大きなのっぽの巡洋艦   作:浅春

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三節 会合

立成31年2月18日 午後3時00分 台湾 リウチウ島南東

 

 

アラスカ自身コカイン入り炭酸飲料など, というよりも飲料全般を飲んだこともないのであるが, ともかく敵艦を沈めてからそのまま航走を続けていた彼女は不知火らの左舷側に現れ, 彼女らの姿を見た. この世界, もしかしたら艦の頃から連続した時間かもしれないが, に来て初めて目視した等類となろう.

 

人間の常識から考えれば, 元の無生物である艦に意思があったという時点でかなりオカルトの類になるのだが, 艦娘なる存在は祈祷師や悪魔祓いでなくともその姿を万人が認識することができる.

 

さて, そんな艦だったころにも人間と会話したことのないアラスカは現状かなり困っていた. 衝突しないよう, また追い越さないようにと不知火らと同じ12ktまで速力を落としているのだが, 彼女らと肉声で会話できる距離まで2分と少ししか残されていない. 

 

なんと声をかけるのが適切なのか, そもそも言語の隔たりはどうするのか, もし当時の帝国海軍の艦艇で彼女自身によくない感情を抱いていたらどう対処すべきなのか, もちろん大戦末期に登場した彼女は不知火らと直接の面識などないのであるが, いまさらながら一つ不安な要素を見つけると芋づる式に次々と心配な点が浮かんできた.

 

 

一方不知火らといえば, すでに何隻も新人艦娘らとの対面を果たしている艦娘達である. まずは, 落ち着かないであろう彼女の心情を無視して, 常識に則った初対面をしようと考えていた.

 

ただし, うち一人のケガ人は遠慮を知らないのか, はたまた好奇心がすべてに勝る研究者体質であった. 

 

彼女, 夕張はドロップ艦の保護の現場に立ち会うのは初めてである. 基地まで連れてこられた新人が初めて会う他の艦娘といえば, およそ副官の職に付いている艦か, 工廠の明石か, 情報をかぎつけた文屋, 青葉, といった面々である. 

 

非番の時に工廠へよく顔を出す夕張であったが, 今までそのような場に立ち会うことはなかった. ゆえにひどく新人への興味が尽きない様子であった.

 

 

 

まずは自己紹介をして, この世界での生体をもった艦についての情報を聞いて, 今後の身の振り方について意見をもらいたい. 昔のクルー達の会話を思い出すんだ. 難しいことじゃない…はずだ.

 

スー, ハー. ヨシ!

 

「ェッ」

 

「ねね, あなた米海軍の艦よね? あきらかに巡洋艦じゃない艦砲積んでるけど戦艦? ノースカロライナかな, サウスダコタ級, アイオワの妹だったりしちゃう?」

 

「んん? でもおなかの艦番号が1番? BB-1は前ド級戦艦よねぇ, あなたもしかして戦後どこかに供与されてその国の戦艦の初代になったりしたの?」

 

「あー, 夕張さん落ち着いてください. 新人さん表情固まってますし, そのぉ, 不知火さんが…」

 

「航行中で腕が届かなくて命びろいしたわね夕張, ごめんなさい, この乙巡には後で初対面の方へのあいさつについて小学校の国語の教科書と中一の英語の教科書読んで聞かせておくから, 驚かせていたら悪かったわ.」

 

「あらためて, 初めまして. わたしは海上自衛隊の呉地方隊所属, 第18駆逐隊の駆逐艦不知火. 後ろのが第四艦隊第六水雷戦隊の夕張, で一番後ろの小さい子が佐世保地方隊附属で左営派遣隊の択捉ね, たぶん通じていると思うのだけど, アー, アーユーフォロイング?」

 

“イェス, はい分かります. どうにも便利な体ですね, 戦争のお仕事がなくても通訳で食っていけそうだ. 」

 

「これはおもしろい! 軍艦に生まれて再び目覚めて人語を話した二言目には戦いの終わった後を考えるのね. ますます興味が湧くわ.」

 

「夕張に同感, 少し驚いたわ. 先ほどは助けていただきありがとうございました. 私たちの火力では重巡はとても倒しきれませんでしたので, 本当に助かりました. 」

 

「電探で見ていたところあなたはついさっきこちらに来たみたいですけれど. 私たちはこの世界についてあなたに説明できます. できれば官姓名を教えていただけませんか?」

 

「これは失礼しました. わたしは…あー艦としての最後の時には退役していたのですがなんと説明すればよろしいのでしょうか?」

 

「そういうこともあるか, そうねぇ, じゃ現役だったときの所属と名前と艦種を教えて.」

 

「では, 元第七艦隊所属大型巡洋艦CB-1アラスカです. この世界についていくつかうかがいたいのですがよろしいでしょうか?」

 

彼女の発音はやや北国のような音ではあったが, 特段なまりのない日本語として聞き取るには十分なものであった. だからこそ不知火らにとって, はっきりと聞こえた巡洋艦という言葉に驚かずにはいられなかった. たしかに立成31年の現在, 海軍休日時代のような艦種について明確な区分が無いことによる, 1~2万トンの駆逐艦や5千トンのフリゲートなどはありふれたものとなっている. 

