【完結】いちばん小さな大魔王!   作:コントラポストは全てを解決する

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第46奏 馬鹿(バカ)天才(バカ)

 花の金曜日。日菜先輩の告白事変から二日経った。今日こそは日菜先輩と話をしようと意気込み、俺は朝から気合を入れる。鏡の前で「しゃぁっ!」と覇声を上げた後、俺はあこと共に朝食を取って学校へ向った。

 

 自教室に着きカバンを机の横に掛けた後、俺は走って二年A組の教室へ。チラリと中を覗くと、日菜先輩と目が合った。ちゃんと学校に来ていた事に対し俺が喜んでいると、日菜先輩がその隙を突いて逃げてしまう。急いで追いかけたが日菜先輩のスペックには敵わず、そのまま逃し一限目を遅刻する羽目になった。

 

 それからも授業終わりの休み時間を狙って猪突猛進の如く突撃を繰り返したが、結果は惨敗。日菜先輩の身体能力と逃走能力の高さには敵わなかった。

 そうして毎時間を無駄にしていく間に昼休みに突入。俺は一度作戦を練るため、突撃は控えボチボチ弁当を食べていた。

 

 ──はてさてどうするべきか。

 

 無様に突進はもうダメだと学んだ。ならば、次は待ち伏せか。

 そんな簡単にいくものかとも思うが、シンプル思考のバカ()にはこれが限界だった。

 仮にこの作戦が上手くいったとして、それからはどうすれば良いだろうか。俺の貧相なボキャブラリでは、日菜先輩と上手く対話出来る気がしない。

 仕方ないので、隣のツンデレボッチ(美竹蘭様)に頼る事にした。

 

「なあ、蘭」

「何?」

 

 お昼の弁当に渡した三色丼をスプーンで食べる蘭がこちらを振り向く。

 

「バカが天才を理解するにはどうすれば良いと思う?」

「バカと天才は紙一重って言うし、一緒にいれば勝手に馴れ合うんじゃない?」

「蘭、お前天才かよ……」

 

 二日掛けて挑んだ方程式の答えが二秒で返って来た。さすが華道の家元。頭の出来が違う。

 

「蘭のおかげで問題が解決したわ。サンキュな。お礼に良い事を教えてしんぜよう」

「何?」

「ほっぺにご飯粒ついてるぞ」

「ッ!」

 

 顔を赤く染めた蘭に肩を殴られた。痛い。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 今までの雨の日が嘘の様に思えて来る快晴の日。だけどあたしの心は灰色の雲で曇っていた。

 また、逃げてしまったのだ。

 昨日は休んで今日頑張ると決めた筈なのに、竜君を前にすると罪悪感と恐怖感で逃げてしまう。午前中はそれの繰り返しだった。

 そんな事をしている内にもう昼休みだ。皮肉な事だが、今日が授業中の退屈を一番凌げていたと思う。

 机の上にお母さんが作ってくれたお弁当を広げ、これからどうしようかと悩みながら中身を食べた。こんなにも悩んでいるというのに、お弁当の味は普通に美味しく感じる。

 

「日菜、一緒に良い?」

「うん。大丈夫だよリサちー」

 

 お弁当片手にやって来たリサちーが向いの席に座り、ニコニコした顔でこちらを見て来る。

 

「それでそれで?今日は朝から忙しそうにしてたけど、竜介と何があったの?」

「べ、別に、リサちーに言うほどの事でもないから、気にしなくて良いよ」

「そんな水臭い事言わずにさ☆ほらほら、言ってみなって」

 

 ずいずい顔を寄せてきて、リサちーはこっちの気も知らずに現状を探ろうとする。

 

「ほんとにリサちーには関係ない事だから、気にしないで」

「そっか……まあ、もうだいたい察しはついてるんだけどね。アタシも竜介に告った人の一人だし」

「え、嘘!?」

「ほんとだよ。竜介がここに入学したのと同時に、ね」

 

 ウインクしながらリサちーが言った。凄い気軽に言ってるけど、それでもその内容の濃さは隠しきれてなかった。

 

「それと、アタシの情報だとこころと燐子も竜介にフラれてるよ。だから、そこまで重く考えなくて言いと思うけどね」

「あたしは、ただ告白した訳じゃないから……復活には時間が掛かりそうかな」

「えぇー何したの日菜は?」

「……きす」

 

 そう答えた瞬間、リサちーからドス黒いオーラが出てきた。それと顔が怖い。目だけ笑っていなかった。

 

