【完結】いちばん小さな大魔王! 作:コントラポストは全てを解決する
リサ姉とのバンド対決が幕を閉じた。観客の盛り上がりは完全にこちらに部があったと思う。そこは俺たちの勝ちと見ていいだろう。
けど、まだだ。最期の投票がある。いくら場を盛り上がらせる事が出来たと言っても、こちらで負けては意味が無い。
「はーいはい!皆そんなに固くならないの!集計が終わるまではゆったりのーんびりしてて!」
アンケート集計役の先生が、場を和ませようと声をあげた。俺はそれで張り詰めていた自分の気を緩める。
部屋の中には、リサ姉、紗夜先輩、美咲、つぐみ、沙綾、俺、ひまり、日菜先輩、花音先輩、有咲、あこがいる。あこ以外はバンドの衣装に身を包み、未だ張り詰めた空気で部屋にいた。
俺はなんとなく、近くにいた紗夜先輩に話しかける。
「紗夜先輩は、どうしてリサ姉に?」
「私は、神楽君がどれくらい上達したかを間近で見たかったので。それに、敵側に回った方が神楽君も頑張ってくれるかなと。それで今井さんに協力しました」
「どこまで行っても師匠肌ですね」
紗夜先輩がリサ姉側に着いた理由。それは俺の成長度合いを見るためだった。俺がこの五ヶ月間──本格的に練習したのは一ヶ月間だが、その間にどれくらい成長したのかを見たかったらしい。
「沙綾は?」
「私は、まあ、リサ先輩の気持ちわかるし、それでね。知ってる?私も竜介の事好きだったんだよ」
「……ごめん」
「ううん。謝らないで」
まさか沙綾も俺が好きだったなんて……。沙綾の事は完全に妹として見ていた。昔から一緒に料理をする──そして俺に料理の大切さを教えてくれた人だ。そんな沙綾が俺を好いているとは思わなかった。
「つぐみは?」
「私は……ちょっとした仕返し、かな」
「仕返し?」
つぐみの恨みを買うなんて、俺は一体何をしでかしてしまったのだろうか。
「前にさ、竜介君のためにコーヒーいれてあげたいって言ったの覚えてる?」
「ああ」
「あれ、告白なんだよ」
「……マジかよ」
全然知らなかった。いやでもまさか……。
確かにコーヒーをいれてあげたいと言われた。まさかそれが告白だと誰が思うだろうか。
「な、なんで直接言ってくれなかったんだよ」
「これでも精一杯だったの!」
「そ、そうか。えと、ごめんな?」
「うぅ……謝らないでよ……」
つぐみは目じりに薄ら涙を浮かべながら、俺の謝罪を拒否した。心が痛い。
つぐみのことは、ずっと仲の良い幼馴染だと思って接して来た。まさかそれがこんな事になるなんて……。俺はなんて馬鹿なんだろうか。
「沙綾、つぐみ、ほんとごめん」
「謝らなくていいって」
「そ、そうだよ竜介君。元はと言えば紛らわしい言い方した私が悪んだし……」
二人には謝罪しても謝罪しきれない。申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「まあまあ。良いんじゃない?二人ともこう言ってるし」
「……美咲」
リサ姉のバンド最後メンバー、美咲が俺と沙綾達の間に割って入る。
美咲には、リサ姉のスパイを頼んでいた。当日までバンドメンバーが分からなかった対バンライブで、メンバーを知ることができたのは美咲のおかげだ。一番の功績は紗夜先輩を日菜先輩で抑える事が出来た事だろうか。
「さてと、あたしは色々状況が危ういし、帰るとしますかね」
「サンキュな。美咲」
「いいよいいよ。あたしと竜介の仲でしょ」
普段はあんなおちゃらけている美咲でも、頼れる時はこんなに頼れる。ほんとに頼もしい助っ人だった。
美咲が帰ってからすぐ、先生の集計が終わった。山になった投票用紙を前に、先生が結果を読み上げる。
「えっと、結果は──」
206:206
「……引き分け?」
「これって……どうなるの?」
勝負の結果はまさかの引き分け。皆の間に疑問符が走る。
「リサ先輩の告白権ってところ?」
「告白権か……うん。良いんじゃない?」
沙綾と日菜先輩が、勝負の扱いを決めた。あくまで告白権。俺にも選ぶ権利をくれるらしい。ありがたい。
「……竜介」
「うん」
リサ姉が俺の前に経った。緊張しているような、泣きそうになっているような、どこか諦めているような。そんな様子だ。俺の答えを知っての反応だろう。
「好き、です。アタシと付き合ってください」
リサ姉の告白。俺の返事は決まっている──
「ごめんなさい」
俺はあこが好きだ。だから、リサ姉とは付き合えない。
