国の上空を飛びながら見廻る。そんなことしてもこの広い国の中かからたった一人を探すなどできるわけがないが、幾分かは気持ちが楽になるというものだ。先程から何度も何度も〈メサージュ〉を使い連絡を取ろうとするが一向に出ない相手のことを思いながら、ただ魔力が微量に減ったことを感じる。
「あ〜もう、ディレスのやつどこいったんだ....!!」
風を切る音を聞きながら飛んでいると海辺が見えて、俺の視線はある一点に集中した。あの紫と黒のパラソルは....!!
「こんのっ....〈ネロ・ヘキサラ〉!!」
空中で止まり、そのパラソル目掛けて上位の風魔法を飛ばす。大きな竜巻が起こり、そのパラソルはそれに巻き込まれぐちゃぐちゃになって飛ぶ。
どうせ浜辺で横になってサボっていたのだろうとその魔法が直撃した人物にざまぁと脳内で文句を言うと、肩を誰かがポンポンと叩く。
「―っ!!」
「モーリュ、よくも私に向かって上位魔法なんて打ってくれたわねぇ....」
「き、気持ちいい風が必要かなぁって....ね?」
パチンッという音と共に俺の頬に小さいもみじが出来る。言っておくが俺は何も悪いことをしていない、何も!!
ただのこんなクソ忙しい時にサボっている仲間に、ちょっとお灸をすえようと魔法をぶっぱなしただけだ。
「この糞ガキ....次やったら締めるわよ」
彼女は身長130cm代で外見は子供。そんな彼女に糞ガキと言われるのももう慣れた。世にいうロリババアだが、そんなことを彼女に言ったら確実に消される。
「そんなの事より仕事してほいんだけど」
「私はアノルマ様からの仕事じゃなと働かないわ!!」
「文句言わないでくれ....」
いいから戻るぞと言うとディレスは渋々俺のあとを着いてくる。 彼女はいつもアノルマ様からの命令しか聞かないといい俺が仕事を頼んでも全く聞く耳を持たない。
しかし今日は集会だと伝えるとディレスは納得したように頷き互いに飛ぶスピードを早めて城に戻る。
「それで、キリカはどうしたの?」
「彼女ならもう待ってると思うよ」
城内に降り立ち、急いでいつも集会をする部屋へ入るとやはりキリカは待っていた。俺がディレスを探し回っている間も待っていただろうからかなりの時間ここに居るのだろう。手元には重要な内容が書かれた書類があり、それにひとつひとつ丁寧に素早く目を通していところだった。
「あ、ディレス!!やっと来たね!!」
「はぁ....集会なら最初から言ってよね」
「よし、じゃあ始めるか」
俺達アノルマ・スーリヤ様の従者、フトゥースペラは現在ここに皆集まっている。つまり三人しか居ないのだ。運命に選ばれし王でありながら三人の従者しか従えていないのにはちゃんと訳がある。失礼な言い方かもしれないがアノルマ様はとても臆病、怖がりなのだ。
それなら従者を沢山召喚するのが安全で安心できると思う者もいるかもしれないがアノルマ様は、従者の裏切りに対して怯えがあるようだった。
そのような事は絶対にないとは何度も伝えたがアノルマ様はやはり恐れていて、俺が一度死亡して消滅した時も新しく召喚するのではなく俺の復活を選んだ。
「それで、今回は何が恐ろしいと?」
「えっとねぇ、城に鏡が多すぎるって仰ってた」
「....なら破壊すればいいわ」
またそうやって物騒な方に話を進めるとディレスの方を見ると、彼女はそれを察したのか眉間にシワを寄せたので慌てて話を戻す。
「アノルマ様がよく通るところやよく使う部屋の鏡を減らそう。流石に全て無くしてしまうのは俺達が困るからな」
「そうだね、アノルマ様の従者として身だしなみはきっちりしとかないと」
アノルマ様がよく通るところと言っても少ない。アノルマ様は基本自室からあまり出てこずに、執務室に入れるのも俺ら三人の従者だけ。話すことするら、俺達と魔法を使いテレパシーで話す。
「というか、今回再築の指示してたの誰だよ」
「私よ」
ディレスムスッとした顔で軽く手を挙げた。再築というのは、アノルマ様は稀に癇癪を起こし城を半壊させるのでそれを物の修繕が出来るアビリタや魔法持ちの人を集めて直さなくてはならないのだ。もう10回以上はこの作業を経験している。
「も〜、ちゃんと指示したの?」
「キリカ程じゃないけど私もやれば出来るのよ」
「その結果がこれじゃないか!!アノルマ様が鏡を嫌うのは皆が知ってることだろ!!」
まあまあとキリカが宥める中、俺とディレスの間に火花が散る。いつもなら喧嘩になるが、ディレスは一つため息をつくと小さく謝りテーブルに顔を伏せる。
「....実際アノルマ様から鏡の話が出てるのよね、私のミスよ」
