【完結】いちばん小さな大魔王! 作:コントラポストは全てを解決する
「ふえぇ……ここどこぉ……」
登山遠足前日。少し離れのスーパで買い物していた帰り、花音先輩に遭遇した。
知らない喫茶店でも行って来たのか、手には荷物らしい物はない。
「花音先輩、迷子ですか?」
「あ、竜介君!」
指輪の魔法は最後の希望。
俺を見つけた花音先輩は、瞬く間に顔を希望色に変え、俺の元まで駆け寄って来た。
「ふえぇ……良かったよ〜……」
「ここからすぐ俺ん家なんで、夕飯食べてってください。時間も時間ですし」
「あ、ありがとね」
「いえいえ」
むしろ、花音先輩にはもっと竜宮城の様な持て成しをしたいと思っている。
花音先輩は俺のじいちゃんが死んだ時に、いつも傍にいて支えてくれていた。俺が強がって幼馴染達に接していた頃、俺の異変に気づいて毎日隣にいてくれたのだ。花音先輩がいなかったら、きっと今の俺はいなかかったものだと思っている。人間版ニャン吉と言えば伝わりやすいだろうか。
「花音先輩、今日はどちらへ?」
「え、えっとね。近くに新しいカフェが出来たから行ってみたんだけど、その店、日が暮れると道が暗くて……それで迷っちゃったんだ」
「なるほど、災難でしたね」
花音先輩を迷わせるなんて、随分身分の高いお店だ事。街灯もつけないなんて何してるんだろうか。
「竜介君は最近どう?そう言えば、羽丘学園に移ってからは会うの初めてだね」
「そう言えばそうですね。俺はすごいですよー。最近あこと喧嘩しました」
「え、そうなの!?」
驚愕の表情。しかし、それも当然だろう。俺とあこが喧嘩する事なんて早々ないんだから。それこそ、空から槍が降ってくるくらい珍しい。
「大丈夫だったの?」
「何とか。今は無事仲直りしてます」
「良かった〜。竜介君からまた笑顔が消えちゃうのかと思ったよ〜……」
「あはは……。あの時はご心配お掛けしました」
じいちゃんが死んだ時同様、また俺の笑顔が消えてしまう。そしたら今度も、花音先輩は俺の傍にいてくれるのだろう。
俺の笑顔のヒーローは花音先輩だ。いや、ヒーローというより──
「花音先輩って、なんだかお姉ちゃんみたいですよね」
「……そ、そうかな?」
俺が元気がない時は傍に寄り添ってくれて、俺が笑顔になった時は遠くで見守ってくれている。正しく、温く優しさに包まれたお姉ちゃん。きっと理想のお姉ちゃんだろう。
「私、竜介君のお姉ちゃんになれたんだ。えへへ……良かった〜。私ね、ずっと竜介君のお姉ちゃんになれたら良いなって思ってたんだ〜」
「そうなんですか?」
「うん。竜介君を守りたくて」
花音先輩はいつでも俺の事を見守っていてくれる。心の優しいお姉ちゃん。そして、俺のヒーロー。
「俺、そんな花音先輩が大好きです」
「うん。私も竜介君の事、大好きだよ」
花音先輩と夕日を見ながら笑いあった。
花音先輩が本当のお姉ちゃんだったら、どれほど良かったか。
◇
家に紗夜さんが来た。オシャレなバッグの中に冷凍ポテトを忍ばせて、紗夜さんがうちにやって来た。なんでバッグの中に冷凍ポテトが?何に使うんだろ。
あこは紗夜さんをうちに通したあと、麦茶と冷凍庫に眠ってたポテトを出して、さっき帰って来たりゅう兄と一緒に向かい合わせた。りゅう兄の隣には花音がいる。
「今日は神楽君にご相談があります」
「はあ」
「神楽君もご存知の通り、私は姉です。氷川日菜という妹の姉です」
「今更ですね」
どうやら真剣な相談事らしい。
あこは台所の隅で様子を伺う。きっとこれは邪魔しちゃいけない話だ。
「私は、しっかり日菜の姉をやれているのでしょうか」
「は、はぁ……と言うと?」
「日菜と向き合うと決めてから、私は出来る限りの事をして来たつもりです。ですが、いつもあと一歩という所で自制してしうんです。きっと、あの子も撫でて貰ったり、膝枕などで甘えたいと思ってるはず」
お姉ちゃんらしく……紗夜さん、そんな事考えてたんだ……。
あこはお姉ちゃんにちゃんと甘えられえたかな。甘えるって、相手を頼る事でもあるから大事な事なんだよ。
紗夜さんは、それを受け入れる側として考えてる。
「なるほど、だいたい分かりました。けど、それで俺に何をしろと?」
「神楽君、私を姉と思って、甘えてみてはくれませんか?」
…………ん?
