【完結】いちばん小さな大魔王! 作:コントラポストは全てを解決する
俺のタツミちゃん事件の翌日。
「りゅっ君、お願い……!女装して……!」
「その後ナニする気だ?どうせ襲うんだろ?襲うんでしょ?エロ同人みたいに……エロ同人みたいに!」
緊急事態だと燐子によって白金家まで呼び出され、何かと思えばこの体たらく。……燐子の家にのこのこやって来た俺も俺か。
「そ、そうじゃなくて……。えっと、これ見て欲しいな……」
「えっと、なんだ?」
燐子が見せて来たスマホの写真には、女装した俺の姿が写っていた。
「……この女の人がどうしたんだ?」
「一目惚れ、しました……」
「フー……」
年頃の乙女の様に恥じらいながら、燐子が事情を打ち明ける。燐子は物の見事に地雷を踏み抜いていた。
正体を明かすべきか、スマホの中のアイドルとして夢を見させたままにしておくか。中々判断が難しい。
「それで、この人と俺の女装に何の関係が?」
「その……目元は全然違うけど、輪郭とか身長とか鎖骨周りとかが、ほとんどりゅっ君で……」
「鎖骨周り」
「りゅっ君の鎖骨って、えr……綺麗だよね……」
今エロいって言おうとしなかっただろうか。
「……まあ、いいや。それで?俺をそいつそっくりにさせて何する気だ?」
「軽く触ってみたり、抱きしめてみたり、あとは……う〜ん……」
「迷う程あるのか?」
「ギリギリのラインを攻めようと思ってて……」
ギリギリのライン。頬にキスとか、軽く手を繋いだりだろうか。どうやら燐子も遠慮と言う物を覚えたらしい。
「パートナー申請、しなくちゃ……」
「……ん?」
「キスは……ダメで……。あとは……挿れなければセーフって言うし、お風呂と添い寝は大丈夫だとして……」
まさか燐子は、女装した俺を別人格として扱い、お口には出せない様なあんな事やそんな事をするつもりなのだろうか。お風呂に添い寝……そう言えば俺が燐子をフッた後の最後のお願いで、そんな事を頼んで来た気がする。燐子なりの愛情表現なのだろうか。
「やっぱり、キス……したいなぁ……」
「燐子?やるとしても軽いボディータッチだけだからな?」
「えー……」
「いや、えー……じゃなくて」
燐子は不満げな顔をしていた。
「てかさ、俺を女装させる暇があるなら、その写真の人を探す事に時間使えよ」
「うっ……正論……」
「ま、頑張れよ」
写真の人は女装した俺なので、絶対見つからないだろうけど、燐子には頑張って欲しい。
俺は燐子を応援しながら、スマホをいじる彼女を眺めていた。
「燐子、何してんだ?」
「あこちゃんに、写真送ってる……」
「……。ちょっと用事思い出したから俺帰るわ」
「うん……。ばいば──待ってりゅっ君」
ギルティータイム。珍しくハッキリ言葉を発した燐子を前に、俺はゆっくりと座った。座り方は正座だった。
「燐子の言いたい事は分かる。ただ一つ言わせてくれ。女装した姿なんて、普通見られたくないだろ?」
「そうだけど……。それで天下の往来を、我が物顔で歩いたりゅっ君には、発言権ないと思う……」
「うっ……正論……」
燐子と出会って一年弱。初めて燐子が主導権を握った。それだけ長くいられた事に喜びを覚えるが、今は場違いだろう。どうすれば二度目の失恋で傷心した燐子を慰められるだろうか。
「……俺は何をすれば良い?」
「じゃあ、あこちゃんを下さい……」
「それは……ちょっと俺だけじゃ決められないなー、と……」
人身売買……とは違うのかもしれない。だが、俺の身を差し出すと言う意味では合ってるのかもしれない。さよなら、俺の貞操。
「俺の身体を差し出すので、どうかそれでお許しを……」
「……りゅっ君の、身体……。心は……?」
「それはちょっと……」
いきなりあこから燐子へのシフトチェンジは難しい。だが、時間を掛けてならば……もしかすれば行けるかもしれない。
「ま、まあ……すぐには無理だけど、なるべく早めに──」
「りんりん見て見て!PC用ゲームコントローラー買ったよ!」
「あ、あこちゃん……!?ど、どうしてここに……」
俺が決意表明をしている最中にあこが乱入してきた。燐子が呼んだのかとも思ったが、そうではないらしい。
それと、燐子が異様に焦っているがどうしたのだろうか。
「あれ、りゅう兄も遊びに来てたの?」
「いや、俺は燐子に呼ばれてだ。それとあこ、友人の家に来る時はしっかり連絡入れなきゃダメだぞ?」
「二へへ……スマホ忘れちゃって……」
「携帯を携帯し忘れたと」
あこがスマホを忘れるとは珍しい。前はアプリ版NFOをやるために常備していたのに。
「……ん?」
少し待って欲しい。俺の中に謎の違和感が生まれ始めた。
「なあ、あこ。あこが持ってるそのコントローラー、何処で買った?」
