【完結】いちばん小さな大魔王! 作:コントラポストは全てを解決する
商店街はいつも賑やかだ。至る所から活気のある声が聞こえ、たくさんのお客様を呼び寄せる。特に夕暮れ時のここは閉店前セールで言葉が飛び交うので、元気がない時に来れば大抵元気が貰える。
「りゅーちゃんどうしたの?なんか元気ないよ?」
「まあ、色々あってだな」
だと言うのに、今日の俺は商店街にやって来ても覇気が戻らなかった。目で見て耳で聞く活力剤である商店街からの活気に当てられても、俺に笑顔とか元気が戻ることはない。一筋の望みを掛けてはぐみの家に来てみたが、それでも変わらず。
俺は、どうやったら立ち直れるのだろうか。まさかあこがいなくなっただけでここまで意気消沈してしまうとは思わなかった。お先が断崖絶壁で何も出来ない。
「あこと喧嘩しちゃって」
「え、りゅーちゃんが!?」
「珍しい事もあるもんだろ?あ、コロッケ一個貰っていいか?」
なんか、視界が荒んで見える。禁断症状が出てきてしまった。やっぱり、俺は一人だとダメダメだ。
俺は、はぐみから貰ったコロッケを一口食べた。心做しか美味しさがいつもより五割減だ。視覚だけでなく、味覚にまで影響が出始めているらしい。このまま行けば無事五感が詰むだろう。誰かに助けを求めた方がいいかもしれない。
「りゅーちゃん、一人で大丈夫なの?」
「うーん……まあ、多分?」
はぐみの気遣いもご最も。俺は一人だと何も出来ないダメ人間だ。あこが来る前なんて、冷凍食品とカップラーメンで毎食を過ごしていたし。偶にリサ姉がご飯を作ってくれたりもしていたが。
「はぐみ、夕ご飯作りに行けるよ?」
「いや、大丈夫だ。今日は刺身で明日は焼肉とかにするから」
「無理しちゃダメだよ?」
「分かってる」
はぐみの優しさが心に沁みる。本当、はぐみが友達でいてくれて良かった。さすが北沢精肉店の看板娘。
はぐみに元気を貰った後、俺は豚バラ肉を買って魚屋に向かった。魚屋のおじちゃんにも、あこがいない事を心配された。
商店街から帰路に向かっている最中、俺は明日の朝ごはんがない事に気付き、たまたま目に入ったやまぶきベーカリーに立ち寄っていた。店内はやはりパンのいい香りが充満しており、俺の胃袋を鳴らす。
「いらっしゃい。どうしたの?こんな時間に」
「明日の朝ごはんを買いにさ。あこと喧嘩しちゃって」
「えっ。竜介とあこって喧嘩するの?」
はぐみと同じ反応をされたのでつい笑ってしまう。やっぱり、俺とあこはいつも一緒にいるものと思われているらしい。俺もそうでありたいと願っている。
けれど、現実は残酷だ。
「大丈夫なの?」
「はぐみの前では強がったけど、正直言うと辛い。なんか、五感が機能不全に陥り始めてる……。それに、誰かのための料理も出来なくなっちゃった……」
「そっか……。よしよし」
あこがいないため弱り果てている俺の頭を、沙綾が優しく撫でてくれる。
このまま沙綾に泣きつきたかった。子供の様に泣きじゃくり、沙綾に甘えたかった。でも、それはしない。
「ご飯、作りに行こうか?」
「大丈夫。一人でどうにかするって決めたから」
「もう。こんな時ぐらい頼ってよ。いつも一人でどうにかしちゃうんだし」
「だから今回も一人でどうにかしようと思ってる。悪いのも、俺だけだから」
「ま〜た一人で悩んでる」
ペちっと沙綾にデコピンをされる。少しヒリヒリする感覚を感じながら沙綾を見ると、もっと頼れと目で語って来た。
「しょうがないじゃん。俺の性格なんだし」
「しょうがなくない。竜介だって、私がバンドやるかで言い合いになった時割り込んで来たじゃん」
「それは……ほっとけなくて……」
「私も同じだよ。ほらほら、もっと頼って」
沙綾が俺のテリトリーを無視してズカズカと入り込んで来る。結構精神に来る攻撃だった。
文化祭前に沙綾が香澄とバンドの事で喧嘩をしていたが、そこに俺が入り込んだ時の沙綾の気持ちが分かった。凄くやりにくい。気を抜けば全てを委ねそうになってしまう。甘い甘い誘惑だった。
「まあ、今度頼らせて貰うよ。今は一人で考えたい……いや、考えなきゃいけない時なんだ」
「そうやって言い訳しても逃がさないから」
沙綾は引き下がらない……様に見えたが、一つため息をついた。
「まあ、今回だけ見逃してあげる。次はないからね」
「さんきゅ」
沙綾が俺を放っておいてくれる気になったらしい。世話焼きな幼馴染を持つと苦労する。……きっと、沙綾も同じでも同じことを思っているだろう。まあ、結局はありがたいのだが。
