なんて最低」

 

 何だか今日は蘭の言葉の棘が鋭い。雨水を吸って成長でもしたのだろうか。

 

「まあ、そう言うなって。そうだな……小四のバレンタインの時の話でも聞かせてやるよ。あれは忘れもしない二月十四日のこと──」

「別に聞いてない」

「まあ聞けって。あれは忘れもしない二月十四日のこと──」

 

 俺が話したのは、小四の頃バレンタインにハート型のチョコを渡したのだが、あこがそれをバー〇ヤンのロゴと勘違いし、チョコを近所のファミレスに届けに行った事だった。

 俺の中では結構なネタ話だったが、蘭は詰まらなそうに聞いている。

 

「……あんま面白くなかったか?」

「小四の頃、竜介があたしにだけバレンタインチョコくれなかった時の事思い出してた」

「それはほら、あれだったんだよ。あこに渡す本命チョコの構想を二日前から練ってたのと、緊張でド忘れしてて……。てかあの年のバレンタイン当日はあこ以外誰にもチョコあげてない」

 

 翌日の十五日に遅れて皆に渡し、事なきを得たと思っていたが、蘭はまだ根に持っていたようだ。まあ、つぐみでさえ頬を膨らませて怒っていた思い出深いイベントだ。これくらいは仕方ないだろう。

 

「てなわけでさ、あこも鈍感なのよ。鈍感系主人公なのよ。分かって欲しいこの気持ち」

「気持ちは分けるけど、味方にはなれない」

「蘭の薄情者!」

 

 ちょっと前まで『りゅうすけー』と俺の後ろをついて来る可愛い女の子だったのに、一体どこで道を誤ってしまっただろうか。

 考えた結果、謎が深まるだけだった。世界の真理は遠い。

 

「あぁー折角高校生なんだし、なんか異性にアプローチかけれる青春イベントでも起きないかなー」

 

 机に突っ伏し、月間の行事予定表の日数を指でなぞっていく。八日、十日、十五日とずらして見ていくと、月末の所で指が止まった。

 

「高等部一年と中等部三年の、合同登山遠足……これだ。ここを使ってあこにアプローチを……」

「何するの?」

「それは、こう……普段作らない手料理を作って、家庭的な一面を……」

「それ女の子がやるやつ。あと、竜介の場合意味ないと思う」

 

 蘭の一言に、俺は再び机に伏せる。まさか普段料理していたのが仇になるとは思わなかった。

 俺は仕方ないと料理を捨て、他の案を探して頭を捻る。

 

「……ん?合同登山遠足?」

 

 何か良いアプローチはないかと考えていた所で、俺の頭が『合同登山遠足』というワードに黄色信号を出す。俺はその言葉の響きを、以前理事長室で耳にした覚えがあった。その時は確か、遠足の企画会議に使う生徒会用の資料を預かって欲しいと言う話だったはず。

 

「確か、生徒会会議で使うから渡しといてくれって言われてて、その会議の日が……」

 

 スマホのメモ帳アプリを操作し、日程メモを辿っていく。そして目的の欄に辿りつくと、そこには会議を今日の昼休みに行うという旨が書いてあった。

 

「やっべ」

 

 俺はリュックサックを持って教室を飛び出す。そして、教室を右に曲がってすぐの場所で日菜先輩と出会った。

 

「あ、竜く──」

「すみません日菜先輩!今急いでいるので!」

「あ、うん……。そっか」

 

 しょげてしまった日菜先輩の事も気になるが、今はそれどころではない。俺は生徒会室を目指し、廊下を駆け抜けた。




ぐへへへへ。嵐が近づいて来ているぜ。

いつか山岳行事回やります。大事な好感度稼ぎポイントなんで。当日吹雪にして血みどろ殴り合い山かドンドコ山にしたい。そしてそこでシリアスなバトル展開を……ないな。音楽関連で殴り合いはないわ。音楽関連させてないこの作品には関係ないかもしれんが。やっぱ定番の遭難ネタか……いや、でも中3遭難ってシャレにならねぇ。迷う。まあ、ボチボチ考えましょうか。
……アルティメットダグバ山とドンドコボドボド山って、場所同じらしいっすね。

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