「こっち方向であってるよな」
「はい、問題ございません。確実にこの方角にエレムストのスフィーダの搭があります」
飛行しながら背後から聞こえるサージェからの返事に俺はそうかと短く答えると、搭を目指して飛ぶ。
勿論目的はあのクソ野郎、ジュデリカ・アグニを殺すことだがこうして搭に向かうのには理由がある。飛行するスピードを速め、ドルヴィルド王国付近に来ると俺に向かって何かが猛スピードで飛んでくるのが見えた。
「来たか!」
素早く回転しながら向かってくる見覚えのある大斧を避けると、それは弧を描いてある人物の手元に戻った。少し上空からこちらを見下ろす金髪のエルフ。
「久しぶりだな、ジュデリカ・アグニ」
「アンディートじゃねぇか!会いたかったぜぇ?ははははは!!!」
気安く呼ぶなと思いながら、楽しそうに斧を振っているジュデリカを睨みつける。その意味を理解したのか、ジュデリカは挑発的に笑うと俺の後ろにいるレナータの従者達、キーパーソンを眺めた。
「あのオートマタの従者は復活させなかったのか?ご愁傷さまぁ」
「お前にはもう関係ない。話は終わりか?」
俺が怒らないのがつまらないのかジュデリカは「ふーん」と呟くと、斧の先をキーパーソンに向ける。
「そいつら殺せば、またあん時みたいに怒り狂ってくれるか?」
「させるかよ、その前にお前が死ぬ」
「威勢がいいな、気に入った。やっぱりてめぇとはいい友達になれると思ったんだ!!」
「は?」
友達?何を言っているんだこいつは心底不快に思いながら俺と同じ目線まで降りてきたジュデリカを見ながら、唾でも吐き掛けてやろうかとまたこいつの挑発に乗りそうになる。
「なあ、ヴィシュヌ王とシヴァ王裏切ってオレ達の仲間になれよ」
「……お前本気で言ってんのか?」
「あ?当然だろ。こっちはアイテリアより楽しいぜ?」
アズモンド王国をあんなに破壊して、俺の従者を傷つけて……こいつはイカレている。
こいつは本気で俺を仲間にしようとしている、先程の挑発とは違うというのが表情から分かる。
自分も相当頭のネジが外れてると思っていたが、こいつは比じゃない。
困惑している俺にでさえ不思議そうにしているその様子に、僅かに恐怖すら感じた。
「好き放題暴れまわって、たまには戦って遊ぼうぜ!ぜってぇ楽しいか──」
「ふざけんじゃねぇ!!」
「…なんでそんなに、怒るんだよ……」
先程まで愉快そうにしていたジュデリカは急に声のトーンが下がった。
静寂から……怒り。ジュデリカは斧を振り俺を斬ろうとしたが、エルバトが俺に触れアビリタを使い瞬時に大きく後退できたおかげで避けることができた。
「わりぃな……」
「いえいえ、レナータ様からのご命令ですから!」
従者の元へ戻ったジュデリカは叫びながら彼らを殴っている。それを宥める従者達。
まるで──
「大きな子供のようですね」
「……だな」
サージェが言ったことに納得する。
癇癪がおさまったのか、ジュデリカは暴言を吐きながらこちらの出方を伺っている。
俺は神器を取り出すとジュデリカに背を向けキーパーソンに命令を出す。
「相手の従者を全力で殺しにかかれ。そして誰一人死ぬな。以上だ」
「畏まりました」
サージェが深々と頭を下げたのを見て、俺はジュデリカの方に向かう。互いが全速力で飛行して武器を振りかぶった。
相手まで10m──6m──2───
「もらったァ!!」
「──なっ!?」
上空。予測していない場所からの攻撃に思わず声を上げると振り下ろされたメイスを薙刀で防ぐが、その剛力に気づいた時には空から地に落ちていた。
強く地面に叩きつけられ、頭を打たなくてよかったと体を曲げ飛び起きる。
「なんて野郎だ…いや、今のは女だったか……?」
「ウチのがわりぃ事したな、一騎打ちの殺し合いに水を差すなんてなぁ。後でシバいとくから勘弁してくれよォ?」
ふわりとジュデリカが地に降りると上空を見ながらそう言った。本来なら俺が空で、従者達が地で戦う予定だったが、まあどちらでも変わらないだろうと薙刀を構える。
「に、しても……フィールドが狭ぇと思わねぇか?」
確かに落ちたのは森の中。特に整備されている訳でもないので木が生い茂っている。身を隠しながら戦うかと思案しているとジュデリカはニヤリと笑い両腕を広げる。
「〈魔法強化Lv5〉、いくぜぇ…〈ラース・バースト〉ォッ!!!」
「──〈瞬間回避〉!!」
ジュデリカを中心に闇の塊が大爆発を起こした。
俺はアビリタを使い回避しようとしたが、強化されたLv5の魔法は流石に無傷という訳にはいかずに黒い炎で火傷を負う。
辺一面の木は消し飛び、「これで広くなった」と笑ったジュデリカに、そんな事の為にあの魔法を使ったのかと苦笑いを浮かべる。
「自分から無駄に魔力減らしてくれるなんて、優しんだな」
「礼には及ばねぇ、ハンデってやつだよ」
調子に乗ってくれてありがたいとコートからマジカルアイテムを取りだす。ある魔法が込められたクリスタル、それを使用するとクリスタルは砕けて破片が光の粒となり俺の体に吸い込まれる。
ジュデリカはそれが何か特に興味はないようで、ただにやにやと俺を見つめていた。何をしようと自分には勝てない、絶対の自信が口に出さなくとも感じ取れる。
「もう小細工は終わりかぁ?いくらでも待ってやるが」
鼻で笑うジュデリカに薙刀を構えることで返事をする。
”あれ”のタイミングを間違えなければ計算上は勝てる…などという事はなく、正直言うと自信がない。アズモンド王国で戦った時、俺は手も足も出なかった。
「(それでも、負けていい理由にはならない…!)」
「こねぇなら…こっちから行く、ぜっ!!」
ジュデリカが踏み込むと、一歩だけでもう攻撃範囲内に入った。
狂気的な笑みを浮かべながら斧を振り回す姿はまさに狂戦士、一撃一撃が重く少しかすっただけでも大ダメージを負うだろう。
俺はそれを後退し避けながら反撃する機会を伺う。
「おらぁ!逃げてばっかか!?」
「<流水乱舞>」
加速した動きでジュデリカの背後に回ると突きの攻撃を放つが、後ろに目でもついてるのかと疑うほどに素早く防がれる。しかしそれも想定済み、大ぶりなジュデリカの反撃を飛び退き回避すると次の手に出る。
「<能力向上>、<残像剣>」
今度はこちらの番だと薙刀を回転させながら斬りつける。加速の状態に加え、基礎能力が大きく上がった状態での二重の攻撃。最初は斧で防いでいたが、それも追いつかなくなりついにジュデリカの身に刃が届く。
と、言っても頬にかすり傷を付けた程度だ。ジュデリカは刃を弾き返すとゆっくりと傷に触れた。
「──は?オレに、オレ様の体に………コロス」
「そんなの怒ってたらこの先持たねえぞ」
誰かに傷を負わされるという事がないのだろう、ジュデリカは眉間に皺を寄せ俺を睨んだ。
