髪が風になびき、肌寒さを感じながら飛行する。
向かうはスフィーダの塔。直接目的の王の元へ行くのではなく、エレボスがいるであろう塔に向かえばからなず止めに来るだろうという作戦だ。
やはりその考えは正しく、成功したようだ。
「隠れてないで出てきたら?」
私はレアリスト王国付近の上空で止まる。不可視化の魔法を使っているがそう来るだろうと事前に付けていた眼鏡を外すと虚空に話しかけた。
暫く沈黙が続く。しかし小さくため息のようなものが聞こえると不可視化を解き、目の前に四人の人物が現れた。
「やっぱり戦うしかないんだね」
「もちろんだよ」
私は軽く後ろに視線を向けたあと、アノルマを見つめる。エレムストの魔物はアイテリアに比べて凶暴性が強い。これまでは二つの世界は結界で区切られていたが、今は違う。
「結界が無くなったことで、アイテリアがどうなってるか貴方は知ってるの?」
「ああ、知ってるよ。このままじゃいつか滅ぶかもね」
何も感じていないような淡々とした口調でそう言ったフルフェイスの仮面をかぶった王、アノルマ・スーリヤはこちらを見つめている。
その後ろに控える彼の従者達は、私が連れるノーネームを怪訝そうに見ていた。それもそうだろうと納得していると、アノルマは首を傾げる。
「何故君が来たんだ?シヴァ王が来るんじゃないかと思ってたんだけど」
「そうだね、普通に考えたら勝つためにはそれが一番だよ」
「理解できないな……君、今度こそ死ぬよ?」
初めて会った時のアノルマは手加減をしていた、そして二回目は私がすぐに撤退した、今回で三回目だが……相手の力が全く分からない。
彼は自己評価が低い。ジュデリカ、プレーノの方が自分より強いと言っていたが、果たしてそれは本当なのだろうか。
「……僕はただ、死にたくないだけなんだ。その気持ちだけで今日まで生きてきた」
「……」
「でもエレボス様には逆らいたくない。だから──君を殺して、僕は生きる」
生きたいのなら戦いを放棄すればいい。私から逃げればいい。なのにそれをしない、できないだけの忠誠心がアノルマにはあるのだろう。
それが何故なのか、私はずっと疑問に思っている。聞いた限りジュデリカもプレーノも人に従うような人物ではないと思うのだが、その忠誠心はどこから来るのか。
「なんでエレボスに従うの?」
「……言いたくない」
「そう……なら話は終わりだね」
私が腰に提げていた双剣状の神器を抜くと、アノルマは胸元から杖状の神器を体内から取りだした。
私達の得意能力は体力……つまり耐久力だ。魔力も技力もそこそこな私は下手に魔法やアビリタを使うと速攻で負ける。
私のクアリタ、『味方が死亡すると自身の物理攻撃力、魔法攻撃力が大幅に強化される』というものは当然使えない。
自ら望んだ不利な戦い。それに勝つためには策と、そして強い意志が必要だ。
「スターシャ、ルナティス。下で後ろの三人の相手を」
「畏まりました」
「……絶対死なないでね」
ノーネームの二人を見つめそう願うと、二人は微笑み深々と頭を下げた。
うちのキーパーソンを相手に苦戦を強いたのだ、この二人なら負けはないだろうとアノルマの従者と下に降りて行くのを見送る。
「僕の従者には勝てないよ。いくら自信があろうとも」
「自信だけじゃない。あの二人はムームアの……大切な仲間の従者だから信頼できる」
「信頼……他の王なんてただの他人じゃないか。きっと裏切る、君を見捨てるんだ」
何がそうまでして彼に不信感を抱かせているのかは分からないが、悲しい人だ。
従者は自らの精神力、いわば魂のようなもので召喚する肉親よりも近い存在。彼は自らの召喚した心からの忠誠を誓うあの三人しか信じることができないのだろう。
「誰かを信じる、それはとても勇気のいることかもしれない。でもそれに怯えたままじゃ貴方はその暗闇からは抜け出せないよ」
「いいんだ、死にさえしなければ。どんなに暗くてもそこにいる」
「……それは生きてるって言えるの?」
私の言葉を不快に思ったのかアノルマは杖を構えた。
──私は何をしているのだろうか。
これから殺す相手の心配などしてはいけない。殺すという事は彼の人生を終わらせ、生きるはずだった未来を奪うという事だ。私はそれを自分のためにしようとしている。
どれだけ救いたいと願っても、避けられない事だ。
「(本当にそうなのだろうか……)」
国も従者も仲間も、敵さえ救いたい。全部というのは我儘だろうか。
でも大切な人を傷つけられた。
確かに何よりも大切な従者達を傷つけられ心底怒っているが、その感情のまま彼を殺して進んでいいのだろうか。
どんどんと自問自答の波に呑まれていく。
「〈ポテンシャルアビリティ〉〈サイコエナジー〉」
アノルマが詠唱を始める。
今さら何を迷うのか、もう覚悟は決めたはずなのに今頃うじうじと、本当に私らしい。
私も結局出した答えは彼と一緒だ、自分の世界を守るため──
彼を殺して、私は生きる。
「〈戦士の心得・強撃〉〈戦士の心得・俊敏〉〈戦士の心得・強固〉」
更に増した溢れる力で、素早い動きで、打ち破れぬ体で。
そこに足場があるように宙を蹴ると、アノルマに接近する。アノルマは杖を構えたまま動かない。私はそれを疑問に思いながら双剣を振りかぶった。
「──っ!?」
まるで彼の周りに球体のバリアが張ってあるかのようにそれは弾かれる。先程の二つの魔法の効果ではない。恐らく私が来る前からかけていたのだろう。
「〈ハイドロボム〉‼」
剣先から水の球体を作り出し剣を振るってアノルマ、正確にはシールドに向かって放つ。それはシールドに当たると爆破が起こり、空間が割れたようひびが入るとそこを中心に二撃三撃と連発していった。
次第にひびは大きくなり、ついにシールドが破壊される。
「〈アルカナ・シール──」
「させないッ‼」
再びシールドを張られる前に双剣で斬りつけると、それを杖で受け止められる。ギリギリと火花が散り、にらみ合いが続くと私はアノルマに笑いかけた。
「殺すなら、殺される覚悟がないと死んじゃうよ?」
「そうかな。僕はそう思わな、いっ‼〈リジェクト・インパクト〉‼」
剣を押し返されるとアノルマが突き出した手から衝撃波が放たれる。至近距離からそれを受けたがアビリタの効果のおかげであまりダメージは負わずに済んだ。
しかし痛いものは痛い。私は腹部を抑えながら指を鳴らすと、それを合図にフルプレートアーマーを瞬時に装備して再びアノルマへ攻撃を仕掛ける。
「くら、えぇッっ‼」
「〈カオス・マインド〉」
双剣をひらりとかわすと、アノルマの手が私に伸びた。
直感で分かる、この魔法を使われるのは不味いと。
「最悪を見ろ」
「ぁ────」
アノルマの手が私の頭部に触れると、視界がパッと暗くなる。
暗闇に包まれたまま、神経を耳に集中させ音を拾おうとする。剣を構え、アノルマからの次の攻撃を待つが違和感に気づく。
──アノルマの動く音どころではなく、風の音さえ聞こえない。
「(触覚は無事、五感じゃなくて視覚と聴覚を奪う魔法だとしたら……)」
それは不味いなと焦りながら次の策を考える。魔法壁で攻撃を防ごうにも私の防御魔法は前方にしか魔法壁を張れない。もし使ったとしてもどこから来るか分からないので無駄な魔力な消費になる。
