【完結】いちばん小さな大魔王! 作:コントラポストは全てを解決する
完全無欠の天才美少女。またの名を氷川日菜。
学事においては文武両道を極め、プライベートではアイドルバンドでギターを務める完璧振り。
姉である氷川紗夜が嫉妬から姉妹仲を拗らせる程の才能。一度見たものを完璧にコピーするポテンシャル。その二枚刃で万象に対抗し、そして打ち破る。
そんな天才美少女だ。
いやあこだって負けてはいない。料理はもう極めつつあるし、他の家事だって大分こなせるようになってきた。得意のドラムは音楽にうるさいユキ姉を認めさせる程だし、俺はあこが世界で一番のドラマーだと思っている。
NFOだって最近燐子と一緒にプレイヤーランキングTOP50にランクインしたと言っていた。トマトジュースの入ったワイングラス片手に、声高らかと笑っていた姿は記憶に新しい。可愛いかった。
何より、俺を惚れさせると言う誰にも出来なかった快挙を成し遂げているのだ。これだけで十分明日香とかに自慢出来る。きっとそのツケは俺に回ってくるだろう。
完全無欠のジーニアス。銀河無敵の才能少女。
そんな弱点など何処にもないように見える日菜先輩だが、十月終わりの某日。不肖ワタクシ神楽竜介が、日菜先輩の弱点をババンと暴いてやりました。
氷川日菜。果たしてその弱点とは──
「あ〜ダメですよ氷川さん。そんな力入れちゃ〜」
「むー……なんで苗字呼びなの」
「ちょっとやっとかなきゃいけなかったんで」
氷川日菜、豆腐掴めないってよ。
もう、ぐちゃぐちゃの絹ごし豆腐がボールの中に溢れかえっているのだよ。ぐちゃぐちゃのびちゃびちゃ、歪な形をした豆腐達が山を作っていくんだよ。
正直に言って驚いた。まさか日菜先輩が豆腐掴みを苦手にしていたとは。真っ先に紗夜先輩に教えてあげようと思ったけど、紗夜先輩も豆腐が掴めない可能性を考えて言わないでおく事にした。
「日菜先輩にも出来ない事ってあるんですね」
「あたしだって完璧じゃないしね!」
「開き直ってますねー。どれ、ちょっと」
日菜先輩の隣で自分の分の豆腐を持ってみせる。珍しく日菜先輩が悔しそうな顔をしていた。ちょっとだけ優越感。
「むー!別に豆腐なんて掴めなくても生きていけるもん!それに木綿豆腐なら掴めるし〜」
「そうですね。でも、紗夜先輩に麻婆豆腐作ってあげるんですよね?」
「うっ……」
そもそもの話、何故日菜先輩が我が家にいるのか。それは、日菜先輩が姉である紗夜先輩に何か料理を作ってあげたいと思った所から始まる。日菜先輩がふとそう思い至り、俺が夕食に麻婆豆腐を作っていた所にやって来たのだ。
日菜先輩は無事何を作るのかを決め、俺に教えを乞うた。
「紗夜先輩のために、頑張りましょ?」
「は〜い……」
日菜先輩は項垂れながら豆腐に再チャレンジ。けれど失敗。これを何度も繰り返す。
俺はその様を横で微笑ましく眺めていた。健気な日菜先輩がちょー可愛い。さすがの俺も日菜ちゃん派に乗り換えそうになってしまう。
「
が、俺はこの世で一番の魔王好きなので心変わりをする事はない。我が魔王は最強なのだ。断じてカウンタ越しにいるあこの視線に恐怖して心変わり出来ないとかではない。断じてない。
りぴーとあふたーみー。魔王いず最強。
「やっぱ麻婆は絹ごしですよ、絹ごし。さあさあチャレンジチャレンジ」
「なんか竜君、面白がってない?」
「がってないです」
正解は嘘。何かに苦戦している日菜先輩を見て面白がってます。仕方ないじゃないか。こんな日菜先輩見れる機会なんてもう来ないかもしれないんだから。
「まあ、豆腐は手で崩した方が美味しいって言いますけどね」
某仮面ライダーの何話だか忘れたが、矢車さん辺りがそんな事を言っていた気がする。包丁だと豆腐の味を落としてしまうとかなんちゃら。今度日菜先輩と料理対決がしたい。
「じゃあ、あたしの努力意味ないじゃん」
「包丁で切った方が見栄えが良いので、これからも頑張ってください」
「やっぱり竜君楽しんでるでしょ?」
「とうぜn──いえ全く」
危うく口を滑らせ掛けた。日菜先輩の視線が痛い。ついでにあこの視線も痛い。……あこはさっきから何を思って俺に視線を向けているのか。カウンタ越しから俺をジーっと眺めている。やっぱり怖い。
「む〜……どうやったら上手く掴めるのかな。…………そうだ!」
「おっと嫌な予感」
顎に指を当て悩んでいた日菜先輩の目が、キュピんと光った。