先程の技でもう少しダメージを与えるつもりだったのだが、頬にかすり傷だけかと自嘲する。
まだ得意とするアビリタを一回も使わずに戦っているジュデリカだが、本気を出す気になったのか身体強化系のアビリタを数種類使って満足げに頷く。
「遊びは終わりだ。肉塊にしてやるよ」
「望むところだ」
無謀だと言えるだろう、自分でもそう思う。それでも勝たなくてはならない。
同じように戦っている仲間のことを思い、俺は薙刀を強く握り直した。
―
side:キーパーソン
ドルヴィルド王国付近、リグ大森林上空
「では、作戦通りに」
サージェは皆が頷くのを確認すると対戦相手を見た。
アンディートを森に突き落とした赤い鎧の女戦士、ザミグラ。ただぼうっとしている青髪の少女、フランム。両手をつなぎくるくると楽しそうに回っている仮面の双子、サリー、リツカ。そして──
「ねぇテゾールさん。レナータ様が言ってたのってあの人じゃないですか?」
「確実にそうでしょう」
そっくりの怪しげな微笑のままずっとテゾールを見つめる白髪に黒のメッシュが入った獣人、シュティー。
アノルマと搭であった日、レナータにジュデリカの従者の中にテゾールに容姿がそっくりな獣人がいると聞かされていたテゾールとエルバトはその姿を見て確信した。
するとシュティーは仲間は誰も引き連れずにテゾールの傍まで近づいてくる。
「おっと、馬鹿なんですかね?それともわざわざリンチされに来たドМですか?」
「その毒舌ぶり、やっぱり兄さんだ」
「気安く兄などと呼ばないで欲しいですね。貴方など知りませんよ」
「もしかして兄さんはシーヴィータ持ちじゃないんですか?残念だなぁ」
話聞いてねぇのかこいつと思いながらテゾールは自分を兄と呼ぶ目の前の男に、確かに懐かしい気持ちを感じた。しかし兄弟だったからと言って殺すことに変わりはないと武器を取り出そうとする。
しかしシュティーは「それより」とある一人の人物に目を向けると、先程とは違う種類の笑みを見せる。
「貴方かなり俺のタイプな容姿してますね……もしかして兄さんの恋人ですか?」
「……は?」
キーパーソンの誰もが一瞬脳内処理が追い付かなかった。
一番混乱しているのは言われた本人、エンドだ。
「いや、違う」
「そうなんですか?俺と兄さん好みのタイプほぼ一緒だったので、絶対そうだと思ったんですけどね」
「ああもう我慢ならねぇ……殺す!!」
武器をナイフ状にしてテゾールは素の口調でそう叫ぶとシュティーに斬りかかる。
シュティーはそれをダガーで受け止め、もう片方にも持ったダガーで反撃するとにこりと笑った。その笑みに更に腹が立ち、テゾールはナイフをシュティーの顔に向かって突きを放つ。
それを二本のダガーで受け止めたのを見て、テゾールはシュティーの腹に思い切り蹴りを入れた。
「あいつの始末は私がしますので、あとよろしくお願いしますね」
テゾールはそう言うと吹っ飛んで行ったシュティーを追いかける。
ぽかんとしながらキーパーソンの面々はそれを見送り、サージェが咳ばらいをした。
「気を取り直して、残っている人達をどうにかしましょう」
「えーっと、誰が誰の相手するんだっけ?」
アタリルが早く戦いたいとそわそわしながらそう言うと、サージェは溜息を吐き再び説明した。
―
「おれの相手するのはお前らカ。残念だったなぁ、死亡確定ダ」
ザミグラは愉快そうに笑うとメイスを軽く撫でる。どいつもこいつもこれでただの肉の塊にしてきた。運命に選ばれし王の従者でも一ミリも負ける気がしない。
「慢心は失敗を招く、死ぬのは貴様の方だ」
「よ~し、頑張りましょうっ!!」
対してアルマは臆すること無く大剣を構えると、後方に控えるエルバトに意識を向ける。八歳と言えど従者だ、いつもの様に呑気そうに見えるが発する雰囲気が違う。
睨み合いが続く──等という事はなく、ザミグラは地を強く蹴り距離を詰める。メイスを振るうと、アルマはそれを体を捻り避けそのまま回転を加えながら大剣で斬りつけた。そこに加え、エルバトの槍での突き。
「<ヴィガール>ッ!!」
しかしそれは強化されたザミグラの鎧に弾き返された。小さく舌打ちをしたアルマは一旦後ろに下がる。それと交代するようにエルバトが前に出ると突きの連撃を放つ。金属音を鳴らしながらそれは容易く鎧に弾かれたのを見て、ザミグラは笑う。
「そんななよっちぃ攻撃、おれには通らないんだよォ!!」
「そうみたいですね……」
ザミグラの鎧はランク5の物だ。強化系のアビリタを使用した状態の彼女の鎧に掛かればほとんどの攻撃が弾かれるだろう。傷一つ付いていない新品同様の鎧。それはザミグラによって自慢できることの一つでもある。
「お前らはここで終わル。おれは無敗の戦士ダっ!!」
勝利、ザミグラの脳内にあるのはその二文字だけだ。
彼女はテイラーの中でも随一の破壊力を有す。力を最重視するジュデリカがテイラーのリーダーを任せたのはそれが理由でもある。
力こそ全て。そのザミグラが振るったメイスに当たればどうなるかなど、容易く想像できる。
「エルバト、お前は絶対に回避しろ。いいな」
「了解ですっ」
ブンッとザミグラがメイスを振ると、アルマはそれを大剣で受けた。その重さに耐えきれずに押されたアルマは踏ん張り宙で止まる。
エルバトがこれをくらったらひとたまりもないなと素早く髪飾りを取りだし頭に付けると、アルマの腕と足の部分が薄く光り、その光が収まるころには白い鎧を装備していた。
「鎧を装備したぐらいで変わんねェ!!結局はおれのメイスの餌食になるんダ!!」
「私の鎧は簡単には砕けんぞ」
アルマは堂々した態度で大剣をザミグラに突き付けた。エルバトが何故か自分のことのようにドヤ顔をしながら、自らにアビリタをかけ始める。
「<回避能力向上><影武者>」
「行くぞっ!!」
二人同時にザミグラに攻撃を仕掛けた。左右から挟み込むように斬りつけるとアルマとエルバトの刃がぶつかり、ザミグラの姿が消える。
すると背後から気配を感じ、エルバトの頭上にメイスが振り下ろされる。
ザミグラは、死んだなと確信してにやりと笑った。しかし、エルバトの頭が潰れた──と、見えたがその輪郭がぼやけて消える。
「さっきのアビリタの効果……!!」
「正解!!」
びゅっと突き出された槍の攻撃をメイスで受け止めたザミグラは、アルマの姿が見えないことに気づきすぐに飛び退いた。
「遅いっ!!」
「なっ──」
不意打ちの一撃。鎧すら裂くアルマの斬撃がザミグラを襲う。
従者にとって主人からもらった衣服、装備は何よりも大切なものだ。その鎧に傷がつくどころか破壊された……そのことにザミグラは激怒した。
「おま……おまェ……!!」
怒りを乗せたメイスを振るう。ザミグラはフルプレートを纏っているにも関わらずに身軽な動きでアルマに接近するとその横腹をメイスで殴った。