「──レナータ様?」
急に視界が復活すると、そこはイデアーレの城だった。謁見の間で王座に座りぼうっとしている私にサージェが心配そうに声を掛けた。
いつの間に、どうしてここにいるのだろう。確かさっきまでアノルマと──
「そんな事より、ここでのんびりしましょう」
私の心の声に返事をするように、エンドが私に笑いかけた。今度は自室のベッドにエンドと二人で腰を掛けている。今日は……二人で過ごす日だったか。何故そんな大事な日を忘れていたのだろうと私はエンドに寄り掛かった。
「愛しています」
エンドはそういうと私をベッドに押し倒し──首を絞めてくる。
なんで、やめてと言おうとするが声が出ない。エンドの手を掴み抵抗するが、何故か力が入らない。私は涙を流しながら出せるだけの力でエンドを突き飛ばす。
そして、パンッと音が鳴る。
私は閉じた目を開くと、その光景に息が止まった気がした。
壁には大きく花が咲いたように赤が広がり、その中心には中身が飛び散った恋人が張り付いている。
「ぁ……ぁあ……」
ぼとりと肉の塊が床に落ちると、私はまた謁見の間にいた。
今度は王座に座ってはおらず、手に神器をもったまま立ち尽くしていた。
足元には八つの遺体。ほぼ原形は留めていないが、それらが誰だったかが理解できる。私の持つ双剣は血が滴ってをり、誰がそれらを殺したのは明白だった。
「────わ、わたし……は…」
マジカルボックスから短剣を取り出すと、心臓部に当て思い切り突き刺す。
しかし、痛みは感じない。刺さったが私は死んでいない。
「ぁ、なんで、なん、で、なんで──‼」
静かな謁見の間にぐちゃっぐちゃっと肉にナイフを突き刺す音が響く。
何度刺しても、首を斬ろうと、私は死なない。死ねない。
辛い、苦しい。早く、早く死にたい。
こんな現実から逃れたい、こんな最悪な現実から────
「現実……?」
従者は死亡すると消滅するはず。こうして遺体が残るのはおかしい。
それにエンドが私を殺そうとするなんておかしい。
そもそも戦っていたはずの私が城にいるのはおかしい。
おかしい。そう、おかしいことだらけだ。
そう気づいたとき、城に大きくひびが入る。おかしい、これは違う──
「──幻術か‼」
「ああ、もう気づいたの?」
目の前にはアノルマが短剣を持ち振りかぶっている。それを剣で払うとすぐに大きく飛び退いた。
運命に選ばれし王とはいえ、心臓を一突きされたら少しはもつだろうが死んでしまう。危うく死ぬところだったと汗を流しながら双剣を強く握った。
アノルマに接近するのは危険だが、双剣での攻撃範囲内まで近づかなくてはいけない。
「君はどんな最悪を見た?」
「あんまり思い出させないでくれないかなぁ……」
「僕に負ける最悪、国が崩壊する最悪…それとも仲間が死んじゃう最悪かな?」
先程の幻術で見た光景を思い出し吐き気がした。
私は正直に言うとあまり精神が強いわけではない。だからこんなにも手が震え、剣が音を立てるのだろう。
「そうなんだ、仲間が死ぬ最悪か……じゃあそれを現実にしてあげるよ」
「──させないっ‼」
アノルマが私から距離を取ると詠唱を始める。
私が死ねば従者達は道ずれ、その上アンディートとムームアも危険な状態になる。
怖い、確かに怖い。失うのは怖い。
だからこそ戦わなきゃいけない──
「『誰も死なないし、死なせない……私達はお前達を倒して前に進む‼』」
私は決意を口に出す。
すると……私の神器が急に輝きだした。眼が眩むほどの輝きが収まると、私の神器は黄金の双剣となっていた。
「……うわ、金ぴか…趣味悪っ、なにこれ」
「エヴォラメント……まさか自力で……?」
アノルマから驚愕が伝わってくる。エヴォラメント……なんだか知らないが、神器からいつもよりも大きな力を感じる。ランクアップという事だろう、色は気に入らないが。
軽く振ると風が起こり、アノルマのフードが捲れた。
「早くしないといけないみたいだね……『[テイリフォーク]、僕の力になって』」
アノルマが神器に語り掛けると、私のと同じように黄金の神器に変わる。あっちも本気を出したのだろう、こちらもヘルムを投げ捨てると本来の竜人の姿に変化して改めて双剣を構えた。
怖い気持ちも怯える気持ちも抱いたまま、私は叫びを上げアノルマに斬りかかった。
──
side:ノーネーム
レアリスト王国付近、ギルトス砂漠
「三人ですか……」
「ルナティス、貴方はいつもそうやって……!!」
「『調子に乗るな』、でしょう?」
「…分かっているならいいですわ」
私達は砂漠に降りお互いの出方を伺っている。相手は3人、翡翠の髪をした悪魔、黒髪をサイドテールに結んだ女性、左右で違う高さに結ばれた白髪の少女。
名は何だったかと考えていると、それを察したのかスターシャは説明し始める。
「左から、モーリュ、キリカ、ディレス……と、いってもすぐにお別れするのだけど」
「えぇっと…いっぺんに言われても分かりません。私は名前と顔覚えるの苦手なんですよね」
「どうせすぐ忘れるんでしょ」とボソリと言ったスターシャに確かにと納得する。交流のあるキーパーソンやプローヴァリーの面々すら名前を覚えるのにかなりの時間がかかった。しかし、今回はちゃんと覚えておかなくてはいけない。
「では、作戦通りに」
「ええ……貴方を信じますわよ」
スターシャはあるマジカルアイテムを私に渡す。羽の形の装飾の施された髪飾り、その片方を受け取り髪に付ける。
スターシャも同じように付けるととサラリと髪をなびかせた。
「ねー、そっちの準備終わった?」
黒髪の女性、キリカがこちらに問いかけてくる。これからただの運動をするようなのんびりとした声に気が抜けるが、それはフェイクだろう。
「終わりました。では……あちらの戦いも始まったようですし、わたくし達も始めましょうか」
アノルマの従者達、フトゥースペラは警戒心が強いのか自分の方が強者だと自惚れることはないらしい。カリビナの時とは違うなと思いながら、私は軽く飛ぶと数メートル彼らに近づく。
「貴方方に直接攻撃を降すのはこの、攻撃、防御、支援に回復……なんでも出来る私一人です」
「はぁ?舐めてんのこのデュラハン……」
ディレスは不快だと感じたのか顔を顰めると空いてるか空いていないのか分からない目で私を見ている。挑発だと思ったのだろう、怒るディレスをモーリュとキリカは宥めている。それを観察しながら、私はただ本当の事を言っただけなのにと残念に思った。
「あんたも、そこの人間も殺して私達はアノルマ様の元へ行くわ。あの憎きヴィシュヌ女王を殺さなきゃ……」
「憎い?ヴィシュヌ女王様は何かされたのでしょうか?」
「貴方にいう筋合いはない」
ディレスが舌打ちをした後にモーリュがそう言うと、キリカは棍を取り出しクルクルと回して構えた。私も同じように大鎌を回転させ構える。
「〈アネモス・トリル〉!!」
最初に動き出したのはモーリュだった。
私は最初の一手として、大鎌の攻撃ではなく魔法を発動した。
「〈モンド・ストップ〉」
カチリと音がして、世界が止まる。と言っても止まるのは私を中心とした五十メートルの範囲内の世界の上、効果は二十秒。しかしそれでも十分な時間だ。
