【完結】いちばん小さな大魔王! 作:コントラポストは全てを解決する
「竜介お願い!女装して!」
「うーんこのお頭悪い感じが何ともひまり」
日菜先輩と無事仲直りを果たし、清々しい気持ちで翌日の土曜日を満喫していたらこの有様である。ひまりに女装を懇願され、俺は動揺を隠せない。
仮に俺が女装を了承したとして、ひまりはそれからどうするつもりなのだろうか。
「お引き取りください」
「お願い!せめて話だけでも良いから!」
ひまりは一生のお願いと言わんばかりに頭を下げ、中々食い下がろうとしなかった。仕方ないので事情を聞いてみる事にする。
「まあ、話ぐらいなら……で、なんだ?」
「これを……」
ピラりとひまりが渡して来たのは、駅前にあるスイーツ店のチラシだった。内容を見てみると、期間限定で行われているスイーツバイキングについての情報が。どうやら女性限定で二名以上から注文可能らしい。
「……これについて来いと?」
「うん!」
屈託のない笑顔でひまりが頷く。
「他の皆は?」
「蘭とつぐは家の用事で、モカはパン屋巡り、巴は竜介も知ってるでしょ?」
「あこと一緒に最近人気のラーメン屋行ってるんだろ?」
「そうそう。そう言う訳で……」
消去法で俺の所に来たと。消去する選択肢の中に俺が入っている事を咎めたいが、今は置いておく事にする。
「いやでも、女装はちょっと……。リサ姉とか薫先輩呼ぼうか?」
「当たれる所は全部当たったけどダメだった……」
「マジかよ」
俺は取り出したスマホをポケットにしまい込み、今一度案を出すため頭を捻る。
「……そもそも今日行く必要あるのか?」
「今日が期間最終日」
「お前……」
「だってだって!気付いたら日にち経ってたんだもん!」
絨毯の上をゴロゴロ転がりながら、ひまりが駄々っ子のように叫んだ。蘭とはまた別の幼児退行だった。
「いーきーたーいー!」
「俺を女装させて行く必要があるのか?それに、体重は?」
「ダイエット頑張ったご褒美に……」
「真っ先にリバウンドしにくのやめろ」
これ以上ひまりのナイスバディに磨きをかけてどうするつもりなのかは知らないが、そろそろダイエットやめても良いんじゃないかと言うのが素直な俺の意見だったりもする。
「はあ……分かったよ。今日だけだからな?」
「ほんと!?」
「ちょっと準備するから待ってろ」
自分の部屋のクローゼットの中から演劇部時代の女衣装やウィッグを取り出し、街中でも目立たない物を選ぶ。
洗面所で適当に化粧水やらファンデーションやらアイシャドウやらでメイクをした後、仕上げに香水を一吹きし準備を整えた。
鏡の前には黒髪ロングのボーイッシュなクールビューティーが写っている。
「こんなもんで良いだろ」
「なんでそんな手際良いの?」
「演劇部の名残みたいな物だ。メイク技術はリサ姉から。……てかあれだな、女装しても声がダメだったな」
見た目がいくら良かろうとも、声でバレては意味がない。
仕方がなかったので、この間黒服さんから貰った小型変声機を使う事にした。頬内側に貼るタイプで、これ一つで低音高音萌ぼイケボ何でもござれの優れ物だ。
「あーあー、これでどうだ?」
試しに声を出して見ると、薫先輩の様な声が出て来た。さすが弦巻製。技術力が違う。
「バッチリ女の子……と言うか大人の女性。なんでそんなにスタイル良いの?」
「伊達にオンナ男はやってないって事だ」
小学生の時のあだ名がこれ。声変わり前だった昔は本当に女の子みたいだった。他校の男から告られたのは良い思い出。
「それじゃ、行くか。あ、駅前行くんだったら帰りに寄り道して良いか?」
「全然良いよー。何買うの?」
「さっきので化粧水切れたから補充に」
「……竜介って男だよね?」
ひまりの怪しむ視線を他所に、俺は自作した高級ブランドモチーフのパチモンバッグを肩に玄関を抜けた。
____
家を出て数分。現在はバスの中でスマホをいじっている。組み合わせたパズルがピコンピコンと消えていきコンボが繋がるのを横目に、俺は降り掛かる視線に耐えていた。
「なあ、ひまり。なんか至る所から視線を感じるんだけど。香水がキツかったか?」
「多分、巴とかと同じだと思う」
「つまり?」
「女受けが良い」
