大きなのっぽの巡洋艦 作:浅春
立成31年2月18日 午後3時00分 台湾 リウチウ島東
「さて, 日付だけれど今日は 立成31年2月18日, 2019年ね. 」
「私が解体されてから59年後かぁ」
「あなた, 雪風よりは解体されたの昔なのよね. それで情勢とかから話すと, 敵は私たちみたいなオカルト的存在の深海棲艦, 空想上の化け物の形したヤツから私たちみたいな人型もいるわ. さっきあなたが沈めたのが後者で重巡ネ級って分類されている艦. 」
「そいつらのせいで海上交通網はズタズタ, 日米なら北太平洋を島づたいに小規模な船団が行き来できてるけど, ヨーロッパとかまではユーラシア大陸を陸路って感じ. 」
「東南アジアからオセアニアはやはり島伝いに交通を維持してて, これから向かう台湾も, 日本から, 敵が来たら沖縄の島々に避難しながら細々と物流を維持している状況. 」
「インド洋, 太平洋, 大西洋の島が希薄な海域は調査にいった船が戻ってこないので, まあお察しの状況なのだと考えられているわ. 」
「自分の体のことですから, さっきの砲撃でおぼろげに理解しているのですが, その深海棲艦というのも私たちみたいに大きさに囚われない, まるで先の大戦期の軍艦のような防御施設と兵装を持っていると. 」
「そゆこと. 駆逐艦程度なら現代の船についている3~5インチくらいの速射砲で対処できるし, 小さな目標でも, 大口径機関砲に目標追尾機能つけたものとかで追い払えるの. 駆逐艦なんてろくな装甲ないしね. だから私たちみたいな艦娘ではない現代の軍艦でも, 船団護衛程度は務まるのだけれども. 」
「まあ, ミサイル時代の軍艦に巡洋艦や戦艦の装甲はむつかしいですよね. 」
とは言え, 先進各国の鉄鋼系メーカーは昔の技術資料を引っ張り出してきて, 大口径砲の復活を目指した研究を進めている. また貫徹能力がRHA換算1000mm超という戦車砲の技術を応用して, 海上で敵大型艦の撃破が可能な技術の研究などはなされている.
しかし簡単に実戦で試験できないことや, 跳躍や体をひねるなどの人体ならではの動きを交えて動く深海棲艦に対して, 十分な精度での攻撃を保証する兵器はいまだ現れていない.
また核兵器については, その環境への影響もさることながら, 使用場所について大国間で不信感がぬぐえなかったこと. また皮肉なことに, 戦後の海中核爆発の実験における大戦期の大型水上艦艇への影響があまり大きくなかったという結果から, ほとんどの核保有国でその使用が否定されていた.
「それで最後, あなたの身の振り方の話ね. わざわざ日本が台湾に派遣隊と基地なんて置いているように, 二次大戦期に軍艦を自国の通商保護に十分な数もっていた国なんて当時の大国くらいなわけで. 我が国は民国に当時輸出していた軍艦の艦娘をその艦の意思を確認したうえで…, まあ移籍を認めていたり, 沿岸警備用の艦艇の整備に協力してるのだけれど.」
「インド洋は英国に任せるとして, 南シナ海は周辺国だけじゃ荷が重すぎたのよ. 」
「米国は大西洋と太平洋の東半分と赤道以南全部請け負ってるので, あとは我が国の分担になったわけ.」
「それであなたは米国と発見者である我が国のどちらに帰属してもいいし, SF的に知的生命体なんて認められているから, 英国だとそのオカルト好きの国民性のせいで艦娘は大人気だそうよ, あー話を戻して, ようするに人間と同等の権利が認められているから艦娘以外の仕事に就くこともできます. 」
「こんなに早く通訳の仕事に現実味が出てくるとは. 」
「ただし艤装はその国の海軍が保管しますよ. 個人が持つにはやばいしろものですからね. 」
「まあ無責任な考えかもしれませんが, しばらくはどちらかの海軍に身を置いて, この時代の感覚になれたほうがその後民間に下るのだとしても, 直接より支障が少ないと思いますよ. 」
「ようするに今考えるべきは, 新しい世界に挑戦するか, 古巣に帰るかってことね. 」
「なぜ芝居がかった言い換えが必要なのかわかりませんが, そういうことになります. 」
オカルト, オカルトといって超自然的なのを言い訳にし続けるわけにもいかないし, もとの米海軍にもそれほど長く居たわけでもないのだが. 言語に問題はないのだし, どうせほとんどが初体験の世界なのだし, あえて彼女らの厄介になるのもひとつ経験だろう.
