トリムルティの宝   作:▷akua◁

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空っぽの神

 

アイテリアでは試練があった部屋には見覚えのある人物が立っていた。見覚えがあると言うより、さっきまで会っていた……殺した人物だ。

 

「……アノルマ?何で……」

 

彼だけではない、ジュデリカとプレーノの光のない瞳でそこに立っている。彼らは無表情のまま私達を見つめ、そこに感情はないように感じた。

 

『あー、あー。聞こえるかな?』

「この声……」

 

アノルマの記憶で見た神の……エレボスの声だ。私はそんな事より何故彼らが生きているのか分からなかった。そっちの方が重要だ。またエレボスが蘇生させたのか……何のために?

 

『もう、返事ぐらいして欲しいね。分かってるかもしれないけど、俺はエレボス。この部屋までの到達おめでとう、素直に賞賛するよ』

「──エレボス、聞いて!!アイテルは死んでない!!」

 

元々はその勘違いから始まった事だ。それさえなければこんな事態にはならなかった。私がアイテルの無事を必死に伝えると、エレボスは何故か愉快そうに笑った。

 

『はっ、あはははははっ!!……知ってるよ、そんな事』

「じゃ、じゃあ何でアノルマ達を止めなかったの!?何故結界を破壊したの!?」

 

知っていた。彼は知っていたのだ。エレボスはまた笑った、それはもう楽しそうに笑っている。それに怒りを感じながら私は双剣を強く握る。私の質問に対する彼の答えが分かったからだ。

 

『楽しそうだったから、ただそれだけだよ。冷静に考えれば君らが運命に選ばれし王として力を持っているのがアイテルが生きているという証拠だ。だけど君らが戦ってる姿がさぁ、とっても面白くて……ついね』

「このクズ野郎……!!」

 

アンディートが舌打ちをするとエレボスが居るであろう部屋に向かおうとするが、それを遮るようにアノルマ達が動く。

 

『君らは覚悟を持って彼らを殺した。そしてそれぞれ自分で殺したのにも関わずそれを悲しんだ……ああ面白いっ!!自分で殺したくせに何でそんなこと思うの?クズ野郎は君らの方じゃないか!!』

 

確かに私達はアノルマ達を殺してここまで進んできた。誰もが避けられないと分かった戦いで、私達は勝利した。だからこそ後悔はせずに彼らの死を忘れないと誓いここまで来たのだ。それをエレボスは面白いと言う。

 

『ねぇ、どんな気持ち?そんな彼らとまた対面したのは……嬉しい?』

「……アノルマ達は死んだ。それに……私達の目の前にいるのは同じ人じゃない」

『へぇ、よく分かったね。そうだよ、神でも出来ないこともあるんだ。運命に選ばれし王として超越した力を持った者は二度と蘇生出来ない』

 

それが特別な力を与えられた者の末路なのだろうと私は抜け殻のようなアノルマ達を見る。容姿はそのままだが、濁った瞳で私達を見ている彼らは、私達と戦った彼らではない。

 

『でも一応同じではあるよ?彼らの遺伝子の同じ生物を作ったんだ。だけど君らが大切にする心と言うものはないけどね』

「それは同じとは言えない。貴方みたいな人には分からないだろうけどね」

『うん、全然わからないよ』

 

エレボスは人の心というものがよく分からないのだろう。アノルマ達だけではない、私達もただの暇つぶしの道具でしかないのだ。アイテルも似たような思考だったので今更不快感はない……はずだ。

これほど許せないのはやはりアノルマ達をこんな状態にしてまで蘇生させ、わざわざ私達に見せつけてきたからだ。

 

「ここまで来てじゃあ通っていいよなんてことないよね?」

『もちろんだよ‼それじゃあ彼らを蘇生させた意味がない』

 

ムームアの問いにエレボスは楽しそうに返事をすると、パチンと指を鳴らす音が聞こえアノルマが何かを体内から取り出す。

金色に輝く世界に一つしかないはずのそのマジカルアイテムは──

 

「トリムルティの宝か……‼」

 

アンディートがそう言うとアノルマがそれを首にかけ、ジュデリカとプレーノの体が光る球体となりアノルマの体に吸い込まれていった。

アノルマの体が光りだし、どんどんと形を変えると一つの姿に落ち着きソレは閉じていた眼を開く。

赤い四つの瞳にエルフ耳の、少年とも少女ともとれるような人物がそこには立っている。あれは間違いなくトリムルティ化だ。

 

『さあ、彼らは神の領域に達した。元々戦力差のあった彼らに君たちは勝てる?』

「勝てる勝てないじゃなくて、勝つしかないよ」

『じゃあ見せてよ、どんな困難にも打ち勝つ君らの意志ってやつをさぁ‼』

 

