【完結】いちばん小さな大魔王! 作:コントラポストは全てを解決する
山岳遠足、二週間と三日前のある日。十月も半ばに差し掛かり、本格的に地球が冬に入り始めた。
「りゅう兄!お姉ちゃんのライブ行くよ!」
それは、俺が遠足行事の予定確認をしている時に起こった。
あこがライブチケットを二枚持って、蘭達のライブに行こうと俺を誘ったのだ。もしやこれは巷で話題のライブデートとか言うものだったりするのだろうかと、俺の心はカーニバル。
一緒に行くかを聞かず、俺を連れて行く事が確定している物言いに魔王味を感じる。まあ行くが。
「ライブの日はいつだ?」
「今週の土曜日!」
そう言う事らしい。
差し入れに何を持って行こうかと俺は考えながら、早速応援グッズを自作し始めたあこを眺める。手元にはマジックペンと、イルカの取ってのマグカップがあった。
「そのマグカップ、気にいってるのな」
「うん。お気に入り!」
ニヒーと笑いながら、あこはマグカップを手に取った。ここまで気にいって貰えてるなら、買った甲斐があると言うものだ。
そしてライブ当日の土曜日。ライブハウスCircleに俺とあこは訪れていた。
熱気と熱声とサイリウムが荒ぶりまくる会場内にて、あこはニット帽とワンピース、俺はAfterglow法被を着て、サイリウムと内輪両手にはしゃいでいた。
弦の弾かれるギターの音、ベースが曲の根元に生きる音、キーボードが巧みな指使いで奏でられる音、ドラムの面がバチで震える音。全てが合わさって、会場全体を昂らせる一つの音楽になっていた。
俺とあこはライブの音を聴きながら、それに負けない声援を飛ばし、あこは巴を、俺は蘭を全面的に推している。
最前列で見上げる蘭の顔はとても活き活きしており、心做しかいつもより楽しそうだった。それと、モカの視線が何故か痛い。
そうしてライブを満喫しているうちに、気づけば最終曲へ。
Scarlet skyを盛大に響きわたらせ、ライブは無事幕を閉じた。
「よし、楽屋に行くか」
「入れるの?」
「行ける。一応これでも、ここのスタッフだからな」
あこに説明しながら、俺はまりなさんに顔パスで楽屋に通して貰い、差し入れを手に楽屋を訪れた。
手土産のレモンクッキーを渡し、各々がライブ後の高揚感と疲労感に浸かる様子を見ながら、俺はAfterglowリーダーの元に向かう。
「お疲れ。スポドリ作って来たけど飲むか?」
「お、良いね〜」
汗を流した身体にスポーツドリンク。これこそ正義。皆良い顔してポ〇リを飲んでいる。
「ねえねえリ~君、パンある~?」
「ちゃんと作ってきたよ」
「わ~い!」
ライブ後で疲れているのに、よくパサついた物を食えるなと俺は感心しながら、モカにパンを渡した。紙袋からパンの香りを漂わせ、モカが楽屋でパンを貪り食らう。知らない人のお腹の音が聞こえて来た。何だか悪いことをした気分だ。
「どうだ?今朝作りたてなんだが」
「やまぶきべ~かり~の味~」
モカのサムズアップ。大変美味との事だった。
「ほんと、モカは美味しそうに食べるね~」
「ひ~ちゃんも一個食べる~?」
「食べる!」
アンパンがモカの手からひまりの手へ。よりによってアンパンを渡してしまったか。砂糖で体重計が重くなる。
俺の心配を他所に、ひまりはアンパンを頬張っていた。何故ひまりはリバウンドを恐れないのだろうか。
「ねえねえリ~君、今日リ~君の家行って良い~?」
「別に大丈夫だぞ。夕飯何が食べたい?」
「パン~」
「それ以外でだ」
モカは不満そうな顔をした。しかし、俺の意思は固い。
「ついでにつぐみも連れて行くけど良いか?」
「良いよ~」
「私の意志はどこ?」
「もうつぐみママに許可とってあるから問題ない」
いつぞやかに約束した、つぐみに手料理を振舞う約束を果たすときがやって来た。つぐみの意思?そんな物は知らん。お前の意見は求めない。
俺は夕飯のメニューを考えながら、嬉しさとやるせなさが混ざったような顔をするつぐみを眺めていた。
____
ライブ後、スーパーで夕飯の材料を買い足し家に帰ってきた。俺とあこに加えてモカにつぐみ。今日の夕飯は量がいつもの数倍になりそうだ。主にモカが原因だが。
ちなみに、今日の夕飯は焼きそば。一度に大量生産が出来る上に上手い。正にスーパーフード。
つぐみとモカをソファーに寛がせてる間に、俺とあこは台所で夕飯の支度を始める。途中つぐみが手伝いを申し出る天使具合を発揮したが、もちろん却下。客に接待をさせるなど言語道断。
「お前は少し手伝ってもいいぞ。モカ?」