「リ、リサちー怖いよ……」

「……あはは、ごめん。驚いちゃってさ。そっか……キスか……それはまだしてなかったな。今度してみよっか」

「そんな軽いノリでしちゃダメだと思うよ……」

「そうかな?あこに勝つにはこれくらいしなきゃいけないと思うけどね」

 

 どうやら、リサちーは本気で勝ちに行こうとしているようだった。本当に、心の奥底から竜君が欲しいと思う気持ちが伝わってくる。寂しい気持ちを誤魔化したかっただけのあたしとは大違いだ。

 

「まあ何にせよ、早く竜介と仲直りしたほうが良いよ」

「それは、そうだけどさー……難しいんだよ、竜君に話しかけるの」

「いつもみたいに感覚でいけば良いじゃん?」

「それが出来たら苦労しないんだよー!」

 

 机の下で足をバタバタさせて、自分の無力さを訴えた。そんなあたしを見て、リサちーはクスりと笑った。

 

「あたし、どうしたら良いんだろう……」

「何もしなくても、竜介が勝手に振りましてくれそうだけどね」

「あたしのペースでいきたい」

「そっか。でも、相手のペースに振り回されるのも偶には良いかもよ?」

 

 リサちーはそう言うけれど、正直な所自分に合わせて欲しいという意見の方が強かった。それに、竜君も竜君なのだ。彼には一人で突っ走る事以外にも、相手の調子に合わせると言う事を覚えて貰いたいと思う。

 ……何故だろう、リサちーからの視線が冷たい。

 

「ま、頑張れ☆」

「他人事だなー……」

 

 応援されたけど、やっぱり上手くいく気がしなかった。

 これは、放課後も部室で作戦会議のルートに進んでしまいそうだ。

 

 

 

 ___

 

 

 

 

 放課後。日の入りも早くなって来ていて、ホームルームが終わったばかりだけど空が赤い。結局、放課後に作戦会議のルートを選んでしまった。

 職員室から部室の鍵を借り部屋に入る。最近片付けたばかりだからか、妙に室内が綺麗だった。

 

「鍵、掛けとかなきゃ」

 

 もしかしたらまた竜君が来るかもしれない。だから、戸締りはしっかりしといた方が良いだろう。

 

「……あたし、何がしたいんだろう」

 

 ふと、今までの事を思い出した。

 結局、竜君に会いにいけなかった事実があたしの胸を締め付ける。彼を避けて休んだのに、今日も避けては昨日の二の舞ではないか。

 やっぱり、あたしはダメダメだ。

 初めて、自分一人だけで壁を乗り越えなくてはいけなくなった現状。小学生の時は解決せずに放置して、お姉ちゃんの時は竜君に助けて貰って、そして今度は……怖がって動けないでいる。とても惨めで、情けない。

 

 昔、お母さんに言われた事がある。「日菜は何でも出来るのね」と。何処をどう見たら、あたしが何でも出来る人に見えたのだろう。大切な友人と満足に仲直りも出来ないのに。

 

 嗚呼……怖い。このまま竜君と仲直り出来ず、学校で会っても他人のフリをされてしまうかもしれない未来が怖い。

 けど、竜君と顔を合わせて、過去の罪に戒められるのも怖い。

 

「やっぱり怖いなぁ……」

 

 どちらの未知()を選んでも、あたしは恐怖心を抱いてしまう。

 結局、あたしは何もしないのだ。こんなに今を責めても、過去を後悔しても、未来を恐怖しても、結局あたしはその場に留まって、嫌な事から耳を塞いで逃げるのだ。

 昨日お姉ちゃんが言っていた通り、彼が会いに来てくれた。その筈なのに、何故向き合わなかった。何故彼に背を向けた?

 どうせ恐怖して逃げるのだ。彼との関係が悪化しない方を選んだ方が懸命だったろうに。

 

 たくさん間違えた。でももう、取り返しは付かないのだろう。

 あれだけ逃げ回ったのに、今は彼が来ない事に寂しさを感じてしまっている。部屋にも心にも鍵を掛けて、閉ざしたのは自分自身の筈なのに。

 なのに、どうして、どうしてこんなにも、

 

「でも、やだよ……」

 

 涙が止まらないのだろう。

 とても寂しくて、悲しいのに、こんなに涙を流しているのに、あたしは鍵を開けようとしないのだろう。

 この期に及んで、彼に迎えに来て欲しいなんて思っちゃいけない筈なのに……あたしは……竜君に酷いことをしたと言うのに……

 

 

「会いたいよ……竜君……」

 

 