ならば見せてあげよう、戦う者の強さを。

しかし、一つ問題がある。ソレが何もしてこないのをいいことに私達はこそこそと話し始めた。特に秘密にする必要もないのだが。

 

「ねぇ、どうするの。ボク達もトリムルティ化する?」

「つってもアイツを倒したら次はエレボスの野郎をぶっ飛ばさなきゃいけないだろ?そんな長時間融合してたら──」

「絶対ファタリタとして固定されちゃう……‼」

 

もう記憶共有はこの際どうでもいい。問題は長時間トリムルティ化するともう元の三人には戻れず、誰でもないファタリタという神として存在することになるのだ。そんな事になっては困る。

世界を救うために救世主となったというと聞こえはいいが、ようは世界のために死ねということだ。

 

「でも今の神じゃないボク達で勝てる?それにあっちは違うけどボクら瀕死状態から復活したばっかなんだよ⁉」

「確かに……」

「よく考えたら魔力も技力もゼロに近いな」

 

みんなで顔を見合わせる。世界のために死ぬか、そんな決断がすぐに出来るはずもない。もしファタリタとして生きることになったら従者たちにどんな顔をすればいいのだろうか……。

などと考えていると、しびれを切らしたのかソレが動き出す。

 

「おい‼早く決めねぇとアイツ完全に殺す気だぞ‼」

「レナータ‼」

「ごめん二人とも、私と心中して‼」

 

すぐにトリムルティの宝を体内から取り出すと首にかける。またあの不思議な感覚に襲われ、私達は一つになる──出来ればもう二度と体験したくなかった。

ソレは何の詠唱もなしに闇魔法を放つと、私は双剣で弾き消す。無詠唱で魔法を撃てるということは、名前からの対策はできなくなる。さすがは神といったところか。

 

「いや、神でも詠唱はしていたぞ……?」

 

そこに気を取られていると、再び魔法が放たれる。

さて、魔力も技力も尽きている今、どうソレと戦うかと回避しながら悩んでいるとその問題はすぐに解決した。

なぜか三大能力が完全回復していた。恐らくトリムルティ化によって一度俺達の情報が初期化され、ファタリタとして再構築されたのだろうとそれっぽい回答を導き出すとすぐに双剣を構える。

 

「それさえを分かればこっちのものだ。力の差がなんだというんだ、ボクは勝って先に進ませてもらうよ」

 

ソレは無表情のままただただ攻撃をし続ける。それぞれの面影があるその姿に剣を振るうのを躊躇しそうになるが、俺はそれでもと斬りかかった。

ソレは彼らではない。それぞれ違う色をした人生を歩み、それを想い私に負け散っていった尊い彼らでは。

それを分かってはいるが、一瞬戸惑ってしまう。

 

「何をそんなにためらってるの?一度は殺した命じゃないか」

 

初めてソレは口を開く。ボクがそれに驚き動きを止めると、闇魔法が爆破し体が後ろへ飛んだ。壁にぶつかりやっと止まると、私に向かってソレは一歩踏みだした。

やはり先ほどと同じ死んだ目をしている。

 

「嗚呼……僕?違うな…オレ、ワタシ……どれでもないのか」

「……貴様、名は」

「僕は、そうだな…ヴァルトラとでも名乗っておこうか」

 

俺と同じような曖昧な存在。しかし私とは違い、ソレ……ヴァルトラには中身がない。本当にただボクと戦うためだけの神。それしか存在理由がないのだろう。

時折首を傾げながら、私を見ている。

 

「そうだ、そうだったな。オレはお前を殺さなくてはいけないのだった」

 

そういうとヴァルトラは瞬時に至近距離まで迫り私の顔面をフルスイングで殴った。か細い体をしておきながら凄まじい一撃だと困惑しながら双剣で斬りかかり二撃目を防ぐ。だが何故か殴った側のヴァルトラも驚いているようで、ボクは何が何だか分からなくなる。

 

「なぜワタシはこんな事を……?いや、違う。これは正しい……?」

「自分さえ分かっていないのに、ボクに勝てるわけがないだろう」

 

そういうと、やはり分からないと結論付けて満足したのか再び私に向かってくる。槍、斧、杖を使い分けながら隙のない攻撃を仕掛けてくるヴァルトラに、彼らを思い出した。ならばとこちらも双剣を体内に収め薙刀で斬り払うと、ヴァルトラは距離を取り頭をかく。

 

「オレは、お前を殺す……それでいいはずなんだ」

「……俺だって容赦はせんぞ」

 

