【完結】いちばん小さな大魔王!   作:コントラポストは全てを解決する

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竜介「王の凱旋である!祝え!全ガールズバンドを凌駕し、時空を越え過去と未来をしろしめす奏の王者━━その名も聖堕天使あこ姫!新たなる旋律を刻みし瞬間である!」

あこ「くっくっく、我光と闇の力を以てそなたを永遠の時の牢獄にいなざ…ん?いざなう?いなざう?…あれ?……バーンってしてくれよう!」

竜介(可愛い…)
あこ「りゅう兄!今のカッコよかったからもう一回やろ!」
竜介(かわいい…)



第7奏 突撃☆貴方の魔王様!

『ピンポーン、ピンポーン』と家のインターホンが何回か鳴る。

 今日は最高の日向ぼっこ日和で幸いにも何一つする事も無く、午後に入ってからニャン吉と一緒に窓際で惰眠を貪っていた。

 しかし、何処の誰かが来たせいでそれが邪魔されてしまったのだ。

 重たい瞼を何とか開け、不機嫌な雰囲気を漂わせまくり、玄関へと向かう。

 まったく、折角人が気持ちよく寝ていたのに…、と愚痴たらたらで俺は玄関のドアを開けた。

 

「やっほーりゅう兄!勉強教えて!」

「いらっしゃい、すぐお茶入れるから上がって待ってて」

 

 手の平返しなんて生ぬるい、光より速い態度の切り替えで俺はあこを家に上がらせる。

 それと、あこに視線が全て奪われていたため気づかなかったがもう一人来客がいた。

 薄ピンクの髪色にゆるふわなお下げをした、お胸の大きい女の子。

 

「ひまりちゃん参上!」

「お前は帰れ」

「酷い!?だが残念だったね、今日は巴に頼まれて二人の監視役に来たから帰る訳には行かないよ!あこちゃんと一緒に居たいなら早く私を招き入れるがいい!」

「なんだそう言うことか。早く入れ」

「なんて潔い!?」

 

 Afterglowベース兼リーダー担当の上原ひまり。今日も今日とて騒がしかった。

 ひまりを家に通し、その後二人分のお茶を入れてそれを持っていく。

 あこは既に勉強道具を出しており、やる気満々と言ったご様子。

 勉強嫌いのあこがこんなにやる気を出してるのも違和感だが、あこの護衛にひまりがいるのも不自然極まりない。

 あのシスコン豚骨ラーメン姉さんが、愛しの妹の護衛を自分で行わないなど一体何があったのか。

 まあ、今はそれよりあこの勉強を見てあげよう。

 

「動く点Pとか塵になって消えちゃえば良いのに…」

 

 あこの独り言の闇が深い。

 確かに点Pの問題は俺も嫌いだが、何も親を殺された様な表情までする必要は…。

 あこが動く点Pと戦っているのに対し、ひまりは一人黙々と菓子を食べ続けていた。

 

「うん、このお菓子美味しい」

「ひまり、この間太ったとか言ってたのに大丈夫なのか?」

「あっ…。さては竜介、私を太らす事が目的か!?」

「だから帰れって言ったんだよ。お前食いすぎるから」

「さっきのは優しさだった!?」

 

 相変わらず一挙一動が騒がしい奴だが、ひまりがいる時はこれぐらい騒がしくないと落ち着かないと思う俺も俺なのだろう。

 幸せそうなひまりと苦悩しているあこ、両者の間にある幸福度の差が酷いことになっているが、それは本人が望んだ事をした結果なので俺が口を挟む事はない。

 けれど、好きな子が隣にいると構いたくなってしまうものなので、ついあこに話し掛けてしまう。

 

「あこはなんで勉強なんだ?テストってもうちょっと先だよな?」

「うーん…たまにはこう言うのも良いかなーって。あ、りゅう兄ここ分かる?」

「どれどれ」

 

 あこが見せて来たのは数学ドリルの一番最初に乗っている基礎中の基礎の問題。

 さっきの点Pは何だったのか。

 それと、ひまりが問題を親の仇のような目で見ているが、まさかひまりも…。

 

「ここは単純に公式使えば解けるぞ?」

「え?あ、ほんとだ。ごめんねりゅう兄…」

「謝る必要はないよ。焦らずゆっくりやれば良いさ」

「うん!」

 

