「ちょっと、ちょっといい!?」
1階の酒場でこの宿屋の店主に駆け寄る。
「お、おう、何だい嬢ちゃん?....って、レナータか....。それより、男の前でその格好は不味いんじゃねぇか?」
取り乱す私に若干引きながらも、下着にワイシャツ1枚という私の軽装を気にする店主。
「そんな事をはどうでもいいから!この店に[運命に選ばれし王]についての本ってない!?」
「んなのあるに決まってんだろ!この世の常識だぜ?」
「それかして!!早く!!」
「そう急かすなって....ほらよ」
店主が差し出した本を奪い取るように受け取る。
運命に選ばれし王というのは、この世界の不思議な理の事だ。
この世界のは三大王国と言う大きな3つの国があり、[王の証]をもつ運命に選ばれし人物が強制的に国王となる。ブラフマーの称号をもつアズモンド王国、ヴィシュヌの称号をもつイデアーレ王国、そしてシヴァの称号をもつディアストリク王国の3つ。
王に選ばられる人に種族、身分は関係なく突然体のどこかに現れる紋章で判別され、その日から城と強力な武器(神器と言う)を与えられ、王として死ぬまで生きる事が義務ずけられているという。
本の初めに書かれているのは簡単に説明ればそのような事で、この世界では常識だ。
私は目的のページを本をバサバサと捲り探す。
「おいおい、大事にしてくれよ」
悪いが店主の言葉を無視して、やっと知りたい情報が書かれたページを見つける。
[王の証]、それぞれの王がもつシンボルだ。
本にはそれぞれ、ブラフマー、ヴィシュヌ、シヴァの証が描かれている。
そして自分の服の胸元をガバッと開け、本に描かれている絵と見比べる。
「お、おい!?」
「やっぱり....一緒だ....」
自分の胸に刻まれているものと、ヴィシュヌの王の証が同じだった。
と、言うことは....
「私....運命に選ばれたんだ」
『!!』
私のその一言で、騒がしかった酒場が一気に静まりかえった。
そして....大爆笑。
「ぎゃははははっ!!おもしれぇ冗談だ!!」
「こんな小娘が王だとよ!?」
「笑っちまうぜ!がはははははっ!!」
酒場にいた大勢の人に笑われ、恥ずかしさやら怒りやらが込み上げてくる。
「でも見て!王の証が!!」
「どう考えても偽物だろ!上手に描いたな!!」
「そういや最近もあったな、偽物事件!」
「やめときなって嬢ちゃん!バチが当たるぞ!!」
口々にケチをつかれ、少し苛立つ。
「もー!本当なんだって!!」
そういい傍にあったカウンターに拳を叩きつけると、
カウンターが真っ二つに割れた。
バキバキと音を立てて。
シーン....
「お、おい....マジかよ....」
「....」
皆が真っ二つのカウンターを凝視した後、私を見る。
「え、え~っと....。後で弁償するから....」
「いや、そこじゃねぇだろ!」
私が苦笑いで言うと店主からのツッコミが飛ぶ。
ただちょっと怒りを知ってもらうと拳を叩きつけただけだ。何も破壊しようだなんて思ってないし、思っていても出来ないだろう。普通は。
そうだ、普通は出来ないはず。
「こりゃ、本気で嬢ちゃんが王に選ばれたんじゃないか?運命に選ばれし王ってのは基礎能力がドカンと上がっちまうらしいじゃねぇか!」
「ほらっ!だから言ったじゃん!!」
店主からの後押しでふふんと胸を張ってドヤ顔をする。
客があーだこーだと議論する中、すっと通る声が聞こえた。客が出す騒音に掻き消されない、とても澄んだ声だ。
「少々よろしいでしょうか?」
声の主を探すと宿屋の入口に燕尾服を着た老人が立っていた。見るからに仕立ての良い衣服に、老けていても分かる整った顔立ち、明らかにただものでは無い。
「らっしゃい....?」
「申し訳ございませんが、某は客ではごさいません。こちらに....」
「運命に選ばれた王がいらっしゃいませんか?」
その場にいた全員が私をすごい勢いで見る。
「嗚呼、やはり貴方様でしたか」
「多分私....だと思います」
謎の老人が私から少し距離のある位置まであるくと、そこで跪く。
「あ、え!?」
「申し遅れました、某はルイス・カリタ。イデアーレ王国のお城で執事長を務めさせていただいております」
「はぁ、これはどうもご丁寧に....」
突然の状況に戸惑いながらも一応返事はする。
「僭越ながら、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「あ、レナータって言います....」
「では、レナータ・ヴィシュヌ女王陛下。貴方様を城へご案内致します」
「女王陛下?私が!?」
「はい、そうでございます。貴方様は運命に選ばれました。その瞬間から貴方様もう王なのでございます」
「はぇ~....」
運命に選ばれし王なんて自分とは無関係の世界だった。おとぎ話のような感覚だ。それが今、崩れ去った。
目の前には跪く執事、先程まで私を笑っていた酔っ払い達からは尊敬の眼差しを向けられている(気がする)
あまりの急展開に目眩すら起こしそうだ。
「ではお手を、外に馬車を用意してありますので」
いつの間にか私の側まで来ていたルイスさんに手を差し出される。エスコート、と言うやつだろうか....?
