むかしむかし、柱島というところに、ものぐさな提督がおりました。
この男はたいへんなものぐさ、つまり怠け者でした。
最後に出来た泊地という事で、多くの提督が存在し互いが切磋琢磨する魔境、とも称される柱島であるにも関わらず一年中仕事もせず、執務室の中には最初からあるみかんのダンボールだけ。まともな家具すらないのです。
そのくせ頭の中では豪華な机があって、窓からは花火が見える立派な執務室と空想していました。
そんなものぐさ提督でしたが、たった一つ、夢中になって取り組んでいるものがありました。歌です。
この歌というのは「五・七・五・七・七」の三十一文字の中に自然の美しさやいろいろな気持ちをこめるのです。なかなか難しいものです。
艦娘達が一生懸命遠征や出撃といった仕事をしている間、ものぐさ提督は「これだっ!」とか「いや、違うな…」とか一人でブツブツ言ってます。
軍装がヨレヨレでも、髪の毛はボサボサでも、全く気にしません。
ある秋の日、提督はぼーと空を眺めておりました。朝からずっとです!
見かねた扶桑型の二番艦が、
「提督、なにをそんな空ばかり見てるんですか?」
と話しかけますと、
「あーー、雲を見てんだよ。ほら、あの雲。ちぎっておにぎりにして食ったらうまそうじゃねーか。いいよなーあれ」
「はぁ…呆れました。そんな食べられもしない雲なんか見たって仕方無いじゃないですか。ほら、私のおにぎりあげますよ…はぁ…こんな男に自分のお昼を…不幸だわ…」
「おお、すまんすまん。もぐもぐ…ちょっと塩気が足りねえな」
「贅沢言わないでくださいよ」
「塩ね…もっと好みに…」
何やら山城がボソボソ言っておりますが提督は上の空です。
ところがその時ものぐさ提督の目の色が変わります。
「できた…できたぞ!」
「!?…何ができたんですか?」
そこでものぐさ提督は声高らかに、
秋風に たなびく雲の けしきより 口にほりこみ 食うにぎりめし
と、歌をよむのでした。「できた!できた!傑作だ!」おおはしゃぎです。山城はわけがわからずキョトーンとしてました。
とにかく歌だけがだいじで、他はすべて、どうでもいい男でした。
しかし艦娘達はなぜかものぐさ提督を憎めませんでした。
それどころか、ものぐさ提督に相談事をする艦娘が多いのです。
この日姿を見せたのは、二航戦の橙色の方です。
「うぅ…提督聞いてくださいよ。瑞鶴と加賀さんがケンカばかりしてて…」
「ほうほう」
「昨日なんて、瑞鶴がこのクソ戦艦出てけーっ!って怒鳴りまして…」
「ほうほう」
「ですが加賀さんも加賀さんで…小娘の癇癪ほど見苦しいものは無いわ、と小馬鹿にして嘲笑うんですよ…」
「ほうほう」
「第二艦隊はもう…毎日ガタガタです。困ったもんですよ…」
「ほーーう、なるほど」
「ほうほう」「なるほど」しか言わないのです。マトモに聞いているかどうかもあやしいかんじですが、話の最後には
ずいかくが ののしる声に 加賀もまた 怒鳴り散らして 隊はガタガタ
と、相談されたことを歌にしてみせるのです。
すると相談した飛龍は何かバカバカしいような、拍子抜けしたような、悩んでいた自分がアホに思えてきて、気が楽になって帰っていくのでした。
そんなわけで艦娘たちは、まるでお地蔵さんにお供えをするようにものぐさ提督に食べ物を与え、大切に取り扱っておりました。
中には恋の相談として自身の想いを、他の子からの相談として提督に打ち明けるも間接的にフラれてしまう事もあったそうです。
そうした子達は須らく提督のストーカーと化してしまい、相談に来る他の子に危害を加えようとする子も少なくなかったそうです。
このものぐさ提督、それぞれの艦娘が「自分だけがこの提督を世話している、きっとこの人は私が居なければどうにもならないのだから私が貰っても誰も文句は言わないだろう」と勘違いされているものですから、後に大変な目にあう事となります。
自身の子供達の世話で大好きな歌を詠む時間が減るのも、そう遠く無いお話です。
〜おわり〜
やべぇよやべぇよ…