【side: 水月】
おっちゃんに連れて来られた場所は本当に何もない平原だった。いや、正確には何もない平原に存在する飛行場か。ともあれシュルドレイク基地に到着した俺は現在の世界情勢や部隊に関することを簡単に説明してもらい、自由を言い渡された為基地を探索することにした。まずは俺に割り当てられた部屋に行くべきか。いい加減荷物整理しにゃならんし。近くにいた兵士に宿舎棟の場所を聞き、宿舎棟へ向かった。
「さっきの兵士が言うには、宿舎棟は本部棟からクッソ遠いんだそうな。」
あーだこーだとぼやいてるうちに宿舎棟に辿り着いたようだ。さて、俺の部屋は最上階か。階段で最上階まで上がり、部屋に入ったわ。うん、入った感想は……、傭兵が使う部屋にしては十分すぎるほどに整ってやがるわ。唯の二等空兵にそこまでするものか? とりあえず荷物を置いてさっさとこの部屋から出よう。中隊長に顔を見せに行かにゃならんし、この部屋にいると気分が悪くなる。
「……次は本部棟かね。」
【side: 凛】
「そんな体で行くのか?」
と、俺は目の前にいる人物に声をかけた。
「当然だ。我輩はこれでも軍人なのだぞ。」
こいつはスカージ・ランブル。空挺部隊スィーパーの指揮官だ。
何故声をかけたかというと、つい最近肺を挫傷しやがったってのにも関わらず無茶しようとしやがるから心配になったのだ。
「そうは言ってもね……。奴ら、新型の対空ミサイルを持っているって情報だ。」
「ほう……。」
奴らとは、最近話題になっている〈反政府反逆連合〉のことだ。何処の新聞もその話題で持ち切りだ。
おまけとして、次々と新兵器を配備しているとイリアからも聞いている。
「わかってるとは思うけど、油断だけはするな。」
「うむ。では行ってくる。戦果を期待するがよい!」
そう言うとスカージは戦闘ヘリに乗り込んだ。スカージたちスィーパー隊に配備された戦闘ヘリ、AH-64Dロングボウ・アパッチは強力な索敵レーダーを搭載している。スカージの能力も相まって、南北連合空挺部隊の間ではナンバー2と呼ばれるほどの実力を持つ。エンジンが始動し、4機のアパッチが離陸。フォーメーションを組み、反政府軍の地上拠点へとコースを取った。戦果を期待しろとは言われたけど、奴らの新型対空ミサイルのこともあるし、何より肺をやられているにも関わらず強硬出撃したので少し心配になってきた。
この後は暇だし、先ほど到着したらしい俺の一番機に挨拶に行こうかな。……と言っても、何処にいるかわからないけど。とりあえず、到着したばかりなら荷物整理とかがあるはずだから、宿舎棟付近にいるかもしれない。そう思い、歩を進めた途端、何者かの声が聞こえてきた。
「アンタが〈南の悪魔〉か?」
【side: 水月】
「アンタが〈南の悪魔〉か?」
俺はあの後、中隊長に顔を見せに行く為宿舎から出て本部コマンドルームへ歩を進めていた。その途中で、こいつを見たのだ。おっちゃんからの説明で顔はわかってた為、声をかけた次第だ。
しかしどうした。〈南の悪魔〉は俺を見るなり固まってやがる。
「……キミが、〈北陸の死神〉かい?」
「不本意ながらな。今日付けでアクィラ隊一番機に任命された河島 水月だ。TACネームは〈シザーズ〉。色々思うところもあるだろうが、ひとまず後回しで頼む。俺もアンタにはいくつか言うこともあるしな。」
「ああ。……そういえば名乗り返してなかったね。アクィラ-2〈ダーカー〉、笛吹川 凛だ。」
凛が右手を差し出してきたので、その手を握り返す。俺と違って大きな、成人男性の手だった。多分、俺と真逆のことを感じてんだろうな。凛が戸惑ったような顔をするのが目に入った。
「ところで水月、キミ、歳はいくつだ?」
「今年で二十だ。」
ってことになっている。書類上はな。……こんなこと口が裂けても絶対言えねぇ。
「アンタは?」
「……二十四だよ。」
意外と年上なんだな。
「ハイスクール卒業後に入隊か?」
「そんな感じ。そもそも当時の俺はアンタと同じ末っ子だったからな。色々と自由が利いたんだ。」
「末っ子ってことは、キミも貴族身分だったのか。」
「そういうこと。貴族身分とはいえ、家柄に縛られんのは嫌だからさ。末っ子なのが幸いだったわ。」
家によって違うのだが、貴族身分は家柄を大切にする傾向が多い。俺の所はたしか、〈騎士道〉などというくだらんものだったわ。
「だね。これが長男とかだったらここには来なかったね。」
「そーなのだー。――ところでこの話いつまで続くんだ? 俺今から中隊長に顔見せに行かにゃならねぇんだわ。」