この手を取ればもう戻れない気がした。
モンスターを狩って、狩って、狩りまくって生きていた今までの日々から。
「(急に....そんな、私はどうしたら....)」
「そ、その、悪いけど荷物取ってきていいですか?まだ部屋に置きっぱなしだから!!あとこの格好のままじゃ....ね?」
「これは失礼しました!某とした事が事を急いでしまいました....」
「急ぐので、ちょっと待っててください!!」
そういい早足に2階へ戻り部屋へ入る。
____
「あ~!!どうしよう、いきなり王様とか無理!!怖い!!私そんな器じゃないし、自信ないよ!」
「どうしよ~あ~!!」
先程までの緊張の糸がきれ、どっと愚痴が溢れる。
そして、ふと窓が視界に入る。
「(あの窓から飛んで逃げれば....)」
「....」
バチンと大きな音をたたて自分の頬を両手で叩く。
「また逃げようとしてる....もう逃げない....」
あの時決めたじゃないかと何度も頭で繰り返し、決心する。
「王様....なってやろうじゃない!!」
私は急いでいつもの服に着替え荷物をまとめると、待っていてくれているだろうルイスさんの元へ走った。
1536年3月21日、12時00分。
イデアーレ王国15代目国王、レナータ・ヴィシュヌ女王。生誕。
____
アズモンド王国
とある貴族の屋敷
「くそっ....あいつらまたわざと汚しやがったな....」
ある大きな屋敷の一室、雑巾を持ち1人でこの広い広い床を掃除してどのくらいだっただろう。イライラしながら床を磨き、思い耽る。
この屋敷の主人に奴隷として買われ、かなりの月日が経つ。何度も売られては買われを繰り返し、かなり色々な場所を転々としたが今の主人は俺の事をかなり気に入っているようだ。加虐の対象として。
どれだけ仕事を完璧にこなしても、罵倒され、殴られ、蹴られ、日々生傷がたえない。
早く抜け出したかった。こんなクソッタレな日々から。
扉の外から音が聞こえる。
この家の主人、ジャムダールが帰ってきたのだろう。
「おう、ちゃんと仕事してるか?アンディート。」
「....はい」
「本当、お前は使えねぇんだから何倍も努力しなきゃな?あの勝手に死んじまった親友とやらの分までな!ははははははっ!!」
「っ....!!」
親友。俺と一緒にこの家に買われた奴隷の事だ。
「(アイツは勝手に死んじまったんじゃななくて....お前が....お前が....!!)」
「....なんだ?その反抗的な目は....」
ドゴォッ
「ぐぁっ....!!」
「お前はっ!!誰に向かってそんな目をっ!!向けてるんだ!!」
ジャムダールが思い切りみぞおちを蹴り飛ばし、倒れる俺を蹴る。
ボゴッドゴッ
「かはっ....!!」
「このクズが!!」
連続する痛みに耐えるが、打ちどころが悪かったのか意識が朦朧としてくる。
「(俺が何したって言うんだ....!!俺はただ....普通に生きたいだけなのに....!!)」
その時、蹴られている腹部とは違う所、右腕に痛みを感じた。
「ぐっ!?」
痛む部分を見ると、何かが刻まれていくのが見えた。
「な、なんだ!?早くそれをやめろ!!」
「くそっ、自分の意思でやってんじゃねぇよ!!」
「なっ、主に暴言を吐くとは....!!この無礼者め!!」
何かの紋章が完成するのと、ジャムダールが俺を蹴るのとは同時だった。