「〈テレポート〉」
次に転移魔法を使用してスターシャに触れると彼女だけ時間停止から解放する。彼女に触れたまま再びテレポートで元の場所に戻ると、スターシャはクアリタを発動させた。
「〈ワンダー・ウォール〉」
「では、ノーネームの力を見せましょうか」
私がそう言うと、スターシャは悪い笑みを浮かべながら笑った。恐らく自分も同じような顔をしているのだろう。
スターシャのクアリタは私とフトゥースペラの3人を囲うように透明なキューブを作り出した。
私が手をパンッと合わせると、モンド・ストップが解除されフトゥースペラの3人は再び動き出す。
しかし周りの異変に気づき直ぐに止まると私達を睨みつけた。
「何をした」
「いえいえ、少し時間を止めてちょちょっと逃げられなくしただけです。相方に手を出されては困るのでね」
モーリュの問いかけにそう応えるとスターシャの作り出した魔法壁をコツコツと指で触れる。
キリカが棍を思い切り魔法壁にぶつけるが、ヒビひとつ入らないそれにモーリュとキリカに首を振るとフトゥースペラの面々は納得したようだ。
「この技力量…クアリタね。破壊できない魔法壁といっても効果時間はあるはずよ」
「そうですね、しかしその前に私が皆さんを殺すのが先でしょう。もしくは……」
私は上空を見る。ヴィシュヌ女王様が先に決着をつけるのが先かもしれないというのが伝わったのか、3人は明らかな殺気を私に向けた。
さて、と大鎌を構えると私は挑発的な笑みを浮かべる。
「『スターシャ、早速ですが何をすればいいですか?』」
「『助けを求めるのが早すぎやしませんか?』」
ワンダー・ウォールはあらゆる魔法、アビリタを遮断してしまう。しかし最初に付けた髪飾りはランク5のマジカルアイテム。これの効果のお陰でこうしてテレパシーが使えている。
「『最初に倒すのはディレスが良いでしょう。キリカが接近戦で邪魔をしてくるかもしれませんが、ディレスの魔法は恐らく強力です。早めに潰しておいた方が後々楽になりますわ』」
「『了解です』」
キリカの棍を避け、テレポートを使いながらディレスに接近する。大鎌を振るい彼女の首を取ろうとするが、彼女それを簡単にかわすとすぐに私から距離をとる。
「〈スコトス・ヘキサラ〉!!」
闇の塊が私に飛ぶが、それを大鎌をバットに見立てて跳ね返すとそれは魔法壁にぶつかり大きく爆破した。
「『おバカ!!サージェさんが使うような武器をすり抜けるタイプの魔法だったら直撃でしたよ!!』」
「『ああ、そんな事も──』」
「『六時の方向、キリカが来ています!!』」
爆風に紛れキリカが背後から棍を私に振り下ろそうとしているが、私はテレポートでそれを避ける。
それを追うように何度も棍を振るい、その度に私は避け続け地面にはいくつものクレーターが出来た。
「『貴方のテレポート先は読みやすいので乱用しないように』」
スターシャからの指示に短く返事をすると言われた通りに回避のためのテレポート回数を減らし、受け止められる物理攻撃は鎌で受け止める。
モーリュとディレスの魔法攻撃に加え、キリカの物理攻撃。見事に連携の取れた動きに私は関心した。これが長年従者として生きた者達の戦闘かと。
しかし──それでも私達には勝てない。
「『キリカを誘導しながら、ターゲットをモーリュに変えたと見せかけディレスにレベル5の魔法を』」
正面から来たキリカの顔を掴み、全力で地面には叩きつけると素早くモーリュの方へ向かう。大鎌を振りそれをモーリュがシールドを張り受けたのを確認する前に、ノールックでディレスに魔法を放つ。
「〈ルナ・ミッドナイト〉」
暗黒のレーザーが私の指先から放たれるとディレスの叫び声が聞こえる。私は脚力だけでモーリュのシールドを破壊すると背後から迫るキリカにモーリュの頭を掴み突き出した。
「──っ!!」
キリカはすぐにモーリュに当たりそうになった棍の軌道を逸らして、それを回転させると私の腕にぶつけた。
その痛みにモーリュを離すと、私はテレポートで一旦下がりながらディレスに魔法を連発する。
三人も一度私から距離をとると、息を荒らげ私を睨んでいる。三人には私がパーフェクトな従者に見えるだろう。
まぁどれもこれもスターシャに指示されで出来ることなのだが。
「大口叩くだけあってかなり強いようね」
「お褒めの言葉、素直に受け取らせてもらいます」
「でも、自分だけが優秀だとは思わない方がいいわ…〈ツァイト・ストップ〉!!」
「『ルナティス!!』」
ピタリと私の動きが止まる。私の時間停止魔法よりも低位のものだが、私だけの動きが止まる。スターシャから動けとテレパシーが聞こえるが、彼女もなんの魔法かは理解しているだろう。
ディレスがモーリュに合図をすると、モーリュは私に向かって手を突き出す。
「くらえ!!〈アネモス・デカロ〉ッ!!」
彼の持つ魔法の中でも強力な物なのだろう、放った反動で少し後ろに吹き飛んだモーリュは魔法壁に衝突した。それ程の威力の魔法が、今私に向けられている。
竜巻がごうごうと私を襲おうと接近してくるが、当たれば身を切り裂かれ四肢が繋がっているかも危うい。
ディレスは更にそれに強化魔法をかけ、そして追撃しようとキリカが準備している。
「(なかなか素晴らしい、しかし──)」
ザクッと肉を裂く。
モーリュの放った風魔法は私には当たらず魔法壁にぶつかり消えると、その本人は口から血を流した。
彼の胸元からは、私の大鎌の刃が突き出ている。
「な、んで……」
「時間停止魔法対策。何も自分だけが優秀だとは思ってませんよ」
ディレスにそう笑いかけ大鎌を振ると血を飛び散らせながらモーリュが彼女の足元に転がる。強者、フトゥースペラの面々は私に対して警戒レベルを上げただろう。
まぁ、勿論時間停止を使ってくることを予想してアイテムを持たせたのはスターシャなのだが。
「流石にさっきの魔法をくらっていたら本気で敗北の可能性がありましたが……どうやら大丈夫だったみたいですね」
「こ、のぉぉお!!!」
ディレスは闇魔法を連射する。ここまで仲間が傷つけられることは今までなかったのだろう、かなりの荒れようだ。
モーリュが自らに回復魔法をかけ、それをキリカが庇うように立っている。
「『モーリュに追い打ちをかけましょう。トドメのつもりでやってください』」
「〈チェンジ・ディオツィオーネ〉」
ここまで追い詰めてこれ以上の回復は不味い。ディレスの放った魔法をカウンター魔法で跳ね返しモーリュ達に向ける。仲間の渾身の攻撃、キリカはそれを棍で弾くが全てといかなかったようだ。
「キリカ!!モーリュ!!」
ああ、戦線が崩れた。自分の攻撃が仲間を傷つけたとなればそうなるだろうと私は追撃に向かう。
「『ルナティス、油断しないで!!』」
「──っ」
キリカは何かを決意したような顔で私を見ている。スターシャの忠告に私は一度テレポートでの後退を考えたが、キリカの方が早かった。
「〈ブレイジング・メテオ〉ッっ!!!!」
棍を軸にしてぐるりと回るとキリカの足が燃え上がり避けるのが間に合わなかった私の腹部に強烈な蹴りを貰った。
骨が折れ、内蔵が破裂する。
「『ルナティス!!』」
