【完結】いちばん小さな大魔王!   作:コントラポストは全てを解決する

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第68奏 ファミリー

 羽丘登山遠足三日前水曜日。場所は宇田川家玄関呼び鈴手前。手に持つは羽丘学園産登山遠足相部屋承諾書。漢字の波が押し寄せる。

 手に汗握り、俺は呼び鈴に手を伸ばした。

 俺は今日、あこの家族に登山遠足であこと相部屋になる事を告げる。正直怖い。主に巴が。殴られるのは確実として、あとは何を要求されるだろうか。お金かあこを返せと言われるかもしれない。そう言えば、あこと巴が仲直りした後、普通に俺の家であこが寝泊まりしていたが、なぜ巴は何も言って来なかったのだろう。あこが説得してくれたのだろうか。

 

 まあ、今は置いておこう。それより、早く用事を済ませないと日が暮れてしまう。

 俺は意を決してインターホンを押した。『ピンポーン』と言ういつもの音がなる。

 

「はいはーい……あら〜!竜介ちゃんじゃない!」

「こんばんは。すみませんこんな時間に」

「良いのよ〜。さ、あがってあがって」

 

 出迎えてくれたのはあこのお母さんだった。

 あこのお母さんは、一言で言えば関東版大阪のおばちゃんみたいな人だ。元気が良くて、声もよく通る。巴の母と言われれば妙にしっくりくるそんな人だ。昔から付き合いが良くて、俺が家で一人の時はよくおやつを買って遊びに来てくれた。俺にとってもお母さんの様な存在の人だ。

 

「ささ、食べて食べて」

「あ、い、いえ……今日はそこまで長居する訳じゃなくて……」

「そんな固いこと言わずに。遠慮しなくて良いのよ。竜介ちゃんはもう、うちの子何だから」

 

 お母さんは俺を家へと招き入れた後、台所で夕飯のカレーをよそっていた。断り切れそうにないので、あこに夕飯はいらない旨のメールを送っておく事にする。

 

「おや、竜介君じゃないか。久しぶり」

「ご無沙汰しております。お父さん」

「巴ー!ご飯よー!」

 

 ダイニングテーブルではお父さんが新聞を読んでおり、テレビには夜の特番が流れていた。

 お母さんが巴を呼ぶと、そのすぐあとに巴が下りて来る。目が合うと、不思議そうに首を捻っていた。

 

 それから皆で一緒にテレビを見ながら夕飯を取り、久しぶりに賑やかな食卓を囲んだ。三人以上で夕飯を食べたのは久しぶりだ。いつもはあこと二人だし、その前は一人、さらにその前はじいちゃんとまた二人。

 温かい食卓と言うのは、きっとこう言う事を言うのだろう。普通にお母さんとお父さんがいて、学校であった事や、最近流行りの物などで話を広げる。俺には出来ない芸当だ。

 

「竜介ちゃんは最近どう?うちの子が迷惑かけてないと良いんだけど……」

「迷惑だなんて。あこは良くやってくれてますよ。ご飯も作ってくれますし」

「おや?あこは料理が出来るようになったのかい?」

「そうなのよ。あの子ったら、竜介ちゃんに教わったみたいでね」

 

 あこがこの場にいたら、どんな反応を返すだろうか。きっと耳を赤くして照れるだろう。愛おしい。

 

「竜介ちゃんも大変でしょ?あの子楽器とゲームにしか興味持たないから……。竜介ちゃんの気持ちを教えられたら良いんだけどねー」

「いえ、こればっかりは俺の問題なので。ゆっくり時間を掛けさせていただきます」

 

 あこの両親は俺の事を応援してくれている。昔からずっと、俺とあこが二人きりになったり、気持ちを伝えられる状況を作ったりしてくれていた。まあ、巴が全部ぶち壊していたが。

 

「あこの事よろしくね。あの子、昔っから変な言葉使いが好きで……男のおの字もなかったから……」

「あ、あはは……」

 

 あこの厨二病も、小学校低学年からしたら意味不の極み。あこも変な奴だとからかわれた事があると言っていた。そこが可愛いんだろボケぃ。

 ほんと、若い衆は国語に弱いから困る。まあ、そのおかげで皆あこの魅力に気づかず、俺の独占状態になっているのだが。

 

「巴も早く良い人見つけなさいよー。最近は草食系男子とか言うのが増えて、美人の人でも独り身なんて事があるらしいんだから」

「分かってるよ。アタシもその内見つけるって」

「気をつけなさいよ。貴方、あこより男っぽいんだからね」

 

 ソイヤ姉さん、母に御相手を求められる。どうやら巴も家では肩身が狭いらしい。これはドラムに逃げたくなる案件だ。

 巴は家族からの視線に耐えかねて、俺へと話題を振った。

 

「そう言えば、なんで竜介はいるんだよ。遊びに来たってわけじゃないだろ?」

「ああ、それはな」

 

 俺は巴に言ったあと、ポケットにしまっておいた承諾書を取り出す。

 

「今週の土曜日から登山遠足あるだろ?あれであこと同じ部屋になったから、お母さんに相部屋許可貰おうと思って」

「はあ?」

 

 巴の反応はよろしくない。

 

「あら〜新婚旅行みたいで良いじゃない!お父さん、サインしちゃいましょうよ」

「そうだな。まあ、竜介君だし」

「ちょ、ちょっと待てよ!アタシは反対だ!危険過ぎる!」

 

