【完結】いちばん小さな大魔王!   作:コントラポストは全てを解決する

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第70奏 姉たるもの

 

「ふえぇ……ここどこぉ……」

 

 登山遠足前日。少し離れのスーパで買い物していた帰り、花音先輩に遭遇した。

 知らない喫茶店でも行って来たのか、手には荷物らしい物はない。

 

「花音先輩、迷子ですか?」

「あ、竜介君!」

 

 指輪の魔法は最後の希望。

 俺を見つけた花音先輩は、瞬く間に顔を希望色に変え、俺の元まで駆け寄って来た。

 

「ふえぇ……良かったよ〜……」

「ここからすぐ俺ん家なんで、夕飯食べてってください。時間も時間ですし」

「あ、ありがとね」

「いえいえ」

 

 むしろ、花音先輩にはもっと竜宮城の様な持て成しをしたいと思っている。

 花音先輩は俺のじいちゃんが死んだ時に、いつも傍にいて支えてくれていた。俺が強がって幼馴染達に接していた頃、俺の異変に気づいて毎日隣にいてくれたのだ。花音先輩がいなかったら、きっと今の俺はいなかかったものだと思っている。人間版ニャン吉と言えば伝わりやすいだろうか。

 

「花音先輩、今日はどちらへ?」

「え、えっとね。近くに新しいカフェが出来たから行ってみたんだけど、その店、日が暮れると道が暗くて……それで迷っちゃったんだ」

「なるほど、災難でしたね」

 

 花音先輩を迷わせるなんて、随分身分の高いお店だ事。街灯もつけないなんて何してるんだろうか。

 

「竜介君は最近どう?そう言えば、羽丘学園に移ってからは会うの初めてだね」

「そう言えばそうですね。俺はすごいですよー。最近あこと喧嘩しました」

「え、そうなの!?」

 

 驚愕の表情。しかし、それも当然だろう。俺とあこが喧嘩する事なんて早々ないんだから。それこそ、空から槍が降ってくるくらい珍しい。

 

「大丈夫だったの?」

「何とか。今は無事仲直りしてます」

「良かった〜。竜介君からまた笑顔が消えちゃうのかと思ったよ〜……」

「あはは……。あの時はご心配お掛けしました」

 

 じいちゃんが死んだ時同様、また俺の笑顔が消えてしまう。そしたら今度も、花音先輩は俺の傍にいてくれるのだろう。

 俺の笑顔のヒーローは花音先輩だ。いや、ヒーローというより──

 

「花音先輩って、なんだかお姉ちゃんみたいですよね」

「……そ、そうかな?」

 

 俺が元気がない時は傍に寄り添ってくれて、俺が笑顔になった時は遠くで見守ってくれている。正しく、温く優しさに包まれたお姉ちゃん。きっと理想のお姉ちゃんだろう。

 

「私、竜介君のお姉ちゃんになれたんだ。えへへ……良かった〜。私ね、ずっと竜介君のお姉ちゃんになれたら良いなって思ってたんだ〜」

「そうなんですか?」

「うん。竜介君を守りたくて」

 

 花音先輩はいつでも俺の事を見守っていてくれる。心の優しいお姉ちゃん。そして、俺のヒーロー。

 

「俺、そんな花音先輩が大好きです」

「うん。私も竜介君の事、大好きだよ」

 

 花音先輩と夕日を見ながら笑いあった。

 花音先輩が本当のお姉ちゃんだったら、どれほど良かったか。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 家に紗夜さんが来た。オシャレなバッグの中に冷凍ポテトを忍ばせて、紗夜さんがうちにやって来た。なんでバッグの中に冷凍ポテトが?何に使うんだろ。

 あこは紗夜さんをうちに通したあと、麦茶と冷凍庫に眠ってたポテトを出して、さっき帰って来たりゅう兄と一緒に向かい合わせた。りゅう兄の隣には花音がいる。

 

「今日は神楽君にご相談があります」

「はあ」

「神楽君もご存知の通り、私は姉です。氷川日菜という妹の姉です」

「今更ですね」

 

 どうやら真剣な相談事らしい。

 あこは台所の隅で様子を伺う。きっとこれは邪魔しちゃいけない話だ。

 

「私は、しっかり日菜の姉をやれているのでしょうか」

「は、はぁ……と言うと?」

「日菜と向き合うと決めてから、私は出来る限りの事をして来たつもりです。ですが、いつもあと一歩という所で自制してしうんです。きっと、あの子も撫でて貰ったり、膝枕などで甘えたいと思ってるはず」

 

 お姉ちゃんらしく……紗夜さん、そんな事考えてたんだ……。

 あこはお姉ちゃんにちゃんと甘えられえたかな。甘えるって、相手を頼る事でもあるから大事な事なんだよ。

 紗夜さんは、それを受け入れる側として考えてる。

 

「なるほど、だいたい分かりました。けど、それで俺に何をしろと?」

「神楽君、私を姉と思って、甘えてみてはくれませんか?」

 

 …………ん?