魔法壁に衝突した私は血反吐をぶちまけながら地面に落ちる。あれが彼女のクアリタなのだろう、その恐ろしい威力に私は一撃で瀕死まで追い込まれた。
逆転劇。今度はこちらが追い詰められる番だった。
魔法壁に手を付きゆっくりと立ち上がると、丁度スターシャの姿が見えた。
そんな泣きそうな顔をしないで、私のせいでまた悲しい顔をさせているのか……。
「『大丈夫…大丈夫です……』」
私は回復魔法をかけながらテレパシーでそうスターシャに伝える。口に残る血を吐き出すと、手を離してしまった鎌をどう取り戻そうか考えながらディレスの攻撃魔法を避ける。
「〈ディフェーザ・ランフォルセ〉」
まだモーリュの回復には時間がかかるようなので、私は防御魔法をかけるとキリカの棍を腕で受けながら鎌を取り戻そうと走る。もう少し、もう少しで──
「〈グラヴィティア〉!!」
「くっ……!!」
あと少しで届くという所で重力操作の魔法をかけられ私は膝をつく。チャンスとばかりにキリカの棍が私に炸裂するが防御魔法の効果はまだ続いているのであまりダメージは負わない。しかしそれも時間の問題だ。
「アタシ達は貴方を倒して、アノルマ様の所に……!!」
「こちらも、負けられないんですよね!!」
棍を振りかぶったタイミングでキリカの顔面に拳を叩き込む。よろつきながら後ろに下がったキリカの腹部に、今度はさっきのお返しとばかりに足蹴りをくらわせる。
重力操作?気合いで乗り越えた。
というのは嘘で、これもスターシャの作戦通りだ。
「『予想が当たったようですわね』」
「『流石に全ての魔法の対策は出来ませんからねぇ』」
キーパーソンから事前に情報を聞き、使うだろう魔法を予測して対策、そしてこの戦いに挑んでいる。
私は大鎌を拾うと一回転させ構える。この動きはもう癖のようなものだ。
「貴方方は強い、確かに強い。私一人なら負けていたでしょう」
一瞬だけスターシャに視線を向け、私はフトゥースペラに敬意を払い軽く頭を下げる。
「しかしノーネームには敵わない、私達は最強の従者です」
「『……ルナティス、調子に乗らないように』」
モーリュの回復が終わり再び立ち上がると、首を鳴らす。キリカが棍の先端に炎を纏わせると、ディレスはマジカルボックスから杖を取りだした。
つまり、本気だ。
「『ルナティス……!!』」
さっきまで感動で呼んだ私の名を、今度は叱るように呼ぶスターシャ。本気で戦うぐらいが丁度いいんですよと笑いながら言うと、スターシャは魔法壁越しに私を睨んだ。
──
「中々しぶといなぁ……」
「ありがとう」
僕の嫌味にレナータはそう返して再び剣を振るう。いくら神器がエヴォラメント化したからと言って、僕には敵わないのに。
「〈インベイジョン〉」
魔法を唱えると杖が薄く光り、レナータの魔力を僅かに奪って吸収した。レナータはそれを気にすること無く僕に剣を振るい続ける。それを杖で受け止めながら時折魔力を吸い、レナータは徐々に追い込まれている。
「〈戦士の心得・強欲〉」
レナータがアビリタを使うと攻撃の手を休める。彼女は荒らげた息を整えると、構えていた剣を下ろした。降参、という事のなのだろうか。
ならば早々に殺して城にひきこもりたいところだ。こんな死と隣り合わせの戦場などにはいたくない。
「私達が戦わないで生きれる道ってなかったのかな?」
「無いよ。こうして混じりあった今、それは無い」
今更何を言うのだろうと思ったが、彼女には怯えの気持ちが見える。だからそう考えるのもしょうがないのだろう。
しかし、もうどちらかが勝って生き残る以外にすべは無い。彼女もそれを理解し決意したように見えたが、所詮はそれだけの決意だったのかと僕は杖を構える。
「〈デスペリア・ディスティ──」
「私は戦うのが怖い」
「……なら逃げたらいいじゃないか」
彼女が何を言いたいのかが分からない。僕は杖を下ろすと、ため息を吐く。
逃げたらいいなどと言ったが、逃がすつもりは無い。僕にとって彼女は脅威だ。そんなものを放っておくわけにはいかない。
レナータは翼で飛び距離を詰めると剣を大きく振りかぶる。こんな攻撃避けるのは容易い。しかし彼女は手から体内に神器を収めると僕の仮面に触れた。
「──くそっ!!」
彼女の目的はそれかと気づいた時には僕の仮面を取られ、腕で顔を隠しながらレナータを蹴り飛ばす。見られる、この顔を見られる。隠すものはないかと焦りながらせめてもの抵抗にフードを被り直した。
「……」
「……どう?気持ちが悪いだろう?」
僕は……四つの瞳で彼女を見つめる。人間という種族でありながら多眼に生まれた僕は、誰からも望まれなかった。
レナータの驚愕した顔に僕は顔を顰めた。
「これで満足?早く仮面を返し──」
「驚いたけど、別に気持ち悪いとは思わないよ」
「は?」
レナータの言葉が嘘偽りではないと分かる。僕はそれを不愉快に感じた。偽善者、どうせ自分も似たような経験があるとかそう言って自分と重ねているんだろう。
結局は自分の事が可愛いだけだ。本気で僕を受け入れてくれる人などいない。
「貴方がどんな思いでこれまで生きて、笑って泣いてきたか。これからも続くはずだったそれを奪って進むのが怖い」
「……君は、本当に……」
愚かだ。
段々と苛立ってきて、僕は杖で彼女に殴りかかった。それをレナータは受け止めながら本気の眼差しで、嘘偽りない瞳で僕を見ている。
一度後退した僕にレナータは仮面を投げ返すが、それを杖で叩き落とすと再び接近する。また取りだした双剣での斬りつけを杖で受け止め押し返すと大きくよろけたレナータの顔を杖の装飾の部分で殴った。頭を抑えながらも、決して折れない意志を持った瞳をしている。
何故?何故…?彼女は諦めたのではなかったのか…?
「そろそろか……さぁ、あの時のお返しだよ!!」
「──!?」
僕の目の前にクリスタルが投げられそれが砕け光の粒が収縮し魔法が発動される。
〈ツァイト・ストップ〉、僕が初めてレナータに会ったあの日に使った魔法だ。しかし時間停止対策はしてある、止まったのは3秒程度。それでも、レナータにとっては十分だった。
「〈テレポート〉、今ので魔力切れか……」
レナータは僕から大きく距離を取ると、剣を構え腰を落とす。
なにか来る。それが分かると僕はすぐに防御魔法をかけ、魔法壁を張った。
「これで最後だよ!!〈秘技・流星斬〉っ!!」
虹色に煌めく斬撃がレナータの双剣から放たれた。その眩しさに目を細めるが、レナータの渾身の一撃は僕の魔法壁を破壊しただけで消え去った。
これまでか。彼女にもうこれ以上の技はないだろう。
「〈ノワール・インパクト〉ッ!!」
「〈瞬間回避〉!!」
衝撃波避けるために使った回避のアビリタの能力を逆手にとり、僕の目の前まで接近するとレナータは剣を突き出した。
魔力はさっき尽きたはずでは──
「くっ……!!」
「──がはッ……!!」
レナータの剣は心臓を貫き、僕の力の入らなくなった手から神器が落ちる。だけど、まだ終わるわけにはいかない。
無理やり力を振り絞り、レナータの首を掴むと締め上げる。
彼女も窒息しそうなのか顔が赤く苦しそうに目を瞑った。心臓の修復は出来ない。でも彼女を道連れにしてやる。
お前も、お前の大切な従者達もみんなみんな死ぬ──!!
