【完結】いちばん小さな大魔王! 作:コントラポストは全てを解決する
あこが家を飛び出してから何十分と時間が経過した。俺は状況が飲み込めず、ずっと台所の前に座り込んでいた。
「なあ……モカ」
「……うん」
「俺、どうすれば良かったんだろう」
あこの手を掴む事が出来なかった俺の手。それを見ながら、俺はモカに問いかける。
お気に入りのマグカップ。俺との思い出が詰まったマグカップ。そんな大切な物を壊してしまったあこは、ショックからか家を飛び出してしまった。
「……そうだ。あこを探しに──」
「多分だけど、大丈夫だと思う」
「は?なんでだ?」
モカは何か知っている顔で俺を見ていた。一体何を知っていると言うのか。モカに目線で訴えたけど、モカは首を横に振る。その代わり、あこの居場所が分かる根拠を教えてくれた。
「あこちん、きっと今はともちんの所にいるよ。今のあこちんの居場所が、そこに変わったから」
「俺の家──俺の隣は、ダメだって言うのか?」
「うん。今は、ね」
「……そうか」
モカの言葉に、俺はゆっくり相槌を返す。
あこの居場所が巴の元に戻っただけ。俺は一度自分にそう言い聞かせた。ここで怒っても、きっと意味が無いと思えたから。それに、モカは関係ない。
「……ふー。すまん、ちょっと動揺してた。今から夕飯作るから待っててくれ」
今日はモカに唐揚げを作ってあげる約束をしているのだ。あこがいなくなったからと言って、大切な友との約束を破る訳にはいかない。
俺は台所に立って、夕飯の材料を調理台に並べた。食材を切っていき、下ごしらえをして、しばらく寝かせる。
「リー君、無理しちゃダメだよ」
「大丈夫。料理が出来てるなら、まだ俺は限界を迎えてない。何とかなる範囲だ」
そう言いながら野菜を切っていると、包丁が俺の親指を切った。かなり深くに切り込んでしまい出血が止まらない。
「リー君の体は、リー君が思ってる以上に堪えてる」
「……すまん」
「良いよ〜。たまにはこう言う事だってあるからさー」
モカの為なのに料理が出来ない。
人の為なのに料理が出来ない。
その事実が俺を歯がみさせる。俺は結局、どこまで行っても弱い人間なのだろうか。
俺が心の中で嘆いていると、スマホが震えた。着信相手は巴だ。
どうやら、あこが家に着いたらしい。そして全ての事情を察し、俺の元に連絡を入れて来た。メールにはそう言う旨の文が綴ってある。
『話したい事がある。明日の昼休みに屋上に来てくれ』
追加でもう一文そう送られて来た。
俺はその一文を読んだ後、スマホをポケットの中にしまう。
「モカ、ごめんな。また今度埋め合わせするから」
「ううん、大丈夫。それじゃ、また明日ー」
「おう。またな」
モカが家から出るのを見送った。
その後に、俺は家に買い置きをしてあるカップラーメンの山の中から醤油味を抜き取り、お湯を沸かした。
これが、俺が一人の時の食事。栄養バランスなんて関係ない。ただ腹を満たすだけの食事。
以前、相手に依存しすぎと美咲に怒られたが、確かにこれは見過ごせない依存度だろう。でも、それで良いのだ。きっと俺には、これくらいが丁度いいから。
___
翌日の木曜日の昼休み。あこを除いたいつものメンバーが屋上に集まった。
巴にあこの様子を聞いてみたのだが、学校を休んでいると言う情報以外は教えて貰えなかった。今一番気になるのはあこの容態だったのだが。
いつも通りとは行かない昼食の時間になった。俺はチラリと巴を見る。
巴は一度大きくため息をつき、頭の後ろを自分でかきながら話し始めた。
「あー、どこから話したもんかなー」
一言めに困惑。どうやら何か長い事情があるようだ。
「竜介はさ、あこが竜介ん家に来た時の事覚えてるか?」
巴の問いかけに、俺は首を縦に振る。
あこが来た日。それはあこと巴が喧嘩をし、あこが家に帰りたくなくて俺の家にやって来た日だ。喧嘩の原因は分からなかったけど、時間が経ったら勝手に解決していた。
忘れたくても忘れる事なんて出来ない。とても深くまで刻まれた思い出だ。
「じゃあ、そこからだな」
コホンと、巴は一度咳払いをして話し出した。
「前さ、あこがアタシのマグカップ割っちまったんだ。アタシは大丈夫だって言ったんだけど、あこが聞かなくて……それで飛び出して」
