【完結】いちばん小さな大魔王!   作:コントラポストは全てを解決する

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着々と評価者数が80人を超えたぜ。100人も夢じゃない。ぐへへへ。


第63奏 Error Code07:失踪

 雨雲が広がり、パラパラと雨が降る肌寒い土曜日。

 目の前を通り過ぎるビルの数々。少し目線を下げれば、東京の街中を行き交う人々が目に映る。

 ガタンゴトンと電車に揺られ、山手線の路線に立っていた。景色が代わる代わるする光景を目を慣れさせながら、俺は隣で目的地までのルートを確認しているひまりを見る。

 

「ひまり、俺達はどこに向かってるんだ?」

「内緒!」

 

 ひまりはスマホの画面を隠しながら答える。

 今朝、「竜介、外行くよ!」と言われ、流されるまま連れてこられてからずっとこの調子だ。行先を聞いても全然教えてくれない。

 一応、俺も行先の考察をしてみたりもした。ひまりの事だからスイーツ関連かなと思ったが、こんな天気の悪い日に行く程の事でもない。ならば、音楽関係かと考え至ったが、俺を連れて何になると言う話。ベースの事なんて俺は何一つ分からない。リサ姉に頼んだ方が百倍頼りになるだろう。

 結論、俺には何も分からなかった。

 

『次は〜渋谷〜渋谷〜──』

「あ、降りるよ竜介」

「渋谷?」

 

 どうやら、渋谷が目的地らしい。

 渋谷……ということは109だろうか。なるほど、服が欲しかったと。それなら頷ける。渋谷と言えばファッションの最先端を司る場所。ひまりも最初から服が欲しいと言ってくれれば良かったのに。

 

「竜介、こっちこっち」

 

 電車を降りて改札を抜け、俺が勝手に予想した目的地目掛け歩みを進めていると、ひまりが手を引っ張ってその反対方向へと俺を誘導する。

 ひまりが欲しいの服のはずでは?と不思議に思いながらひまりの後についていくと、一件のこじんまりした店にやって来た。店の看板には『猫の集い』と書かれている。

 

「ここは……?」

「猫カフェだよ。SNSで話題の場所」

「猫カフェ?」

 

 ひまりが猫カフェなんて珍しい。ユキ姉じゃあるまいし。一体どういう風の吹き回しだろう。まさか、ひまりも猫に目覚めたのか。

 猫カフェ……俺も来たことはなかったが、来てみたいなとは幾度となく思っていた。正直とてもワクワクしている。

 ココ最近気分が憂鬱気味だったからか、少し気分が上がっただけで立ちくらみを起こしてしまう。まさか、俺がここまでダメージを受けているとは思わなかった。自分の身体の事は自分がよく知っていると言うが、案外そうでもないらしい。

 俺は立ちくらみから自分の身体を持ち直した後、ひまりと一緒に店内に入った。

 

「いらっしゃいませー」

 

 店の中は可愛い系のアイテムで統一されていた。猫のいい匂いがする。

 

「大変申し訳ないのですが、ただいまカップルシートしか空いておらず……」

「そこでお願いします!」

 

 勝手に決められてしまった。傷心中の身じゃなければ勢いよくツッコンでいたところだ。

 店員に連れられ、俺達はカップルシートなる場所にやって来た。壁紙から天井まで柄が全てハートと言う頭の悪い感じ。まあ、嫌いじゃないけど。

 

「ご注文が決まりましたら、こちらのボタンでお呼びください」

 

 店員が持ってきた呼び出しボタン。ボタン部分がハートだった。……頭が痛い。

 

「わ〜!可愛い猫。見て見て竜介!猫だよ猫!」

 

 店内の至る所にいる猫達。ひまりは寄ってくる一匹の猫を抱き抱え、愛らしそうに撫でていた。猫も気持ちいさそうに撫でられている。

 俺がそんな様子を微笑ましく見ていると、ひまりが不思議そうに俺を見返して来た。

 

「竜介は良いの?」

「俺はいい。よくよく考えたら、家にニャン吉がいるし」

 

 ここで他の猫に頼ってしまったら、俺は浮気する事になってしまうのではないか。子供の頃から一緒にいてくれたニャン吉を裏切る事は出来ない。だから、俺はこの猫カフェをただのカフェとして楽しむ。俺はそう思い至った。

 

「なんか頼むか。ひまりはどうする?」

「ここのパンケーキが美味しいって載ってたんだよね〜」

「この『猫の集い限定ニャンコパンケーキ』ってやつか?」

「そうそう」

 

 ニャンコパンケーキ……ユキ姉が見たらどう思うだろうか。何となく、感銘を受けたまま硬直しそうだ。

 

「あ、竜介、これ頼もうよ」

「どれ?」

「この『カップル限定ネコネコソーダ』って言うのなんだけど、カップル証明?って言うのをやれば二時間料金タダだって」

「お、いいじゃん」

 

 ひまりが指さしていたのは、この店で出してるカップル限定ドリンク。カップル証明と言うのが必要らしいが、どうせコップに刺さってるカップル用ストローでドリンク飲んでるところの写真を撮らせて欲しいとか、そんなものだろう。割引きどころかタダになるならお易い御用だ。割引きと無料は主婦(夫)の味方。