要約すると、今の俺は女の子からモテモテ状態らしい。男時よりモテるとはこれ如何に。
「バスの中はキツイな。次で下りて良いか?」
「まあ、しょうがないね」
ひまりとヒソヒソ声で決めた後、バスから下りて徒歩で駅前を目指す事にした。
それからまた数分、もうすぐ目的地という所で、俺とひまりは足止めをくらっていた。
「あ、あの!一緒に写真撮って貰っても良いですか?」
「良いっすよー……」
神楽竜介十六歳。悲しい事にモテ期入りました。どうやら俺は生まれてくる性別を間違えたらしい。駅前からここに至るまでに、十数人の女の子から写真撮影をお願いされた事が全てを物語っている。
「はいチーズ」
パシャリと、もう何度も見たピンクのケースに入ったスマホで写真を撮る。最近の流行りなのだろうか。
写真を撮ってスマホを持ち主に返却した後、俺は足速に目的のスイーツ店まで向かった。もうこれ以上足止めを食らうのはごめんだ。
店に入り、オシャレな店内を一望した後、店員が持ってきたメニューの中から目的のスイーツバイキングを注文。
「いやー割と何とかなるもんだな。このヒヤヒヤする感じ、ちょっと癖になりそう」
「また今度試す?」
「いや、バレた時が怖いからやめとく。お縄されたくない」
女性限定の所に男が来るなど言語道断。オカマなら店に寄ってはセーフかもすれないが、生憎俺はノーマルだ。男だとバレた瞬間詐欺の類いでピーポーセイバーだろう。
「一応言っとくけど、俺達がやってる事って軽犯罪だからな?そこは忘れるなよ」
「……そっか」
ひまりが一気にシュンと落ち込んだ。一応弁える所はしっかりしてくれているようだ。
「さて、面倒臭い話はここら辺にして、さっさとバイキングしてこい。時間制限あるんだしさ」
「わ、分かった」
しょぼくれていたひまりが、ほんの少し顔に明るみを戻してケーキと体重を盛りに行った。
それと同時に、俺が頼んだティラミスのセットがやって来る。俺はスマホをいじりながら午後のティータイムを楽しんだ。
ふと、店内を見渡してみると、店の入口で見覚えのある黒髪ロングを見つけた。そして目が合った。
相手はスマホを構えパシャリと写真を撮った後、逃げるように退店していく。
「……バレてない、よな?」
恐る恐る燐子のLINEを見てみたが、特にメッセージは送らていない。バレてないと見て良さそうだ。
「危なかった……」
「どうしたの竜介?」
「いんや、何でもない。それより、その量全部食べるのか?」
「もちろん!」
ひまりが持ってきた大皿の上に乗せられているのは、ショートケーキ、ショコラケーキ、モンブラン、チーズケーキなどなど。モカにパンの如く、ひまりはこのケーキを完食するつもりらしい。
「竜介も食べる?」
「いやいい。それと、今の俺を本名で呼ぶのはやめよう。知り合いに出会った時が怖い。そうだな……名前は神山タツミとかにでもしておくか」
「一人称も変えといたら?女の子が俺じゃ違和感あるよ?」
「なるほど。……じゃあ、リサ姉リスペクトしてアタシで」
ひまりのケーキが減るのと同時に、神山タツミの人物像が出来上がって行く。
立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花。そんな美しき罪を背負ったクールビューティーが今ここに生誕してしまった。儚い。
「まああれよね、アタシの演劇部の経験を活かす時が来たって事よ。……どう?似合ってる?」
「バッチリ」
俺の心に誰にも負けない絶対的な余裕が生まれた。もう怖い物は何もない。
「じゃ、タツミちゃん会議はここら辺にして。この後どうする?俺は化粧水買ったら用事ないけど」
「あ、それじゃあ服買いに行きたい!秋物の新しいやつが欲しいんだ」
「了解。服屋ね」
今後の予定も決まったひまりは、この後着々と体重を増やして行った。リバウンドを気にせず食す辺りに従来のJK味を感じる。
ケーキのピラミッドが早々となくなっていく様は、見ていて爽快だった。
___
「うわー!この娘から竜君の匂いがする!」
午後三時。ショッピングモール内服屋にて日菜先輩と遭遇。周囲のテレビカメラの様子から、服屋で格付けチェック系番組の撮影をしていた事が伺える。
正直な事を言えば一番出会いたくなかった。何となくで正体を暴かれそうだから。