「え、ショッピングモールのゲーム屋さん」
「じゃあ、あこはさっきまでショッピングモールにいたって事だよな」
「うん。それがどうかしたの?」
つまり、スマホを忘れたあこが先程までショッピングモールにいたから、当然そこはスマホを見れない環境で……でも、燐子があこに写真を送って、それで俺の正体がバレて……。
おかしい。何かが引っかかる。
「あこ、燐子が送った写真見せてくれないか?」
「え、りんりんあこに写真送ったの?どうしよう……今見れない……」
「あ、あこちゃん……今はりゅっ君と、大事な話をしてるから、その……」
燐子が慌てた様子であこを退室させようとする。その様は、汚職がバレた政治家だった。
……あこが俺の正体をバラした訳ではなくて、と言うかそもそも写真自体見てなくて。でも燐子はあこから俺の正体を知り、傷心から俺とあこのどちらかをゲットしかけている。
何とも、燐子に都合の良い展開だ。
「……そう言う事か。最初から俺だって気づいてたんだな」
「うっ……」
「ふえ?何の話?」
「あこには関係──なくはないか」
真相に辿り着いた俺を見て、燐子が冷や汗を垂らした。あこは現状を理解していない。
結局、俺が何を言いたかったのかと言うと、全部燐子は知っていたと言うことだ。俺の正体も昨日の時点で気づいていたのだろう。そして、俺の弱みを掴むためにタツミに惚れたフリをし、無事に俺を脅す餌をゲットした。なんて計画的で計算高い事だろうか。あこが来なかったら無事騙されていた。
「なあ燐子、そこまでして俺を手中に収める意味って、あるのか?」
「だって……そう簡単に諦め切れる物じゃなくて……だから……」
俺が問いただすと、燐子は火曜サスペンスの犯人の様に泣きながら弁明を申し上げた。動機はやはり諦めのつかない恋心からだった。まあ、燐子の事だからそこまで酷い理由ではないと踏んでいたが。
「俺も落ち度があったし怒るつもりもない。だから、次は正面突破で来い。良いな?」
「はい……」
燐子は反省したように頷く。
「よし、じゃあこの話は終わり。そんで、俺は帰る。じゃあな」
「あ、うん……。またね」
「おう、またな」
燐子のアフターケアはあこに任せ、俺は帰る事にした。次来る時には普通の友達として接したいなと思う。どうか今はあこの癒しパワーで回復して欲しい。
___
竜介が帰宅した後、燐子はゲームを楽しむあこの姿を眺めながら、今日失敗した計画の一人反省会を行っていた。
本来のシナリオ通りならば、竜介が女装した事を隠すために嘘をつき、それにより燐子が傷心した後、そこから責任追及で彼かあこをゲットする筈だった。
もちろん、竜介とあこを騙す事に後ろめたさは感じていた。しかし、それで燐子の恋心を抑えられるかと聞かれれば、首を横に振らざるを得ない。
「りんりん、このコントローラーすごいよ!スマホでも使える!」
「それは、凄いね……」
昨日から企てていた計画をぶっ壊してくれた張本人は、先程ショッピングモールで買って来たコントローラーを燐子のスマホで試用してはしゃいでいた。
数々の女の子が、有用性、素直な恋心、ステータス確保などから彼を狙っていると言うのに、相変わらず彼女はお気楽だ。
「ねえ、あこちゃん……」
「ん?どうしたの?」
「あこちゃんは、りゅっ君の事、好き……?」
「うん。昔からずっと大好きだよ!」
燐子に向けて、あこは軽快に笑って言った。その笑顔は、かつて燐子が惚れた物だった。
あこの言う“好き”。それはきっと、幼馴染としてだろう。あくまで、“長年竜介の隣を歩いて来たあこ”としての好き。燐子の求めていた答えではない。
「じゃあ、もしりゅっ君が、恋人を連れて来たら、あこちゃんはどうする……?」
「りゅう兄に……恋人……?」
あこは空想世界で竜介の恋人を想像する。竜介が何処の誰かも知らない人の頭を、嬉しそうに撫でる姿を思い浮かべた。
「……りゅう兄はお婿に行かせない」
「あ、うん……。ちょっと期待してた答えと、違ったかな……。まあ、今はいっか……」
またまた欲しい答えとは違う物が返って来たが、燐子は諦めた。まだ、その時ではないのだろうと燐子は待つ覚悟を決める。
あこがピコピコとゲームする姿を眺めながら、燐子はあこが恋心に目覚める姿を想像した。
「もしかしたら、りゅっ君があこちゃんの事、恋人にしてくれるかもしれないね……」
「りゅ、りゅう兄はあこの事そんな目で見てないよー……」
相変わらず、あこは鈍感だ。でも、何処か嬉しそうだった。
燐子はあこの成長を感じながら、PCからNFOを起動した。
りんりんは鎖骨で人を見抜く変態。でもあこは暗闇の中で女装主人公を見つけてたからあこの方が強い。つまり魔王が最強。
明日ローソンであこちゃん回収しに行く。残ってると良いなー……。