 

しかし今まで確認された艦娘らの艦の年代からいって, アラスカも前大戦の頃の艦であろう. にも関わらず, ここまで詐欺まがいの艦種区分があったのだろうか.

 

艦娘になると艦だったころの装備が, ひとまとめに艤装と呼ばれるものになる. このため特に砲熕類の口径などは, 実際の大きさを外観から推測することが困難な場合がある.

 

夕張が初めに米海軍の条約明け世代の戦艦の名前を挙げたのもこのためであり, 大重量砲弾, スーパーヘヴィシェル, を用いるMark8砲による水柱は彼女らの常識によるところの12インチ砲弾のそれとは比較にならないほど高く吹き上がっていた.

 

このため夕張らは彼女が小さくとも, 一次大戦期の巡洋戦艦のうち近代化改装を行ったものではないかと見当をつけていた.

 

アラスカの排水量で考えれば確かにその推測は正しいのであるが, 彼女の設計思想はそれらとは全く異なったものであり, また彼女の装備はそれらとは比較にならないほど優れたものとなっていた.

 

「もしかして最後の質問余計でしたか? ご気分害するような言葉でしたら申し訳ありません.」

 

「では先に軽巡の夕張さんの疑問に答えさせていただきますね, わたしが就役したのは1944年の6月の中頃でして, 実際に戦闘に参加したのは年が明けてからの数カ月でした. ですから敵か…相手の艦を見ることもなく対空戦闘が主な仕事でした. 」

 

「戦後は14年も不活性化の処置をされて保管されていたので, 軍艦にもかかわらず平時の暇な時間の過ごし方のほうが, 先に浮かんできた問題点だったのです.」

 

「とすると艦の頃の年齢で言うと?」

 

「17歳くらいですかね.」

 

「若っ!」

 

「生まれた年だけでいえば択捉のほうが先輩ですね!」

 

「本当に新人じゃない. 」

 

「アハハ, どうぞご指導のほどよろしくお願いします. 」

 

モスボール保管中の艦を人間で例えれば, 先進国で始まった冷凍睡眠の類だと言えるわけで, やはり彼女の活動期間だけで考えれば択捉よりも若いことになる. ただしアラスカの場合この14年間, 意識は途絶えていなかった.

 

「ところで先ほどの質問とは違うのですが, 私も皆さんにいくつかたずねてよろしいでしょうか?」

 

「ア, ごめんなさい, あなたに思うところがあったとかじゃなくて. その…, その見た目で巡洋艦ていうのに驚いてしまって, それにとっても若いですし.」

 

「そういうことでしたか. まあ大型巡洋艦っていいましても巡洋艦構造でド級戦艦級の主砲積んだ巡洋戦艦みたいなものですので, 巡洋艦にこだわらなくとも良いのです.」

 

「いやー, それを造ってしまうのだから米国のリアルチートぶりは素晴らしいね, やっぱり.」

 

「もとはそちらの超甲巡? に対応するために計画されたのですよ, わたし.」

 

「あー, あの秩父とか蔵王とか黒姫とかやたらかっこいい名前でゲームに出てくるヤツ!」

 

「夕張さん, そろそろアラスカさんの質問に答えてあげましょうよ. 」

 

「こりゃ失敬それでどんな質問です?」

 

「それでは, まず今は何年何月何日ですか? つぎに, これから私はどう振舞えばよいのでしょうか. またこの世界の情勢は? 先ほどそちらが攻撃を受けていた敵は何ですか?」

 

「あなた, 知りもしない敵をよく撃沈したわね…. とりあえずもっともな質問ね, ついでに私が補足しながら答えていくわ. 高雄までこの速力で3時間弱あるからその間に話せるでしょう.」

 

「ではよろしくお願いします. 蛇足ですが, 戦場に敵か味方か迷っている時間があったのならば, 私にCICはいらなかったのですがね…. 」

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