 頭を撫でて慰めると、あこはニパっとした明るい笑顔で返してくる。

 可愛い…ただただ可愛い…と俺は心の中に広がる満ちた気持ちを何度も噛み締めた。

 この幸せを思い返せば、またしばらく生きていける。

 何だか牛の反芻みたいで気持ち悪いかもしれないが、俺の心の生命線なので許して欲しい。

 

「りゅう兄りゅう兄!もっと撫でて!」

「ああ、いいよ」

 

 あこのキラキラした眼差し。

 撫でた時の嬉しそうな顔と、ハムスターのように縮こまる体。

「えへへ…♪」と控えめながらに上機嫌な口調。

 こんな天使三セットが見れるのに、「撫でて?」と頼まれ断るバカはいないだろう。

 勉強なんか知ったこっちゃねえ、と心の中で叫びながら俺はあこの頭を撫で続けた。

 

「あこは可愛いな…」

「りゅう兄はカッコイイよ!」

「はは、ありがとな。ほら、ぎゅう〜」

「ひゃ〜♪」

 

 ハグと撫でを一緒にすると、あこは嬉しそうに声を上げる。

 きっと、俺のハグを通報しないで嬉しそうに受け止めてくれる人なんてあこしか居ないだろう。

 早くあこと付き合いたい。そうすれば四六時中こう言う事を二人きりで出来るのに。

 なんて俺は思ってしまうが、中々俺のチキンハートは動いてくれない。臆病者の運命は辛いのだ。

 それと、ひまりが先程からブラックコーヒーをガブ飲みしているがどうしたのだろうか?

 

「ひまり、コーヒー飲みすぎると夜に眠れなくなるぞ?」

「少女漫画も要らないほどの甘シチュ、ご馳走様です」

「?…よく分からんが、お粗末さまでした?」

 

 綺麗に両手を合わせ、何かを噛み締めるかの様な深いご馳走様だった。

 少女漫画も要らないほどの甘シチュとは何の事だろうか。

 

「…漫画を読みながらの食事は行儀悪いぞ、ひまり」

「竜介はたまに変な方向に考えが行き着くよね」

「そうか?取り敢えず行儀には気を付けろよ。あと……食べる量にもな?」

「…」

 

 ひまりの目の前には、少し大きめの皿が一枚。

 来客用に買った菓子と、俺の手作りクッキーやらマドレーヌやらを入れていたものだ。

 量は多めに入れた筈だが、目の前の皿の中は空っぽ。

 

「体重計が木っ端微塵…」

「やめて!」

「家に帰ったら千五百グラム増えてたり」

「リアルな数字もやめて!」

 

 自分のお腹を触りながら、目に涙を溜めて言うひまり。

 たかだか一キロ弱増えたところで何が変わると言うのだろうか。

 

「あこは気を付けるんだぞ?」

「育ち盛りだから大丈夫!こないだ胸もちょっと大きくなってた!」

「だってさ、ひまり」

「なんで私に言うの!?」

 

 過剰に反応するひまりに対し、俺とあこは悪戯っ子のように笑っていた。

 それと、あこの胸が大きくなったと聞いて内心ドキッとしたのはここだけの話。

 好きな子の事だもの。仕方ないよね。

 

「うう…もう帰りたい…」

「別に無理に居なくても良いぞ?てか、今何時さ?」

「大体四時くらい。私はまだ時間大丈夫だけど、あこちゃんはそろそろ帰らないと…ほら、まだ一応中学生だし」

「だな。じゃあ、送って行くから一緒に帰ろうぜ……って、あこ?」

 

 玄関に向かおうと俺は席を立ったが、あこは何故かカバンを抱きしめ一向に動こうとしない。

 何故かここに来て、巴がいない事とあこの様子がおかしかった二つの違和感が不安を煽る。

 

「あこ?どうした?もしかして具合悪いのか?」

 

 そう問いかけると、あこは首を横に振る。

 訳が分からず俺が首を傾げていると、あこがポソリと呟いた。

 

「……り…い」

「え?」

「あこ、帰りたくない…」

「……そうか」

 

 あこに一言素っ気なく返し、今度はひまりに目を向ける。

 ひまりは何処か気まずそうに頬をかきしながら「あはは…」と力なく笑った。

 