 

「じゃあ、これで決まりだね。私ボタン押したい!」

「おう。いいぞ」

 

 ひまりがボタンを押すと、『ピンポーン』と言う音がなり店員がやってくる。メニューを指さしながら、ひまりのパンケーキと、カップル限定ドリンク、俺は無難にナポリタンを頼んでおいた。

 

「ごゆっくりどうぞ」

 

 店員はメニューを聞いた後去っていった。

 俺は一度お冷を飲み、猫を愛でるひまりを見る。今更ながら不思議な光景だ。ひまりが突然猫なんて。俺としては猫の魅力に気付いてくれて嬉しい限りなのだが、やっぱり疑問に思ってしまう。何故あことの仲が拗れてる今なのだろうか。

 

「なあ、ひまり」

「ん?どうしたの?」

 

 猫を愛でたまま、ひまりが反応する。

 

「なんで俺をここに誘ったんだ?」

「……嫌だった?」

「嫌じゃないけどさ、なんで今なんだろうなって」

 

 あこが家出して、俺が傷心していて、ずっと俺に覇気がなくて。少し大袈裟だが、生きる糧を失った俺は、今こうして英気を養う様にここ(猫カフェ)にいる。

 やっぱり、気遣ってくれたのだろうか。

 

「……言わなきゃダメ?」

「出来れば聞きたい」

「……分かった。えっとね──」

 

 そうして、ひまりは話してくれた。

 事の発端は昨日の朝。巴とひまりで話し合って、俺を猫カフェに、あこにはドラムを叩かせる事を決めた。そして、翌日。俺はこうして猫カフェに連れてこられ、あこは今巴と一緒にドラムを叩いているらしい。

 巴とあこが一緒にいるなら安心だ。あこには辛い思いをさせてしまったから、そのケアをしてくれているのは大変ありがたい。

 

「ありがと。あこの事気にしてくれて。本当は俺の役目の筈なのに……」

「私達はあくまでサポートに回っただけだよ。ここからどうするかは竜介次第、かな」

「……ああ、そうだな」

 

 ひまりと巴がこんなにも俺達を気にかけてくれている。巴はあこを、ひまりは俺を。二人で話し合って、俺達を支える事を決断してくれた。もしかしたら全てが上手くいかず、俺達の仲が悪化するかもしれないのに、そんな事態を恐れず勇敢に立ち向かってくれた。

 

「俺は──」

 

 どうする神楽竜介。友達が身体を張ってここまでの事をしてくれたぞ?

 

 

 なら、俺はどうする?

 

 

 怖いから、あこのためだからと、ずっと蹲って震えているだけか?

 

 

 いい加減、その殻をぶち破って出てきたらどうだ。

 

 

「決めた」

 

 

 もう、逃げるのはやめだ。

 

 

「サンキュ、ひまり。やっと覚悟が出来た」

「ッ!じゃ、じゃあ!」

「ああ。明日、あことちゃんと話してみるよ。もう、うだうだ考えるのはやめにする」

 

 ひまりのおかげでやっと立ち直れた──いや、それ以上の覚悟が手に入った。

 明日、初めてあこの気持ちを無視して行動を起こす。こんな事今までした事なかったので、俺に出来るか不安だ。上手くいくだろうか。

 

 俺は不安な気持ちを胸にしながら、店員が運んできたメニューを頂いた。それとカップル証明についてだが、ひまりと一緒にソーダを飲んでいるところの写真を撮らせて欲しいと言う物だった。写真は貰えるらしい。

 

 

 ____

 

 

 

「あこちゃんと巴は今頃どうしてるかな」

「分からない。けど、きっと上手くやってるさ」

 

 猫カフェもたっぷり堪能した後、電車やバスを乗り継ぎ羽丘商店街まで帰って来た。

 俺は傘をさしながら商店街の中を歩く。中々雨は振りやまない。

 

「今日の夕飯何食べたい?」

「うーんと……ハンバーグ!」

「あいよ」

 

 ひまりはウキウキ顔でハンバーグが食べたいと言った。はぐみの家と八百屋に行かなければ。

 

 

 俺はひまりと談笑をしながら、北沢精肉店と八百屋に向かった。お肉と野菜を買った後、暇つぶしにと羽沢珈琲店に。ひまりはケーキセットを頼んだ後、ウキウキ顔でスマホを弄り出した。

 

「あこに会いたいな……」

 

 何となく零した一言。胸がキュッと締め付けられた。

 改めて考えてみると、やっぱりまだ怖がっている事が分かる。気を抜けばまたあこに会う資格だとか、手を掴めなかった事を考えてしまう。

 やめよう。明日あこに会うと決心したのだ。今また諦めたら、それはひまりへの裏切りになる。

 

「竜介なら大丈夫だよ」

「……うん。ありがと」

 

 また不安に陥った俺の手をひまりはそっと握ってくれた。心の奥底からじんわり温まるような、そんな安心感があった。

 

