トリムルティの宝   作:▷akua◁

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アナザーストーリー
もうひとつの可能性


 

 

何もない大地に、彼女は1人で立っていた。周りに生き物はいない。正確にはこの星には彼女以外生物が存在しない。その原因は、彼女にあった。

 

「やっと....これで最後だわ....」

 

先程殺した鳥を見て、彼女は思う。この鳥と同じように自分も羽ばたくことが出来なくなって、苦しむ日々が続いたなと。しかしもう死んだように生きる人生に今日で終止符が打たれる。ニヤリと笑った彼女は叫んだ。

 

「私が最後の生命体となったわ!!これで条件は満たしたはずよ!!」

 

誰かに語りかけるように叫んだ彼女は、その声を拾った者から返事が返ってくる。その応えを聞いて、彼女は泣きながらまた誰かに語りかける。

 

「今から行くわ、待っててね....」

 

その声はとても優しいものでその言葉に返事は帰ってこなかったが、それでも彼女は嬉しくて笑った。そして彼女は思いを馳せた。またあの頃のように、みんなで―

 

 

 

 

 

 

―

 

 

 

 

 

 

「あ〜、うん。分かった...ちょっと待ってね。サージェ、次っていつが空いてる?」

「予定がない日は1ヶ月後にございます」

 

1ヶ月....改めて自分のスケジュールを聞くと気が遠くなるなと思いながら、〈メサージュ〉で連絡を取っていた相手に伝える。

 

「悪いけど時間取れるの1ヶ月後みたい....」

『え〜、ボクそんなに気が長いほうじゃないんだけど!!』

「でもそっちだって忙しいでしょ?」

 

話し相手、ムームアに伝えるとやはり思った通りの返事が返ってきた。互いに国王同士、こうして数十分連絡を取ることは出来るが実際に会って話すというのは難しい。三大王国が同盟を結んでから、周辺国とのわだかまりや文化の進み具合の違い、その他もろもろ対応しないといけないことが沢山出てきたのだ。

 

『まぁそうだけどさぁ...そういえばアンディートのとこはどうなったの?』

「イーニット王国との事?それならまだまだってとこかな」

 

イーニット王国は過去にアズモンド王国に戦争を仕掛けて敗北している国だ。その怨恨が今でも残っていて両国の関係は良いものとは言えない。今それの関係を修復しようとアンディートは頑張っているのだ。

 

『そっちに仲人になって欲しいって頼まれたんだよね?』

「そうそう、イデアーレとイーニットは長い歴史があるから」

 

イデアーレ王国がまだ鎖国状態だった時、唯一貿易を行っていたのがイーニット王国だった。確かに仲人としては私は適任だろうが、今回アズモンド王国との関係修復の事でこっちの関係に亀裂がはいるのは裂けたいと、現在なかなか難しい問題を抱えている。

 

『確かに同盟関係ではあるけど蹴っちゃってもいいんじゃない?』

「でもなぁ、アンディートも奴隷解放に向けて凄い頑張ってるんだよね....」

『それで少しでも力になりたいって?』

「うん」

 

はぁと大きめなため息をつかれたあと、ムームアはあのねぇと私を叱るように続けた。

 

『レナータは甘いよ!!』

「えぇ....」

『相手が頑張ってるからって、ほいほい簡単に手を貸して自滅してたらわけないでしょ!?』

 

まぁ、そうだけどと何故子供に説教されているのか疑問に思っていると聞いてる!?と怒鳴られて生返事をした。でもこう言ってはいるが、ムームアもアンディートの力になろうとしているのを私は知っている。

 

『とりあえず、ボクとの会談のセッティングはすぐにするから絶対に時間空けてよね!!』

「この暴君め!!」

『ふふ、なんとでもいいなよ。じゃあ、2週間以内に。よろしくね〜』

「あ、ちょ―」

 

ブッと〈メサージュ〉の切れるの音がして、今度は私がため息をつく。サージェに視線を送ると、お疲れ様ですといつの間にか出来ていたスケジュール表を渡される。恐らく私達が話している間に素早く作ったのだろう。さすが、仕事のできる男だ。

 

「シヴァ王様はどのように仰られておりましたか?」

「2週間以内にこいって」

「では....」

 

そういいサージェが執務机に置いたスケジュール表を指さし、この日ならと指で円を書く。

 

「8日後であれば調整出来ると思われます」

「そうだねぇ....みんなで食事会するの楽しみにしてたんだけどな〜」

 

8日後には従者達と過ごす時間を取ってあった。私達はそれぞれ大切な役割があるため全員が集まって何かすると言うのは、私が命令しない限り少ないのだ。少ないと言うより、ほぼ無いに等しい。

 

「私も楽しみにしておりました...ですが、シヴァ王様との会談となれば私共は納得し、我慢出来ます」

 

レナータ様との時間....と悔しそうな顔をするサージェだが、貴方はほぼ私と一緒にいるじゃないかと思いながら皆に連絡するように伝える。

と、思いったがみんなの顔が見たいので謁見の間に集合させてと後ずけでサージェに言うと、私は立ち上がった。

 

 

 

 

―

 

 

 

謁見の間について、サージェと皆を待つ。この部屋はかなり広いがいつもどうやってこんなに綺麗に掃除しているのだろうと疑問に思い、キョロキョロと周りを見渡した。

そして最初は座るのを躊躇していた王座にも今は普通に座れるようになった。人の適応力は凄い。

 

「なかなか来ませんね....申し訳ございません、皆久々に集まるので身支度に時間を掛けているのやも知れません」

「ははっ、いいよ待つぐらい」

「そうでございますか」

 

サージェのにこりとしたいつもの笑みを見て、私も笑顔を返す。そして次の瞬間、何故かゾワっとした嫌な感覚を感じる。

 

「―っ!!」

「レナータ様?」

 

これは、敵意?....いや殺意だ。

私はその発生源を部屋をぐるっと見渡して探すが、この部屋には私とサージェしかいない。と、窓に人影が見え激しい音を立ててその窓が突き破られる。

 

「レナータ様!!」

 

サージェが私を庇うようにして相手を警戒して立つが、入ってきた人物は足甲の音を鳴らしながらゆっくりと近づいてきた。私は体内から神器を取り出していつでも戦えるようにする。

 

「急に窓からこんにちはって、失礼じゃない?」

「....」

 

私が話しかけるがその人物、彼女は無反応だ。ベールの付いた冠を被り、紺色のマントの深いフードで顔はよく見えない。しかしコルセットから見える豊満な胸から女性であることが分かるが、情報が少なすぎる。

運命に選ばれし王になってから何度か暗殺されそうになったことはあるが、こんな正面から堂々来たの人は初めてだ。

余程自分の力に自信があるのだろう。

 

「すぐに帰りなさい」

 

命令するように言うが、彼女はまた無反応。というより会話する気がないのか、さっきから私ではなくサージェの方を向いている気がする。ベールで表情が見えないのでどういう感情かまでは掴めない。

 

「レナータ様からのお言葉でございます。素直に受け入れ―」

 