「ひまり、何か知ってたら…というより、知ってることを教えてくれ。まあ、大方あこが巴と喧嘩でもしたって所だろ?」

「あー…うん、そんなところかな。ただちょっと今回は複雑っぽくて…詳しい事は私も知らない」

「なるほど。…悪い、少し席外す。あこのこと見ててくれ」

「え?…う、うん分かった」

 

 充電器に刺していたスマホを手に取り、俺は一度部屋を後にした。

 

 

 

 時刻がちょうど四時になった頃。

 家の二階に上がり、周囲に誰もいないのを確信した後スマホの電源を入れる。

 電話帳から巴の電話番号を選択し、二回程コール音が鳴った所で巴が応答した。

 

『竜介か…どうした…って言っても、あこの事だよな』

「まあ、そうだけど。てか、お前の方がどうしたよ?なんか声やつれてね?」

『あこと喧嘩したショックのせいか…なんか元気が出ない…。それと、あこの衣類が無くなってたんだけど……これって、間違いなく家出だよな?』

「百パー家出だな」

 

 俺がそう告げると、巴の啜り泣くような声が聞こえてくる。

 もう少しオブラートに包んだ方が良かったか、と後悔していると、覇気のない声で巴が話し出した。

 

『悪い…竜介。しばらくあこの事を見てやってくれないか?』

「はっ?え、どうしたんよ?いつもなら俺とあこを絶対二人きりにさせない様にするのに…」

『今回は本当に緊急事態なんだ。虫がいいと思われるかもしれないが、頼む。今あこの拠り所になれるのはお前だけなんだよ…』

「いや、そんな重たく頼むなよ…別に俺としちゃバッチ来い案件だし。お前はお前で早く調子戻してくれ…こっちまで気が参りそうだ」

『そうか…助かる』

 

『ずびび』と鼻をかぐ音を響かせながら、巴は礼を言ってきた。

 電話越しからでも分かる程巴からは元気が無くなっており、本当に本人なのか疑いたくなる。

 喧嘩の原因が何なのかは知らないが、取り敢えずあこと巴には一旦休息を取って貰いたい。

 

『本当にありがとな…。食費とかはこっちで出すように親に頼んであるから』

「え?出さなくて良いよ。全部俺が出したい」

『…は?何いってんだ?付き合い長いからってさすがに…』

「あー違う違う。付き合いとかそう言うの関係ないから」

『じゃ、じゃあ何でだ?』

 

 涙が収まり始めたのか、いつもの声音に戻りつつある巴に聞かれる。

 願いが叶うチャンスが向こうからやって来たのに、それを安安と逃す手はないだろう。

 

「折角あこを養える機会がやって来たのに、それを逃すなんて言うバカな真似俺がするわけないだろう?」

『今のアタシが言うのもなんだけどさ…お前、頭大丈夫か?』

「悪いな、俺は尽くすタイプだ。今までクリスマスとか七夕とか初詣に願掛けしといて良かった…」

『神様に何願ってんだよ…てか、クリスマスの使い方違くね?』

「細かい事は気にすんな」

 

 俺のボケにツッこむ巴の声はいつもと大差なく、段々と元気を取り戻しているようだった。

 クリスマス云々はボケだが、養いたい願望は本当なので悪しからず。

 

「取り敢えず、俺もゆっくり時間を掛けてあこの事説得してみるよ。けど、あこの意思優先でいくからな。あこが嫌ならバンド練習も学校も休ませる」

『……今は仕方ないか』

「じゃ、そういう訳だ。そろそろあこの所に戻りたいから、電話切るな」

『ああ、またな』

 

 巴に「おう」と返した後、電話を切る。

 スマホをポケットにしまい部屋を出た後、階段を下りあことひまりのいるリビングへ。

 そこには、巴同様啜り泣くあことそれを宥めるひまりがいた。

 姉妹揃って同じことをしている事に、俺はつい微笑してしまう。

 なんやかんや、お互いのことを一番に想っているのだ。

 離れてしまったなら、時間を置いてゆっくり近づけて行けば良い。氷川姉妹の時もそうだった。

 

「ただいまー」

「あ、竜介…どうだった?」

「うーん…ちょっと改善したってぐらい。これからはあこ次第かな。それとあこ、少しいいか?」

「うん…」

 

 涙を溜め目の下を赤くするあこは、俺の元まで駆け寄ってくる。

 宥めるように頭を撫でながら、俺はあこに問いかけた。

 