「がぁああっッ!!!!」
レナータは叫びをあげると僕に刺さった剣を引き抜いた。ケホケホと咳き込みながらレナータは僕を見ている。
痛いなんてものじゃない。心臓を貫かれたのだ、当然だろう。びちゃびちゃと血を吐きながら、僕は胸を押えた。
これは……死ぬ。
「ゲホッ……貴方、を…救う道があったのなら、私は迷わずそれを選んだ」
「………」
「この結果を、私は謝ったりしない。だけど──」
彼女も限界が近かったのかレナータの竜人化が解ける。翼を失ったレナータと、瀕死で飛行魔法を維持できなくなった僕。
彼女と共に落ちていく。
レナータは薄く目を開き、懸命に僕に手を伸ばしていた。
もう、もう遅いんだよ。
僕の体は灰色に染まり、散っていく。
怖い、怖い……あの時も、こうして落ちて────
──
????年前
人里離れた海の見える家
「……な、なに?」
「ああ、我が子は何故……」
夫婦は自然が、特別海が好きだった。大国からわざわざ離れ海の見える場所に立てた小さな家に暮らしている。そんな平凡な夫婦の間に生まれた待望の赤ん坊。
しかし、その赤ん坊──僕の生誕は喜ばれなかった。
夫婦は2人とも人間だ。特に病もなく健康体で、特殊な能力などもない。しかしその夫婦の子には生まれつき目が四つあった。
忌み子。もしかしたら自分達に不幸を呼ぶ子なのかもしれないと夫婦は思ったが、それでも2人はその赤ん坊にアノルマと名付け愛することを決めた。
──
「お母さん、お絵描きのクレヨンがもうないよ」
「そうなの、じゃあお買い物の日に街で買ってくるわね」
母は優しい。いつも僕のお願い事を聞いてくれる。多分甘やかしてるとも言うのだろうが、僕はそれでも愛さえもらえればそれで良かった。
いつも疑問に思っていた、何故母と父には目が二つしか無いのだろうと。僕は両親以外の人を知らない。
「ねぇ、僕もお買い物に連れてって」
「──駄目よ。ごめんね……」
母はいつも通りの返事を返した。沢山お願いを聞いてもらえるけど、これだけはいつも駄目だと言われる。それが何故だかは分からなかったが、僕はまた後で考えれば良いとお絵描き以外の遊びを探した。
外に出ると、海の匂いがする。
地面のギリギリまで海に近づき、下で波打っているその透き通った青を見つめた。
なんて綺麗なんだろう。僕はどんどん吸い込まれるように顔を前に出すとバランスを崩し、崖の下に落ちそうになる。
「──アノルマ!!」
落ちそうになった僕を引き寄せると、父は青ざめた顔で大きく息を吐いた。僕も心臓がひゅっとした感覚にドキドキしながら父に強く抱きつく。
「崖には近づくなと言っただろう!!海に行くには回り道しなければいけないんだ、分かったか?」
「ごめんなさい……」
父にあまりにも綺麗で吸い込まれそうだったのだと伝えると、分かるぞと笑ってくれた。父も海が大好きだが、僕もそんな両親に影響されて海が好きだった。
たまには海に触れたいと言うと、父は必ずと約束してくれた。
「お父さん、今度内緒で街に連れてってよ」
「……アノルマ、ごめんな。海になら連れてってやるから」
やはり父もこのお願いだけは聞いてくれないようだ。もう崖に近づかないと父と指切りげんまんをすると、僕は違う遊びを探しに家に戻った。
──
お絵描き、読書、縄跳び、どの遊びも飽きてきた。
毎日が同じことの繰り返し、僕は父の書斎に向かうともっと難しい本はないのかと探す。父は色々な魔法を勉強していて、魔導書が沢山あった。
僕は自分にはもしかしたら才能があるかも知れないと少しワクワクしながら適当に本を一冊取る。
「うーん、僕にはまだ分からないなぁ」
難しい文字の羅列に僕は目が痛くなり本を戻す。だけど僕も魔法を使ってみたかった。読めそうな本を探し、それらしき物を見つけると内緒で部屋に持っていった。
「『物の腐敗を遅らせる魔法を応用すると、いつの未来か時さえ止められる魔法を生み出せる可能性がある』へぇ、時間を止められる……夢みたいだ」
僕は夢中になって魔導書を読んだ。出来るかもしれないと思ったものには挑戦してみたが、どうやら僕には魔法の才がないようだ。しかし、こうして様々な魔法の存在を知るだけでも楽しかった。
時間を忘れ読みふけっていると、仕事に出かけていた父が帰ってきた音がしてすぐに引き出しの中に本を隠した。
「アノルマ、入るぞ」
「……お父さん、いつもそう言いながらすぐ入るじゃないか」
頬を膨らませ、僕が怒るのを見て父は謝るとお土産だと新しい本をくれた。読みたかった本の続編だ、僕は大喜びしてすぐに機嫌を直すと父に抱きついてお礼を言った。
「いつも貰ってばっかりで、僕も何かお返しがしたい」
「ははっ、子供はそんな事考えなくてもいいんだよ」
僕は真剣だったのに父がそれを笑ったので、また頬を膨らませリビングに向かった。ご飯中も口をきいてあげないでおこうと思っていたが父の街での話が面白くて、僕は拗ねていたことなど忘れて笑った。
──
もうすぐ母の誕生日が来る。
実は僕はある作戦を考えていた。そう、僕一人で街に行ってやろうというちょっと危険な作戦だ。
両親は街には怖い人が沢山いるから、それらから僕を守るためだと街に連れて行ってくれたことは生まれて一度もない。
でも僕ももう十四歳になった。子供なら守られるべきだったかもしれないけど、もう十分大人だとこっそり準備をしていた。
「街で誕生日プレゼントを買ってきたら喜んでくれるはず……サプライズだ」
母は父の仕事を手伝うため少し遠くに出かけている。これは絶好のチャンスだとポケットにお金を詰めると家に鍵をかけ飛び出した。海の匂いがどんどん離れていく。
最初は調子に乗って走っていたが、街は案外遠くて地図を見ながらやっと辿り着くことが出来た。
「ここが街……?」
人が沢山いる。僕はまず何からしたらいいだろうかと道を歩いていると、なんだか視線を感じた。
周りを見るとみんなが僕を見てひそひとと何かを話しているようで、僕は少し嫌気持ちになる。
それにしても──
「みんな、みんな目が二つだ……」
そうか、両親が珍しいのではない。僕が変なのかとこの時初めて気づいた。だから両親は僕を街に連れて行くことをあれだけ拒んでいたのかと。
僕が視線を向けると、少女が泣き出してしまった。僕は何もしてない。それでもその少女を抱きしめた母親は僕を睨みつけた。
怖い、怖い……だけどお母さんのためだ、ここまで来たら絶対にプレゼントを買って帰るぞと再び歩き出す。
「やっぱり駄目なのかな……」
人におすすめのお店を聞こうとしても逃げれる、いざお店に入ると客が逃げてしまうとつまみ出される。もう散々だ。
心の中でお母さんに謝ると、僕はとぼとぼ歩きながら街から出た。行く時はあんなに楽しみだったのに、帰りは泣きそうな気持ちになる。
──その時、誰かに見られている事を僕は気づかなかった。
家に着くと、父と母が血相を変えて僕に駆け寄った。もっと遅くに帰ってくると思っていたが、どうやら街に行ったのがバレてしまっているようだ。
「大丈夫か!?何かされなかったか!?」
「街には行ってはいけないとあれほど言ったでしょう……!!」