サージェが彼女に話しかけると、一瞬のうちにサージェの傍まで踏み込んで鳩尾に肘を叩き込む。苦しそうな声を上げたサージェを見て私は彼女に殺意を覚えて斬りかかるが、それは簡単に避けられて今度はサージェを私から引き離すように蹴り飛ばす。

 

「貴方....やってくれたね」

「....」

 

表情は見えなが、笑っている気がする。それにまた私は腹を立てて剣を構えるが、彼女はすぐさま移動してサージェの首を掴みグッと持ちあげると彼を盾にするように私に突き出した。

下手をするとサージェを斬ってしまうかもしれないと、私は焦りながら彼女を観察する。

 

「彼を離しなさい!!でないと本当に斬り殺すよ!!」

 

私は覚悟を決めて、彼女と戦おうとするが彼女は不意に顔に手を持っていくと恐らくベールをめくった。恐らくというのはサージェの体でこちらからは見えないからだ。

 

「―な、何故...!?」

 

サージェは激しい戸惑いの声を上げて、先程までしていた抵抗をやめる。彼女はベールを戻して、サージェを投げ捨て私に向き直った。かなりのスピードで壁に叩きつけられたサージェは気を失ってしまったようで、私は彼女を睨みつけた。

 

「私を殺したいなら来なさいっ!!」

「....じゃあそうさせて貰うわ」

 

初めて言葉を発した彼女は、それを体内から取り出した。運命に選ばれし王しか持たないはずの神器。

それも、私と全く同じ―

 

「殺しはしないわ、ちょっと眠ってちょうだい」

「―っ!!」

 

私が戸惑っていると、彼女は距離を詰めて私に斬りかかる。それを受け止めるが、彼女の力は尋常じゃない。運命に選ばれし王である私が押されるほどの相手、私は何が何だか分からなくなる。

 

「〈インベイジョン・インパクト〉」

 

片手の神器を体内にしまうと、片手で私を押さえ込みながら魔法を放つ。至近距離で放たれたそれに私は避けるすべは無く、その身で受け止める。

 

「―ぐっ、がぁ...!!」

「このぐらいじゃ死なないわよね?運命に選ばれし王様?」

 

痛い。これ程の痛みを感じたのはアンディートやムームアと戦った時以来だ。私は意識が飛びそうになるのを我慢しながら、彼女の剣を受け流し後退して距離を取った。

 

「な、んなの...貴方は...」

「さぁ、私にも分からないわ」

 

彼女は軽く笑うと剣を軽く振る。あれは『グランデ・スパーダ』、私の神器とそっくりどころか同じ力を感じる。しかし、1つだけ私の物と違うのは赤く光を放っているところだろうか。

 

「これが気になる?」

「まあね」

「答え合わせは、今度にしましょう、かっ!!」

 

ガキンッと音がして、私はまた彼女の剣を受け止める。あと一瞬でも反応が遅れていたら、私の首は飛んでいたかもしれない。殺すつもりはないとか言っていたが、ビリビリと感じる殺意はどう説明するんだと思いながら彼女の猛撃を受け止め、受け流し、避けることだけに集中した。

 

「逃げてばっかりね、レナータ・ヴィシュヌ」

「こっからだよ」

「....貴方は皆の王には相応しくない!!」

 

そういい思い切り放たれた彼女の斬りつけに私の双剣がその威力に耐えきれず手から離れてしまう。ブンッと遠くまで飛んだ神器を見て、私は思う。

 

負ける....?

 

彼女は自分の神器を体内にしまい、私の首を掴み高く持ち上げるとまた笑う。私は彼女の手を掴み、顔を狙って蹴りを放つがそれは簡単に払われて首を絞める力が強まる。

 

「....ぐ、ぁ...」

「最後に教えてあげる、私の名はレトロ」

 

そういい遠くなる意識の中、苦しさでもがいた手が彼女のベールを剥がす。彼女は落ちたベールを目で追い一瞬驚きの表情を見せたが、まあいいわと言い私に向き直る。

 

「―っ!!」

「イデアーレの国王に相応しいのは、私よ」

 

ついに視界が白くなり、意識が飛ぶ私が最後に見たのは

 

自分と全く同じ顔で笑う彼女の姿だった―

 

 

 

 

 

―

 

 

 

 

 

「みんな、よく集まってくれたわね。面を上げなさい」

 

私は王座に座り、跪くキーパーソンのみんなを見て微笑んだ。やっと、やっとこの日が来た。数百年の準備を経て、私の願いがやっと叶ったのだ。だが、皆の顔は暗い。あの女のせいだ。

 

「あの出来損ないの前王の事は忘れなさい」

 

私がそいうと、皆がピクリと動き私にある感情を向ける。

 

敵意。

 

私は王座の肘掛に拳を叩きつけると、皆に怒りをぶつける。

 

「私に逆らうな!!誰に向かって敵意を向けてるの!?」

「....申し訳ございません」

 

謝ったサージェに私は分かればいいのよと微笑んで、皆の顔を見渡す。ああ、私の愛しい愛しい子供たち。また会えた....

 

「私が新しいイデアーレの国王、レトロよ」

「はい、レトロ様。なんなりとお申し付け下さい」

 

私はそうねぇと、考える仕草を見せる。数百年の間練った計画だ、本当はやることは既に決まっているが皆と一緒にいるの時間を少しでも伸ばしたかった。

 

「私と、サージェ、エンド、あとルポゼでこの国全体を覆うように結界を張るわ。この国に誰も入れないで」

 

外からの攻撃を避けるためでもあるが、本来の目的は誰も外に出さないためだ。誰も逃がさない。

名を呼ばれた3人は驚いているようだったので、一瞬何故だと疑問に思ったが直ぐに理解した。

 

「皆の名前ぐらい、知っているわ。当然でしょ?」

 

私は笑う。

大好きな、大好きなみんな。

もうあんな悲劇は起こさせない。

 

必ず、私が―

 

 

 

 

 

―

 

 

 

 

 

はじめに感じたのは、体のだるさ。わたしはぼんやりと浮上する意識のなか、今はなんじだったかと徐々に意識を取り戻しハッとする。

 

「サージェ!!」

 

起き上がろうとした体は何かに阻止されて、私はそれを見る。私の体は真っ赤な縄で縛られており、力を入れるがそれは引きちぎることは出来ない。引きちぎれないと言うより、縄を引きちぎる力すら出ないのだ。この酷い倦怠感は....

