大きなのっぽの巡洋艦   作:浅春

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二節 発砲

19世紀から20世紀初頭に活躍したフランス人画家の絵に, その絵自体よりも名前だけが有名であろうものがあった. 「我々は」から始まる3の文からなるタイトルは宗教なるものをもたない, あるいはそのまま人間でない存在にとっても当てはまるものなのだろうか.

 

 

どこから来たのかと問われれば, 私の生まれはニュージャージのカムデンである.

 

何モノなのかとと問われれば私は船である.

 

どこへ行くのか, という問いはおよそこの題を見た人間にとって最も興味をひくものではないか.

今私が向かっているのはニューアークにある解体場である.

 

 

もちろんこれらの私の回答はこの題に対する答えとしては的外れであることは, 十分に認識している. しかしこれまでいろいろ語ってきていながら私にはそれらに対する答えを持つまでには至っていない. たかだか17年の生で, まことに狭いその活動範囲で, 私は何を理解したのだろう. そして何より, わたしは一人前にその思考を許されているのだろうか.

 

 

 

 

 

 

立成31年2月18日 午後2時50分 台湾 リウチウ島南東 

 

 

重巡ネ級は機関再始動の後やや緩慢な加速で3隻の艦娘を追って北上を始めていた. もちろんこの動きは不知火らの電探に映っていたし, およそ8分の間に4.5㎞北上しネ級の直接の視界からは逃れていた.

 

ただ, ネ級の放った偵察機からの視界は如何ともしがたかった. たかだか高度500mでさえ, 約80㎞さきの水平線まで見える計算である. 実際は雲や波, 光線の具合によってこの数字よりは短くなろうが, いまもって18ktで敵の射程内から逃げる不知火らにとって非常な脅威であった. 夕張の12cm高角砲や各艦の25㎜機銃で盛んに射撃を試みるも最大で160kt程度の偵察機を落とすには至っていない.

 

4.5kmなど敵ネ級が30ktを出せば12分と少しの距離である. 弾着観測で間接射撃をやられるかもしれない.

 

不知火一隻で再び遊撃しようにも駆逐艦1隻で重巡との戦闘から離脱するのは困難なことである.

 

彼女らにできるのはただ高雄へ逃げることのみであった.

 

 

 

同時刻 リウチウ島南西 大型巡洋艦アラスカ

 

 

 

二度目であるが深海棲艦にいかほどの知性が備わっているのか, いまだ明らかでない. ただ彼らの間での連携が人間の目から見てあまりにお粗末であること, 戦闘における攻撃の優先順位のつけ方が野生の動物のそれに似ていることから人間や, あるいは艦娘のような万物の霊長といえるものではないとされている.

 

このためなぜこのネ級が間接射撃を始めたのかもまるで見当がつかない. ただそれにより飛翔する砲弾をアラスカの対空用警戒レーダは捉えた. 敵艦は数分間減速し続け, その後緩やかに加速しているため33ktで迫るアラスカは相対距離をおよそ8.4kmまで縮めていた.

 

“5分前の南東の3隻の運動も怪しかったけれど, これでその後ろの1隻は敵とみていいね. ”

 

“艦長から…, て私が艦長でいいのかな? 艦長から砲術長, 戦闘, 左砲戦, 目標あーッエイブル, 主砲

 レーダ照準射撃, 交互打ち方発令発射, 弾種徹甲!って砲術長もいるのか?”

 

首を傾けるアラスカの腰, 主砲が敵を指向し始めるとどこからともなくカーキ色の上下にグレーのヘルメットと救命胴衣をつけた小人が現れた. 時機から言って彼女?が砲術長らしい. むさい大砲屋が大変身である.

 

 

しかし旧日本海軍のレーダとは, 向こうさんはどこの船だ?中華民国か東南アジアのどこかの奴か, それに攻撃してるほうも理解できん. レーダで東に映っている海岸線は台湾の西岸で間違いないし, アカがこんな南まで出てくることもありえない. まあ一番ありえないことは今の我が身なのだが.

 

アラスカの体をよじ登って砲術長?が肩に落ち着いたころには, 整備通報が鳴り発砲の準備が整った.