「──がぁっ!!」
「アルマさん!!」
肋骨が折れただろうが、それでもアルマは剣を離さない。
体は宙を舞い、猛スピードで吹っ飛んだ。しかし何かに受け止められる。
「おっと、アルマ?大丈夫か?」
「ディーフェル……すまん、邪魔をしたな」
口の端から流れた血を拭うとアルマは回復魔法を使い傷を癒しながら、再びザミグラの元に向かった。
──
それを見送りながら、ディーフェルは隣にいるアタリルに視線を向ける。
「苦戦してんのかな?」
「うーん、してたとしても倒せるよ。信じよう」
それに頷きにかりと笑ったディーフェルを確認すると、アタリルは拳を構える。
狙うは傷つきながらも楽しそうにしている双子。
サリーとリツカは手を繋ぎながらひそひそと耳打ちで何かを話しては笑っている。
二人でこくこくと頷くとこちらを向いた。
「ねぇ、戦うの止めにしない?」
「止めにしない……?」
アタリルとディーフェルはそれが本気で言っていると二人の様子から察すると、互いに顔を見合わせた。
サリーもリツカも、戦い始めてからずっと遊んでいるのだ。避けられると分かっている攻撃をわざとしたり、無駄にこちらの攻撃を受けてみたり。
その行動は、二人の絶対的な自信からくるものだった。
「ジュデリカ様が勝利なさるんだから、この戦い、意味ない……」
「いみな~いっ」
サリーとリツカは手を繋ぎくるくる回って笑う。
自らの主人が必ず勝つと信じるからこそのお遊び。それを知ったことで最初にキレたのはアタリルだった。
「だからふざけて戦ってたのね……自らの主人を信じる気持ちはわかるけど、その主人が戦ってるさなか任務を放棄するなんて笑っちゃうわ」
「お前らも俺らを殺せって命令されてんじゃねぇのか?」
「確かに」と言いながら双子はきょとんとすると、改めて武器を握りなおした。
ジュデリカには「楽しんで殺せ」と言われており、自分たちはまだ「楽しむ」という事しかしていないなと反省した。命令違反をしたいわけではない、今度実行するのは「殺す」だ。
「今度は本気!!」
「今度は本気……」
二人は手を離すと頷きあい、そしてアタリルとディーフェルに攻撃を仕掛ける。
サリーの斬りつけをディーフェルが盾で受け止めると、アタリルは大きな手甲をはめた手で殴ろうと振りかぶる。
「サリー!!」
サリーを庇うようにリツカは前に出るとバックラーを構える。
衝撃。その勢いにサリーごと後ろに吹き飛ぶと、途切れそうになった飛行魔法をかけなおす。
「リツカ…ごめん……」
「大丈夫!!反撃するよ!!」
アタリルの拳を避け、サリーの剣がアタリルを切り裂く。ディーフェルは盾でサリーに突撃すると、怯んだサリーに拳が炸裂した。
「〈チェンジ・ラージェ〉ッ!!」
リツカが魔法を使うとサリーとリツカの位置が逆転する。リツカはアタリルの連撃をバックラーで受け止めるが、そう長くは持ちそうにないとサリーに視線を送った。
「ぁああっ!!」
「おっと、〈スポット・ライト〉!!」
サリーの攻撃がディーフェルにしか向かなくなり、舌打ちをしながら剣を振るう。自分の全力を叩き込んでもディーフェルの盾を突破することはできない。
ディーフェルは盾でサリーの剣を弾き返すとにやりと笑う。
「お前達も最高のタッグだが、俺達には敵わないみたいだな」
「……そんな…そんな事ない!!」
リツカの方を見ると必死にアタリルの攻撃を受け止め、そしてついにバックラーを弾き飛ばされた。そしてタイミングよくディーフェルのアビリタの効果が切れてサリーは覚悟を決める。
「(リツカを失いたくない──)」
「……サリー?」
リツカに手を伸ばしたサリーを見て、リツカは胸騒ぎがした。小さくサリーの名を呼ぶと、彼女は珍しく笑顔を浮かべている。
「<チェンジ・ラージェ>‼」
サリーとリツカの位置が変わる。
相手を殺すための本気のアタリルの拳を、サリーはノーガードで受けた。本気で戦うと決めたからこそ、それは遊んでいた時よりも痛く感じた。
アタリルの拳は止まらない。連撃がサリーを襲うが防御をすべてリツカに任せているサリーはそれを防ぐすべがない。
駄目、駄目。死んでしまう。
リツカは焦りながら、完全に舐めてかかっていたことを後悔する。
しかし気づいたときにはすべて手遅れだった。
「リ、ツカッ!!」
「──っ」
サリーはリツカに持っていた剣を投げる。
それを受け取り、トドメとアタリルが放った渾身の拳でサリーは意識を手放した。
きらきらと輝きながら落下していくサリーは光の粒となり、消滅した。
死んだ。大切な自分の片割れが死んでしまった。
リツカはその現実が受け入れられず、茫然としてしまう。
「ぁ……ああ……サリー?」
いつも一緒だった。ずっと、今までも、これからもそうなのだと、そう思っていた。しかし現実は違った。リツカの手にあるのは自分のバックラーと、サリーの剣。リツカとサリーは二人で一人。だが、今は違う。
「そうか、そうか……もう一人で戦わなきゃいけないんだね」
「敵に同情なんてしたくないが……」
「あたし達も彼らと似てる、しょうがない事だわ」
アタリルは拳を構える。寂しいのならすぐに葬ってやろう。彼らの敵としてできるのはそれぐらいだ。リツカは仮面を投げ捨てると叫びをあげアタリルとディーフェルに立ち向かった。
リツカは分かっている、この二人には勝てないと。
それでも逃げてはいけない戦いがこの世にはあるんだと、初めてそう思った。
──
その咆哮は勇ましく、それが聞こえたエンドはぴくりと耳を動かした。
相手からしたら不利な相性の悪い戦い。プローヴァリーとの戦いを思い出す、と横で自分を睨んでいるサージェに気づき慌てて杖を握りなおす。
「よその心配をしないで自分の心配をしたらどうですか?」
「ああ、悪かった」
フランムはそれをみながら苛立っていた。というのも、こちらは瀕死の状態で、自分のことなど蚊帳の外とでもいうかのように話をしているのが気に入らない。
エンドとサージェは強い。
エンドの支援魔法にサージェの強力な魔法、何よりどちらも頭が回る。
自分がいかに力の強さだけで戦ってきたか痛感していた。どう攻撃しようが、どう防ごうが、それが全て二人に読まれている。
「まけ、ない。うちは……負けない」
フランムに対して二人が向ける感情は、無だった。
力だけで勝てるほど、この戦いは甘くない。彼女はそれに気づくのが遅かった。
手の内の読み合いならキーパーソンの中でサージェに勝る人物はいない上に、その次に頭の切れるエンドの多彩で的確な支援魔法でのサポート。
単にフランムは相手が悪かったのだ。
「お前達がここにいるという事は、ヴィシュヌ王はアノルマ様のところへ向かった」
「それがどうかしましたか?」