「紗夜先輩に、甘える?」
「はい。膝枕したり、頭を撫でたり。それで、相手が甘えて来る距離感というのを感じてみたいんです」
そう言う事らしい。
りゅう兄は悩ましいと言った様子で悩んでいた。そこに花音が横槍を入れる。
「あ、あのね、紗夜ちゃん」
「何でしょうか松原さん」
「竜介君を甘えさせるのは、やめて欲しいな……って」
「ど、どうしてでしょうか?」
何だか、花音が燃えていた。どうしたんだろう。
紗夜さんに意見する花音は、どこかりゅう兄の家族らしさが出ていた。あこもりゅう兄の家族を名乗るなら、これくらいの闇のオーラを纏えるようになった方が良いのかな。
「竜介君は、私の弟だよ……!」
「え?」
「そうだったんですか!?」
…………え?
「あ、えと……本当は違うんでだけど、竜介君とは少し特別な関係なんだ。だから、姉としては竜介君を渡せないないって言うか……ご、ごめんね?」
「花音先輩……」
「そういう事でしたか」
花音がりゅう兄の姉?りゅう兄の家族はあこだけじゃないんだ……。なんか、ちょっと残念だな。
特別な関係……羨ましい。あこもりゅう兄にそう言ってあげられる人になりたい。
「分かりました。私も勝手な事を言ってしまい申し訳ありませんでした」
「う、ううん。私の方こそごめんね。紗夜ちゃん頑張ろうとしてたのに、水をさしちゃって……」
「いえ……。でも、困りました……私はどうすれば」
計画が潰れて思い悩む紗夜さん。何だか、少し事を難しく考えて過ぎてるような気がする。時には勢いも必要だとあこは思うんだけど。
「ぶっつけ本番でやってみたらどうですか?」
「それが出来たら苦労しないのですが……」
「呼びましょうか?日菜先輩」
「い、いえ……それは……」
りゅう兄はスマホを取り出し、ひなちーに連絡しようとした。いつの間に連絡先交換したんだろう。
紗夜さんは、お姉ちゃんとしてりゅう兄に甘えて欲しい。けど、それは花音がいるからできない。……もしかして、あこの出番だったりするのかな?あこが紗夜さんに……うーんあまり上手く想像出来ない。
「まあでも、頭撫でるくらいは良いんじゃないですか?花音先輩」
「そうかな?」
「ですって。では紗夜先輩、どうぞ」
「で、では……失礼します」
りゅう兄の頭を紗夜さんは撫でる。りゅう兄はとても気持ち良さそうにしていた。昔からリサ姉とかお母さんが撫でていたからか、りゅう兄は満足行っている様子だ。
それにしても、本当に気持ちよさそうにしている。何だか嫉妬しちゃうな。あこももっと早くやってあげれば良かった。
「どうですか?」
「凄く、サラサラしてます。女の子みたいで……気持ちいいです」
「触った感想じゃなくて、撫でてみた感想を聞いてみまたんですが……」
「す、すみません!」
なんか、良い感じの雰囲気だ。花音もりゅう兄を取られて焦ってる。
「りゅ、竜介君……ッ!」
「……ああ、すいません。紗夜先輩の撫でが上手くてつい。紗夜先輩、これなら日菜先輩も喜びますよ」
「そ、それなら良いのですが……」
紗夜さんの撫では、りゅう兄のお墨付きらしい。……あこだって負けないもん。
「りゅ、竜介君!」
「何でしょうか」
紗夜さんに撫でられて満足しているりゅう兄の頭を、花音は撫でた。
「ど、どうかな?」
「はい、気持ち良いです」
……イチャイチャしちゃって。
___
紗夜さんと花音が帰った後、あこはりゅう兄とテレビを見ながらさっきの事を思い起こす。
さっきのりゅう兄、撫でられてとても気持ち良さそうにしていた。りゅう兄、小さい頃商店街の人達によく撫でられてたから、やっぱり撫でられるのが好きなんだ。
「りゅう兄、少し屈んで」
「ん、なんだ?ほれ」
「なでなで……」
あこは試しに、りゅう兄の頭を撫でてみた。サラサラしていて、撫で心地が良い。
撫でられたりゅう兄の耳は、ほんのり赤くなっている。気持ちいいのかな。
「どうしたんだ急に?」
「りゅう兄、紗夜さんと花音に撫でられて気持ちよさそうにしてたから。好きなのかなって」
「そう言えば、昔は好きだったな。撫でられるの」
やっぱり、りゅう兄は撫でられるのが好きらしい。
「じゃあ、明日から毎日あこがしてあげるね」
「いや、毎日は恥ずかしいかな……。あはは」
りゅう兄にも恥ずかしさとかあるんだ。初めて知った。
そう言えば明日で思い出したけど、明日登山遠足だ。準備しなきゃ。
後三話ぐらいかな遠足編。山登りってネタ無さすぎる。