 

“ステンバーイ…, ファイヤ!”

 

アラスカの発声から1秒ほどブザーが鳴ったのち, 彼女の左右の3基の砲塔のうちそれぞれの中砲が火を吹いた. 超科学的な艦娘という存在でもある程度には反動を感じるらしい. 事実, 見るからに華奢な彼女の足はその反動に踏ん張りが効かず, 彼女の上体は大きく後傾した.

 

ただ, 彼女の感情はひたすらに爽快であった. 生体で感じる圧と音と熱は, 記憶の中の, 主砲の試射や小島への艦砲射撃を概念だか何だかとして感じたときのそれとは異なり, ただひたすらに気分を爽快なものとした.

 

始めの発砲から6.7秒後, 第2射として左砲が, さらに6.7秒後右砲が徹甲弾を打ち出し, 各3発が10秒弱の飛翔の後, ネ級へと撃ち込まれた. 各砲は毎分3発, 全体で毎分27発の小雨ではあるが, アラスカの主砲は12”/50 Mark8 つまり50口径30.5cm砲である. 艦のころの物理法則にのっとれば, その徹甲弾重量は517kgであり重巡の装甲などウエハースのように砕ける代物である.

 

砲術長が軽く2回, ついで強く1回肩を叩いた. どうやら弾着を教えてくれているらしい. 少しして遠くで水柱が3つ立ち上るのが見えた.

 

ネ級にとっての破滅は第6射から始まった. 小雨の降り始めてから1分もしないうちに初めの一撃を受けた彼女はその速力を大幅に落とし, また不知火らへの射撃も途絶えた. その速力が落ち着いたころ, 第13射にて再びその身に30.5cm砲弾を受けたネ級は, 次いで第15射から4発の直撃を受け完全に海中に没した. その間わずか2分にもみたない射撃であった. もちろんこれらの情報はレーダ越しに見たことと, 水柱の上り具合によって認識したこととによる.

 

“砲術長, 打ち方やめ.”

 

砲塔が動き出し, 元のように首尾線に沿った向きとなると, 砲術長も降りていってどこかへ消えてしまった.

 

 

同日 午後2時55分 駆逐艦不知火

 

 

大口径砲弾の着弾によるものであろう水柱は彼女の電探にも, また振り返れば彼女の肉眼でも捉えることができていた. そして彼女の常識から言えば, 絶え間ない, 非常識な連射が止んだ後, 水柱の影からは何も現れることはなかった.

 

また同時にその常識から言ってこのようなことが実現できるのは戦艦の主砲のみであり, 周囲に存在する戦艦級の艦影は二隻目の敵のみであった. ここまでコトが上手く進めば3隻はその意味に気づいていた.

 

「ねえ夕張, 南西の艦影ってもしかして味方?, というより戦艦でドロップ艦娘?」

 

「そうじゃないかなぁ, いや確定でそうでしょ. しかも電探見てる? さっきからその戦艦30kt超の速力でこっち向かってるよ!」

 

「夕張さんがなーにに興奮しているのだか, 択捉は理解しませんけれど, 周囲の脅威も無くなったことですし, 速力落とすなり, こっちから反転して迎えなり今後の動き決めましょう.」

 

「向こうもそんな速力で走ってこれるならわりかし元気だろうし, とりあえず原速まで落としてその戦艦さんと合流しましょ. 」

 

「不知火ぃ, むこうは電探射撃で敵艦沈めるような良い電探持ってるのだから, こっちの動きまるみえだよ?もっと歓迎してるような動きしようよ. 」

 

「こっちに来てすぐにそんなやわな心だった新人は夕張くらいなのでは?」

 

「失敬な! その繊細な心とは, 艦のころからよーく人間を観察し, 自身の感性を磨いてきた結果, この身体へいち早く順応し, 様々な表情を得ることができた, つまり私が優れていたということなのですよ!」

 

「あーはいはい夕張は良く出来た乙巡ですねー. 」

 

「択捉ー. 」

 

「不知火さん, 新人さん見えてきましたよ. 」

 

「さて, あんな砲撃ができるのはコーヒーと炭酸飲料のどちらかしら?」

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