「ちなみに艦娘とは公務員ですか?」
「我が国ならば自衛官と同じ, 特別職国家公務員だそうですよ. 海外艦の国籍とかは詳しく知らないのでお答えできませんが. 」
「艦娘は人間と同等に扱われるそうですが, 航海中は明らかに艦船の扱いうけますよね? 航海に関する資格とか, そもそも定期検査とか法律上の決まりはどうなるのでしょう?」
「艦娘の海上での実力を伴った行動に関しては国際条約があるそうですのでご心配なく. ただどこかの国でその艦娘を発見した時点で, 一応その国の船舶の安全な航海に関する規則に従わなければなりません. アラスカさんがどこで生きていくか意思表示なさるまで我が国の法律と, これから行く台湾では現地の法に従ってください. あたりまえのことですが, まだあなたは国籍も無い存在ですから, 確認です. 」
「了解しました. 」
アラスカはそれからしばらく, 自身の艤装に器用に肘をつきながら自分のこれからについて考えているようだった. まじめに思案している彼女に3隻とも話しかけることも無く, 高雄港の第一港口の港外まで何事もなく走ってきてしまった.
「皆さんを高雄までお連れできましたので, 択捉はここまでで帰らさせていただきます. アラスカさん, 助けていただきありがとうございました. 」
そのまま左営地区の基地に帰投する択捉と別れて, 不知火・夕張・アラスカは高雄港へと入っていった.
左営派遣隊兼ねて左営基地司令は一等海佐をもって充てられる. また艦娘向けに特化した左営造修補給所が設置されているが, 実際には物資輸送や立地の問題からそのほとんどの機能が高雄港の民国海軍地区の一部に置かれている.
ここは同時に米海軍の艦娘向けの補給処にもなっているため, 三国共同の運営となっている. この措置は, 艦娘が裏を返せば深海棲艦と同じような運用が可能と考える一部の勢力に向けて, 三国の友好関係を示すためのものでもあった.
同日 午後6時50分 台湾 高雄港外
「ところで夕張さん, あなたのその大胆に前を開いた服装は今の流行りか何かですか?」
「ち, ちがいます! 夕張はそんな変な性格していません. 艦娘は戦闘続行が困難なほどに損傷すると, こんな風に艤装と服装が壊れてきてしまうの. まあそのおかげかも知れないけれど, 見た目ほどには身体に傷がつかないって部分もあるのよ. 」
「えぇー, なんだか艦娘として勤めるのちょっと怖くなりました. 」
「あなた本当に軍艦だったの? 初めて他艦と会話しているわりに軍艦としての義務感とか国家への忠誠心とか, あるいはもっと柔らかく愛国心とか無いの?」
「不知火ぃ, そんな言い方じゃまるでアラスカを非難しているみたいだよ. ごめんね, 不知火はちょっとお堅いのよ. 」
「軍艦が人になれば軍人みたいなものでしょ, 一度お勤めすると決めたのなら規律に従い国を思って働くのは当たり前でしょ. 」
「おぉ模範的, 優等生. 」
「さきほども申し上げましたが, 私は軍艦として動き回るよりも保管された予備艦艇であった時間の方が長かったものですから, ミリタリーにも染まりきっていませんし, シビリアンにも慣れていないのです. まあミリタリー以外の世界もろくに知りませんが. 」
「でも艦娘として, 軍艦として, しばらく勤めるわけでしょ. ならなんらか信念みたいなものがないと, ソトで働く方がマシだーて考えそうになるわよ. 給金でもいいし, 夕張みたいな好奇心でもいいから. 」
「そうですね, 今度は人が操艦しているのを眺めているわけではないですからね. そうですねぇ, あっ!」
「何か思いついた?」
「アカどもはどうなりましたか!」
「「あ…. 」」