俺が背筋に氷をはったのもつかの間、日菜先輩が俺の後ろに回り込んで、そこから両手を握って来たのだ。ラブコメ漫画でよく見る、主人公がヒロインの後ろに抱きついて料理を教えてあげるシチュエーション。それが今俺の身に起こっている。男女が逆だが。
「よーし竜君、そのまま豆腐を掴んで……」
「はあ……」
こんなラブコメ展開、あことは一度も起こった事ないのに。あこ、不甲斐ない俺を許してくれ。
「ふむふむ……なるほど……」
日菜先輩が俺の手を握り、豆腐を掴む力量を測っていた。何だか手つきがいやらしい。舐め回すように撫でられている。
「竜君の手、すべすべだー」
「やめてください。セクハラで訴えますよ」
「そんな釣れない事言わずにさー♪ほれ〜スリスリ〜」
相変わらず日菜先輩の手つきはいやらしい。これは対氷川日菜用最終兵器──妖怪フライドポテトの出番だろうか。
「日菜先輩」
「むー……つまんないな〜。そんなんじゃ女の子にモテないよ?」
「モテなくても良いです」
俺はあこ一筋九年でやって来たのだ。今更有象無象の女の子に言い寄られたと言って、何かあるという訳でもない。拗らせ片思い患者をなめるな。
「まあ竜君にはあたしがいるから良いよねー?」
「俺は日菜先輩の物じゃありません」
「えーいいじゃーん。どうせ竜君告白しないんだからさー」
「いつまでも俺をヘタレキャラだと思ってると後悔しますよ」
「へー。言うじゃん」
登山遠足が終わった一週間後ぐらいには、日菜先輩の元にあこを恋人として連れていってやりたい。俺の決意は固いのだ。
見てろ日菜先輩。そのニヤつき顔をびっくり顔に変えてやるからな。
「ま、あたしとイチャイチャしてあこちゃんの機嫌損ねてるようじゃ、好きな子と付き合うなんて夢のまた夢だよ」
「あこはそんな事じゃ怒りませんー」
「じゃあ聞いてみなよ」
日菜先輩は余裕の笑みで言った。なるほど、そっちがその気なら俺もやってやる。
どれどれ、日菜先輩にあこのぐう聖さを教えてあげようではないか。
「あこ──」
「りゅう兄のばか」
「いや、ちょっと話を──」
「りゅう兄のあほ」
なんか凄く怒ってらっしゃる。ほっぺた膨らまして怒ってらっしゃる。可愛iゲフンゲフン大変だ、今すぐ機嫌を治さないと。
「あこ、どうした?俺が何かしちゃったか?」
「別に。あこりんりんとゲームして来る!」
「あっ、ちょ──」
行ってしまった。
一体何がどうしてこうなってしまったのか。俺が悪いのだろうか。それとも、まさか日菜先輩が何かしたのだろうか。俺には分からなかった。
「ね?あたしの言った通りでしょ?」
「俺が何したって言うんだ……」
「あたしといたからじゃない?」
「じゃあ俺はぼっちになれば良いんですか?」
あこが望んでるのは俺の孤立なのだろうか。何だろう、俺すごいあこに嫌われてる気がする。それともあれか、あこは自分の家に客が来るのが嫌なタイプの人間だったのだろうか。
「ま、あたしは何でも良いけどねー。さてと、コツも掴んだことだし、ちゃっちゃと麻婆豆腐作っちゃおー。竜君、作り方教えてー」
「俺は……どうするれば……」
「竜くーん?」
この後めちゃくちゃ麻婆豆腐作った。
___
「竜君、今日はありがとねー」
「いえいえ。これくらい何て事ないですよ」
俺は日菜先輩と一緒に麻婆豆腐を作り終えた。結構上手に出来たと思う。
「じゃあ、竜君にお礼!目つぶって」
「はあ、なるほど」
日菜先輩に言われ、俺は目をつぶった。
お礼とはなんだろうか。日菜先輩は手ぶらでやって来たし、見た感じ小銭すら持ち合わせていない様子だった。それとも、外に何かおいてあるのだろうか。日菜先輩の事だから、UFOの模型とか持ってきそう──
「──ちゅっ♪」
何か柔らかい物が頬に──いや、俺はこの感触を知っている。人生で二回経験済みだ。
「……日菜先輩」
「ふっふーん♪どう?どう?」
「懐かしい日々を思い出してました」
「あっはは!何それ♪」
日菜先輩……キス……うっ、頭が……。
「それじゃ、バイバイ!」
「はい。また今度」
玄関の扉を開け、日菜先輩が帰っていった。きっと紗夜先輩に美味しい麻婆豆腐を作ってあげる事だろう。写真でも送って貰おうかな。まあ、日菜先輩の事だから失敗はないだろう。
さてと、俺もこれから頑張ってあこの機嫌を──
「りゅう兄」
これは家族会議かなぁ……(しみじみ)
ただ最初のやり取りがしたかっただけよね。
本家でこの設定出てきたら、もう東映とブシモ提携確定よ。
努力してる日菜ちゃんが見たくて書いた。
あこちゃんって厨二病設定あるのにワイングラスにトマトジュースの演出やってないよね。何でだろ。