「……そうだね。」
早々に話を切上げ、本部棟に歩を進めた。
「……あの子がミグのパイロットね。」
誰かがそんなことを呟いてたことなど、その時の俺は知りもしなかった。
【side: イリア】
はぁ、ザック隊などに出くわした所為で気分が悪い。ザック隊……今はビッグ隊か。会って早々「今日からおめぇの隊は俺の指揮下だ。作戦行動中の勝手な行動は禁ずる。」とか言われたからね……。ビッグ隊隊長〈ザク〉、仲井 浩平は自部隊に自分の飛び方を徹底していることで有名で、他の部隊にもそれを強要しようとするのだ。四年前のなんか酷かったよ。
当時、私はサウザンディア空軍ブロードバッド隊一番機として武装組織テレジアの航空部隊と戦っていた。私の隊の他に凛ちゃんの率いるデーモン隊、ノーザンディア空軍ジョーカー隊から当時四番機だった〈北陸の死神〉も一緒に飛んでいた。一通り敵航空部隊を片付けた矢先にザク率いるザック隊が増援で現れた。
運の悪いことに私の機体は危機不調に陥り、ザック隊から集中砲火を浴びたよ。そこからだったね。ザック隊の所業に憤りを感じた凛ちゃんが〈北陸の死神〉とのコンビネーションでザック隊を次々と落としていったんだ。ただ、凛ちゃん以上に〈北陸の死神〉が怒り狂ってたのは理解に苦しんだけど……。
単純に〈北陸の死神〉〈南の悪魔〉が強かったと言われているけど、実際にはザクの誤った指示で大きな隙を作り部下は全滅、本人も撃墜されたときたものだ。自分の落ち度で撃ち落とされるのなら兎も角、一番機の誤指示で撃ち落とされたなんてたまったものじゃない。死んでも死にきれないよ……。多分、凛ちゃんならこう言うだろうね。「腕に信用の無い奴について行けるか!」とね。まぁ、私もだけど。
ともあれ、まずはここの中隊長に顔を見せに行くところからだよね。本部棟に歩を進めた。
【side: 水月】
本部棟に行くまで何も話さないのは流石にアレなので、部隊に関することや次は何処をやられたとかの情報を簡単に交換した。
「アンタ、上からの要請でこの基地に雇われたんだろ?」
「……ああ。」
凛は律義に答えてくれた。何だかんだ、ここまで案内までしてくれたし、話も付き合って聞いてくれている。会うまではどんな奴なんだろうなと思っていたが、こんなに良い奴だとは思わなかったわ。
「国境際の……アホみたいに何もない所に配置されるとわかってて、なんだよな?」
「それがどうしたの?」
「どうしようもねぇよ。ただ、理由は聞いておきたい。国境際で大人しくしてても問題ないくらいの高給で雇われたのか、それとも必ずしも前線に出る必要がないと考えてんのか。俺やそこら辺の有象無象どもなら兎も角、アンタは〈南の悪魔〉だ。戦う場所を選べないわけではないだろう?」
凛が口を開くことはなかった。気難しげな表情をして黙りこくってやがる。
「言いたくなきゃ無理強いはしねぇけど。ただ俺も一番機なんて不慣れなものに据えられたわけで色々考えてんの。アンタがガンガン前線に出たいタイプなら多分合わねぇからさ。」
「……合わないってどういうこと?」
「アンタも噂を聞いてんなら知ってんだろ? 俺は明確に敵性とわかる奴だけを選んで落としたい。対地戦は……まあ、命令ならやらんこともないが、それでも戦車か対空ミサイルとかだけにしときたいってこった。」
「前から思ってたんだけど、その理由は何?」
「大した理由じゃないけど、俺って小心者だからさ。」
などと話しながら本部棟へ続く通路を歩いてたときである。凛の端末に通信が入ったみたいだ。
「ああ、俺の端末だ。」
凛はツーコールで通信に出た。さてと、凛が通信中で動けなくなったわ。通信が終わるまで待っていようと思っていた矢先……。
「やっと見つけた! なんで置いてくの!?」
……なんでこいつがここにいるんだ? そこにいたのは俺が最もよく知る少女? だった。
〈スィーパー隊〉
南北連合軍の空挺部隊。AH-64Dロングボウ・アパッチ戦闘ヘリが配備されている。
隊長はスカージ・ランブル。
〈ビッグ隊〉
TP13飛行中隊第一飛行隊。TP社で一番最初に雇われた傭兵で構成されている。
隊長は四年前のテレジア航空隊〈ザック隊〉隊長、仲井 浩平。
〈ブロードバッド隊〉
TP13飛行中隊第四飛行隊。四年前の戦争を生き残り、統率力も高いことからTP社に雇われた。近代化改修キットで強化したMiG-29Aが配備されている。
隊長は〈血の怪鳥〉こと、イリア・イリッチ。