「....」
「で、でも鏡さえ取って回ればいい話だし!!私最善の配置考えるから、元気だして!!」
そう言い俺に視線を向けたキリカの意図を察し、俺は用紙を取り出して城の地図を簡単に書き出すと、それを受け取り事前に調べていたのだろう鏡が置いてある場所をその地図に書き込んだ。
「アノルマ様の移動はほぼ魔法での転移だから....」
「....でも、ココここを通っていらっしゃるのをこの間見たわ」
「偶然かもしれないが、ここ周辺の鏡はとっぱらっておくか」
――
複製した地図を見ながら、ディレスは大きな鏡をその小さな体でひょいと持ち上げると傍に待機していた使用人に渡す。
こうやってアノルマが怖いと言ったものを取り除く事は多い。前は少し明るい色のカーテン、その前は大きな声で喋る兵士、更にその前は異様にお洒落な使用人....愛する主人が嫌うものは人であろうと排除してきた。
「あの御方が安心して暮らせる世界を....」
どうすればアノルマが安心して暮らせるか、フトゥースペラはその課題をずっと抱えている。あれも、これも要らない。本当は何もかもがあの御方にとっては不要なのではと使用人に一瞬視線を向けるが、使用人はただただ首を傾げている。
「....次の場所に行くわよ」
不要なのは、自分達では無いのか。そう思った事もあるしそれをアノルマに伝えた事がある。その時のアノルマの反応を、ディレスは忘れられなかった。いや、忘れてはいけなかった。
全ての負の感情を表したような空気。アノルマの顔は仮面で見えなかったが、その顔は怒り、悲しみ、絶望、恐怖、不安、困惑....様々なものに染まっていたのだろう。一瞬殺されるのではと思ったが、テレパシーで伝えられた「見捨てないでくれ」という言葉に、ディレスはアノルマにとって自分が言った言葉がどれほど酷いものだったかを理解し、泣いて謝罪した。
「―スさま....ディレス様?」
メイドが自分を呼んでいることさえ気づかぬほど思考に浸っていたようだ。ディレスはなんでもないわと一言告げると、今のが自分が取り除く最後の鏡だと分かりメイドを元の仕事に戻させた。
「〈メサージュ〉。モーリュ、私の方は終わったわ」
『お疲れ、俺の方も終わったよ』
ディレスはぼんやりと歩きながら、また先程のことを思い出していた。運命に選ばれし王の歴史が始まってからずっとアノルマに仕えてきた仲間、彼はアノルマにとって自分はどんな存在だと思っているのだろうかと少し興味がわく。
「ねぇ」
『ん?』
「貴方は、自分がアノルマ様にどう思われてるか気にした事ある?」
モーリュは小さく笑ったあと、少し間を開ける。すると向かいから丁度歩いていたとモーリュ遭遇して、〈メサージュ〉を切ると先程の返事を待つ。
「俺は、常に考えてるよ。自分が要らないと、捨てられないか常に怯えてる」
「....そう、やはりそういうものなのかしらね」
どれほど長く仕えてきたと言って、自分が絶対に捨てられないと確信は持てないものなのかとディレスは俯いた。それを見たモーリュはそばに歩み寄り、ディレスの頭に軽く手を置くと軽く撫でる。
「貴方がセンチメンタルになるなんて珍しいじゃないか、何があった?」
「別に、何も無いわ。....というか気安く触らないでよ、ぶっ殺すわよ!!」
ごめんごめんと手を離したモーリュの鳩尾に軽く拳を叩き込むと、ディレスは立ち去っていく。モーリュは何だったんだと思いながら、キリカの方はどうなったかと連絡を取った。
「キリカ、俺とディレスは終わったけどそっちはどう?」
『勿論終わったよ!!今次の仕事してる〜』
相変わらずの仕事人間だと僅かに尊敬の念を抱きながら、モーリュも手伝うためにキリカの元へ向かう。転移魔法を使いキリカの元へ飛ぶと彼女は何かの資料と睨めっこをしていた。
「キリカ」
「あ、モーリュ。もしかして手伝ってくれるの?」
「ああ」
キリカの読んでいる資料を横から覗き込むと、それはこの間のアイテリアに攻めた時の記録だった。
エンド・ストーリア、ルポゼ・マータ、アタリル・イブズ、ディーフェル・アダムズ、エルバト・スキート、テーゾル・ゴルド、サージェ・ミタリー、ヴィゴーレ・アルマ....計八名の従者達。そしてそれを発狂することなく召喚した王、レナータ・ヴィシュヌ女王。
「数が多いのが厄介なんだよねぇ」
「それもそうだが....なんでもヴィシュヌ女王は他二人の王とも戦い、殺すのではなく和解という解決法をしたらしいじゃないか」
「ヴィシュヌ女王....強敵だよね....」