 

「ムームアが言ってたやつ...?」

 

確かムームアは竜人を封印する縄があると言っていた。彼はそれを解いて椅子に使っていたのでちゃんとした現物を見たことは無かったが、恐らくこの赤い縄がそれなのだろう。

起き上がろうにも、その力さえ出ない。私は情けなさでため息をつく。

 

「(それにしても....)」

 

周りを見渡すと、固く頑丈な石材で出来た床と壁に、目の前には図太い鉄の棒が並んでいる。この暗くジメジメとした部屋は、城の地下にある牢屋だ。

 

私がレトロと名乗る女のベールを取った時見た顔は、私と全く同じだった。相手の姿形を真似るアビリタでも使えるのかと考えるが、ではあの双剣は何だとまた疑問がわく。

神器はその人の性格や能力からその人物に1番合う物が与えられる。なので単に私と同じく双剣が彼女に合っているからそれを持っていると言う可能性はあるが、あれは私の神器と、似ているレベルでは無い。全く同じ物だ。

 

「というか、運命に選ばれし王じゃないのに神器持ってる自体....」

 

そこで嫌な考えが浮かぶ。

アンディートかムームアが死んでしまい、新しく王が選ばれた可能性。そんな事ないと頭で繰り返して、その考えをするのをやめる。第一、私は見てしまったのだ。寄せあげられた胸で全ては見えなかったが、ヴィシュヌの王の証が彼女の胸には刻まれていた。私の王の証はちょうど胸の谷間付近にあるので少しは見えるかもしれないが隠そうと思えばギリギリ隠せる。

 

「あー、もう。意味が分からない....」

 

しかし、私が諦めたらこの国を、大切な従者達を誰が救うのか。そう思うと私は力の入らない体を無理矢理動かして上半身を起こす。檻から外を見ると、私を監視するように手に槍を持ったうごうごと揺れている闇の塊のような何かと目が合う。いや、目は無いので私がそう感じただけだが。

 

「逃がす気はないみたいだね」

 

私が呟くと、その黒い塊は槍の柄頭を床にゴッとぶつけ威嚇しているようだった。あいつ自分の意識とかちゃんと持ってるんだ。

 

「〈メサージュ〉....無理か」

 

城の牢屋は特別製。魔法やアビリタは使えないようになっている。物は試しだと使ったのはいいが、魔力が少し減っただけでなんの収穫もない。このままアンディートかムームアが気づいてくれるのを待つだけなのかと自分の無力さを情けなく思いながら、私は壁に寄りかかった。

 

 

 

 

 

―

 

 

 

 

自由にして良いと言われて、私達はそれぞれの自室に戻ったように見せて内密に集まる。絶対に気づかれないように偽装工作をしながら、そして隠密行動に長けているテゾールに1人1人連れてきてもらい、やっと全員が集まった。

 

「皆、あのレトロ様に従うのかどうか、私は率直な意見を聞きたいです」

 

あの御方に敬称を付けるのにはちゃんと理由がある。それが今、皆がレトロ様に従うかどうか悩んでしまうと理由でもある。普通ならばレナータ様を無礼にも牢屋に入れて、自分が女王だと名乗る不届き者に従うはずがない。しかし....

 

「雰囲気は全然違いますが、あの御方から感じるものは....確かにレナータ様と同じものです」

 

ルポゼは顔を伏せてそう言った。皆もそれが分かっていて自分たちがどうすれば良いのか考えあぐねている。

 

「しかし、別名を名乗っている以上レナータ様と同じだと考えるのは、レナータ様に対して不敬な考えではないのか?」

「エンド、あまり苛立つのはやめなさい。戸惑う気持ちは皆同じです」

 

先程から、エンドは眉間に皺を寄せて苛立っている雰囲気を隠せていない。私が彼に叱咤すると彼はため息をつき、すまないと小さく謝る。

 

「僕、あの御方はレナータだと思うんですけど...違うんですか?」

「そうするとレナータ様がお二人存在することになりますから、非現実的ではあります」

「私達は、レナータ様がどう変わろうと、レナータ様がレナータ様である限り付き従うのが当然だろう」

 

エルバトとアルマはレトロ様に従うようだ。私はまだ迷いがある。もし反対派がいてその者とぶつかるのは危険なので、エルバトとアルマには自室に戻ってもらうことにした。

部屋に残ったのは6人。

 

「難しい事はよくわかんねぇけどよ、アルマの言うことは正しいんじゃねぇか?」

「あたしもそう思う....」

「....分かりました」

 

ディーフェル、アタリルも従うことを決めて部屋を出た。

あと4人。

 

「....私、レトロ様から時折優しいものを感じるんです。私は、それを信じたいです」

 

ルポゼがそう言って席を立つ、最後にごめんなさいと申し訳なさそうに言い部屋を出る。何も謝ることは無い。私だって迷っている。

あと3人。

 

私はテゾールに視線を送った。彼は笑い、当然私はと言って席を立った。

 

「レナータ様はエンドを選びましたが、レトロ様なら私を選んでくれるかもしれません。私はレトロ様に従いますよ」

「お前....それはレナータ様に対する侮辱と捉えるぞ!!」

「そう捉えてくれても構いません。愛情という気持ちは皆が同じく形という訳ではありませんから」

「....見損なった、早く俺の視界から消えてくれ」

 

エンドとテゾールがいつものようにいがみ合いをしているが、今の私にそれを止める気力はない。テゾールは話は終わりですと言い部屋を出る。

あと2人。

 

「私達は...どうすれば良いのでしょう...」

「確かに、皆が言うようにレナータ様がどうお変わりになったとしても、付き従うのは当然かもしれない。では、今牢に入れられているレナータ様は誰が救うことが出来る?」

「そう、ですよね....」

「俺は...殺されてもいい。レトロ様には従わない」

 

エンドも部屋を出る。私は1人残された部屋で、空を仰ぐ。涙が出そうだ。こうして私達がバラバラになってしまうような状況に。これが、レトロ様の望むことなのだろうか?

 

「私は....」

 

キーパーソンのリーダーとしてどうすれば、何をすれば正解なのか。

 

私には分からなかった。

 

 

 

 

 

―

 

 

 

 

 

「(消えろ....消えろっ!!はいっ!!)」

 

私は強く念じる。檻の外にいる私の見張り番の黒いうごうごと蠢く何かに。

 

「(まぁ、消えるはずもなく....)」

 

分かってはいたが、ただただ誰かの助けを待つよりかは自分も何か行動するの大事だと思い色々試してみていた。その1つが見張り番に消えろと念じる、だ。

 

「(誰も助けに来ない、ってことはやっぱり)」

 

レトロは、レナータ・ヴィシュヌと同一人物だ。

私が出した結論はこれだ。誰かが私の姿を真似ている可能性もあるが、それならその分野に長けたテゾールが必ず見抜くはず。それに大半の時間を共に過ごしているサージェなら私の歩き方の癖や、よくやる仕草も分かるだろう。姿だけ真似ても中身は術者のままなのでそのような所でバレるという話は多い。

 

「(レトロが私なら...誰も逆らえないだろうなぁ)」

 

皆の絶対なる忠誠心は、私が1番分かっている。自分の大切な人が2人になって、その2人が対立してしまったらどちらに味方すればいいか間に挟まれた者は戸惑うだろう。だから、私は従者達が助けに来なくても責める気持ちは無い。それどころか来ないで欲しい。

 

「(もし私を助けでもしたら、殺されるかもしれない)」

 

そんな事あってはいけない。レトロが私だというならその可能性は低いが、絶対に無いとは言いきれない。現にサージェを痛めつけていたので、従者ではなく国を手に入れるのが目的なのかもしれない。

 

「(どれだけ憶測してもね...)」

 

1番いいのはアンディートかムームアが気づいてくれる事だ。ムームアは2週間以内に会談のセッティングすると言っていたのでその間に連絡がなければあっちから〈メサージュ〉を飛ばすだろう。それが通じない私を不審に思って来てくれればいいが...