 どうして、彼に会いたくて仕方ないのだろう。

 

 もう、きっと、竜君はあたしの事なんて忘れて、幼馴染達と一緒に楽しく下校している筈だ。

 だったら、あたしはこれからどうするべきだろうか。そこそこ仲の良い先輩を演じれば良いのだろうか。

 でも、そんな事をしたら、きっとあたしが持たない。

 

 ──やっぱり、会いたい。竜君に会いたい。

 

 一度言い出したら止まらなくて、後悔しても怖くなっても良いから竜君に会いたいと思った。

 

「竜君ッ!」

「はい、なんでしょうか。日菜先輩」

「……へ?」

 

 涙を堪えて、いざ竜君に会いに行こうと思い振り返ったら竜君がいた。でも、どうして……鍵は掛けたままの筈だったのに。

 

「全く……手間掛けさせてくれましたね。まさか鍵を掛けていたとは。おかげで理事長の所までマスターキー取りに行く羽目になりましたよ。それに何度もノックしたんですよ?何してたんですか」

「……」

「日菜先輩?」

 

 ただ、ただ、シンプルに言葉が出なかった。だって、もう来てくれないと思ってたから。

 

「竜君……なんでここに……」

「なんでってそりゃぁ、日菜先輩に会いたくて。紗夜先輩から聞いてません?今日会いに行きますって」

「い、一応聞いたけど……」

「まあ、今はその事は良いです。それより、日菜先輩に良い知らせが二つあります」

 

 そう言って竜君は指を二本立てた。良い知らせ……とは一体なんだろうか。

 

「一つ目、日菜先輩が俺を理解する方法。見つかりましたよ」

「……え?」

 

 それは本当なのだろうか。今まで竜君を見ても何も理解出来なかったのに。竜君の真似をしても何も見えてこなかったのに。

 

「蘭に聞いたんです。天才がバカを理解するにはどうしたらいいのかって。そしたら、バカと天才は紙一重だから大丈夫って返って来ました。それが答えです」

「でも、竜君と一緒にいても何も分からなかったよ?」

「それは多分、単に一緒にいる時間が足りなかったんだと思います。そこで二つ目です」

 

 あたしが竜君を理解出来なかった理由に半信半疑になっていると、竜君はその間にポケットからプリントらしき紙を一枚取り出しあたしに見せて来た。そこに書いてある文字は──『入部届け』

 

「日菜先輩。俺、天文部に入ります」

 

 二度目の驚愕。あたしは、自分の目を大きく見開いているのが分かった。

 竜君が天文部に来ると言う事は、一緒にいれる時間が増えると言う事。まさか、まさかとは思うが竜君は──

 

「あたしといるためだけに、ここに入ってくれるの?」

「はい。あ、でも嫌なら言ってくださいね。その時はしつこくねちっこく後付けますから」

「それはやめて欲しいかな……」

「冗談です」

 

 軽口を叩いた彼が笑った。釣られてあたしも笑ってしまう。

 そんなあたしを優しい目で見ながら、彼は言った。

 

「日菜先輩、これから一緒にたくさん思い出を作っていきましょう。二人で一緒に、誰にも負けない思い出を作るんです。そしたら、きっと俺の事も怖くなくなりますよ」

「……ぷふっ。なんか告白みたいだね、竜君」

「そうですかね?」

 

 竜君の天然具合を見ていると、自分がクヨクヨ悩んで怖がっていたのがバカらしくなって来た。もしかしたらリサちーやお姉ちゃんの言うように、難しく考えて過ぎていたのかもしれない。結局のところ、あたしも相当なバカなのだろう。

 

「よし!竜君の入部を認めよう!それじゃあ、早速新しい星を探しに行くよ!」

「はい、ついて行きますよ。どこまでも」

 

 あたしは竜君の手を引いて屋上に向った。

 隣り合って、一つしかない天体望遠鏡と星座速見板を共有し、夕日に隠れる一番星を眺めながら一緒に星を見た。

 もう、竜君の事は怖くなかった。とてもるん!ってする。

 





日菜ちゃん編はこれで終了なんだぜ。日菜ちゃんエンド迎えても良いかもしれん。
次は竜介君編かお友達編を二、三話やって、一回あこ編挟んでから山岳行事にしようかなぁ。はてさてどんな風に仕上げようか……。メインヒロイン編だし、やっぱ一回プロット作り直すか。めっさ重い話にしたい。視聴者のライフを削っていきたい。
不器用な日菜ちゃん可愛かった。突然現れて問題解決していく主人公がほんと主人公してる。

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