リサ姉と一緒にいれて良かった。よかったら、俺と友達でいて欲しい。そういう願いも込めて、俺は一言「ごめんなさい」と断った。
「あはは……。改めて言われるとやっぱりキツいなぁ……」
「ほんとに、ごめん」
「謝らないでよ……。──ッ!」
リサ姉は部屋を飛び出してしまった。
俺は追いかけようとしたが、紗夜先輩に止められてしまう。
「神楽君、今は一人にさせてあげるべきよ。大丈夫、今井さんは強い人です。きっと明日にはいつもの調子に戻ってます」
「そうでしょうか……」
「信じてあげましょう。それに、貴方にはやらなければならない事があるでしょう?折角チャンスを掴み取ったんです。無下にしてはいけませんよ」
「……わかりました」
俺がやらなければならない事。それはあこへの告白だ。紗夜先輩も俺の心情を察しての発言だったのだろう。
_____
ライブが終わり、全てが終わり、俺は屋上であこと屋台で買った晩御飯を食べていた。結局リサ姉の後を追いかける事は出来なかったけど、今はきっと誰かが慰めてくれているはずだ。そう信じよう。俺はリサ姉の前に出てはいけない事がわかった。だから俺はしばらくリサ姉の所にはいかない。
「いやー終わった終わった。疲れたなー。俺たちのライブどうだった?」
「良かったと思うよ。りゅう兄キラキラしてた」
「なら良かった」
顔が死んでたり強ばってたりしなくて良かった。これで胸張ってライブしたって言える。
「ここまで色々あったなー。あこもお疲れ。ありがとな、俺を支えてくれて」
「もう。そんなお別れみたいな事言わないでよ。昔からそうだけど、なんでりゅう兄はすぐそういう事言うの」
「悪い悪い」
あこと出会ってからほんとに人生が変わったと思う。特にあことの喧嘩なんて、過去一番のイベントだった。あこを好きになって良かったと感じている。お別れじゃないけど、そう思えて仕方がない。
さてと、そろそろ本題に入ろう。あこに全てを打ち明ける時が来た。あこを好きな事。なんなら結婚して欲しい事。まあ、まずは恋人からだろう。それが普通だ。
だけど、あこはブラコンに突き進んでいる。果たしてOKしてくれるだろうか。
「なあ、あこ。今までで一番大切な話するから、よく聞いて欲しい」
「わかった」
当たり障りなく、サラッとした感じで、あこに好きって言うのだ。あこはどんな反応をしてくれるだろうか。
「好きだ。俺の恋人になってくれ」
「うん。いいよ」
──…………へ?
「え、良いの?そんなサラッと」
「りゅう兄から言ったんじゃん」
「いやー、もっと迷う物かと……」
「迷わないよ。あこもりゅう兄が好きだもん」
「わぉ」
まさか両思いだったとは……。
「え、いつから?」
「りゅう兄があこと再契約したぐらい。でも多分、もっと前から好きだったんだと思う」
「そ、そうか」
「うん」
あこが俺を好いていた。ここ一番のサプライズ更新だ。
「でも、ダメ」
「え、何がだ」
「恋人じゃダメ」
あこが焼きそばを食べながら、俺の願いを否定してきた。恋人じゃダメとはどういう事だろうか。
「りゅう兄、皆からもてもてなんだもん。恋人じゃ取られちゃう」
「俺は誰かに寝返る気はないぞ?ずっとあこ一筋で生きていく気でいるんだが……」
「ダメ。りゅう兄はうわき者だもん」
ダメらしい。
「りゅう兄、あこと結婚して。絶対」
わぉ。
「どうなの?するの?結婚」
「するする。絶対する。約束──いや、契約する」
「うん。じゃあ、はい──」
あこはそう言うと、目を瞑って俺の方に向いた。
「え、何してんの?」
「何って、ちゅーだよ」
「ちゅ、ちゅーか」
「うん。ちゅー、して?」
俺はあこのお願いを叶えるため、あこの肩を掴んだ。そして──
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原稿用紙を前に、俺は背伸びした。インクの付いた万年筆を起き、俺は一度プロットのメモ帳を見る。
「りゅうすけー、ご飯できたよー」
「ハイハイ今行きますよー」
担当からの催促メールは無視し、書きかけの小説を一度置いて、俺は家の一階に下りる。部屋を出る前にチラっと窓の外を見ると、昔の俺たちがいるような気がした。
『いちばん小さな大魔王!』著:神楽竜介
〜完〜
最終回。なんか色々言いたい事あったけどいいや。今までありがとうございました。評価がいっぱいで嬉しかったです。
イラスト描くんだ……漫画描くんだ……練習しなきゃ……。取り敢えず一年ぐらい頑張ってみるよ。番外編も更新出来たらするね。