 

『ボアアアアアッ!!』

「ひっ....何!?」

 

シュパッという音が聞こえたと思うと、私が先程消えろと念じていた見張り番が叫びをあげて消えていた。まさか私の念が効いたのかと喜んでいると、声が聞こえた。

 

「レナータ様...ご無事ですか」

「その声は...テゾール?」

 

檻の外から聞こえたのは、テゾールの声だ。恐らく不可視化のアビリタを使っているのだろう。私は出せるめいいっぱいの力でもぞもぞと檻の側まで寄った。

 

「ああ、そのような姿にされて...レナータ様を縛るのは私がしたかったです」

「....うん、遠慮しとく」

 

私を縛って何をするつもりなのだろうと思うがそんな事を考えている場合では無い。そして私が鍵を開けてと頼もうとすると、カツカツと小さく足音が聞こえてくる。私はテゾールに離れてと命じると、いかにも私は無力ですという感じを出して起こしていた体を横にした。

 

「レナータ様っ!!」

「エンド!!」

 

大きな声を出してしまい、互いにシーッと合図するとエンドが檻の傍にやってくる。檻を掴み、力技で開けようとするエンドに私は呆気にとられる。この牢は特別製なのでもちろん檻自体も頑丈でいくら従者の腕力でも曲げられない。エンドも焦っているのかぐいぐいと檻を曲げようとしている。

 

「エ、エンド...」

「待っていてください、レナータ様っ!必ずや....」

「退きなさい馬鹿、私がやります」

「―っ!?」

 

テゾールがいると知らないエンドは、急に声が聞こえビクッと体を跳ねさせる。不可視化のアビリタを解いたテゾールは牢の錠をいじる。

 

「エンド、アビリタの強化を」

「あ、ああ...〈技力強化Lv5〉」

「〈解錠技術〉」

 

ガチャっと音がして牢の鍵が開く。運命に選ばれし王が神器でやっと破壊できるレベルの錠が、テゾールの手に掛かれば一瞬で開いてしまう。いつもいがみ合いをしているエンドとテゾールがこうして協力してくれているのが嬉しくて、私は2人を抱き締めよう....としたが、縄で縛られているのを忘れていた。

 

「この縄は....私達には効かないようですね」

 

テゾールが軽く縄に触れたあと取り出したナイフで簡単に縄を切ってくれて、私は伸びをした。牢を出ると2人は跪きこうべを垂れた。

 

「ど、どうしたの?」

「お助けするのが遅れて申し訳ございません」

「俺達は....」

 

2人はレトロに加担してしまったのが後ろめたいのだろう。私は顔を上げてと言うとそのまま抱き締める。2人は戸惑っていたが、抵抗はしないので抱き締める力を強くする。

 

「私は怒ったりしないよ」

「しかし...」

「大丈夫、大丈夫だから」

「....」

 

 

 

「あらあら、感動的ね」

 

「―っ!!」

 

 

ぱちぱちと拍手をしながら私達を見ているのは、レトロだ。足音は聞こえなかったので恐らく転移魔法で来たのだろう。私は立ち上がり2人を庇うように立つと、彼女を睨みつけた

 

「私のシャドウが消されたと思ったら....」

 

レトロの視線は私の後ろにいるエンドとテゾールに向く。2人をギッと睨むと胸から神器を取り出す。

 

「貴方達2人は後でお仕置きよ」

「私がそんな事させる訳―」

 

私も同じように神器を取り出そうとするが、出ない。

 

「もちろん神器もマジカルボックスも没収に決まってるでしょ?」

「なら素手ででも抵抗する」

「はっ、ご自慢の鎧も無しに?」

 

確かに、今の私は丸腰だ。しかしこんな所でやられる訳には行かないと形態変化をして少しでも力を上げる。が、私の後ろにいた2人が今度は私を庇うように立ち、武器を取り出して構えた。

 

「....どういうつもりかしら?」

「もうレナータ様を傷つけさせはしません」

「私に逆らうつもり?....退きなさいっ!!」

 

レトロが距離を詰めてエンドの腹部に拳を叩き込むと、そのままテゾールの頭部に回し蹴りを放つ。2人が一瞬で倒れ込むのを見て、私は素手でレトロに殴り掛かる。

 

「馬鹿ね、そんなので勝てるわけないでしょ!!」

「―ぐぁっ....!!」

 

レトロの赤く光を放った双剣が私の体を引き裂き、後退しようとする私の首を彼女は逃がさいないといわんばかりに強く掴む。

 

「あ゛ぁがぁ....っ!!」

「〈トゥー・ドレイン〉」

 

彼女が魔法を使い、私の腹部を剣が貫通する。それと同時に体力、魔力、技力、全ての力が吸われているのが分かった。私は出せるだけの力で彼女に抵抗するも徐々にその勢いも弱まっていく。

 

「終わりね」

「レ、ナータ様....っ!!」

 

テゾールが立ち上がり持ったナイフでレトロに斬り掛かる。レトロは私の首を掴んだまま剣でそれを受け止めると、軽く笑う。

 

「雑魚は引っ込んでなさ―」

「〈耐性能力低下〉〈ハルシオン〉!!」

「―っな...このっ...!!」

 

エンドの放った幻術でレトロが困惑し、私の首から手を離す。その隙に後退して荒い呼吸をを整えた。腹の傷は酷く血が止まらない上に、力もほとんどレトロに吸われてしまった。私がどうしようと作戦を練っていると、再び2人が私を庇うように立った。

 

「レナータ様、お逃げください!!」

「で、も...2人を置いていくなんて...」

「俺達は、貴方様さえ生きていれば―」

 

その時、エンドの言葉を遮るようにガシャッと音がし、そこに視線を向けるとレトロが剣から手を離していた。顔を押さえてダラダラと汗を流し、体を震わせている。

 

「―ぁ、ぁあっ!!いや、ぃやあぁぁああっ!!!!」

 

何が起こったか分からないが、叫び出すレトロを見て私はチャンスだと思い魔法で天井を破壊するとエンドとテゾールの手を掴む。

 

「早く、逃げるよ!!」

 

しかし2人は―私の手を離す。

 

「申し訳ございません、レナータ様...」

「私達は、あの御方を1人に出来ません」

「でも、殺されるかもしれないのに...!?」

 

テゾールが失礼しますと言い私を突き飛ばすと、エンドが私と自分たちを隔てるようにシールドを張った。私の力なら少し本気を出せば拳だけでこのシールドを破壊できるだろう。だけど....それをしてはいけない気がした。物理的な問題ではない、心の問題だ。

 

「お逃げください....どうか....」

「....」

 