「俺の所に来たと」
「ああ」
少し前から、何故あこが俺の家に来たかを気にしていたのだが、まさかそんな事情があったとは。あこが“また”大切な物を壊したと言っていた理由が分かった。
しかし、今回と前回──共通点はマグカップと言う事だけ。あこがあそこまで落ち込む理由が分からなかった。
「なあ巴。あこは大切な物を壊したって泣いてたけど、そのマグカップってそんなに大切な物だったのか?」
「……それなんだけどさ。あのマグカップ、あこが誕生日にくれた物なんだ。それで、アタシが一番大切にしてて」
「……そっか」
あこが大切な物を壊したと言った理由が分かったと俺は前述したが、訂正させて欲しい。
俺は、あこの気持ちを一ミリも理解していなかった。あこがカップを割った時どんな気持ちだったか。あこがどんな想いで俺に謝っていたのか。どんな心境で俺の家を飛び出して行ったのか。その全てを全然理解していなかった。
俺は、俺自身を殴りたい。
「俺は、なにも知らなかったんだな」
「あ、いや……そんな重く受け止めないでくれ。元はと言えばアタシが悪いんだし」
「いや、巴は何も悪くない」
多分だけど、今回の件は俺を除いて誰も悪くないのだ。偶然あこが巴のマグカップを割ってしまい、今度は俺の家で同じ失敗をしてしまった。ただ、それだけの事。あこも巴も、誰も悪くない。
「間違えて起こっちゃったなら仕方ないさ。ミスは誰にだってある。だから、あこは何も悪くない」
「わざとじゃなければOKって事〜?」
「お、おいモカ」
「まあ、そうだな」
突然口を挟んだモカに、巴が慌てて止めに入る。何かを隠しているみたいだった。もしかしたら、あこが俺の知らない所で何か悪事を働いていたのかもしれない。
「リー君さー、前にあこちんが、お弁当連続で忘れた事あったの覚えてるー?」
「ああ。覚えてる」
「あれ、わざとだよ」
最初はいつも通り、でも段々と低い声で。モカっぽくない声でモカが言った。
それを聞いた皆が、気まずそうに目を逸らす。どうやらモカの言っている事は嘘ではないらしい。
「そっか……あれ、わざとだったのか」
「モカちゃん的にはさ〜、どんな理由があっても〜リー君が頑張って作ったお弁当忘れるなんてありえなーいって思うんだ〜」
だから、この機会に縁を切ってしまえ。モカは言外にそう語った。
俺の頭の中に、モカの台詞が反芻する。わざと忘れられていたのはショックだった。あこもそう言う事をするんだなと、意外な一面を知ることが出来た。
「悪い。俺はそれくらいじゃあこの事を嫌いになれない。多分、殺されても恨めないと思う」
「リ〜君呪われてるね〜」
悪役に回っていたモカが優しく笑う。
「ははっ。確かに呪いかもな。でも、あこといられるならそれで良い」
もしかしたら、俺はとんでもない甘ちゃんなのかもしれない。でも、仕方ないではないか。それだけあこの事を想っているのだから。純愛の名の下なら何をしても良いって国語の先生が言っていた。
「あこは何も悪くない。巴も悪くない。あとは俺が頑張る。それでこの話しはお終い!良し、飯食うぞ。時間なくなっちまう」
「なーんか腑に落ちねーなー……」
「なんだ?思いっきり攻めた方がよかったか?」
「いや、そう言う訳じゃないけど……」
巴は言い淀む。やるせなさが篭った顔だった。
あこも巴も、誰も悪くない。
そう。誰も悪くない。
俺を除いて。
俺はこれから自分が何をすべきかを考えながら、皆で楽しくお昼を食べた。一瞬だけモカの悪役演技で空気が重くなったが、皆はもう気にしてないようだ。皆良い顔してる。
でも、たった一人だけ……ひまりだけは俺の事を心配そうな目で見ていた。けれど、昼休みの時の俺はその事に気づけなかった。
魔王様はお姉様の大切なマグカップを壊してしまい、今度はイルカの取っ手のマグカップを壊してしまいました。水族館回で買ったイルカの取っ手のマグカップです。皆覚えてイルカな?なんちって。はい或人じゃ〜ないと〜!
度々登場させてました。イルカの取っ手のマグカップ。最近は結構出てきてたかな?全てはこの時のため。今こそ刻は極まれり。
うーん展開が非人道的。