両親の慌てように僕は涙を流すと母に抱きつき大声で泣いた。母ごと包むように父に抱きしめられ、僕は自分のした事がどれ程両親を傷つけたか痛感した。
──
僕はあれから街に行くことを願うことはなかった。いつ通りの、当たり前の生活が何よりも幸せだったのだと理解したからだ。今日約束通り崖には近づかないで遠くから海を眺めていた。
海は広い。どこまで続いているのだろうと好奇心が湧くが、僕は恐らくこれからもこの家で過ごし、そして最後を迎えるのだろうと思った。だけどそれでも両親が愛してくれて、僕は自分を不幸だとは感じなかった。
「学校に行って勉強もしたかったけど、お父さんの買ってきてくれる本で自分で勉強するしかないか……」
学ぶことは大切だ。これから街に出て働くことがないとしても、将来自給自足で生活していくためには知恵が必要だ。
僕は早速勉強しようと家に戻ろうと振り返ると、父が走ってここに向かっているのが見えた。
「今日は仕事早く終わったのかな」
しかし、父の表情を見てそうではないと分かった。僕は父に手を引かれながら家の中に入る。
父の僕の腕を掴む強さに痛いと訴えかけるが、父はそれどころではないようだ。
「急いで荷物をまとめろ、この家を出る」
「あなた?どういう事なの……?」
父が説明するには、僕を不幸を呼ぶ子だと思った街の人達が僕を殺そうとこの家に向かっているのだという。何故そこまで大事になったのかは知らないが、これは自分が街に行ってしまったせいだと何度も謝る。
「過ぎたことは仕方がない、最低限に必要なものだけまとめて早くここを出よう」
「う、うん……」
僕はリュックに誕生日の時使えなかったお金や父に返し忘れた魔導書、母から貰ったロケット、小さい頃大好きだった絵本……それらを詰めると荷物をまとめ終わって待っていた父と母に手を引かれ家を出た。
遠くから人の声が聞こえ、僕らは走った。
走って、走って……遠くに、遠くに向かった。
行く宛てもなく、ただただ空き家などで夜をやり過ごしながら少ない食料で生き延び、生きるためにたまに盗みもした。
「(全部……僕のせいだ……)」
どう償いをしていいか、僕は分からなかった。
──
逃亡生活が長いこと続いた。驚くほど広まっていった僕に関する悪い噂はどんどん誇張され広まっていき、懸賞金までかけられるほどになった。
父も母も日に日に老け込んだように見える。あの楽しかった平凡な日々はもう戻らないのか、そう考えると涙が出た。
「……泣きたいのはこっちの方だ」
父は小さくそう呟くと、急に僕の肩を痛いほど強く掴むと涙を流しなが訴える。
「お前が…普通の子に生まれていればこんな事にはならなかったんだ……!!不幸を呼ぶ忌み子というのは、本当だったんだ!!」
「ご、めんなさい……ごめんなさい……!!」
母はそれを止めない。父も僕の肩を掴みながら、顔を伏せた。僕がこんな容姿をしているから、大切な両親を苦しめている。幸せな日々は、もう戻ってこない。
「申し訳ないと思うぐらいなら……いっそ…死んでくれ……」
「やめて!!……やめてよ……!!」
父の言葉に母はそう言ったが、僕と目を合わせようとはしなかった。僕は多眼に生まれても自分は不幸ではないと思っていた。それは両親からは愛されていたからだ。
だけど、今は──
その日はまた廃墟に泊まり、夜をやり過ごした。
僕は寝静まった両親を確認すると荷物も持たずに一人で廃墟を出る。
「ごめんなさい……」
振り返り両親に謝ると、僕は走り出した。
──
結局行く先なんてない、僕は気づいたら住んでいた家に戻っていた。家は崩壊していて、僕を殺すため必死なんだと瓦礫を撫でた。
大好きな海を見る。空は暗く月明かりだけで照らされた世界は水面をキラキラと輝かせ、僕はそれに魅入っていた。
どんどんと海に近づきながら、僕は父の言葉を思い出す。
「誰も……誰も僕が生きることを望んでないんだ……」
怖かった、何もかもが。
僕に怯える街の人に、僕を殺そうとしている人達、そして大好きな両親でさえも──
ゆっくり、ゆっくりと歩み出す。
──僕がいたら、周りを不幸にしてしまう。
ゆっくり、ゆっくり崖に近づく。
──ならどうればいいのか。
崖の下を見た。
──答えは一つしかない。
振り返り、ボロボロになってしまった家を見つめながら……
僕は体の力を抜き、崖から落ちる。
浮遊感に気持ちが悪くなる。
さっきまで足場だった所が遠くなる景色が、スローモーションで見えた。
ああ、怖い……怖い……!!
あの楽しかった日々が戻らないのなら、その現実から逃げたい。
父から言われた言葉が胸に刺さり、それから逃げたい。
自分が誰にも受け入れてもらえないということから、逃げたい。
逃げた、僕は生きることから逃げた。
だけど、だけど本当は──
「もっと生きたかっ────」
心からの望みを最後まで言えずに、アノルマという少年の生
はそこで終わりを迎えた。
──
「──い、おーい」
「………ぁ…あ……」
「おはよう、って言っても夜だけどね」
黒髪の少年が僕を見下ろしている。頭には見た事のない輪っかに、背には同じく見た事のない翼が浮いている。
「──かみ、さま……?」
「へぇ、正解だけど……なんで分かったの?」
僕はぼんやりとしたまま、何があったのか思い出そうとする。海の匂いがして、仰向けに倒れる僕の視界には足場だった崖が遠くに見えた。
そうだ、自殺したはずだ。
僕は体を起こそうとするが、激痛が走りすぐに仰向けに戻る。何か海水では無い液体に触れたなとそれに触れて手を目の前に持ってくると、赤いものが付着していた。
「ぇ……血……?」
「当然だよ。君、崖から落ちて死んだんだから」
「死んだ……?」
分からないことだらけだ。確かに死のうとしたが、今こうして自分は生きている。そして目の前には自称神がいて……
「蘇生だよ、蘇生。神なんだからそれぐらいできるよ」
「蘇生……」
それを聞き、僕は痛みなど構わず体を起こすと神の肩を掴んだ。僕が感じたのは、怒りだ。
「なんで、なんで余計な事をしたんだよ!!僕は必要ないんだ、死ぬべき命なんだ!!」
「死ぬべき命なんて一つもないよ」
「──そ、れでも……!!」
涙が溢れる。死ぬべき命なんか無いと言う神の言葉が、僕の心に刺さった棘を消してくれた気がした。
泣いた、声を上げてそれはもう大声でと暫く泣き続けた。
僕が落ち着いてきた頃に、神は話を続ける。
「君は最後に生きたいと願った。俺はね、そんな望まない死を遂げた命にまた生を与えたいんだ」
「……なんでそんなことを」
「なんでって……やりたい事があるし、何より──」
神は三日月のように口を歪め笑った。
「面白そうじゃん」
とんでもないやつに助けられてしまったと僕は後悔し始めたが、もう一度死ぬ勇気もなかった。
これからどうすればいいのか、分からなかった。更に神は話を続ける。
「君にはねぇ、運命に選ばれし王になってもらうよ」
「運命に選ばれし王……?」
神はうーんと唸りながら、パチンと指を鳴らす。僕はネーミングセンスの無さになんだか神を残念に思っていると、それが伝わってしまったのか神に頭をガッと掴まれた。