「……」
それならば、あの自らの主すら認める最強の運命に選ばれし王ならヴィシュヌ王ぐらい容易く殺せるだろうと、フランムはその時を待つしかなかった。このまま戦っていればフランムの敗北は明白だ。
しかし、ヴィシュヌ王が死んで彼らが消滅するまで耐えきれば──
「お前の考えていることは分かる。しかし残念だが俺達の主人が負けることなどない」
「アノルマ様の恐ろしさを分かっていないからそんなことが言える」
エンドもサージェもレナータからアノルマに助けを求められたことを聞いている。初代スーリヤ王という長寿にも関わらず長年周りを騙せるだけの演技力は称賛に値するが、それだけだ。どれだけの力を持とうが、レナータには勝てないと二人とも確信を持っていた。
「最後までこない救いを待ちながら死になさい」
「──っ」
エンドが後ろに下がると、サージェは召喚した天使でフランムに攻撃を仕掛ける。
飛んできた天使を殴り、蹴り、破壊しても次の天使が来る。無限湧きとはこういう事を言うのだろうかと思いながら攻撃を受けながらも次々向かってくる天使を殺し尽くした。ボタボタと拳から血が流れるが、もう回復ポーションは切れてしまっていた。
「はぁ……はぁ……」
サージェの魔力をマジカルアイテムを使い確認するが、余裕な態度の割にはもうレベル5の魔法を一度撃てる程しか残っておらずフランムはそこに希望を見出した。
しかし勿論サージェは自分の魔力量を考えずに魔法を使ったりはしない。作戦は幾通りもある、これはその中の一つに過ぎないのだ。
「早々に殺して味方の支援に回りましょう」
「そうだな」
慈悲はない。
エンドもサージェもプローヴァリーとは時折交流があった。その中でいかにアンディートが従者達のことを大切に思ってきたのかは知っているつもりだ。そしてプローヴァリーの面々がその主に似て優しい事も。
しかし、ランツェ・ファードの命はジュデリカによって奪われた。
同じ従者として、そして仲間として怒りを感じずにはいられなかった。いくら復活できたからといってそれが許されるはずがない。
「命は命で償ってもらいましょうか」
「〈攻撃魔法威力強化〉〈能力向上〉」
──せめて一撃で仕留められるよう、全力の一撃を。
「〈コスモ・エクスプロード〉ッ!!」
「ああ……ジュデリカ様──」
全てを消す大爆発。それにフランムは耐えきれず、光の粒となり消えていく。
最後に思い浮かべるのは、愛しい主人の姿、そして……何故か殺しあう仲だったテイラーのメンバーだった。
「さて、私達の役目は完了しました」
「後は……」
エンドとサージェは周りを見渡した後、ある場所に視線を向けた。
──
ナイフとダガーの刃が交じり合う。似た顔をした二人の獣人が、命を懸けて戦っていた。それを離れた場所からルポゼは見ていた。
最初は邪魔してはいけないと思ったが、仲間の傷つく姿に耐えきれず加勢したのだ。
「(テゾールさん、なんであんなに辛そうに……)」
時折顔を顰め動きが止まり、避けられたはずの攻撃を受けてしまうなど、普段の彼からは想像できないミスが続いている。
ルポゼのはある可能性が浮かんでいたが、そんなことがあるのだろうかと知識不足の自分自身に呆れていた。
「手加減しているんですか、兄さん」
「そういう割にはボロボロみたいですけどねぇ」
シュティーの白い髪には血がついており、それはもちろん自分の物だ。どちらが優勢か、第三者がすぐに判断できるほどにシュティーは傷を負っている。
シュティーがダガーを数本テゾールに投げた。それはすべて的確にテゾールの急所に向けられたが、テゾールはナイフ一本でそれらを全て弾き落とした。
「はぁ……はぁ……」
「最初の余裕は無くなったようですね」
額から流れる血を拭うと、シュティーはテゾールに笑顔を返した。
テゾールには傷一つない。どれだけ傷を負わせようがテゾールの後方に控えているルポゼが完全に回復するからだ。
そのせいでルポゼの魔力は尽きかけているが、その前にシュティーが死ぬだろう。その場の誰もが、本人さえもそれを理解していた。
「なんだか、気分がいいです」
「それはどういう意味ですか?」
シュティーは相変わらず笑顔のままテゾールに言う。
珍しい事なのだが、シュティーはシーヴィータをすべて覚えていた。記憶の中にあるだけだった兄とこうして会えたことが、シュティーは嬉しかったのだ。
テゾールは何一つ覚えていないのは残念だが、それでも心は満たされている。
「兄さんとこうして戦えて嬉しかった……」
そう呟き、シュティーはダガーをテゾールに投げる。今までのダメージが蓄積され、うまく力の入らな手で。
死にかけのシュティーの攻撃などかわすのは容易かった。本人もそれを分かっている。しかし、自らの主人が戦っている今、簡単に命を捨てることなどできない。
「貴方を殺します」
「……」
「しかし、私は……いや、俺はそれを決して忘れない」
「──っ」
それだけ言うと、テゾールはナイフを構えシュティーを刺す。防ぐ暇すらなく、シュティーの心臓にナイフは突き刺さった。
接近した二人は互いの呼吸音を聞いた。シュティーの吐いた血がテゾールにかかり、テゾールはナイフを抜く。
「痛いなぁ、死ぬってこんななのか……」
最後まで笑顔だったシュティーは消滅する。その光の粒を掴むように手を伸ばそうとしたテゾールは手をおろした。
「……実は、彼と戦いながら思い出していってたんです。シーヴィータを」
「そうなんですか……」
ルポゼはテゾールの傍までくると、一度だけ優しく背を撫でる。
シーヴィータの中で、テゾールとシュティーはとても仲の良い兄弟だった。
幼い頃から弱気なシュティーを、テゾールはよく守っていた。どこにでもいる普通の兄弟。しかし運命に選ばれし王の従者として生を受けた二人は、殺しあうことになった。
「後悔はしていませんが、悲しくないと言えば嘘になります」
「でも、彼の死を抱えて生きると決めたのなら、それだけで彼は報われたのではないのでしょうか」
「……そうだと、いいですね」
ルポゼは戦いながらテゾールの表情がたまに辛そうに見えたのは間違いではなかったかと、彼の心境を考え胸が痛んだ。一撃一撃、刃がぶつかるたびに流れ込んできた記憶。テゾールはそれを思い出しながら、ナイフを仕舞う。
下を向くと、遠くにアンディートとジュデリカが戦っているのが見え気を引き締めた。戦いはまだ終わりではない。
──
「くそ…くそぉ‼‼」
「今ので五回目か…てことは……」
テイラーの全滅。
気が遠くなるほどの痛みをオレは感じた。その原因はそれだろう。
しかしどうでもいい、何の感情も湧かない。あいつらが心から俺のことを慕っていたのは見ていれば分かる。
だが何も感じない……本当か?オレは……オレハ──?