「明日、頑張ってバシっと決めてきな」

「おう」

 

 揺るぎそうになった決心。でも、またひまりのおかげで決意を固める事が出来た。本当にひまりは頼もしい。いてくれて良かった。

 

「あ、そうだ!こっそり巴にあこちゃんの様子聞いちゃいなよ。そしたら安心出来るんじゃない?」

「……それも良いかもな」

 

 スマホを取り出して、巴に連絡を入れる。

 けれど、中々経っても巴は出ない。

 

「…………出ない」

「どうしたんだろ。ドラム叩くのに夢中になってるのかな?」

「それだと良いんだが……」

 

 何だか、モカとデートした後の帰り際に状況が似ている。夕飯の連絡を入れようとして、それであこが出なくて、帰ったら──

 

 

「まさか……」

 

 

 

 その時、羽沢珈琲店の入口が勢いよく開いた。

 

 

 

「つぐ、あこ来てないか!?」

「と、巴ちゃん?」

 

 

 最悪だ。嫌な予感が的中してしまった。

 

 

「巴!どうしたの?」

「ひまり、竜介、ごめん……!アタシのせいであこが……」

「何があった?」

 

 雨でびしょびしょになって、息切れを起こしている巴。どうやらここに来るまでにかなり走って来たようだ。おそらくあこを探していたのだろう。

 つまり、そこに至るまでに何かがあった。

 

「アタシがあこの気持ちを考えないで物言っちまって……それで、あこが飛び出しちまった……ごめん……!」

「事情は分かった。何処を探した?」

「商店街は、全部回った……」

「了解だ、後は俺が引き受ける。ひまりは巴を落ち着かせたら家に送ってくれ。傘は俺のを置いてくから」

「わ、分かった!」

 

 ひまりにこれからを指示した後、俺は店を飛び出す──前に、一度巴の方に振り返った。

 

「巴、俺は巴とあこ……どっちに非があってこうなったのかを知らない。だから聞きたい──あこを許せるか?それか、自分の非を認められるか?」

「悪いのは、全部アタシだ……!」

「分かった。それが聞けて良かったよ」

 

 巴の答えを聞いた後、俺は今度こそ店を飛び出した。

 本当は明日あこに会いに来たかったが、どうやら神様はせっかちらしい。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 雨と言うのは、神様の涙らしい。

 

 なら、あこが流してる涙は、一体何になるのだろうか。

 

『あこ、久しぶりにさ、一緒に演奏しないか?』

 

 姉が自分を気遣ってか、一緒にドラムの練習を申し出た。

 しかし、自分自身を許せないあこは、大好きなドラムを叩く事を禁じていた。だから断った。

 

『ごめんねお姉ちゃん。あこは、ドラムを叩く資格がないの……。だから、ごめんなさい』

『そ、そうか。へ、変な事言って悪かったな。あははは……』

 

 本当は、これも逃げだと言うことを知っていた。

 でも、あこは逃げてもいいことを知っていた。

 

 

 たくさん戦って、だから逃げる事にしたのだ。

 

 

『卑怯だよねこんなの……。でもねお姉ちゃん、ずっと戦ってたらさ……疲れちゃうんだよ……。だから、逃げるの……』

 

 

 リサが言っていた。ずっと戦っていたら疲れてしまうと。だから、逃げる強さも必要だと。

 

 

『そうか……。あ、あのさ、あこ──』

 

 

 戦い疲れていたはずのあこに向かって、姉は言った。

 

 

『上手く戦えたか?竜介や皆が納得出来る戦いは出来たか?』

 

 

 

 

 ドクンと、心臓が跳ねた。

 

 

 

 

 戦ったと答えようとした。でも、出来なかった。

 

 

 だって──

 

 

『ああ……そっか』

『あ、あこ?』

 

 

 あこは、戦った事なんて一度もないんだから。

 

 

 ずっとずっと、逃げる事しかしてなかった。

 

 

 いつ自分が戦った?何時どこで、自分が疲弊する戦いをした?誰もが納得する戦いなんてしていないではないか。

 

 

 あこは忘れていた。自分が逃げる事しかしてこなかった事を。

 

 あこは忘れていた。自分がどうしようもない程の卑怯者で、臆病者だったという事を。

 

 

 あこは、また間違えた。

 

 

『お姉ちゃん、ありがとう。それと、ごめんなさい。あこ、やっぱりここにいない方が良いみたい』

『へ……?何言って──』

 

 

 あこは、また逃げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 姉を家に置いていき、商店街を抜けて、通学路を抜けて、あこはある場所にやって来た。

 

 大切な人との、大切な場所。あこに残った、最後の“大切”。

 

 そこであこは、一人蹲って震えていた。

 

 

「ごめんね……りゅう兄……」

 

 

 ──あこは、逃げる事しか出来ないみたい。

 

 




次回、解決。

魔王様は逃走の達人。別に逃げるだけでもええんやで。

異性の友達とカップル割を使う時は気をつけよう。店によっては詐欺だと訴えてくるぞ!(経験だn──嘘ですごめんなさい)
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