「ひまりちゃん、この娘どうしたの?」
「えっとー……何と言いますか、親戚の子?」
「へぇー!」
抱きつきながら俺の頭を撫で回す日菜先輩に、ひまりがバレそうでバレないギリギリのラインを攻めた演技で俺を説明する。ひまりに演技は難しかっただろうか。それとウィッグが外れそうだから日菜先輩は撫でるのをやめて欲しい。
「うーん、それにしても……見事に竜君と匂いが一緒だねー。何だろ、竜君の家にある香水の匂いがする」
この先輩怖い。
「そ、そうですか……。でも、アタシはそんな人知りませんよ?と言うか、貴方パスパレの氷川日菜ですよね?良いんですか?アイドルが何処の馬の骨かも分からない男と一緒にいて」
日菜先輩の距離の近さに、思わずキツめな発言をしてしまう。その瞬間、日菜先輩の目つきが変わった。
「……今のは聞き捨てならないなー。竜君はねー凄いんだよ。優しくて、料理が出来て、あたしの好きな事について来てくれて、誰よりも真っ直ぐで、どんな人よりもるんって来るんだから」
「は、はぁ……なるほど。良い人なんですね」
「うんうん。分かって貰えて何よりだよー。もう人の悪口は言ったらダメだからね?」
「分かりました」
日菜先輩は俺の目をジッと見ながらそう注意をしてきた。まあ、今“神楽竜介”を否定したのは
日菜先輩の優しさに、俺はほんの少しだけ正体をバラしたくなった。
「じゃ、あたしそろそろ行くね。あ、名前聞いてなかった!」
「……神山タツミ、です」
「タツミちゃんだね。よし、覚えた。それじゃ、ばいばい!ひまりちゃんもね」
「は、はい!また今度」
日菜先輩は満足いった顔をしながら、エスカレーターに乗って去って行った。
完全に日菜先輩の顔が見えなくなった後、俺達は安堵の息を吐く。
「……意外とバレなかったな」
「だね……」
まさか匂いで正体を見破られそうになるとは。でも結局バレなかった。日菜先輩を騙し通せたならば、もう騙せない人はいないだろう。完全勝利女装先輩UCである。
「さてと、それじゃあ服探しとしゃれこみますか。ひまりにはどんな服が似合うかな〜」
「ふっふ〜ん、私に似合う服を探すのは難しいよ〜」
「胸デカいからな」
「失礼な!?」
男と女がする会話ではないだろうけど、俺に言わせて貰えば好きでもない女の乳など、それこそ脂肪と変わらないと言うもの。それと俺は貧乳派だ。
「竜介も男の子なんだしさー、もうちょっとそれっぽい反応してくれても良いじゃん?」
「揉めばいいのか?」
「そうじゃなくて!こう……ドギマギして欲しいって言うか、乙女のプライド的なアレを……」
俺は知っている。これでそれっぽい反応を返したら、「スケベ!」と言われてぶたれる事を。普通の女の子面倒臭い。やはり我が魔王が最強なのだ。
頭の中でひまりを意識すると言うアナザーワールドを想像しながら、ひまりに似合いそうな服を探した。
「うーん……ひまりは特に胸がデカいからなー……上下一対は妊婦みたいになるし、あんまゆとりがないと服がよれるし……。お前ほんと面倒臭い身体してるな」
「巨乳の悩みを理解してくれた初めての人が男なのやだなー……」
持つ者は持たぬ者からの嫉妬を買うと言うが……なるほど、あのメンバーなら相談も出来ないだろう。蘭とつぐみ辺りから首を絞められそうだ。
「どうする?紺のレーヨンブラウスで大人っぽくするか、ロングカーディガンとなにか合わせるか、サッシュベルトとワンピース合わせるか?秋物だったらここら辺だけど。あーでも、ひまりは花柄スカートとかも似合いそうだなー……」
「この人そこら辺の女より女してるなー……」
なにか、当事者が外野にいると言う非常事態が起こってる気がする。一度服から視線を外すと、ひまりが微笑ましくこちらを見ているのが分かった。
「ひまり?そんな離れてなにしてんだ?取り敢えず、白のカーディガンとベルト巻いたワンピースで攻めてみようと思うんだけど」
「あーうん……。普段しないし良いと思うよ……うん……」
俺が服を何着か持って見せてみるが、ひまりの反応はいまいちパッとしないものだった。具合が悪いのか、服が趣味に合わなかったか。
「ひまり、大丈夫?立ちっぱなしで疲れちゃった?」