「あいつらの方は命令をこなしてくれた。なら俺も期待に応えなきゃいけねぇな」
「全員まとめてぶっ殺してやるよ……‼」
しかし、キーパーソンの誰一人もここに降りてくることはない。何故だと疑問に思っていると、アンディートは笑った。
「俺たち運命に選ばれし王同士の戦いに巻き込まれたら、いくら従者と言えど危ないからな。戦いが終わっても加勢しないように命令してある」
「あ?完全にオレ様の事舐めてるな……じゃあてめぇを殺した後皆殺しにしてやるよ‼」
従者の心配なんてしてる暇はないと分からせてやる。
オレは神器を構えると大きく息を吸った。
「『血の雨を降らせようぜ[ガイラウド]、オレに従え‼』」
神器が輝き、更に大きさを増すと煌めく大斧がオレの手の中に納まる。オレの神器は元から黄金色をしているため色に変わりはないが見た目は大きく変わった。
アンディートはそれを見て警戒している。オレは地面に斧を突き刺し、柄を撫でた。
「神器の進化。エヴォラメントについてアイテル様は教えてくれなかったのかぁ?」
「エヴォラメント……」
アンディートはオレの言葉を繰り返す。どうやらアイテル様は親切ではないようだと予想との違いに驚いたが、まあそんなことはどうでもいい。
「なぁ、そろそろ決着つけようぜアンディート」
オレは斧を地面から抜くと先をアンディートに突き付ける。戦いはこちらの方が優勢にある。普通ならこのまま油断することなく叩き潰していけば終わるだろう。
──だが、それではつまらないのだ。
「てめぇも神器をエヴォラメント化させろ。やり方を教えてやる」
「……本気か?」
「本気に決まってんだろ。その方が面白い」
アンディートはオレの言っていることが罠ではないか疑っている。それならとオレは斧をアンディートの前に投げ捨てた。
オレは何もしないと両手を広げてアピールをすると、アンディートは信じられないというような顔でオレを見た。
「どうだ?信じるか?」
「お前は本当にイカれてる」
「褒めんなよ」
アンディートはオレを信じたのか、力が欲しいのか、それとも両方なのか分からないが薙刀の柄頭を地面につけると戦闘態勢を解いた。
オレはそれを見て満足し頷くと、さっそくと説明を始める。
「体の底から湧き上がるこのメラメラがあるだろ?それをぎゅっとして神器にドーッン‼、以上だ」
「やっぱりか、お前はそういうタイプのやつだと思った」
「どういう意味だ」
アンディートは顔を顰めながらオレを見ている。とても分かりやすい説明だと思ったが、才能がないヤツには分からないのかとため息を付く。
ならば、とオレは手を前に出す。
アンディートの前に落ちていたオレの神器がそれに反応し、引き寄せられるように手の中に戻った。
「おっとわりぃな、誰も武器を捨てたとは言ってねぇぜ?」
「だと思った。謝る必要はない」
「そっか、つまんねぇなぁ……」
オレは神器を振るとアンディートに笑いかける。
こういうのは実戦でどうにかした方がいい。アンディートはオレの考えを理解したのか、すぐに薙刀を構えた。
「〈技力強化Lv5〉〈攻撃威力向上〉〈武器能力向上〉〈筋力強化〉」
「……」
「本気で来ないと死ぬぜぇ?」
地面を蹴り瞬時にアンディートに接近する。
斧を大きく振るうとアンディートはそれを受け止めようと薙刀を構えるが、すぐにそれをやめアビリタを使い回避した。
「(正解だ、受け止めたら神器ごとぶった斬ってた)」
だからと言って逃がしたりはしないと追撃、追撃、追撃。
少しかすっただけでも致命傷になりかねない今のオレの一撃一撃は、避ける以外の選択肢はないのだろう。
いや、そんなことはない。まだ道はあるだろ?
「早くエヴォラメント化させねぇと死ぬぞ‼」
「くっ……‼」
「おらおらおらァ‼‼」
アンディートの表情に焦りが見える。何度もオレの言ったことを思い出し神器をエヴォラメント化させようと必死なのだろう。
するとアンディートの神器が薄く輝いた……が、すぐにその光は消える。
「なさけねぇ、なぁ‼‼」
「──がッ‼」
足甲の付いた脚で腹部を蹴り飛ばす。アンディートは地面に転がり血を吐きながらオレを見上げていた。
『もう……やめて……‼』
その瞳を見て、ふと何かを思い出した。
なんだったか、しっかりとは思い出せない。これはなんだ、この息が苦しくなる感覚は、なんというなまえだったか。
「くそぉ!!」
立ち上がったアンディートは薙刀を振り、オレの体に一本の赤い線が走った。
その瞳には見覚えがある。
何かを守ろうとする強い意志を持った者の瞳。
自分の為だけに武器を振るうのではなく、大切な人のために。
オレは、その瞳が嫌いだ。
──
???年前
とある国の小さな村
「ユナせんせい‼」
「どうしたの?」
おれは紙に書いてあるミミズのような文字を先生に見せた。
「ユナせんせいだいすき」と書いてある。おれはワクワクしながら先生の反応を待った。絶対喜んでくれる!
