【完結】いちばん小さな大魔王!   作:コントラポストは全てを解決する

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第6奏 リサが隣に居たかった人、居て欲しい人

 時刻は朝九時。

 少し遅いが休日なので堪忍してもらいたい。

 寝室を出て一階に下り、リビングへの入口に近づいて行くと、ガスコンロの火が燃える音が聞こえてくる。

 昨日の夜消し忘れたのかと焦り、急いでドアを開けて台所に行くと…そこには、エプロン姿で料理を作る女の子がいた。

 

「お?おはよう竜介」

「…いや、何してんのリサ姉?」

「何って、朝ご飯作ってるんだよ?」

 

 朝ご飯を作っているのは見れば分かること。

 俺が聞きたいのは、何故俺の家で朝ご飯を作っているのか、と言うことだった。

 まず、どうやって家に…と、思った所でユキ姉の顔を思い出す。

 

「合鍵、使ったのか…」

「ふふーん、正解♪どう?美少女幼馴染が朝ご飯作りに来た感想は?」

「有咲だったら鼻血出して舞い上がってた」

「これはお姉さんのお仕置きが必要かな?」

 

 口調は軽快そうにしているが、逆手に持った包丁と一切笑ってない目が全てを物語っていた。

 

「冗談だ。リサ姉が来てくれて俺は嬉しいよ」

「うん、よろしい。乙女のハートはデリケートなんだから気を付けなきゃダメだぞ☆」

「へーい」

「返事はちゃんとする。あと、伸ばさない」

「はい…」

 

 俺がしっかり返事をすると、リサ姉は「よく出来ました♪」と俺の頭を撫でる。

 リサ姉に頭を撫でられると、何故かいつもむず痒くなってくるから不思議だ。

 

「さてと、じゃあ完成したから食べよっか。確か食器はここら辺に…」

「あれ、リサ姉も朝ご飯食べてないの?」

「竜介と一緒に食べたかったの。それくらい察せないんじゃ、あこと付き合うなんて夢のまた夢だよ?」

「心にダイレクトアタックするのやめて…」

 

 食器を探しながら言い放たれたリサ姉の一言によって、俺の心に軽くヒビが入る。

 さすが俺とユキ姉の纏め役をやっているだけある。

 

「てかリサ姉、そもそも何で急に家に来たんだ?」

「んー時間が出来たからって言うのが一番の理由だけど、竜介がちゃんとご飯を食べてるか心配になったのもあるかな。ほら、竜介一人の時はお菓子とかで食事済ますでしょ?」

「確かにそうだけど。それ以外はちゃんと食べてるから良くない?」

「ダメ。まったく、なんで自分に作る時だけ料理が出来なくなるのかな…」

 

 リサ姉の言う通り、俺は自分自身に向けて料理を作ると有り得ない程のゲテモノを作ってしまう。

 原因は分からないが、今まで人の役に立つ事ばかり考えて過ごしてきたので、自分自身のために行動しようとすると緊張して変に力が入ってしまう、と俺は予想している。

 なんて俺が考えていると、リサ姉は食器を見つけ朝食を盛り付けていた。

 

「竜介、運ぶの手伝って」

「はいよー」

 

 料理の乗った食器をテーブルの向かい合わせに並べる。

 椅子に座り、いざ食前の挨拶をしようとした所でリサ姉が食器を持って俺の隣に移動してきた。

 

「なんか今日のリサ姉積極的だな」

「久々に二人きりなんだから…ね?」

「まあ、そうだな。学校が変わってからリサ姉と直接は話せてなかったし」

「そういうこと♪じゃあほら、あーん…」

 

 リサ姉が焼き魚の身を一口分寄越してくる。

 何も言わず俺はそれを食べ、またリサ姉が食べさせてくる、というのを何回も繰り返していた。

 リサ姉は幸せそうで、けれど何処か辛そうな顔をしている。

 そんなリサ姉に、俺は思わず問いかけてしまう。

 

「リサ姉…幸せか?」

「……うん。少なくとも、今はこれで満足してる…」

「…そうか」

 

 先程までご機嫌だったリサ姉の表情が、途端に浮かないものになった。

 かく言う俺も、きっと良い表情はしていないだろう。

 地雷を踏む覚悟は出来ていたが、いざ踏んでみるとそのダメージはとても大きかった。

 