「あーうん。ちょっと女子力の壁を痛感したというか。と言うか竜介、話し方とか仕草がほんとに女の子っぽくなってるよ?」
「元演劇部員だからね」
「それ関係ある?」
ひまりは疑っているが、演劇部をなめてはいけない。薫先輩が男装をするように、俺も女装をするのだ。生半可な演技では観客を騙せない。正に修羅。
「で、結局どうする?買う?買わない?」
「買う!」
あーだこーだ言っても、結局は気に入っていたようだ。心は正直が一番。
お店のレジで会計をした後、俺とひまりは服屋を後にした。
「さてと、今何時だ?」
「今は……六時前だね」
「結構長居したな」
服屋に二時間半以上居座っていたようだ。これで女の子の買い物は長いと言う事が無事証明された。
「竜介は時間良いの?」
「んー、あこが夕飯は良いって言ってたし、一応大丈夫だ。ひまりは?」
「私はそろそろ行かなきゃかなー。お母さんにご飯前に帰るって言っちゃったし」
「じゃあ、ここら辺でお開きだな。送ってくよ」
もう日が暮れるのも早くなったのだ。ひまり一人で帰るのは危ないだろう。
「じゃ、行くか」
「うん」
一番星が光るのを見ながら、俺とひまりは帰路に着いた。途中何度か知り合いにあったが、一度も気付かれなかった。今更だが悲しみが凄い。
____
ひまりを送り届け、化粧水を買った後、あこが帰って来ないうちにと自分の家へ向けて俺はテクテク歩いていた。
「あれ、りゅう兄?」
だが、ここで緊急事態が発生。
「……え、えっと、どちら様で?」
「どちら様って、あこだよ?暗くてよく見えてないの?」
何とか白を切り通したい俺の思惑を他所に、あこがトテトテと俺の隣まで駆け寄って来る。何故警戒心を抱かないのだろうか。今の俺は日菜先輩をも騙した完全な女性の姿になっていると言うのに。
「……りゅう兄、なんで女の子の格好してるの?それと、声どうしたの?」
「りゅ、りゅう兄?人違いじゃ……」
おかしい。何故あこは俺を俺だと信じて疑わないのだろう。恥ずかしいから早くあこから離れたいのだが。
俺が気まずさを抱えながら逃げる隙を伺っていると、あこが不意にスマホを取り出した。手馴れた操作で何をしているのかと思ったのも束の間、突然俺のスマホが鳴った。
「ほら、やっぱりりゅう兄じゃん」
「ぐ、偶然だと思うよ?」
「……じゃあ、出てみてよ」
「うっ……」
あこのジト目が俺を襲う。もう観念するしかなさそうだった。
「はぁ、降参だ……。バレたくなかったんだけどなー……」
「なんで女装してたの?」
「ひまりのお願いでな。女性限定のケーキバイキングに付き合ってたんだ」
「……ひーちゃんとデートしてたってこと?」
あこが怪しんだ顔で俺を見た。女装して女の子とデートなど、緊急家族会議案件ではないか。
「デートなんて大層な物じゃないよ。ケーキ食って、服屋行っただけだ」
「それってデートじゃ……」
「それより、あここそなんで俺だって分かったんだ?誰も気づかなかったんだぞ?」
正直、それが一番気になる。どこをどう見て俺だと気付いたのだろうか。
あこは首を捻って、自分でもよく分かっていない様子で答えた。
「うーん……なんでって、言われても……毎日見てるから?」
「そんな見てるのか?」
「うん。結構見てるよー。りゅう兄が体育の時とか校庭から見えるし、廊下ですれ違った時とか、外でたまたま見掛けた時とかも、気づかないうちに目で追ってるんだー」
「へー。面白いのか?」
俺が尋ねると、あこは更に首を傾げた。どうやら本人にも理解出来てない行動らしい。
「あこにもよく分かんない」
「そうか。まあ、そう言う事もあるさ」
「うん」
不思議な現象も起こる物だなと、俺はしみじみと思った。
今日一日、正体を知っているひまり意外誰にも気付かれずにやってこれたのに、何故あこだけが俺の正体を見抜けたのだろう。魔王パワーか、それとも邪眼か。
答えは分からない。取り敢えず分かったのは、我が魔王様に変装は通じないという事だけだった。
途中挿絵は『女友達に女服を語る主人公(男)(女装)』通称タツミちゃん。SDキャラで失礼。僕にはこれが限界だった。
ニート生活が暇過ぎて死にそう。てか死にたい……。でも抑うつ患者に労働は辛いんじゃ……。YouTuberにでもなれば良いのかしら。お薬飲まなきゃ。