それをじっと見たユナ先生は困った顔をしている。
「先生になんて書いたか教えてくれる?」
「せんせい読めねぇの!?」
「うん、ごめんね」
困ったのはおれの字が読めないからか。別に嫌われたわけじゃないと分かったおれは大きな声で書いたものを読み上げた。
「ふふ、ありがとう。先生もジュデリカのこと好きだよ」
「そっか!」
にこにこと笑顔でオレをみたユナ先生の顔を見てなんだか恥ずかしくなったおれはその紙を先生に押し付けて部屋を飛び出した。
喜んでくれた!喜んでくれた!
おれはそれがすごく嬉しくて庭まで走るとそこに寝転がった。
「せんせいもおれのこと好きなのか……」
なら両想いというやつだ。おれは本で読んだことがある。両想いになった王子様とお姫様は大きな城で幸せに暮らすんだ。
でもおれは王子様じゃないし、先生もお姫様じゃなくて先生だ。
「ならおっきな城だけでもおれが準備しよう!!」
どうやったらお城が手に入るかわからないが、そうしたら先生はもっと喜んでくれるだろうとおれは起き上がって振り返る。
今住んでいるところはお城ほどではないが大きい。
親がいない孤児と呼ばれるやつらが集まる場所だ。まあおれもその孤児らしい。
だけどおれにとってはここにいるみんなが家族だ。
「あ、ジュデリカだ!」
「早く逃げないと殺されるぞ!」
「お前なんか死んじまえ!」
石を投げられ、おれはそれをキャッチした。最近こうやってみんなが石をくれることが多い。流行っているんだろうか?
ここにいるみんなは優しい、だから親なんていなくても全然寂しくない!!
おれは幸せだ!
──
みんな少し身長が伸びた。
オレは伸びなかったけど多分まだ成長期とやらが来ていないんだろう。
みんながおさがりの服を着るなか、俺だけ新品の服が与えられた。
「せんせい、外で遊んでくる!」
「行ってらっしゃい、気を付けてね」
オレはそれに頷くと走って外に出た。外の空気が気持ちいい。
オレが散歩をしていると、遠くでみんなが遊んでいるのが見えてそこに走りだす。
「なにしてんだ?」
みんなはオレのことを無視して、誰かを囲って蹴っているようだ。
よく見る遊びだ。
オレも混ざりたい。一緒に遊んで欲しいのに誰もかまってくれない。でも理由は知ってる。
「なあ、オレも混ぜ──」
「うるさいな!エルフは黙ってろ!」
付き飛ばされ、オレは尻餅をつきながらムッとした。
確かにオレはみんなと違って耳が長い、エルフと呼ばれる種族だ。
ユナ先生がみている子たちはみんな人間だけど、オレだけ種族が違う。よく分からないけど、オレは特別らしい。
「なんでシェルドは泣いてるんだ?」
みんなに蹴られている子、シェルドはずっと泣いている。よくオレに石をくれるやつらはオレの言葉を無視してそれを続けた。
シェルドは泣いて、助けてって言ってる。ああ、なるほど──
これは悪い事なのか。
オレはすぐに立ち上がり囲っているやつらの肩を掴むと思い切り殴った。殴って、蹴って、また殴って。赤いものがオレに飛び散ったが、オレは先生に止められるまでそれを続けた。
先生は怒っている。個室に呼び出されたオレはそれが何故だか分からなかった。
「みんな死んじゃいそうになったんだよ、なんで怒られてるかを分からない?」
「だって悪いことをしてたのはあいつらの方だよ?シェルド泣いてたもん」
「殴ったり蹴ったりするのは暴力って言って、いけないことなの」
あれは暴力というのか。オレは良く分からないけど、あれは悪い事。
先生はそれを何度も説明している。でもオレはそれがよく分からなかった。
ただ、暴力は──とても楽しかった。
──
みんなまた少し身長が伸びた。
オレはまたみんなと違って新しい服を着る。成長期はいつくるのだろうと疑問に思いながら外へ飛び出した。
あのことがあった日からなぜかオレにみんなが近づいてこなくなった。オレは友達が欲しい。どうすればみんなと友達になれるか沢山考えた。
「どうすればいいんだ……?」
「ジュデリカくん、なにか悩み事?」
庭で考え事をするオレに誰かが話しかける。
確かにあの日以来みんな話しかけてこなくなったが、例外が一人だけいた。
「シェルド!」
「もしよかったら力になるよ」
オレは正直に友達がたくさん欲しいのだとシェルドに相談した。
するとシェルドはしばらく悩んだ後そうだと何かを思いついたようだ。シェルドは頭がいい、馬鹿なオレと違っていい案を出してくれるだろう。
「みんなジュデリカのこと怖いヤツだって思ってるんだ。だからみんなが困ってることを助けてあげたり、優しいところを見せてみようよ」
「優しいところか……」
優しいところ……オレはすぐは思いつかなかったが、とりあえずやってみようと施設の中に戻るときょろきょろと周りを見渡す。
すると高いところにある本が取れないようで背伸びをしている奴がいた。オレはそれを取ってあげるとそいつに差し出す。
「あ、ありがと……」
「礼はいいから、オレと友達になってくれよ!」
「友達……?」
そいつはそれを聞くとなんだか嫌そうな顔をした後オレから本を奪い取って逃げようとした。オレはそれが気に入らなくてそいつを捕まえると一発殴った。そしたらすんなり友達になってくれて、オレはやっと友達の作り方がわかった!
「殴ればいいんだ!」
それからオレは困ってるやつを見つけて助けてやると、逃げようとして奴は殴って友達になった。そしたらだんだん逃げようとするやつはいなくなって、オレはたくさん友達ができた。
先生は暴力は悪いことだって言ってたけどそんな事はないんじゃないかと思った。だってこんなにたくさん友達が出来たんだ。暴力はいい事なんだ。
「ねえ、ジュデリカくん」
「おお、シェルド!どうかしたか?」
シェルドはなんだか落ち込んでいるようだ。何かあったのなら助けてやりたいとオレは話を聞く。何故か分からないけどいつもより話す時の距離が遠い気がする。
「……なんであんな事するの?」
「あんな事?」
何のことだろうとオレは首を傾げる。その様子にシェルドは何でもないと一言言って部屋に戻っていった。何だったんだろう。
オレは自分の部屋でシェルドが言ってたことをずっと考えていたが、やっぱりわからなかった。
──
またまたみんな身長が伸びた。
やっぱりオレは相変わらずだ。新しい服を着て、いつもなら外に出るが今日は図書室に向かった。先生のおすすめされた絵本を借りに行こうとそれを探していると、いつもオレに石をくれる三人組がなにか集まって話している。
こいつらは頑なにオレを拒んで、未だに友達になれていない。でもオレの目標は施設のみんなと友達になる事だ。
「なに話してんだ?」
「げ、ジュデリカ……」
明らかに嫌そうにした三人にやっぱりオレが嫌いなのかと嫌な気持ちになる。
何が駄目なのか、この三人だけは殴っても友達になってくなかったから、ほかの方法がいいんだろうか。
「なんでオレのこと仲間外れにするんだ?」
「うるさいエルフはどっか行け!」
エルフ……そうか、エルフなのがいけないんだ!