「あこ、今巴の事をどう思ってる?」

「…世界一カッコよくて、あこの大好きなお姉ちゃん……」

「巴と仲直りしたいか?」

「したい……けど、頭の中ぐちゃぐちゃしてて…どうしたら良いかわからない…」

 

 自信を全く感じさせない様子であこは言う。

 どうやら、俺が想像していた以上にあこは参っているようだ。

 けれど、こんなところで挫けるあこじゃないと俺は信じてる。

 

「じゃあ、あこの心が落ち着くまでここに居ると良いよ」

「え、ちょっ…竜介?」

 

 今までジッと俺とあこの様子を見ていたひまりが口を挟んだ。

 ひまりの気持ちは分かる。見張りもいない中、あこを俺と一緒にしたらどうなるのか心配しているのだろう。

 けれど、心配されている身のあこ自身は何の不安も抱いておらず、ただ驚いたように目を見開いているだけだった。

 

「…いいの?」

「良いよ。ただし、ここに泊まるからには絶対巴と仲直りする事。約束できるか?」

「…うん……うん!あこ、お姉ちゃんと仲直り出来るよう頑張る!」

「おう、その意気だ」

 

 まだまだ瞳に涙は溜まっているが、その奥からは僅かに恐怖心は伺えるものの、決してめげる気配のないあこの本気の目があった。

 問題はほとんど解決してないが、解決するための大きな一歩は踏み出せたと思う。

 

「りゅう兄!あこ、絶対りゅう兄との約束果たすから、見ててね!」

「お、今のカッコよかったぞ。さすが魔王様」

「えへへ♪」

 

 嬉しそうに頬を綻ばせ、あこは俺に撫でられていた。

 俺はあこを撫でた後、台所に入り冷蔵庫を漁る。

 

「よし、じゃあ今晩は歓迎会だな。ひまりも食べてくだろ?」

「え、良いの?あこちゃんと二人きりの方が良くない?」

「別に人数は関係ないよ。ひまりも頑張ってあこを慰めてくれてたし。お前が居てくれて助かったよ、サンキュ」

「……くっ、最初あんな邪険にされたのに…ちょっと今のでときめいちゃった…。次は負けんぞ!」

「何の話だよ…。あと、準備手伝ってくれ、ほらエプロン」

 

 ビシっと俺を指さすひまりに、俺はエプロンを渡す。

 カジュアルな服装にあえて付けたエプロンが、妙な人妻感を出していた。

 

「ひまり、意外とエプロン似合うな…」

「お嫁に貰ってくれても良いんだよ?」

「はは、俺には勿体ないよ。薫先輩ぐらいの人じゃないと、ひまりとは釣り合わない」

「くっ…さすがたらし。息をするように女を誑かす…」

「またそれか…。てか俺はたらしじゃねー」

 

 なんて風に台所でひまりと作業を始めると、俺とひまりの間ににゅっとあこが割り込んで来る。

 何故か頬を膨らませており、気のせいか俺とひまりの距離を何とかして離そうとしているように見えた。

 

「あこも手伝う…」

「おう、ありがと。てか、機嫌悪そうにしてどうした?」

「…なんか、りゅう兄とひーちゃん見てたらモヤッとした」

「……ああ、仲間外れみたいになってたな。悪い」

「うん、もう大丈夫」

 

 頭を撫でると、あこのムッとした顔は一瞬で直っていく。

 あこがこんな表情をするのは初めてなので、娘の成長を見るような感覚と好きな子の新しい姿を知れた喜びが混ざった不思議な感覚に陥った。

 それと、ひまりがクスクスと笑っていたがこれは何を見て笑っていたのだろうか。

 なんて事を考えていると、あこが俺の服をクイクイと引張てくる。

 

「りゅう兄りゅう兄」

「ん、なんだ?」

「えっとね…」

 

 何処か照れくさそうにモジモジしながら、言うか言わないか迷っている様子で俺を見ていた。

 いつもまっすぐ抱きついて来て、問答無用のお日様スマイルで俺を惚れさせてくるのがあこだ。

 こんな内気な女の子のような姿を俺は知らない。

 一体あこに何があったのか…今のあこは来た時とは違う意味で様子がおかしい。

 あこは一体、俺に何を言おうとしているのか……

 

 

「大好き!」

 

 

 どうやら俺の惚れた魔王様は、まだまだ俺の心に突撃をかまして来るらしい。

 

 

 




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