....蹴られたところが....痛くない。
「....どうなってんだ?」
黒かった紋章が光り輝き、赤に染まる。
その紋章をみたジャムダールは恐ろしく怯えているようだった。
「そ、それは....ブラフマーの....!!何故!?何故お前なんだ!?」
起き上がり、先程まで痛みを感じた自分の右の二の腕を確認する。
運命に選ばれし王の、王の証。
「はっははははっ!!そうか、運命に選ばれたのか!!俺が!?」
怯えるジャムダールにゆっくりと近づく。
「た、頼む!!殺さないでくれ!!いや、下さい!!なんでもします!!なんでも!!」
散々俺をゴミのように扱い、暴行を続けてきてこいつは何を言っているんだと思う。
「そうだな....では命令だ」
「はい!!なんでも!!」
「死ね」
今までの怒りを込めて、ジャムダールに回し蹴りを叩き込む。
バキボキッと骨の折れる音が聞こえ、そのまま吹っ飛んだ体は壁を突き抜けて、どこかへ落ちた。
悲鳴や助けを呼ぶ声が聞こえるあたりから、ホールにでも落ちたのだろう。
「やったぞミラ....!!俺達の夢が叶ったんだ!!」
笑いながら、泣きながら、今は亡き親友へと語りかける。
1536年3月21日、12時00分。
アズモンド王国20代目国王、アンディート・ブラフマー王。生誕。
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ディアストリク王国
城内、謁見の間
「おい、みな跪け!!頭が高いぞ!!」
王座に座る小太りな男が叫ぶ。
怯えたメイド達は下げていた頭をさらに深く下げる。
「ふんっ、それでいい。全く礼儀の知らない無礼物ばかりだ!!俺は運命に選ばれた王だぞ!!」
少し声を荒らげただけではあはあと荒い呼吸をするこの男、ルッタは自らを37代目のシヴァ王だと名乗りを上げ、こうしてふんぞり返っているのだ。
しかし怪しい。
執事が確認した王の証はぐにゃぐにゃも曲がっていた上に、他の証拠を見せてくれと頼むと明らかに焦り激怒したのだ。
本来は運命に選ばれし王の居場所を示すコンパスがあるのだが、それは前王の息子のイタズラによってどこかへ隠されてしまっていた。
疑わしいが、本当に運命に選ばれし王だった場合のことが怖いので誰も何も言えずにいる。
「チッ、お前ら俺を疑ってんだろ!?丸分かりなんだよ!!」
「いいかよく聞け、この俺様こそが
バァンッ!!
大きな音と共に、ルッタの声が途切れた。
何が起こったのか。
皆が下げていた頭を上げ、確認する。
絶命。
ルッタは頭を銃で撃ち抜かれ死んでいた。
誰かが悲鳴をあげる。
「この俺様こそが....偽物の王だ!!ってね」
王座の後ろから声が聞こえた。
いつの間にそこにもいたのか分からないが、そこには白髪の少年が立っていた。
その少年はルッタの遺体を片手で王座から落とし、思い切り蹴り飛ばす。
「無礼物なのはオマエの方だよ、豚ごときが....
皆遅くなってごめんね、ボクが正式な37代目シヴァ王だよ」
ニッコリと微笑むその少年の顔を、その場にいる皆が知っていた。その名をムームア。前王の2番目の息子だ。
「改めて、よろしくね!」
その無邪気なはずの笑みは、今日は歪んで見えた。
1536年3月21日、12時00分。
ディアストリク王国37代目国王、ムームア・シヴァ王。生誕。