「!?」
「まずは、王である証、常人では手に入らない超越した能力……あとは特別な武器、そして……不老の力」
「え、ぇ……!!」
神が次々と言う度に、体に何かが流れ込んでくる感覚がして身を震わせた。
体の底から湧き出るような強大な力を感じる。
「最後に忠実なる従者と、国かな。それは自分で頑張ってね」
「従者?国?どういうこと…?」
神は僕から手を離すとふわりと浮き上がった。意味がわからぬまま僕は唖然しながら神を見上げる。
「運命に選ばれし王は三人。君達の目標はある宝を手に入れる事だ」
「僕と同じような人が三人いるの?」
「そうだよ、仲間と協力して宝を手にするんだ。ああ、あとくれぐれも俺の存在は内密にね」
神はそれだけ言うと、バイバイと手を振りながら飛び去っていく。僕はあまりの情報の多さに処理しきれずに混乱しながら立ち上がり、それを見ていた。
「ではレアリスト王国国王、アノルマ・スーリヤ。二度目の人生を楽しんでね」
パッと消えた神を見て、僕は暫くそこに突っ立っていた。二度目の人生……僕が望むのは──
「もう死にたくない……!!」
それだけだった。
──
嗚呼、死にたくない。
それを願ったはずなのに僕はこうして二度目の生を散らそうとしていた。
あれから運命に選ばれし王として生きるのは大変だった。
死にたくない、その気持ちは今でも変わらない。
辛かった、苦しかった。
でも彼女はそれを分かってくれたのだろうか。
もしそうならば、それが真実であったのなら……
「〈スピリット・メモリー〉……!!」
レナータの伸ばされた手を取ると、僕はクアリタを使った。
ジュデリカやプレーノとは違って戦闘に全く役に立たないこのクアリタを今までは嫌っていた。
でも今は、この瞬間のためにこの能力を持ったのだと、そう感じた。
どうか忘れないで、僕という人間を。
アノルマ・スーリヤの生は終わりを迎える。だけど──
「ぼく、を、殺すのが……きみで、よか、った……」
最期にレナータにそう笑いかけると、彼女の驚いた顔を見ながら僕は灰となり消えていった────
…………
私は大鎌を杖にして息を荒らげながら血を吐いた。しかし瀕死なのは彼らも同じ、長年同じ時を過ごしてきただろうフトゥースペラを追い詰められただけでも私は合格だろうと自らを褒めた。
「〈グレイト・ヒール〉さぁ、私はまだ戦えますよ!!」
「不死身なの、こいつは……!!」
魔法を放とうとしたディレスの体が光り出す。ディレスだけでは無い、モーリュ、キリカも同じように光り出した。この光景は見たことがある……というか体験したことがあるというのが正しいだろう。
従者の消滅だ。
「ア、アノルマ様が負けた……!?」
「そんな…そんな事がありえるの!?」
ディレスもキリカもアノルマが負けた……死んだことが信じられないと言うように上空を見つめている。しかし、モーリュは二人を引き寄せ、強く抱き締めると目を瞑り涙を流した。
「……アノルマ様は寂しがり屋だ。皆で一緒にあの御方の元まで行こう」
「モーリュ……。毎日、楽しかったね……!!」
「そうね……私達、良いチーム……家族だったわ」
三人は笑顔を浮かべたまま光の粒となり空に消えた。あと少しでも戦闘が長引いていたらこちらが負けていたかもしれないと思いながら、私はそれを見送った。
スターシャがクアリタを解くと私の元まで駆けてくる。
「……わたくし達の勝利ですわ」
「……」
「ルナティス?」
スターシャは返事をしない私に不思議そうにしている。私は彼女の方を向くと、彼らと同じようにスターシャを抱きしめる。
「な、なんですの!?」
「……私達も……家族でしょうか」
自らの主に大切にされている事は知っている。しかしフトゥースペラのように胸を張って家族と言えるのだろうかと私は不安になった。
スターシャは子供をあやすように私の背を撫でると、抱き返した。
「貴方は本当に……手のかかる弟みたいですわ」
「……弟ですか?兄ではなくて」
「こんなあんぽんたんな兄はごめんです」
そう言って笑うスターシャに、私は安心した。ムームア様がどう思うかは分からないが、少なくとも自分の事を家族だと思ってくれる者が一人いる。それだけで心が暖かくなった。
「しかし……わたくし達は良き相方ではなくて?」
「相方兼家族です」
「相方兼家族」
私の言葉を繰り返し、またふふっと笑ったスターシャだったが……私を突き飛ばし、よろめいた所に顔面パンチをくらわされそのまま転倒する。
何が起こったのだろうと殴られた所を抑えながら立ち上がると、スターシャはあわあわとしながら私の後ろを見ていた。
「ヴィシュヌ女王様!?いつからそこにいらっしゃったのですか!?」
「えーっと、降りてきたらなんか抱き合ってたから…つい見てた」
スターシャは顔を赤らめ「何とか言い訳しなさい」と私の背をペンペンと叩いてくるが、私は何がおかしいのだろうと思いながらヴィシュヌ女王様に説明する。
「私達はお互いが大切な存在だと確かめ合っていました」
「なるほど、へぇ〜…二人ってそういう……」
「違います!!違いますわ!!誤解です!!」
ヴィシュヌ女王様の暖かな視線にスターシャは私の事を先程より強く叩くが、これでもさっきまで死にかけていたんだぞと地面に転がっていた大鎌をマジカルボックスに仕舞った。
「それはそうとして……見事な勝利、おめでとうございます」
「……うん。ありがと」
ヴィシュヌ女王様は全く嬉しそうではない。スーリヤ王と戦う内に何かあったのだろう。生死を掛けた戦いというのはそういうものだ。
「私って我儘だからさぁ、本当は……みんな救える道もあったんじゃないかって思っちゃって。アノルマだけじゃない、ジュデリカやプレーノも」
「……それでも、貴方様はアノルマ・スーリヤを殺した。覚悟を持たぬ心弱き者なら、今頃はここに立っていなかったでしょう」
ヴィシュヌ女王様はそれを聞くとニコリと笑ってみせる。彼女が戦いさなかアノルマ・スーリヤという人物の何を知って、何を感じたのかは私には分からない。
しかしヴィシュヌ女王様は、戦う前と今では違う気がした。
「何はともあれ、私達は勝利した。勝者とてやらなくてはならないことがある」
ヴィシュヌ女王様はスフィーダの塔がある方向に視線を向けた後、目を瞑る。
「アンディートもムームアも戦ってる途中なのか勝ったのかは分からないけど生きてるみたいだね」
そう言えば運命に選ばれし王同士は気のようなものを感じるのだったと思い出す。なんとも便利。
ふうっと安心から大きく息を吐いたヴィシュヌ女王様は私達のに向き直ると肩にぽんと手を置いた。
「二人共、お疲れ様。ムームアには沢山褒めてあげてって言っとくから」
「本当でございますか!?有難うございま──」
突然ふっと視界が白くなると、私は後ろに倒れながら意識を失った。
…………
「びっくりしたぁ……!!」
「かなり無理をして戦っていたので、疲れが溜まっていたようですわね。お手数お掛けしました」