 

「紗夜先輩に、甘える?」

「はい。膝枕したり、頭を撫でたり。それで、相手が甘えて来る距離感というのを感じてみたいんです」

 

 そう言う事らしい。

 りゅう兄は悩ましいと言った様子で悩んでいた。そこに花音が横槍を入れる。

 

「あ、あのね、紗夜ちゃん」

「何でしょうか松原さん」

「竜介君を甘えさせるのは、やめて欲しいな……って」

「ど、どうしてでしょうか?」

 

 何だか、花音が燃えていた。どうしたんだろう。

 紗夜さんに意見する花音は、どこかりゅう兄の家族らしさが出ていた。あこもりゅう兄の家族を名乗るなら、これくらいの闇のオーラを纏えるようになった方が良いのかな。

 

「竜介君は、私の弟だよ……!」

「え?」

「そうだったんですか!?」

 

 …………え?

 

「あ、えと……本当は違うんでだけど、竜介君とは少し特別な関係なんだ。だから、姉としては竜介君を渡せないないって言うか……ご、ごめんね?」

「花音先輩……」

「そういう事でしたか」

 

 花音がりゅう兄の姉?りゅう兄の家族はあこだけじゃないんだ……。なんか、ちょっと残念だな。

 特別な関係……羨ましい。あこもりゅう兄にそう言ってあげられる人になりたい。

 

「分かりました。私も勝手な事を言ってしまい申し訳ありませんでした」

「う、ううん。私の方こそごめんね。紗夜ちゃん頑張ろうとしてたのに、水をさしちゃって……」

「いえ……。でも、困りました……私はどうすれば」

 

 計画が潰れて思い悩む紗夜さん。何だか、少し事を難しく考えて過ぎてるような気がする。時には勢いも必要だとあこは思うんだけど。

 

「ぶっつけ本番でやってみたらどうですか?」

「それが出来たら苦労しないのですが……」

「呼びましょうか?日菜先輩」

「い、いえ……それは……」

 

 りゅう兄はスマホを取り出し、ひなちーに連絡しようとした。いつの間に連絡先交換したんだろう。

 紗夜さんは、お姉ちゃんとしてりゅう兄に甘えて欲しい。けど、それは花音がいるからできない。……もしかして、あこの出番だったりするのかな?あこが紗夜さんに……うーんあまり上手く想像出来ない。

 

「まあでも、頭撫でるくらいは良いんじゃないですか?花音先輩」

「そうかな?」

「ですって。では紗夜先輩、どうぞ」

「で、では……失礼します」

 

 りゅう兄の頭を紗夜さんは撫でる。りゅう兄はとても気持ち良さそうにしていた。昔からリサ姉とかお母さんが撫でていたからか、りゅう兄は満足行っている様子だ。

 それにしても、本当に気持ちよさそうにしている。何だか嫉妬しちゃうな。あこももっと早くやってあげれば良かった。

 

「どうですか?」

「凄く、サラサラしてます。女の子みたいで……気持ちいいです」

「触った感想じゃなくて、撫でてみた感想を聞いてみまたんですが……」

「す、すみません!」

 

 なんか、良い感じの雰囲気だ。花音もりゅう兄を取られて焦ってる。

 

「りゅ、竜介君……ッ!」

「……ああ、すいません。紗夜先輩の撫でが上手くてつい。紗夜先輩、これなら日菜先輩も喜びますよ」

「そ、それなら良いのですが……」

 

 紗夜さんの撫では、りゅう兄のお墨付きらしい。……あこだって負けないもん。

 

「りゅ、竜介君!」

「何でしょうか」

 

 紗夜さんに撫でられて満足しているりゅう兄の頭を、花音は撫でた。

 

「ど、どうかな?」

「はい、気持ち良いです」

 

 ……イチャイチャしちゃって。

 

 

 

 ___

 

 

 

 

 紗夜さんと花音が帰った後、あこはりゅう兄とテレビを見ながらさっきの事を思い起こす。

 さっきのりゅう兄、撫でられてとても気持ち良さそうにしていた。りゅう兄、小さい頃商店街の人達によく撫でられてたから、やっぱり撫でられるのが好きなんだ。

 

「りゅう兄、少し屈んで」

「ん、なんだ?ほれ」

「なでなで……」

 

 あこは試しに、りゅう兄の頭を撫でてみた。サラサラしていて、撫で心地が良い。

 撫でられたりゅう兄の耳は、ほんのり赤くなっている。気持ちいいのかな。

 

「どうしたんだ急に?」

「りゅう兄、紗夜さんと花音に撫でられて気持ちよさそうにしてたから。好きなのかなって」

「そう言えば、昔は好きだったな。撫でられるの」

 

 やっぱり、りゅう兄は撫でられるのが好きらしい。

 

「じゃあ、明日から毎日あこがしてあげるね」

「いや、毎日は恥ずかしいかな……。あはは」

 

 りゅう兄にも恥ずかしさとかあるんだ。初めて知った。

 そう言えば明日で思い出したけど、明日登山遠足だ。準備しなきゃ。




後三話ぐらいかな遠足編。山登りってネタ無さすぎる。
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