オレはすぐに台所に行くと包丁を取り出した。エルフの特徴である金髪と長い耳。金髪は他の種族でもいるから、問題は耳だ。
「ぃ……ぐっ……!!」
オレはすぐに三人の元に戻るとにこりと笑う。
三人は青ざめ、オレを怯えたような目で見た。なんでだろう、でもこれで友達になれる!
「ほら、耳も人間と一緒で短い!オレも人間だ!」
「おま、え……耳は……」
「切った!」
三人はそれを聞くと叫びながら逃げようとする。なんで?なんでだ?
オレは三人を捕まえると殴った。
「なあ友達になってくれよ。オレも人間だぞ?」
「おまえ、おまえ可笑しいよ!!狂ってる!!」
「なんで……なんでそんなこと言うんだよ!!」
オレは、悲しかった。だから暴力を振るった。
抵抗していた三人は暫くしたら動かなくなって、駆け付けた先生が何故か泣いているのを見てオレは更に訳が分からなくなった。
──
オレが殴った三人は次の日から姿を見なくなった。なんでも他の施設に行ったんだとか。オレは最後まで友達になれなくて悲しかった。
「ジュデリカ、ちょっと先生とお話ししようか」
「ん?いいぜ!」
何だろう、ついにお付き合いの話だろうかと楽しみにしていたオレは先生が案内するまま地下の暗いところまでついていて、そして鉄の棒がたくさん並んだ場所に入るように言われた。
「こんな暗いところでお話しするのか?」
「ごめんね……本当にごめんなさい……」
「?」
先生は扉に南京錠をかけると泣きながらオレに謝っている。何故だか知らないが先生が悲しむ顔は見たくない。しかしここはどこだろう。本で読んだ牢屋という物にそっくりだ。
「ジュデリカ、よく聞いて」
「おう」
「貴方は、ほかのお友達と違って体が大きいわ」
「確かに……同じ六歳のみんなとは全然違うな!」
確かにそうだが今さらそれが何なのだろうと首を傾げ、先生が話すのを待つ。
みんなはオレのお腹の真ん中あたりまでしか身長がない。何故かは分からないけど、オレは気にならなかった。
「貴方はね、心と体の成長があっていないの」
「どういう意味だ?」
「ジュデリカはね、もう25歳なのよ」
25歳?いつものことだけど先生が何を言っているか俺にはよく分からなかった。
しかし今日は一段と分からない。
オレは……子供じゃないのか?特別ってのはそういう事なのか?
「なんで……なんで黙ってたんだよ……」
「それはジュデリカを守るためで──」
「嘘だ!!どうせ先生もオレが怖いんだろ!だからこんな所に閉じ込めて……」
先生は俯くとそれ以上何も言わずに地下から出て行ってしまった。
オレは一人ぼっち。友達も助けに来てくれない。
──もしかして、みんな誰も友達と思ってくれなかった?
みんなをオレが怖かったんだ。大人の体をしているから。
オレはただ、友達が欲しかっただけなのになんでうまくいかないのだろう。
オレは牢の中でずっと、ずっと考えた。
どうすればいいのか、どうしたらみんなと友達になれるのか……
そこから、どんどんおかしくなった。
──
暴れて、暴れて、暴れまわった。
牢屋の鍵など簡単に破壊できた。その後は施設を破壊して回って、大好きだった庭の花壇もぐちゃぐちゃにした。
ついでに止めようとしてきた友達──いや、人間もぐちゃぐちゃにしてやった。
もう誰もオレを止められない。オレは自由になるんだ‼
逃げようとするやつを捕まえて、殴り殺そうと拳を振りかぶる。
オレのことを怖がった奴はみんな死んでなかったことにすればいい──
「もう……やめて……!!」
「……?」
声を掛けられ振り返る。そこには大好きな先生が居た。
先生ならオレのこと分かってくれるはず!……だけどその手に持っているのは何だ…?
「あ、オレ知ってる!それマスケット銃っていうんだろ!本で読んだんだ!」
「動かないで……その子を離しなさい」
オレは言うとおりに捕まえていたやつを離すと、そいつは先生の後ろに隠れた。
あんまりオレの先生にくっつかないで欲しいが、あとで死ぬんだから許してやろうとにこにこ笑った。
「なあ先生。ここを出て新しいところで一緒に住もうよ!」
「なにを、言って……」
「オレは王子様じゃなしし、先生もお姫様じゃないけどお城は頑張って用意するからさ!」
先生は震えている。何故だろう?オレの気持ちに感動しているのだろうか?
「貴方は……貴方はおかしいわ!」
「……?」
先生は自分の後ろに隠れていた人間を逃がすと、
銃をオレに向けた。
「な、んで……?なんでそんなもんオレに……?」
「これ以上子供たちは傷つけさせない!」
先生は本気だ。みんなを守ろうとするその強い意志のこもる瞳でオレを見ている。
「ねえなんで?オレはただ……」
「動かないで!」
先生に伸ばした手をオレは言うとおりに手をおろす。
何を、何を間違ったのだろう。
オレはただ友達が欲しかっただけだ。
なのになんで……?
「なんで……なんでそんなに怒るんだよ……」
「──貴方は……化け物よ」
先生は銃をしっかり構えた。
「先生、なんで?なんでそんなこと言うんだ?オレ、分かんないことだらけで、でもちゃんとわかるように頑張るから──」
「……」
先生は何も言わずに涙を流している、それを見てオレも悲しくて泣いた。
なんで、なんでサヨナラしなきゃいけないんだ?