倒れそうになったルナティスを私は受け止めるとゆっくりと地面に寝かせた。大丈夫かとルナティスの頬をぺちぺちと叩くスターシャは心配そうにしている。
私は少し彼らから離れると、作っていた笑顔を崩した。
「ぁ、ああ……そう、そうなんだね……」
今はいない人物に話しかけながら、私は目から溢れる涙を堪えきれずにいた。見た、全てを見たのだ。
アノルマ・スーリヤという人間の人生を。
彼の使った魔法でまるで一本の映画のようにまとめられた彼の記憶を私は見た。
辛かった、苦しかった。
何より、一度経験した死をもう二度と味わいたくなかった。
そんな彼の気持ちを──
「なんで私にこれを託したの……?」
最期の彼は笑っていた。あれだけ怖がっていた死を与えた憎いはずの私に、笑いかけたのだ。
これだけの苦しさを、全てをかき消すように。
「ははっ……ずるいよ…記憶を見せておきながらそんな事するなんて」
人は肉体の死と忘却による死で二度死ぬと言うが、彼の三度目の死を私は防ぐことができる。それが唯一できる人物なのだ。ならば生きよう。私が死ぬ最後の時まで、アノルマは死ぬ事は無い。
「あ〜、これからが本番なのにセンチメンタルになってどうするの!!」
両頬を軽く叩くとごしごしと涙を拭い、いつも通りの笑顔に戻る。あまり時間を無駄しにしていけない。こうしている間にもエレムストの凶暴な魔物がアイテリアに流れ込んでいるのだ。私は深呼吸をすると何故か頭の取れているルナティスとスターシャの元へ戻る。
「お待たせ、じゃあスフィーダの塔まで行こうか」
「そうしましょう!!ああ、早くムームア様に会いたいです!!そして沢山褒めてもらうのです……きっとムームア様は「よく頑張った、君達こそ一番の従者だ。ボクの自慢だよ」って仰ってくれるに違いません!!そうしたら私は──」
「うるさいですわ!!」
ペンッとルナティスの背を叩き、スターシャは申し訳ないと私に頭を下げる。頭を付けていた時はあんなに格好良かったのに……彼は残念なイケメンと言うやつだろう。
私達は〈ヴォラーレ〉の魔法がこもったアイテムを装備すると空に飛んだ。悲しくも誰も魔力が残っていないし、スターシャは元から習得していないようだ。
「おっと、アンディートもムームアも塔に向かってるみたい」
そうか、二人も勝ったのか。私の我儘に付き合ってくれて、そして勝利してこうして再び会えることに喜びを感じた。
飛行するスピードを限界まで速めながら私は塔に向かった。
同じように党に向かって飛行する皆が徐々に見えてくる。
そして私達は塔の前に降り立った。
「勝ったんだな」
「うん。二人もね」
「ははっ、勿論楽勝だったよ!!」
二人ともボロボロだ。ある程度治癒はしたのだろうが、服に着いた血で簡単な戦いではなかったことが分かる。そして私も含めてだろうが、浮かない顔をしている。
アンディートは私とムームアの肩を組むと顔を伏せながら大きく息を吐いた。
「お前らが生きてて、本当に良かった」
「ボクが負けるわけないじゃん」
「相変わらず強がり言って……何だか安心するよ」
ふっ、と誰かが笑うと三人で笑い出す。
生きてまた会おうという願いが叶い、私はまた泣きそうになるのを堪えながら笑った。
暫くしてアンディートが私達の背をぽんと叩くと肩を離し、塔を見上げる。私達のと同じように塔の上部が無いという事は、やはり──
「また飛ばなきゃいけないのかぁ……」
「レナータ、前みたい連れてってよ」
「今はそんな体力ないよ!!」
そう言っていると、私達の足元にふっと円盤のようなものが現れた。丁度三人乗れるぐらいの大きさだ。
恐らく、彼は見ているのだろう。
「乗れってことか……どうする」
「それ以外ないでしょ、行くよ」
「……この先にエレボスが待ってる」
私達は頷き合うと、自分達も行くと抗議する従者達を説得して円盤に乗った。わざわざこの大きさにしたという事は、元から塔に従者達を入れる気はないのだろう。
円盤は私達が皆乗った瞬間すぐに動き出す。上へ、上へとぐんぐん登っていき、私は少し落ちないか心配だった。アトラクションのようでちょっと怖い。
「着いたぞ」
私がぎゅっと目を瞑っている間にいつの間にか着いていて、アンディートに声をかけられるとゆっくりと目を開けた。怖がっている私をムームアが鼻で笑ったのを見て、ムッとすると軽く頭にデコピンをした。
「じゃあ行こうか」
二人が頷いたのを確認して、私が塔に触れると人が一人通れるほどの穴が現れる。一人づつ中に入ると、アイテリアで見たのと同じように螺旋階段が続いている。
無言で私達は階段を上っていく。警戒しながら神器を取り出すと、あの趣味の悪い黄金色からいつも通りの双剣に戻っていた。
「どうしよう、もう二度とエヴォラメント出来ないとかだったら……」
「レナータも神器の進化させたの?」
「お前らもか」
みんなしたのかと双剣を見ながら階段を上り続けると、ついにそれが途切れた。目の前には大きな扉があり私が視線で二人に合図をすると、その扉を強く押す────
「……ぇ」
──そこには、見覚えのある人物が立っていた。
はい!!これでもエレムストの運命に選ばれし王との戦いが終わりました!!
みんなが戦わないで助かる方法……「え、そんなのエレボスにアイテルは眠ってるだけって伝えて貰えばいいじゃん」って思いますよね。分かります。私もそう思います。
そう出来なかった理由を、私は今から必死に考えます!(後先考えず書いていた皺寄せ)
アノルマ、ジュデリカ、プレーノのエレボスに対する忠誠心は自らを生き返らせてくれた恩から来ていました。三人とも本当はまだ生きたかったけど死んでしまった、だけど救われたので恩人にお返しがしたい、みたいな感じです。
三人もレナータ達のようにエレボスと戦いトリムルティの宝を手に入れ、そしてその後にエレボスが自分の恩人だと知りました。(アノルマは知ってましたが)
恩を返したいと言ってもエレボスもアイテルと同じように半分寝た状態で椅子に座って下界の様子を見てるだけなので、アイテリアの運命に選ばれし王を殺せというのは三人にとって初任務でした。
それにしても戦闘が続きますね……この作品はバトルものなので勿論エレボスと和解して戦闘回避というハッピーな事はありません。
しかしその前にある人物と戦わなくてはいけないので、プレーノ戦、ジュデリカ戦、アノルマ戦、???戦、エレボス戦と5回連続ですよ。一部の時のように戦闘の話、その後の話と一度日常シーンを挟めたら良かったんですけど、エレムスト側の人はみんな殺すことになってたのでそれが出来なかったんですよね。そして私は戦闘シーンが苦手なのでなかなか考えるのが難しい……。みんな戦い方が同じ感じするなと思ったりするかもしれませんが、それはお許しください。悲しくも今の私ではこれが限界です……!!
前は長い期間空いちゃいましたが勿論完結しないまま放置する事は無いのでちゃんと終わらせるつもりです。
あとはレトロのように番外編みたいなのも書けたらいいなぁと考えています。
次回、誰と戦うのでしょうね!!何となくバレてる気がしなくもないです!!
ここまで読んでくださりありがとうございました!!