俺は食パンを沙綾から買った後、やまぶきベーカリーを後にした。
____
「いっつ……」
帰宅後、真っ暗な部屋に電気をつけて、台所で夕飯のマグロを赤身を切っていた。そうしていたら自分の手を切ってしまった。俺は何をしているのだろうか。
当然だが、俺の隣には誰もいない。最近はあこが夕飯を作ってくれているか、一緒に支度をする事がほとんどだったため酷く寂しさを感じてしまう。
切れた指の血を舐め取った後、バンドエイドで傷口を塞ぐ。そしてまた再チャレンジ。そしてまた指を切る。
「なんでこうなるかなぁ……」
少し涙ぐんだ声で俺はそう零す。ダメだ、今一番泣きたいにはあこの筈だ。だから、俺は歯を食いしばって、血を流しながらでも耐えるんだ。それが俺に出来る精一杯だから。
でも、思い返せば、いつからこうなってしまったのだろうか。少なくとも小学生の内はこんな事なかった筈だ。つまり、中学生のうちに何かあったんだと思う。
中学生の頃……香澄や花音先輩と一緒に過ごした時期。数多い幼馴染達と離れ離れになった時期でもある。そして一番思い出に深く刻まれているのは──爺ちゃんの死。
「もしかして……」
俺は爺ちゃんが死んだショックを紛らわせたくて、自分を傷つけてしまう癖をつけてしまったのだろうか。だから、自分に向けて料理をするとその事を無意識に思い出して……でもおかしい、あの時は花音先輩が全力で俺を支えてくれていた筈だ。
花音先輩には本当に感謝している。爺ちゃんが死んだ時、花音先輩がいなかった事を考えただけで身震いしてしまう程に。ずっと隣で支えてくれていたのだ、花音先輩は。
それが込みでこの様だと言う事は、俺はとんでもないメンヘラ野郎と言う事に。でも、やっと原因が分かった。
「皮肉だな、あこがいなくなってから気付くなんて……」
あこに教えてあげたかった。そして、一緒に治していきたかった。けれど、その願いも叶わない。
「どうすれば、良いんだろうな……」
バンドエイドを貼った指を見つめながら、俺はポソりと呟く。
あこの手を掴めなかった俺が、あこの隣にいていいのか分からない。その資格があるのかすらも分からない。もしかしたら、気が変わってあこが帰って来てくれるかもしれないが、俺はそれを素直に受け入れる事が出来るだろうか。
俺には全てが分からない。
「ごめんな、あこ」
俺は壊れた日常の中で懺悔をした。
そして、せめてあこが笑顔でいられますようにと祈った。
そんな時、家のインターホンが呼び鈴を鳴らす。
もう夜の七時を回っている。こんな時間に誰だろうか……もしかしたら、リサ姉辺りが騒ぎを耳にして駆けつけて来たのかもしれない。こう言った時のリサ姉は耳が早いから。
俺は限界のドアを開けた──
「竜介、元気?」
ひまりがいた。
俺は一度玄関を閉めた。
何度もなる呼び鈴。
鳴り止まない呼び鈴。
俺は玄関を開けた。
「なんで閉めるの?」
「悪い。びっくりして」
「はぁ……全く」
一体何をしに来たのだろう。そう思ったところで、ひまりが荷物のリュックサックの中から、何かの入ったタッパーを取り出す。チラッとだけ見えたが、肉じゃがらしき物があった。
「はい。夕飯のおすそ分け。竜介ご飯作れないだろうって思って。それと、あこちゃんが帰るまで私がここに泊まるから」
知らない人が聞いたら何言ってるんだと思うかもしれないが、俺の事を知ってる人からすればこれ以上無い気遣い。自分のための料理が作れない俺の、飯を作る理由。
自分が怪我をする原因は分かったが、解決は出来てないので助かった。
「あこちゃんが帰るまでって言ったけど、正直私もどれくらいいられるかは分からない。だけど、よろしくね」
「……ありがと」
「どういたしまして」
ひまりが優しく微笑んだ。惚れそうになった。
はぐみちゃん初登場回。地味に初登場です。出そう出そうと思いながらも出せてなかった。すまぬ。
助けてあこちゃん。竜介君が無意識メンヘラになっちゃってるよ。
魔王様を助けられるのは眷属だけだけど、眷属を助けられるのも魔王様だけなんだよ。早く帰っておいで。
花音先輩の頑張りは無駄じゃなかったやんや……。
最後の方はギャグ要素でこう、緩和したかった。ひまりんの安心感すごい。
マグカップを壊したトラウマを思い出した魔王様と、お爺ちゃんが死んだトラウマで自分を傷つけてしまうメンヘラ眷属。ヤンデレからデレを取る──それ即ち病み。メンヘラ万歳。病み(闇)万歳。
他の奴らとはレベルが違うぜ!