イデアーレ王国を攻めてから数日後、アノルマとヴィシュヌ女王があった時のことを二人とも思い出していた。殺せと命令が出た時自分達の技を防いだ二人の従者。その片方にモーリュもキリカも不思議に思っている。というのも、知り合いに似すぎているのだ。
「ねぇ、あのヴィシュヌ女王の人狼の従者だけどさ」
「俺も同じこと考えてたよ。....シュティーに似てないか?」
「やっぱり!?」
アノルマ、ジュデリカ、プレーノが平和条約を結んでからその従者達もそれなりに交流がある。シュティー、ジュデリカの従者であるテイラーの一員である彼とヴィシュヌ女王の人狼の従者は一瞬見間違えるほど似ている。
しかしよく見れば違うところは多々あるので同じ存在ということは無いだろうが、もしかしてとモーリュは思った。
「シュティーってシーヴィータ持ってるって言ってなかった?」
「ん〜、どうだろう。私はあんまり仲良いわけじゃないから知らないけど....」
連絡を取ってみようと〈メサージュ〉を唱えようとした時、コンコンと控えめなノックの音が聞こえ入室許可を出す。入ってきたのはメイドで、すぐさま資料を仕舞ったキリカを見て場違いな所に来たことをメイドは理解する。
「あ、あの....ディレス様がすぐにお二人を呼んで欲しいと....!!」
「何故?理由は聞いた?」
「それが―」
――
「癇癪だって!!なんでまた!!」
魔力の弾を四方八方に放つアノルマ様を宥めながら、私は駆けつけたモーリュとキリカを見る。そんなのこっちが聞きたいと思いながら私は魔法壁を張りながら被害を抑えていた。
「分からないわ!!でもそんなこと言ってる場合じゃないでしょう!?」
「あぁああ゛ぁあ゛!!あぁあ゛ああぁ゛あああっ!!」
アノルマ様の悲痛な叫がこだまする。自室に呼び出され、少し話をしていたら急に頭を抱えこのように叫び、感情を放出するように魔法を無造作に放っている。
百年に一度のペースだった癇癪が、数年の間にこうして二度も起こるのは初めてで皆が戸惑っていた。
「アノルマ様!!ここに怖いものはございません!!もしあったのならば即座には排除しましょう!!ですから―」
「あぁあぁ゛あっ!!うるさ、いぃい゛!!」
「―がはっ!!」
「ディレス!!」
アノルマ様から放たれた衝撃波で吹っ飛び壁に衝突する。壁にかかっていた絵画が落ちるのを見ながら、切れた口内から出た血を拭う。
「(あんなに苦しんで....私が、私達がどうにかしなければ....!!)」
癇癪を起こした時にいつもなら収まるはずの時間はもう過ぎている。何をそんなに恐れているのかがわからない以上、こちらで想像して対処していくしかない。
自分の魔法壁ももう持ちそうにないと思った時、モーリュがアノルマ様に近づく。
「モーリュ!!」
「アノルマ様!!もしやヴィシュヌ女王の事でございますか!?それでしたら俺達が必ずや殺してみせます!!ですのでどうか落ち着いてください!!」
「ヴィ、シュヌ....!!ぁああっ....ほん、とに?」
「勿論です。貴方様を不快にするものはなんであろうと排除するのが、我々フトゥースペラですから」
そして急に力が抜け膝を着いたアノルマ様をモーリュが支え、そのまま気を失ったアノルマ様を彼は抱える。その瞳は、怒りに燃えている気がする。おそらく自分もだ。
「アノルマ様にこれだけのストレスを与えるなど....あの女王は生かしておけない....!!」
「同感ね、必ず仕留めるわ」
「む〜、あの時殺せていればなぁ....」
意識をなくしぐったりとした愛しい主の姿を見ながら、従者達は殺意を抑えていた。
―戦いの日は近い。
今回はアノルマ・スーリヤの従者、フトゥースペラの話でした。
フトゥースペラ、一応「未来の希望」という意味で考えたのですが....覚えずらい!!自分で考えといてなんですが覚えられなくて何度もメモアプリ開きました....勿論今は大丈夫です!!
ちなみにテイラーは「大地」、カリビナは「可愛い子供達」という意味合いがあります。レナータ達の従者のチーム名もちゃんと意味がある....というのは話したかもしれない....。
キーパーソン「重要な役」、プローヴァリー「強さの証明」、ノーネーム「名無し」です。細かく説明すると長くなるのでこんな感じです。
これでエレムストの従者達の話は全部終わりました。ただ戦う前にこういう子達だよって言うのを伝えたかったです。
フトゥースペラは運命に選ばれし王の歴史ができてからずっと三人で頑張ってるので1番絆が深いと思います。仲良し。
次回、ついに対決になります!!(多分)
ここまで読んでいただきありがとうございました!!