先生は引き金に指をかける。
そこには、決意が見えた気がした。
ああ、オレは死ぬのか。
そして引き金が引かれ、大きな発砲音が村中に響いた────
──
ジュデリカは俺が斬りつけた後から、どこか様子がおかしくなった。
おかしくなったというより……涙を流したのだ。
「お、れは、オレは……ただ……!!」
苦しそうに胸元を抑えながら泣いている。これはチャンスだろうが、果たして今の彼に攻撃していいのかと自分の中で葛藤する部分があった。
しかしそんな事考えなければよかったと後悔した。
「オレは、オレはぁ!!」
先程より力強く斧を振り回し、正気を失ったまま俺を殺そうとしている。アビリタの効果が切れるまであとどれぐらいだと焦りながら回避していたが、ついにこちらの技力が尽きてしまう。
「──ぐああぁぁあ!!」
腹部を抉られ、血が噴き出した部分を抑えながらよろよろと後退する。
本当に神器をエヴォラメント化させないと太刀打ちできない。俺は自らの闘志を神器に送り込むようなイメージをすると、神器が光りだす。
「(やったか!?)」
しかしその光はすぐに消え、そっちに意識を回したばっかりにジュデリカの攻撃が回避できず腕をかする。凄まじい痛みに悶えそうになる。だがここで諦めてはいけない。
「頼む、進化してくれ……!!」
「ああぁぁぁあっッ‼‼」
ジュデリカの攻撃が迫り、薙刀で受け止めようとする。
しかし、俺の薙刀は、神器は両断された。
攻撃を再び浴び、意識が朦朧とする。
「(ここで……終わるのか……?)」
あまりに痛みに意識を手放したいとさえ思う。もう死んで楽になりたいとさえも。
だが、俺は……俺は────
「『ここで諦めるわけには、いかねぇんだよぉ‼!』」
神器が今までで一番の光を放った。
切れた部分はすぐに元通りになり、黄金に輝く薙刀を俺は持っていた。
「これがエヴォラメント化……」
ジュデリカの斧を受け止めると、押し返しすぐに距離を取る。
もう技力は尽きたし、もとより魔力は少ない。散々斬られた体も持ちそうにない。
絶望的な状況だ。
「てめぇはもう死ぬんだよ‼あいつらと同じように‼」
「死んでたまるか‼」
ジュデリカは相変わらず泣きながら斧を振るっている。あと一撃でも当たれば俺は死ぬだろう。それに何もしなくても大量出血で天国行きだ。
──できることは、ただ一つ。
俺はわざとジュデリカに接近し、その腹に手を当てる。
「〈ドローレ・リターン〉解放ッ!!」
「────ッ」
ジュデリカが無数の傷を負う、Lv5の魔法を撃つ魔力はないはずの俺がそれを放ったことに、ジュデリカは驚きを隠せなかった。
びちゃびちゃと血が滴り、ジュデリカの足元に血だまりが出来ていく。
「な、んで……」
ジュデリカはそのまま後ろに倒れ、斧が地面に転がる。
俺は薙刀を杖にするようにギリギリの状態で立ちながらジュデリカを見下ろす。
「ただの、小細工だ」
「……ああ、さいしょ、のか……」
ジュデリカが笑うと咳き込み血が口から溢れた。
自らのダメージをそのまま相手にも同様に味合わせるという魔法、〈ドローレ・リターン〉。自分の傷が癒えるわけではないので、俺も立つので精いっぱいだ。
切り札として最初に1度だけ使えるように込めておいて良かったと安堵する。
徐々にジュデリカの体が灰色がかって来る。運命に選ばれし王の最後、発狂の時に見た現象と同じだと俺はジュデリカをただただ見ていた。
「オレは……死ぬのか……」
「ああ、死ぬ」
「そうか……」
消えていく、だんだんと灰になり風にさらわれてゆく。
ジュデリカはそれでも笑ったままだった。
「オレ、気づい、たんだ……」
「……」
「テイラー、が、全滅、したとき…かんじた、のは……かなし、さだった……」
ジュデリカは涙を流しながら笑っている。それを見届けるのが自分の役目だと、俺は最後までその言葉を聞く。
「ともだ、ち、が……ほしく、て……おれ、は……」
「お前ともっと違う出会い方をしてたら、俺らは友達だったかもな」
「ほんと、か……?ははっ……あり、がと…な…………」
ジュデリカは俺に手を伸ばす。
その手を握ってやると、彼は心からの笑みを浮かべ完全に人の形が崩れて消えた。
「……こいつに、もっとしてやれる事があったのかもしれないな…」
ジュデリカ・アグニ。
歪んでしまった彼の死を乗り越えるのではなく、抱えて生きようと俺は思った。それがせめてその命を奪った俺にできることだと。
「あー、それにしても限界だ……」
俺は神器を体内に収めると、そのまま倒れこみ意識を失った。
──
「──ーマ王様、ブラフマー王様!」
「……間一髪……ってとこか」
キーパーソンの安堵した様子を見ると、自分は死に際だったのだろうとアンディートは半身を起こした。周りを見ると、だれ一人欠けていない。
「キーパーソンはなかなか優秀らしいな、ご苦労」
「労いのお言葉、有難うございます」
キーパーソン皆が頭を下げるとアンディートはなんだか居たたまれない気持ちなる。そして立ち上がるとぐっと伸びをして茶化すように笑う。
「褒美は何が欲しい?つっても従者ってのは大体みんな物欲がないからな……」
「……ジュデリカ・アグニはどんな人物でしたか?それをお聞きしたいです」
サージェの問いに、「それが褒美か?」と聞くとこくりと頷いた。
本当に欲がないなと思いながらも、俺の意見だがとアンディートは話し始める。
「最初に大きな子供の様だって言ってたが、実際そうなんだと思う。あいつは昔のまま時間が止まっている、ただ友達が、仲間が欲しかっただけの子供だ。間違った方向に進んじまったが、あいつを見捨てずに寄り添うやつが居たら今とは変わってたかも知んねぇな」
「従者達はその役には不十分だったのでしょうか?」
サージェの代わりにテゾールが問いかけると、アンディートは首を振った。
「なっていたと思うが、ただ本人が気づくのが遅かった。それだけだ」
テゾールは礼をいいそのまま黙り込む。
やはりあのそっくりな獣人は知り合いだったのだろうとアンディートは思うと、テゾールの肩を軽く叩き、慰めの言葉はかけなかった。
「俺達は勝った。だが戦いはこれからだ、気ぃ引き締めろよ!!」
『──はっ』
キーパーソンの返事に頷くと、アンディートはレナータとムームアの無事を祈った。
ジュデリカ戦、終了しました!!
テイラーはカラビナの王が死亡したことによっての消滅ではなく普通に殺されて全滅という悲しき展開……
私がずっとやりたかったのはシュティーとテゾールの絡みですね!!
そのせいでこんな従者交換というむちゃくちゃな戦いになってしまいました。でも折角兄弟なのだからお互い会わないまま死んじゃうのも嫌だったのです。
シーヴィータとかエヴォラメントとか覚えずらい専門用語が増えてきましたね!!でも中二っぽくて好きです。中二病はもう治りません。
次回はアノルマ戦になると思います。
ここまで読んでくださりありがとうございました!!