空っぽ、何もないヴァルトラは自らの目的さえも失いかけている。それでそこに立ち、俺から視線を背けることはない。いくら自分の中で回答を出そうとも、また湧き上がる疑問。それにヴァルトラは囚われている。

勝算の低いと思われた戦いに、希望が見える。銃を取り出しボクは魔力弾を連射した。最初はかすりもしなかった攻撃が徐々に当たり始める。

 

「これでよかったんだろうか?僕は……」

「貴様のそれは、貴様自身の意志ではないだろう。私はそう思うがな」

 

優勢だったヴァルトラがどんどんと俺に追い詰められていっている。私は双剣を突き出すと、ヴァルトラの胸元から血が滴る。お返しとばかりに斧を振るわれ、ボクは腕に傷を負った。ヴァルトラが使った時間停止魔法を無効化し、こちらも同じ魔法を使うと無効化され、光魔法を放てば闇魔法で相殺される。

だが、同じトリムルティ神といえどボク達には大きな違いがあった。

 

「何度来ようとも俺には勝てはしない‼」

「うるさい、うるさい……‼」

 

意志の違い。

私を殺すことを戸惑っているヴァルトラに、迷いなき俺。

ボク達の違いは僅かそれだけだが、それこそがこうして実力差の大きいはずのヴァルトラと対等に戦えていることの答えだ。

 

「諦めろ、もう躊躇などせんぞ」

「黙れぇっ‼」

 

嗚呼、悲しい。一度は覚悟を決め、その想いを背負い生きると決めた命を再び奪わなければならないなんて。こんな残酷なことがあっていいのだろうか。

彼らに似ているが、彼らと違う意志のない濁った瞳を見て思う。

だからこそ……一度殺した人物、その唯一として彼らを葬らなければいけない。

 

「もう……止まってくれ‼」

「ワタシは、お前を……お前を……‼」

 

薙刀を振り下ろすと、それを斧で受け止められる。力がぶつかり合い衝撃波を発生させると同時に吹き飛ぶが、立ち上がり、またぶつかる。

止まらない、止まったりしない。

大きく飛びのいたヴァルトラが魔力を杖にためるのを見て、私も双剣に力を籠める。

 

「くら、えぇえっ‼」

「あ゛ぁあっ‼」

 

赤黒い闇の塊と、光を放つ斬撃が衝突する。

互いの本気の一撃が相殺され消し飛んでも、それでもまだ止まれない。

 

斬っては斬られ、殴られれば殴り、撃たれては撃った。

 

終わらない、まがい物の神同士の戦は終わらない。我の中にはヴァルトラを倒すという闘争心しかなく、ただただ武器を振るった。

 

「倒れろぉお‼」

「──っああぁぁあ‼」

 

ヴァルトラの右腕を斬り飛ばす。切り落とした腕は光の粒子になり体に吸収されるとすぐに再生した。神はそんなことまで出来るのかと、核である心臓を狙うがヴァルトラは今までと違いそれは必死に防ぐ。

つまり心臓さえ潰せば確実に死ぬということだ。

 

「まだ終わらんぞ‼」

 

ヴァルトラと戦いながら、段々と違和感を感じていた。彼はなぜ私を殺すという以外に何もないはずなのに、自らの生命維持に執着があるのか。

戦うという意志だけで動く生き物は自分の負傷など顧みず本当に相手の命を終わらせることだけしか考えていない。俺はそれを見たことがあるので分かる。

しかし、ヴァルトラは攻撃を防ぐということをする。

それは自分が動けなくなると目的が達成できないからなのか、それとも──

 

「貴様は、死にたくないと……生きたいと願っているのか?」

「生きたい……?」

 

ヴァルトラはそれを聞くと動きを止める。答えが見つからないのか、何度もその言葉を繰り返すと、頭を抱え唸りだす。空っぽだったものに無理やり大きな問いを詰め込んでいるのだ、混乱するのも当然。その隙だらけの今に、俺はどうすべきか悩んでいた。

 

「(今なら殺すことはできなくても重傷を負わすことは出来るだろう。だが……)」

「あ、ぁあ、あ……いき、生きたい?わ、分からない……僕は……‼」

 

ヴァルトラは泣き出した。ぽろぽろと流れる雫が床に落ちるとまるでそこが水面のように波うち、そこから蛍のような光りがいくつも浮かび上がる。

先程まで戦場だったこの空間は神秘的な光に包まれ、まるで違う場所に転移したのではと錯覚してしまう。

 

「なんだ、これは……」

 

 

 

           …………

 

 

怖い、怖い──

なんだこれは、なんだ、なんだなんだ?