その瞳を見て、私は2人に背を向けて飛び立った。今の私では役に立てない。もし私が殺されたら、皆を道連れにしてしまう。

 

「わた、し...主人として、失格だよ....」

 

痛む腹を抑えながら私は出せるだけのスピードを出して、遠くへ、遠くへ飛んだ―

 

 

 

 

 

 

―

 

 

 

 

 

 

「レナータ様、お逃げください!!」

「嫌よ!!私も戦う!!」

 

エンドに強く手を引かれて、私は走っていた。城の中には見慣れた使用人の死体が転がっており、血の匂いは消えない。

 

ブラフマー王がこの国を攻めてきて数日。神器も鎧も破壊されて、ブラフマー王との戦闘でボロボロになった私はみっともなく城内に逃げた。国民も捕虜にされ、都市も占拠されたと報告があり、私は敗北を確信した。

 

 

しかし、アンディート・ブラフマーは私が死ねば手を引くと言う。

 

 

「まだ、戦える!!手を離して!!」

「その命令は聞けません!!」

 

走る、走る。どこに向かっているのかも分からず、私はただただエンドに連れられて走った。時折転びそうになる彼の右腕は、戦闘でなくなってしまった。それを見ると、涙が止まらない。そして、体に激痛が走る。

 

「―がぁっぁあっ!!」

 

この痛みは、従者が死んだ時のものだ。もう4回は経験した痛みに、私はまた泣き出す。

 

「また、誰かが....!!」

「....行きましょう」

「嫌だ!!もう誰も死なせたくないの!!」

「俺達は、貴方様さえ生きていれば良いのです!!」

 

振り払った手をまた力強く掴まれて、走る。もう嫌なのに、誰も死んで欲しくないのに、従者はそれを望んではいない。

 

「テゾール!!」

「エンド、やっと来ましたか」

 

城の裏口から出ると、そこにはテゾールが待っていた。

 

「テ、ゾール...」

「レナータ様を頼んだぞ」

 

エンドが私から手を離すと、今度はテゾールが私の手を引いた。そして私の手を掴んでいたエンドの手には、杖が握られている。

 

「エンド!!一緒に―」

「申し訳ございません、最後までお供する事が出来ずに...」

「最後って!!なんで!?」

 

エンドはテゾールを見ると軽く頷いて、私に背を向けて走り出す。私はまた手を引かれて連れられることしか出来ない。不可視化のアビリタを使いテゾールと森を抜けて、逃げて、逃げて、数時間後やっとイデアーレの領域を抜ける。その間に3回私に死の痛みが伝わっていた。もう、従者はテゾール以外に生きてはいない。

 

「はぁ...はぁっ...」

「このままイーニット王国まで逃げましょう」

 

そう言って私を安心させるように笑顔を見せたテゾールに、私は少しだけ気が緩む。

 

「貴方様さえ生きていれば、私達は―」

 

 

 

その時、ドスッと音がしてテゾールの口から血が流れた。

 

 

 

彼の胸からは銀色の何か、いやレイピアが突き出ていてそれがスッと抜かれ、倒れるテゾールの背後に誰かがいた。私は心臓部に激痛を感じて、呼吸を荒くしてその人物を確認する。

 

「いやぁ、俺って剣術も早業だけど足も早いんだよね」

 

そう言って持っていたレイピアについた血を払った男は、アズモンド王国の兵士の服を着ている。しかしテゾールに避ける隙すらみせないその技は、普通の兵が使えるものでは無い。

 

「ブラフマー王の従者....」

「大正解!じゃあ、死んでもらおうかなっ!!」

 

レイピアの突きを放つ従者の一撃を避けて、バランスを崩して倒れると、目の前でテゾールが消えていくのが見える。体が光り、それが粒となって散っていく姿は一見綺麗に見えるが、私には絶望の光景にしか見えない。

 

「あ゛ぁあ゛ぁああっ!!!!」

「―っ!!」

 

私は立ち上がり、ブラフマー王の従者に殴り掛かった。その一撃で彼の体が飛ぶが、私はそれを追いまた殴る。ゴキッと骨の折れる音が、グチャッと何かの潰れる音がするが、私は拳を止めない。何度も何度も怒りに任せて拳を振るうと、顔の原型を留めていない彼の体が光り出す。

―死んだ。

 

「はぁっ...はぁっ...!!」

 

私は立ち上がる。この名も知らない従者も死んだが、私の大切な、大切な従者も皆死んでしまった。私さえ生きていればと皆逃がしてくれたが、私が生きていて、何が残るのだろう。

 

「―」

 

立ち尽くす。一番大切なものを無くした私に何が残るのだろう。自問自答を繰り返すが何も分からなかった。

 

「....ぁああ、あ゛ぁあ....な、んで....」

 

泣いても、誰も帰ってこない。精神力の残っていない自分では、生き返らせることも出来ない。自分の無力さに涙が止まらなかった。みんなにまた会いたい。ただそれだけを願った。

 

声が聞こえたのは、その時だった。

 

 

 

 

 

―

 

 

 

 

 

「―っ!!」

 

私が目を開けると、そこは見慣れない天井だった。確か自分はレナータを捉えようとしていたはずだがと記憶を辿るが、ひどい頭痛がして頭を抑える。それに、いやな夢を見た。思い出したくないが、忘れては行けない私の罪。

 

「...レトロ様」

 

思いがけず声をかけられて、急いで体を起こして声の主を見るとそこにはルポゼが立っている。敵ではないことに安心して、私はため息をつく。

 

「お水を飲まれますか?」

「要らない、出ていって」

「ですが...」

「出てけって言ってるでしょ!!」

 

ルポゼは顔を伏せると、申し訳ございませんと一言私に告げて部屋を出ていった。足音が遠ざかるのを確認して、私はマジカルボックスを探る。

そこからアイテムを取り出して、魔力で空に浮かべて並べた。

 

金の装飾に赤い宝玉のついた杖。青いクリスタルのついた黒い柄の杖。大きな真紅の手甲。スカイブルーの宝石のついたタワーシールド。紫のクリスタルがついた黒い柄の槍。鍵の形をした変形型の武器。緑色で柄が描かれた魔術書。そして金のガードに赤いクリスタルのついた大剣。計8つ。

 

全て遺品だ。

 

正確には本物ではなく、彼らの持っていた物のレプリカ。従者に与えたものは、その者が消滅するのと同時に消えてしまう。私は記憶に焼き付いた皆の武具を作り、時折こうして並べては自らの罪を思い出すのだ。

 

「ごめんね...本当はあんな事言いたいわけじゃないの...」

 

私は青いクリスタルのついた杖を引き寄せてそれを手に取ると、軽く撫でる。

 

私が全てを失ったあの日、私は神の声を聞いた。「この世界の最後の生命体になれば、願いを叶えてやる」と。私はそれを疑いもせずに実行した。本当に皆に、従者達にもう一度会えるならどんなものにでも縋りたかった。何もかもを破壊して、殺して、殺して、毎日人を殺した。街を、国を破壊して、森を焼き払い、生きるもの全てを消し去った。あの忌々しいブラフマー王も―

 

「私は今度こそ...みんなと生きるわ....」

 

 

 

 

―

 

 

 

 

寒い、最初に感じたのはそれだ。

次に川の流れる音に、鳥の声。私は閉じていた目を開き、ぼんやりとした視界のまま周りを見渡す。

 

「な、に...してたん、だっけ...?」

 

下半身は川に浸かっており、上半身は陸に倒れ込むような格好。そして腹部からの出血。まさに命からがら逃げ出したという様に、私は記憶を取り戻す。

 

そうだ、自分は逃げ出したのだ。

 

思い出して、すぐに陸に上がるとよたよたと歩き出す。早くイデアーレに戻らなくては。しかし戻ったところで今の自分に何が出来る?というかここは何処だ?