 

 

 朝食も取り終わり、二時間弱リサ姉とテレビを見ていると、お昼のバラエティー番組が始まりガールズバンド特集をやり始めた。

 司会はやはりというか何というかパスパレが担当しており、まりなさんや以前営業していたSPACEというライブハウスのオーナーさんがインタビューを受けている。

 

「そう言えば、最近Roseliaの練習見に行けてないけど、調子どう?」

「かなり上々だよ。やっぱり紗夜が日菜と寄りを戻したのが一番大きいかな。あれから凄い勢いで成長してる」

「へえー、あの二人喧嘩してたんだ」

「またまたー、一番関わってたくせにー♪」

「はて、何のことだか」

 

 目線をリサ姉からテレビに移し、俺はしらを切る。

 そんな俺の隣にリサ姉は座り、肩に寄りかかってきた。

 顔を覗くと、自虐をしている時の表情が伺える。

 相変わらずリサ姉は自己評価が低い。

 

「あこも燐子も、ずっと続けてきた事だから力があるし、友希那は元々。弱いアタシだけが何時までも皆の足を引っ張ってる」

「ていっ」

「あいたっ…」

 

 表情を沈ませまくるリサ姉に、迷わず全力のデコピンをお見舞いした。

 額を抑え、若干涙目になっているリサ姉。

 少し強すぎただろうか。

 

「つー…もう少し落ち込ませてよ…。アタシ、落ち込んで初めて前に進むタイプなのに」

「そういうのは家でやってくれ。俺はシリアスとかは苦手なんだ」

「とか言いながら、さっきはアタシに『幸せか』なんて真面目な顔で聞いてきたくせに」

「うっせ」

 

 そこはまだダメージが残っているので思い出させないで欲しかった。

 自分でやっといてこの様とは…中々に惨めである。

 

「というかさ、リサ姉」

「うん?」

「リサ姉は全然弱くなんかないと思うけど?」

「…そうかな?」

 

 自信が無さそうな表情で首を傾げながら、俺に聞き返してくるリサ姉。

 そもそもの話、楽器なんてリコーダーぐらいしか扱えない俺にとって、ベースが扱えるだけで賞賛モノなのだ。

 そんな俺に楽器の技量の話など、あてつけにも程がある。

 まあ、幼ない頃から歌うユキ姉とベースを弾くリサ姉を見ていただけなので、楽器が弾けないのは俺の自業自得ではあるが。

 

「確かにリサ姉は一度逃げたけど、また戦ってるじゃん。それに、ネイルとかも全部やめて真剣に取り組んでる。俺はリサ姉のそういうとこ、結構好きだよ?」

「……そうやって…すぐ好きとか言う…」

「…悪い」

「あーいいよいいよ、今のはアタシの失言だったから気にしないで」

 

 いつもの調子で笑いながら、リサ姉は言う。

 少し気まずい雰囲気が流れる中で、テレビに映るお昼のバラエティー番組では恋愛を題材にしたコーナーを放送していた。

 やれ好きな人と手を繋げだの、普段と違う髪型やファッションをしろだの、告白はこの時間帯がオススメだのと言った話が、悲恋を抱えるリサ姉を煽る。

 

「はあ…手を繋いだり、髪型と服装変えただけで相手を意識させるとか無理無理。ていうか、まず気づいて貰えない事だってあるんだし。ね?竜介」

「え、リサ姉もこういう事してたの?」

「はあぁ…」

「え?あ、ごめん?」

 

 今までに見た中で一二を争うほどの盛大を溜め息をつきながら、リサ姉は頭を抱えた。

 

「まったくもう…本当、竜介は…まったく…」

「あはは、ごめんって。嫌いになった?」

「……大好きに決まってんじゃん…ばーか…」

「お、おう…」

 

 リサ姉が耳を赤くし目を逸らしながら、俺の耳元で呟く。

 不意打ちのおかげで体が熱くなってきた。

 本当、急に告白してくるのやめて欲しい。

 

「竜介、ドキドキした?」

「うん、大分響いた」

「あこに勝てそう?」

「まだまだ全然」

「バッサリ切るねー…竜介は…。まあ、これぐらいじゃ効果ないのは知ってたけどさ」

 