 両親の反応は良い物だったが、巴はやはり反対らしい。まあ、そりゃそうだよな。大切な妹が、どこの馬の骨かもしらない男と相部屋になるんだから。巴の気持ちも大いに分かる。まあ、俺の場合どこの馬の骨かは分かるが。

 

「竜介は男なんだぞ!?さすがに同じ部屋は……」

「ええー?でも、竜介ちゃんだし」

「竜介だからとかじゃなくて!何かあったらどうすんだ!」

「俺は何もしないぞ?ただあこと一緒にいられればそれで良いからな」

 

 あこが何かして来るなら期待に答えてあげない事もないが、果たして俺にその度胸があるかどうか……。自分で言ってて悲しくなった。取り敢えず、俺があこを襲う事はない。

 

「ほら、竜介ちゃんもこう言ってるし」

「もう少し疑えよ!?」

「でも、竜介ちゃんが私達に嘘ついた事、今まであった?」

「うっ……それは……」

 

 いや、俺だって皆に嘘ついた事くらいはある。お腹空いてる時に空いてないって嘘ついたし、お母さんが俺の家に通い始めた頃お母さんが怖くて、渡して来たお菓子の誘惑に負けそうになったから、お菓子は嫌いって嘘ついた。俺そこまでいい子じゃない。

 まあ、お母さんにはこの嘘全部バレてるけど。

 

「じゃ、書類にサインしちゃいましょ。お父さん、ペン取って」

「はいはい」

 

 お父さんから受け取ったペンで、お母さんが承諾書にサインと印鑑を押す。これで俺のミッションは完了だ。あこは喜んでくれるだろうか。

 

「アタシはどうなっても知らないからな……」

「俺ってそんな信用ない?」

「そうじゃないけど……竜介だって男だし……」

 

 男は理性のたかが外れやすいと言うが、俺はどうなのだろうか。乙女思考だとはよく言われる。普通の男はバレンタインにチョコ作って来たりしないし、生理の気づかいをしないらしい。それと、普通の男はもっと顔が男らしいという。うるさいな、それは俺も分かってるんだよ。仕方ないだろ、親から貰った大事な顔なんだから。それともあれか、アンパンマンみたいに顔変えろってか。うっせーお前は寝てろ。今は巴の説得に忙しんだ。

 

「じゃあ……そうだな、俺があこに何かしたら、俺はもう二度とあこに近づかない。そんで巴の舎弟になる。これでどうだ?」

「いや、舎弟って言われても……」

 

 舎弟。嫌だっただろうか。購買や自販機に行かなくて済む画期的案だと思ったのだが。……画期的過ぎないだろうか。ルンバより優秀。

 

「えー、じゃあどうすれば良い?ぶっちゃけあこと一緒になれないんだったら、俺登山遠足休む気でいるんだけど」

「そこまでしてあこと一緒になりたいのか……」

「だってあこ以外の女の子怖いんだもん」

 

 こないだなんて下駄箱に妊娠検査薬入ってたからな。怖すぎんだよ最近のJK。

 

「怖いってお前なー。そんな弱々しい奴にあこは任せられん」

「気持ちは分かるけど、俺にどうしろっちゅうねん。あこをこっちに帰るよう説得するか?多分俺には出来ないぞ?」

「いや、そうじゃなくて…………あーもー、分かった。良いよ、あこと一緒に行ってこい」

 

 やった。お姉様から許可が下りた。

 

「ありがとう。お義姉ちゃん」

「それはまだ早い」

「ふふっ。何だか竜介ちゃんと巴、本当の姉弟みたいね」

「だな」

「父ちゃんも母ちゃんも何言ってんだよ……」

 

 一家団欒で盛大に笑った。本当に、ここの家族は賑やかで楽しい。俺もこんな家族を持ってみたかったなって思った。あこも前は毎日この家族と一緒にいられたのかと思うと、ちょっとだけ嫉妬してしまう。まあ、他所は他所、うちはうちだが。

 

 

 

 ___

 

 

 

 

「ただいまー」

「おかえりりゅう兄。どこ行ってたの?」

「あこの家。遠足の相部屋許可取りに行ってた」

 

 家に帰ったら、あこがパジャマ姿で出迎えてくれた。

 

「どうだった?」

「何とか許可取れたぞ。巴説得するのが大変だった」

「お疲れ様。りゅう兄、ありがとね」

「気にすんな。あこの為だし」

 

 脱いだブレザーをあこに預け、俺はリビングに入る。ワイシャツのボタンをぱちぱちと外しながら、俺はテレビで今週の土曜日の天気を見る。ニュースキャスターが二人で天気予報を報道していた。

 

「今週の土曜は……晴れだな。普通に行けそうだ。あこ、土曜日の弁当何食べたい?」

「それなんだけどねりゅう兄、あこサンドイッチ作って行って皆で食べたい。ダメかな?」

「お、良いなそれ。じゃあパン焼いとく」

「うん!」

 

 今日の夜に早速パン生地を仕込んでおかなければ。全てはあこの笑顔のため。いや、皆の笑顔のために。モカが荒れそうだ。

 俺は土曜日に訪れる暴食の女神の事を思い浮かべながら、くすりと笑った。皆喜んでくれるだろうか。

 

「りゅう兄、お風呂湧いてるよ」

「分かった。すぐ入る」

 

 俺はあこに返事をした後、お風呂場に向かう。

 何となく、今のやり取りに家族らしさを感じた。

 

 




竜介を温かい食卓にぶっこみたかっただけの話。早く父親返ってこいや。
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