グルグルと視界が周り、私は地面に倒れ込んだ。また起き上がろうとするが、力が出ない。

 

「(ここで...死ぬなんて....)」

 

私は手を伸ばす、誰か、誰か。私を―

 

 

 

 

「おい、大丈夫か嬢ちゃん」

 

 

 

聞いた事のあるような声を聞き、私は安心するようにまた意識を無くした。

 

 

 

 

 

....

 

 

 

 

 

パチパチと暖炉の焚き火の音がして、私は良い香りを嗅ぎながら再び目を覚ます。知らない場所だ。シンプルな小屋、感想はそれぐらいだろうか。私は柔らかいソファーに寝かされている。

 

「おう、目が覚めたか」

「―」

 

私は声の主を見て、声が出せなかった。もうこの世には居ないはずの、私の―

 

「師匠!?」

「....は?」

「い、生きてたの!?―っ痛たた....」

「いきなり叫ぶんじゃねえよ、傷が開く」

 

勢いよく半身を起こした私をまた寝かせて、スープ飲めるか?と問いかけてくる彼は、私の記憶の中の師匠と同じだ。まさか、アンディートの言った通り本当に生きているなんて思ってもみなかった。私は嬉しくなって彼の腕を掴む。

 

「師匠、生きててくれて嬉しい!!私―」

「ちょっと、待ってくれ」

「....?」

 

スープをテーブルに置き、椅子をよいしょとソファーの側まで持ってきた彼は私に向き直る。そして眉間に皺を寄せて私をジロジロと観察する。

 

「師匠って、俺の事か?」

「わ、私の事覚えてないの?」

 

私はまた体を起こして、師匠の手を握る。

もしかして、あの時自分を刺した私の事を恨んで知らないふりをしているのかと、私は目に涙を溜めた。

 

「お、おい!!泣くな!!」

「ごめん、なざい...!!私が、あの時....!!」

「....悪いが、俺は記憶がないんだ」

「―ぇ....」

 

彼はポリポリと頬をかくと、首を傾げる。

 

「気がついたらな、なんか森に立っててよ...」

「それって、エリチ森?」

「おお、よく分かったな!!」

 

やっぱり、ドリューのいた洞窟のある森だ。恐らくだが師匠は私に刺されたあとドリューから逃げることが出来て、ショックで記憶を無くしてしまったのかもしれない。

私のせいだと思うとまた涙が出た。

 

「わ、わたし...あなたの、ことっ、しってます!!」

「泣くなよ...でも、俺の事知ってんなら教えてくれ!!」

「は、はいぃ....」

 

私は知っていることを全て話した。私が異世界から来たことを信じてくれた事、剣術を教えてくれくれた事、一緒に旅したこと、そして...殺そうとした事。

 

「なる、ほど...」

「私、ただ師匠に喜んで欲しくて....だけどっ、あんなことに....」

「泣くなって、大丈夫だ。現に生きてるしな!!」

 

ガハハッと笑う師匠は私の背をベシンッと叩き、傷が開くとか言っていなかったかと思いながら私も笑う。私の知ってる師匠だ。そして不意に、真面目な顔をしたと思うと私の頭を撫でる。

 

「お前は、今まで自分のこと責めてきたんじゃないか?」

「....」

「多分だけど、いや、絶対俺はお前が自分のために頑張ってくれて嬉しかったと思う!!だからもう自分を責めんな!!」

「あ、ありがとうございます...」

 

安心した私はお腹を鳴らしてしまい、恥ずかしがる私に師匠はさっきのスープを渡す。不格好な野菜が入った、優しい味のスープだった。しばらく黙々と食べていると、師匠は私を見つめる。

 

「こういうこと聞くのもあれかもんしんねぇが...」

「ん?」

「その腹の傷、どうしたんだ?」

 

私は空になった器を師匠に返すと、どう話したものかと悩む。さすがに急に闇堕ちしたみたいな自分が現れて国を乗っ取られたなどとは信じてもらえないだろう。もしかしたら私が運命選ばれし王だと言っても笑われるかもしれない。

まぁ師匠の事だし、と思い全て話してみる。

 

「そりゃ大変だな...」

「し、信じてくれるの!?」

「おう」

 

やっぱり師匠だなぁと思いながら、私はソファーから降りる。着替えさせられていた服を着なおして、髪をいつもの様に束ねたあと、ソードホルダーに私の持っている中でも強いランク5の剣を2つ刺すとぺこりと師匠に頭を下げる。

 

「助けてくれてありがとうございました」

「いや、何処にいく」

「従者達を助けに」

「その役に立たねぇ体でか?」

 

グサッと師匠の言葉が胸に刺さるが、私はこのまま逃亡生活をして従者達を見捨てるのは絶対に嫌だった。もし、レトロに喜んで従っているなら少し考えたかもしれないが、皆迷っているように私は感じた。

 

「私は国王として、国を守る責任がある。今イデアーレは結界が張ってあって完全に封鎖状態みたいだし、それってもう軟禁じゃない?」

「それはそうかもしれねえが...」

「私も...本当はどうしたらいいか分からない」

 

師匠は椅子から勢いよく立つと、よしっと手を合わせて部屋の奥に言ったと思うと、剣を持ってきた。

師匠の使っていた剣だ。

 

「お前に」

「はい」

「必殺技を教えてやろう!!」

「...必殺技!?」

 

師匠は二カリと笑うと、俺だってずっと暇してたわけわけじゃねぇんだぜ?とまた私の背を叩く。昔のように師匠に剣を教われるのかと思うと、私は嬉しくて笑った。

 

 

 

 

 

―

 

 

 

 

カチャカチャと食器にナイフとフォークの当たる小さな音だけが聞こえている。テーブルのを囲むのは7人。いつもなら9人なのにとあたしは心の中で不在の人物の事を思う。

レナータ様が居なくなったあの日から1ヶ月が経った。反逆罪としてエンドとテゾールは牢屋に入れられて、あたしは殺されなくてよかったと安堵した。

そして街にいたあたし達4人も城に連れ戻されて、従者全員がこの城から出ないようにと命令された。レナータ様と同じように、こうして気まぐれにレトロ様も食事会をするが同じ食事会でも漂う空気が全然違う。