 あはは…と乾いた笑みをリサ姉はしていた。

 生憎だが、俺はあこ一筋なのでそう簡単に靡くわけにはいかないのだ。

 そんな俺に納得がいかないのか、リサ姉は酷く不貞腐れた顔でこちらを見る。

 

「もう少しさ…悩んでくれても良いじゃん…。もう何回もしてるけど、結構勇気いるんだよ?これ」

「知ってる。でも、リサ姉にならどんな返事をしても大丈夫って思ってるよ」

「…何それ、アタシはどうでも良いってこと?」

「あー違う違う…俺はリサ姉を信頼してるから、付き合えても付き合えなくても、きっと今の関係は変わらないって思ってるってこと」

 

 出来るだけリサ姉に誤解をしないように説明する。

 リサ姉がどうでも良いなんて事は断じて思っていないので、どうかそこだけは伝わっていて欲しい。

 

「きっと、告白してきたのがリサ姉以外の知らない女の子だったら、気を使って付き合っちゃったかもしれない。それでいつか仲が拗れて、俺も相手も心に傷を負う事になったりして……あーなんて言えば良いのかな、取り敢えずリサ姉」

「?」

「俺を好きになってくれてありがとう」

「!」

 

 目を見開き、瞬きも忘れてしまっていそうな程の驚いた表情で、リサ姉は俺の顔を見ていた。

 そして、次第に瞳に涙が溜まっていき、ポロポロとこぼれ落ちる。

 そんなリサ姉の肩を抱き寄せ、そっと頭を撫でた。

 

「…もう、本当に竜介はずるいな〜……」

「ずるくて結構」

「それに、そんなカッコイイこと言われたら…竜介の事諦められきれないじゃん…。まあ、諦めきれてないのは事実だけどさ…」

「女の子はいつでもシンデレラだって、はぐみママが言ってたぞ?」

「そっか…」

 

 何処か安心仕切った笑みで、リサ姉は俺の顔を見ていた。

 俺を見つめるリサ姉の顔は普段と何ら変わりは無いが、何故かやつれているように見える。

 リサ姉の頭を撫で続ける俺に対し、リサ姉は俺の頬を優しく撫で「酷い顔してる」と一言言って来た。

 どうやら、やつれているのはお互い様のようだ。

 フラれたリサ姉とフッた俺による、傷の舐め合い。

 傍から見れば、少し嫌なことがあったカップルが慰め合ってるだけに見えるだろう。

 だが、俺達がやっているのは悲恋イチャラブ。

 そこら辺のバカップルとは訳が違うのだ。

 

「うん、もう大丈夫そう。泣いたら元気出た。竜介、もう離していいよ」

「そうか、良かった」

 

 リサ姉の頭から手を離すと、それに合わせてリサ姉も俺から離れる。

 取り敢えず一安心…といきたい所だったが、何故かリサ姉が俺の手を握ってきた。

 不思議に思い見てみると、視線を顔ごと逸らした顔の赤いリサ姉がいた。

 

「竜介」

「おう、なんだ?」

「アタシ、やっぱ諦ようとするのやめる。諦めきれないから」

「……そうか」

 

 自分の胸に手を当て、落ち着いた様子で言うリサ姉。

 その目には何かが吹っ切れたような活力と、決心をした熱が宿っていた。

 

「だから…今からアタシの全てを掛けて、竜介を落とすよ」

「え、今から?」

「うん。タイムリミットはあこと竜介が付き合うまで。時間が無いから今日から全力でいくね」

「やべえ…リサ姉が本気になった…」

 

 気が狂ったわけでも、やけくそになったわけでも無く、本気でゼロからアプローチを掛け直すつもりらしい。

 

「竜介、覚悟するんだぞ☆」

「…はい」

 

 どうやら俺は、リサ姉の攻略対象になってしまったようだ。

 

 

 

 

 




悲恋イチャラブとか言うパワーワード。
もっと流行れ。そして誰か書いて?(熱い眼差し)
それと、今回はほのぼの日常回を目指して書いたので、誰がなんと言おうとこれはほのぼの日常回です。異論は認めません(固い意思)
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