「今はリー君を見るので手がいっぱいで〜す」
「そんなに見て何になるんだよ」
「内緒〜」
先程からジーーっとまとわりつく眼力が俺を掴んで離さない。背中がとてもむず痒く、何とも鬱陶しい視線だった。
「気が散るんだが」
「ファイト〜」
前は週一でうちに訪れてパンを貪り食い、今でも月一で訪れてはパンを貪り食って行く。最初は嫌がらせの類いを疑ったがそんな事はなく、ただ血糖値の低下の赴くままうちにやって来るのだ。俺はパン屋でも開けばいいのだろうか。
俺と顔を合わせれば、頭に残るニヤニヤ顔で俺に抱きついて来る。蘭とセットで世話を焼けば、愛らしいニヤニヤ顔で蘭をからかいながらお礼を行ってくる。最近ギターの自主練に付き合ってくれて、彼女の弄りは何故か嫌いになれない。
何となく見つめ返してみると、ほんの少し驚いた表情をしながら、またニヤニヤ顔を作ってくれる。
「なになに〜?モカちゃんに見蕩れてたの〜?」
「モカって、もしやレベルの高い美少女なのでは?」
おっと魔王の視線が痛いぞ。
「リ〜君もやっと気づいてくれましたか〜。いや〜小学校の頃から吹き込んでた甲斐がありましたな〜」
「そういえばお前、それでナルシストって弄られてなかったか?小五の頃」
「そうだよ〜。それでクラスでは浮いちゃってたよね〜。いや〜あの時はリー君以外クラスが違ったから、リー君だけが癒しだったよ〜」
モカは軽く言ってるが、確かあの時はモカの事でクラス会議が起こったはず。確か、モカの下駄箱からモカ本人の悪口が書かれたノートが見つかって……。でもモカは平気そうで、俺も要らないお節介を焼いた記憶がある。
「お前、ほんと肝が据わってるよな。感心するわ」
「ふっふ〜ん。褒め讃えよ〜」
いじめノートとでも言えば良いのだろうか。俺がそんな物を見つけたら、傷心で家に一週間は引きこもる自信がある。だが、あの時のモカはそれに屈しず、笑顔で何事もないように振舞っていた。
「……まあでも〜、あの時はリー君がいなかったら、ちょ〜っと危なかったかな〜」
「お、そうなのか?なら、あの時焼いた俺の節介も無駄じゃなかったんだな」
「まあね〜」
モカが俺の腕に擦り寄って、甘える様に頬ずりしてくる。あことつぐみが凄みのある目で見てくるからやめて欲しいのだが。
「いい匂い〜。アロマの香りだ〜」
「別に抱きつく必要はないだろ。あとあこが怖いから離れて」
ここまで一言も喋らず、着々と夕飯の支度を進めてくれているあこだが、如何せん圧が強い。パッシブスキル《魔王の覇気》が発動していた。何か怒らせる事を──サボってないで働けと言う事か。早速尻に敷かれ始めてる。
「悪い。あこ」
「……別に。なんかモヤっとしただけだから……」
「そういう訳だ。モカもそろそろ戻ってくれ」
「……ふ〜ん」
意味ありげな視線を残し、モカはリビングに戻っていった──と思ったのだが、台所のカウンタ越しから俺を覗いていた。その目は、獲物を見張る獣の様だった。
◇
Afterglowのライブも無事に終わり、皆が解散した後、蘭はスマホを二台手に持って自宅とは別の方向に足を進めていた。片方のスマホはもちろん蘭自身の物だ。そして、もう一つは──
「あら〜蘭ちゃんじゃない!どうしたの?」
「あ、その……モカが携帯忘れていって」
「あーごめんなさいね〜。いつもありがとう」
「い、いえ……」
そう、モカの物である。Circleの楽屋に置き忘れてあった物を、蘭が拾って来たのだ。
もう何度も訪れ青葉家の構造を把握している蘭は、家に上がった後、慣れた足取りでモカの部屋に向かった。
「お邪魔します」
最低限の礼儀を弁え、蘭はモカの部屋に入る。窓が網戸を通して全開しており、月明かりと一緒に夜風が入って来た。
もうすぐバッテリーが切れそうなモカのスマホを充電するため、蘭は失礼を承知でモカの机を漁った。引き出しの中や備え付けのコンセント、本棚を探ってみたが見つからず。
「後はここ、かな?」
残る場所は机の鍵付きの引き出し。鍵はもう見つけてある。
解錠して少し漁ると、目的の充電ケーブルが見つかった。
「……この引き出し、二重底だ」
何とも分かりやすく王道的なカラクリ。蘭は好奇心からそこを開けてしまった。中にあったのは、ハガキサイズの厚紙が十枚一セットになった物だ。それが二十セット程敷き詰められている。
「何だろうこれ。……ッ!?」
好奇心に負け、蘭はその束を手に取って見た。見てしまった。
モカが厳重に隠し持っていた物、それは──
モカちゃんの隠し物を長年隣を寄り添った蘭が見つける展開がエモい。