 

「アタリル、私との食事中に考え事かしら?」

「も、申し訳ございませんっ!!」

 

レトロ様は優しく声をかけるが、その顔は怒りに染っている。あたしは必死に謝り許しを乞う。レトロ様はため息をつくと、また食事を再開した。

 

レトロ様に従うというこたは自分で決めたことだが、本当にこれでよかったのかと思う。レトロ様に従うという事は、レナータ様を見捨てるということなのではないか、最近はそればかりを考えている。

その時、ガシャンッと音がしてテーブルが揺れる。あたしはハッとしてレトロ様の方を向くが彼女の顔は先程より険しい。自分の手が止まっていることにあたしは気づいていなかった。

レトロ様は立ち上がりあたしのところまで来て手を掴むと、そのまま部屋から投げ出される。

 

「この出来損ないめ、部屋に戻って反省しなさい!!」

「は...い...」

 

バタンと勢いよく扉が閉められる。

あたしは1人立ちあがり、涙を堪えながら自室に戻った。

 

「レナータ様....」

 

愛しい主人の名を呼ぶと、堪えたはずの涙が零れてきた。

 

 

 

 

 

 

―

 

 

 

 

 

 

「よし...着いた」

 

勿体ないと少し思ったがランク5のマジカルアイテムで結界を相手に気づかれないように一瞬消して国内には入った。私は城の裏口まで来て、そこにコソコソと近づく。竜人の回復力のお陰で腹部の傷の回復は早かった。刺された部分を軽くさすり、次こそはと私は裏口のノブを捻る。

 

「おわっ!!」

 

が、私がノブを捻るのと同時に扉は勢いよく開き私は誰かに口を塞がれ中に引きずり込まれる。咄嗟にその人物の足を踏み、軽く溝尾に肘をくらわせる。

 

「ぐぁっ!!そ、某にございます....」

「ルイス―」

 

私が大きな声を出しそうになるのを、また口を塞がれ止められる。静かにとジェスチャーしたルイスに私はこくこくと頷くと、手が離れていく。

 

「どうしたの、こんな所で?」

「貴方様をお待ちしておりました」

 

話は移動しながらと、私達は地下牢に早足で向かう。エンドとテゾールはやはりそこに囚われてしまったらしい。時には使用人の目を避け、自分の城なのにまるで泥棒のようだと思う。

 

「従者様方は悩まれておられるようですが、某は即決でございましたよ」

「何が?」

「某がお迎えし、共にかけがえのない時間を過ごしたレナータ様は貴方様だけでございます。レトロなどには従いません」

 

レトロに敬称を付けずに呼ぶルイスの顔は真剣だ。私はその言葉が嬉しくて、小さくお礼を言う。同然のことでございますと笑ったルイスは私達を見つけてしまった不運な使用人を殴って気絶させていた。...意外な一面。

私の腕力では殺してしまう可能性があるので、ルイスは先導して使用人たちを失神させて行く。

そして地下牢まで着くと、私が囚われていたのと同じ牢に2人は入れられていた。

 

「エンド、テゾール!!」

「「―レナータ様!?」」

 

私は出せだけの力で檻をぐぐっと曲げて広げる。テゾールのように華麗に鍵開けとはいかなかったが、無事に2人を救出することが出来た。私は若干ぼろぼろになった2人を抱きしめた。

 

「遅くなってごめんね」

「何故お戻りに....」

「勿論、私の大切なみんなを取り戻す為に」

 

2人は、悲しい顔をした。それもそうだろう。神器も奪われ、いつもの鎧さえないこんな私が無謀にも恐らくこの世界で最強だろう相手に立ち向かおうと言うのだから。だが私は諦めない。必ず―

 

「私は勝ってみせる。信じて」

「...では俺も戦います」

「それは駄目」

「何故です!?」

 

声を荒らげるエンドに私は小さく首降ると、2人の肩に手を置く。

 

「絶対に手を出さないで。巻き込まれたら...死ぬだろうから」

「死んでも構いません、俺達は―」

「どれだけ言っても無駄だよ」

 

私が頑固なの知ってるでしょ?と笑いかけると、2人は黙り込んだ。納得してくれただろうか。いや、私の言葉だ。納得せざるおえないのだろう。だがそれでいい。

私は2人に背を向けて地下牢から出ようとすると、エンドとテゾールもついてこようとしたので止めた。

 

「せめて、直前までお供させてください」

「....わかった」

 

牢の見張り番を倒したことによって、恐らくもうレトロには私がここに居ることがバレているだろう。

 

私は走った。

 

 

運命に選ばれし王の反応を感じる、謁見の間へ。

 

 

 

 

 

 

....

 

 

 

 

 

やはり、レトロは謁見の間で私を待つように王座に座っていた。階段の下にはエンドとテゾールを除いた従者6人全員が跪いている。ベールで顔は見えないが、私と目が合ったレトロは立ち上がり、拍手をしながら階段を降りてくる。

 

「これはこれは。元女王、レナータじゃない」

「元じゃない、現だよ」

 

レトロは軽く私を鼻で笑ったあと、胸から神器を取り出す。あれは彼女のものでは無い、私の神器だ。それを何故か私の方に投げると、取れと指示する。

 

「丸腰の貴方と戦うのは弱い者いじめみたいで可愛そうだから、慈悲よ」

「...有難く受け取らせてもらう」

 

私は足元に転がった自分の神器を手に取ると、それを構える。そして視線を従者達の方に向けると、心配そうに私を見つめる彼らに小さく笑いかけた。皆私の気持ちを理解してくれているようだ。一緒に戦おうとはせず、ただただ跪き私達の戦いの末を見届けようとしている。

 

「情けなくあの子達に助けてって言えば?」

「貴方も私なら分かるでしょ?そんなことはしないって事」

 

お互いに笑い、それをかき消すように剣がぶつかる。ギギッと嫌な音がなり、私は懸命にレトロの剣を受け止めた。流石に重い。いくら神器を取り戻したとて私の万全の装備がない以上こうやって不利な戦いになることは最初から分かっていた。それに―

 

「貴方のその運命選ばれし王をすら凌駕する力...クアリタが関係してるんじゃない?」

「―っ!!うるさい!!」

 

私の言葉に明らかな動揺を見せた彼女に、私は自分の中にあった仮定が確信に変わる。

 

私のクアリタ『味方が死亡すると自分の物理攻撃力、魔法攻撃力の大幅に強化される』は自動発動系のクアリタだ。

 

これは絶対に使いたくなかった。味方と曖昧な表現だがそれは従者達の事だろう。自分が強くなるためにみんなを見殺しにするなんてしたくないし、誰も死んで欲しくない。私のクアリタは、私の性格に1番合っていないものだった。

しかし彼女はそれを発動した状態にある。誰かに殺されてしまったのか、それとも自分で....自分が強なるために殺したのか。その理由次第で彼女に対する気持は当然変わる。

 

「私の、前から消えてっ!!〈ブラッティ・カース〉!!」

 

右手の剣を体内にしまったレトロを魔法を放つ。真っ赤な林檎のような球体が私に猛スピードで迫り、後退しようとした私の腕を掠った。そのかすり傷から血が大量に溢れて止まらない。

 

「なっ...これだけで...!?」

「もっと魔法を勉強したらどう?」

 

出血に構わずに私は剣を構えレトロを見据える。私はみんなを、この国を取り戻さなくてはいけない。その為ならば自分自身だって....