 

ワタシは思ったのだ、彼を殺さなくてはならないと。

オレは思ったのだ、ならば武器を振るえばいいのだと。

僕は思ったのだ、それだけがここにいる意味なのだと。

 

それなのに、この溢れる気持ちはなんだ。彼とぶつかり合うたびに感じるこの思いは。

彼は強い何かの籠った瞳で僕を見ながら、彼のその何かを武器に乗せて伝えてくるのだ。

やめてくれ、壊れそうだ。

ならばとオレも武器を振るう。壊せ、壊して、壊して壊して、そして無くしてしまえばいい。

倒れても立ち上がり、傷ついても止まらないお前のそれはなんだ?

ワタシに無くて貴方にあるそれはなんだ?

分からない、分からないが僕がどれだけ考えてもその答えに辿りつけないことは分かる。早くこの苦痛から逃れたかった。だからオレはがむしゃらに戦う。

 

「苦しい……消えろ、消えろ消えろぉっ‼」

 

もう彼も──自分さえ、消したかった。

 

 

…………

 

 

ヴァルトラが叫ぶたびに蛍のような儚い光がパッと弾け花火を思わせる。これが人の想いというやつなのだろうか、光は次々と弾けて消えていく。

空っぽの神は私と戦うほんの少しの時間で色々なものを知った。それに耐えきれずにこうして消していっているのだろう。必要ないものとして。

 

「あぁ……いやだ……苦しい、怖い……‼」

 

ヴァルトラは苦しんでいる。何が怖いのか、何に苦しんでいるのか。我には分からない。

無理やり生かされ、戦わされ、エレボスの道具のように扱われる。

そんなことを、あの戦いで想いを交わした彼らが望むのだろうか。

俺はそうは思えなかった。ならばこうして対峙している私がやるべきこと、想いを知っているボクだからこそやらなくてはいけないこと。

 

「苦しいのなら……開放してやろう」

 

私の過去を、俺の今を、ボクの未来を──

 

「──我の全てを‼」

 

手の中にすべての思いを、意志を込めた剣を生成する。輝くその剣を構えると叫び苦しんでいるヴァルトラを見据える。

我の全てを受け止めて、そして──

 

「安らかに、眠れ」

「──っ」

 

剣は──ヴァルトラの心臓を貫いた。しかし、いくら混乱状態にあったからと言え今までの動きを見ればこの攻撃をかわすことも出来たはずだ。

剣を引き抜くと倒れそうになるヴァルトラを支えゆっくりと寝かす。彼はうつろな瞳で私を見ながら、小さく笑った。

 

「またそれ……ずるいなぁ」

 

私がそう言うと、ヴァルトラの体が光ると先程の蛍のようにぽつりぽつりと浮き上がって徐々に消えていく。彼は最後に何かを言ったが、俺はそれを聞きとれずにヴァルトラが消えていくのを見送った。伝わっただろうか、我の心からの気持ちが、意志が彼の無いはずの心に。しかし……ひどく胸が痛む。ボクが次に感じたのは、怒りだ。

 

こんな、こんなことがあっていいのか。

 

『勝者、ファタリタ‼おめでとう‼』

 

再びエレボスの声が聞こえ、我は怒り狂いそうになる。

高を括っていられるのも今の内だ。意志の剣を持ったまま、私はヴァルトラがいた場所を一瞬だけ見た後大きく足を引くと次の部屋へ続く扉を蹴り破った。

 

「我が怒りを知れ……‼」

 

長い階段の先でこちらを見下ろし笑っているエレボスを、我は睨んだ。

 







ファタリタvsヴァルトラという事で、トリムルティ神同士での戦いとなりました!!最初はアイテリアであった試練みたいな話は無しにしてすぐにエレボス戦にいこうと思ってたんですけどなんか入れたかった私が無理やり考えたのがヴァルトラですね。
あとただ単に折角なんでアノルマ達もトリムルティ化させたかったのもあります。

これねぇ、多分一人称の違いがね……読んでいる方は混乱してこないかなぁと心配です。
レナータは私、アンディートは俺、ムームアはボク
アノルマは僕、ジュデリカはオレ、プレーノはワタシ
とみんな表記的には違う感じにしています。トリムルティ化している最初なへんの時はまだ三人としての自我があるので一人称は混合しています。ですがね!!最後の辺りでファタリタの一人称である我がちょくちょく入ってきているのがお分かりでしょうか!!そうです、もうファタリタとして一つになる前兆が……!!恐ろしや……。

次回、ついにエレボスと対面!!
ここまで読んでくださりありがとうございました!!次が最終話になると思います!!
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