 

「貴方に、人を殺す覚悟があるのかしら?」

「―っ!!」

「そういう汚れ仕事は全部あの子達に任せてきた...違う?」

 

確かに、私は誰かを直接手にかけるという事をしたことが無い。殺すと言ってもせいぜい魔物ぐらいだ。そんな私を気遣って、暗殺者や罪人などは全て従者達が始末していた。彼女の言う通り、従者達に頼ってきたのだ。

 

「...そうかもしれない。けど、貴方は許せない」

 

私は剣を握り直してある構えを取り、彼女に軽く笑いかけた。その意図を読み取ったのか、彼女も体内に戻した剣をまた握り私と同じ構えを取る。

 

「「〈戦士の心得・強撃〉」」

「「〈戦士の心得・俊敏〉」」

「「〈戦士の心得・強固〉」」

 

私達は同じ技、同じ人物から教わったアビリタで自らを強化する。自分の能力がぐんと上がったのを感じてレトロを見るが、彼女の余裕の態度は変わらない。私がどれだけ強化しても、自分の方が強いという気持ちからだろう。だが―

 

「....〈戦士の心得・強欲〉」

「―っな、何よ....それ!!」

「私のオリジナルじゃないよ?この意味...分かる?」

 

私は彼女の知らないアビリタを使い距離を詰めて斬りかかった。その衝撃で切り裂かれたベールの下のレトロの顔は、驚愕と僅かな恐怖。彼女は考えている、私の言葉の意味を。本当はもう答えに辿り着いたのだろうが、虚言だという気持ちが勝っているのだろう。

 

「嘘だ...嘘だ嘘だっ!!それはあの人に対する侮辱よ!!!!」

「信じられないなら、それでいい」

 

私は剣を弾き返されてそのまま腹部を蹴りつけられる。体が飛ぶが、そのまま形態変化をして翼を拡げスピードを落とす。体勢を立て直したばかりの私にレトロは怒りながら斬りつける。

 

「〈瞬間回避〉!!」

「こ...のぉっ!!」

 

受け止められる一撃ではないと判断した私が素早く避けると、彼女は直ぐに私の姿を捉えて追撃を浴びせる。まともに受ければ即死するような連撃を受け流しながら、私は内心焦っていた。

 

「(想定より強い...これじゃ負ける...)」

「〈ディクティター・スラッシュ〉!!」

「〈アクア・スパーダ〉!!」

 

レトロの剣から禍々しい真紅の斬撃が飛んでくる。それを水を纏わせた剣で切り払うが、その勢いは消えずに斬撃が私の体を切り裂く。私は左肩を犠牲にしてそのままレトロに突っ込むと体の回転を加えた一撃を彼女にくらわせる。肩から血が吹き出したが、そんなこと構っている場合ではない。

 

「ああっ!!忌々しい!!」

「それはこっちの台詞!!」

 

金属音が部屋に響き、私達は斬り合う。その時レトロは眉間に皺を寄せて私を睨みつけた。そろそろ彼女も気づいたのだろう。

 

「貴方...もしかしてさっきの....!!」

「戦士の心得・強欲は時間経過で徐々に攻撃力が上がる。早く私を殺さないとどんどん強くなるよ?」

「舐めた、口を聞くなぁっ!!!!!」

 

受け止めた彼女の剣から、焦りが感じられる。確かに〈戦士の心得・強欲〉はさっき説明した効果があるが、もちろん制限がある。そしてある一定値を超えればそれ以上は強化されないのだ。少し考えればそれぐらい分かるだろうが、レトロは私に煽られたことによってそれに気づいていなようだ。

 

「〈ノワール・レブル〉、〈ディクティター・スラッシュ〉!!」

 

レトロの体を赤く濁った光を纏い再び剣から放たれた斬撃は先程より大きなものだった。だが、私はその技を見て思う。

 

やはり、彼女は私を殺そうとしていないのではないか?

 

私にこうして煽られ怒った彼女が放つはずの攻撃は、普通は私を葬るためのものになるだろう。しかし今放たれた技は確かに強化はされているが、わざわざ後退して距離をとり放った。それをしなかったら私の上半身と下半身は繋がっていなかったに違いない。

彼女が私を殺さない理由、それは恐らく従者にある。私が死ねば従者を皆消滅する。それを避けるためにこうして回りくどい攻撃をしてくるのだろう。それでも疑問は残る。ルイスからレトロが従者に対してどのように接していたか聞いている。彼女がこの国を欲しているという私の考えは、間違っていたかもしれない。

 

「早く消えてっ!!」

「...死ねとか、殺すとかは言わないんだ」

 

レトロの動きが止まる。私の言葉に自分の目的が知られたと理解したのだろう。彼女はよたよたと後退したと思うと、空を仰ぐ。

 

「はははっ....あはははははっ!!!!!そうよ!!そうよ!!私はみんなが欲しいの!!こんな国要らないわっ!!」

「貴方の従者は、どうしたの?」

「死んだわよ!!私の為に!!私のせいで!!」

 

彼女の強く握った神器の切っ先が震える。私を睨んだレトロの顔は、酷い憎しみと悲しみに歪んでいる。

 

「私さえ生きていればってみんなみんな死んだわ!!」

「だからって私の従者を奪っていいわけじゃない」

「分かってるわよそんなの!!だけど、私は!!私はまたみんなと―」

 

叫ぶレトロに、私はマジカルアイテムを投げる。この瞬間しか、彼女が隙を見せたこの瞬間を掴めなければ私に勝機はない。なんて事ない、ただの目くらましのアイテムだ。だが私の魔力を込めて、壊れるギリギリまで強化した代物。

 

「―っ!?」

「はぁっ....!!」

 

レトロが目を抑えてよろついているのを確認して私は力を溜める。この一撃に、この技に私の全身全霊の力を込める。構えた双剣が徐々に青い光を帯びて、私の体までその光が包む。まだ、まだ放ってはいけない。そしてレトロの視界が正常に戻る。

 

「今更...こんな子供騙し!!」

「子供騙しでも時間が稼げればいいんだよ....」

「何....?なんなのよそれは!!〈アビス・シールド〉!!」

 

彼女は私の溜めた魔力、技力の塊を見てシールドを張る。そんなものではこれは防げない。レトロの隙ができて、戦士の心得・強欲が最大値まで私を強化したこの瞬間―

 

「〈秘技・流星斬〉!!!」

「―ぁ....」

 

 

 

 

 

 

レトロを私の渾身の一撃が襲った。

 

 

 

 

 

 

 








このお話しはエンドが2つに別れています。
正規ルートはサクリファイスです。

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