神──それは全ての存在の頂点に立つ世界の管理者。
「やあお疲れ。とっても楽しかったよ、醜くて」
アイテリアで見たのと同じような宝物庫にある長い階段の上にある椅子。そこにその神、エレボスは座ってこちらを見下ろしていた。普通の者ならその周りに散乱した宝に目を奪われたかもしれない、エレボスから感じる強大な力の波動に恐れ膝をついたかもしれない。
しかし、我は輝く剣を握りながら彼から視線を外さずに歩きだした。
「醜いのは貴様のほうだ外道め。この世界に生きる者の代表として許しておかんぞ」
エレボスは心外だとばかりにおどけたような表情を見せると、ため息をついた。足の長い椅子からひょいっと降りて一歩一歩階段を下りていく。
「あのさ、この世界を作って君らをここまで見守ってきたのは誰だと思ってるの」
「見守る?死者を蘇生させ、おもちゃの様に扱うのもその一環か?」
「だってずっとここで眠るのも退屈だから……ちょっと遊んでもいいと思わない?」
神は笑う。先程我とヴァルトラが戦ったこともどうせすぐ忘れ、また新しいことでもするのだろう。こいつはそういう類のやつだ。
運命に選ばれし王というのもそもそもは神の退屈しのぎだった。そして運命に選ばれし王の目的であるトリムルティの宝、それに辿りついてしまった者たちを見て神が何を思うか……もう一度見ているので分かる。
「せっかく面白い事思いついたと思ったのに……楽しくないから世界を一度消滅させて作り変えようかなぁ」
「貴様もアイテルと同じか。これだから神というやつは……」
勝手だが、我のイメージする神というのは慈愛に溢れ自らが作り出た人々の幸せを願い見守っている、そんな存在だ。こんな自分勝手な世界をおもちゃとしか思っていない神を見たら、下界でそんな慈悲深い神を信仰している者たちが泣くぞ。
イメージを押し付けるのはいい事とは言えないが、もっとこう……あるだろう。
「アイテル生きてるんだよね?じゃあ二人でまた相談して──」
「残念ながらそうもいかんのだよ。我がいる限りな」
こんなことはおかしい。こいつの都合だけで今生きている者たちが消されてしまうなんて。そんな非道があっていいわけがない。
しかし神のいない世界というものがどうなるかは知らない。アイテルに聞いておけばよかったと後悔しながらも、今の我にはもうこれしか思いつかなかった。
これから神殺しをする。しかしそうした場合当然エレムストの神の席は空く。そしてアイテルがこの世界に干渉できるかは分からない。ならば──
エレボスに剣を突き付け、我は決意を固める。
「貴様を殺して、我がこの世界の神となる」
「は……?あ、あはははははっ‼本気?本気で言ってるの⁉」
階段の途中で立ち止まり、エレボスは涙を流すほど爆笑する。暫くしてその笑いが収まると、急に冷たい空気が流れた。エレボスの体からはその中に渦巻く気持ちを放射するように闇が溢れている。
「ふざけるのも大概にしろよ。お前に何ができる?」
「トリムルティの宝をアイテルから奪った時の焦りようは普通ではなかった。いくらこの世界を消滅させようとも、トリムルティ神となった者は消せないのではないのか?」
「──っ‼」
「図星か。まがい物とはいえ神は神ということだ……さあ世界を消滅させてみたらどうだ?」
「どうせ時を戻して無かったことにするんだろ?生きてきてこれほど腹がったことはないよ……最悪な気分だ」
なるほど、確信はなかったが今の自分は時すら操れるのか。
ブラフだったがいい事を聞いたと薄く笑いながら、もうエレボスに逃げ場がないことに我も覚悟を決める。エレボスは階段を下り終わると、魔力で剣を作った。
もうお互いに道は一つしかない。
「神に反逆するなんていい度胸だ、お望み通り相手をしてやるよ」
「かかってこい。貴様は負ける」
友人を殺す事になるのだからアイテルには悪いと思うが、それでもこいつは生かしてはおかない。心底腐ったやつにこのまま世界を好きにさせてたまるものかと意志の剣を構えると、剣は決意に答えるように輝きを増した。
「あ〜、腹が立つなぁ!!早く終わらせてリセットしてやる!!」
「──ぐっ!!」
エレボスの闇の剣と我の意志の剣が交わり、周りにあった宝がその衝撃で飛び散った。様々な宝が宙を舞い、キラキラと光を反射させその中睨み合う。
押し切ろうと力を込めるが、エレボスの剣から出る闇が我の持つ剣まで侵食していき酷い不快感を感じてすぐに離れた。
「君のその剣、君の心を具現化させたような物だろ?俺の闇に触れるとどうなるか……分かるか?」
「我の意志は、決意は歪んだりせん」
そう強がりを言ってみるが先程の接触で分かった。確かにこの剣は我の意志そのものだ。闇に触れるとどんどんと心が荒んでいくのだろう。あまり剣は使えないなと手を前につきだす。
「〈リジェクト・インパクト〉ッ!!」
「そんな、の……効かないなぁ!!」
我が放った衝撃波を簡単に耐えきり至近距離まで詰め寄ってきたエレボスは剣での突いてくる。それを弾きくと、再び剣が闇に触れた。
『お前が本当の神になれるのか?』
頭の中に何か聞こえるがそれを無視しながら我は追撃をしかけてくるエレボスの剣を何度も受け止めながら後退していく。エレボスの勢いは止まらず、我はどう反撃に出るかと焦り始める。
『ただの凡人が、世界を背負える?』
『全てを統べることがどれほど重いことか分かるか?』
『お前みたいなやつにはできない』
『早く諦めて楽になればいい』
「だま、れぇっ‼」
エレボスに斬りかかると、彼はそれをひらりとかわして楽しそうに笑う。気のせいだろうがエレボスの剣の闇が増したように感じる。
「黙るも何も、俺は何も言ってないよ?」
分かっている、エレボスは一言もしゃべっていない。そして先程から聞こえるこの声は、自分自身のものだとも。己の中にある人の弱い部分がつつかれどんどんと引き出されているのだ。レナータもアンディートもムームアも神として作り出されたわけではない。今までただの人として生きてきて、急に神の座の空席を埋めるなどそう簡単に決心できるものではない、それも分かっている。
「……貴様は自分が神であることをどう思っている」
「どうも思ってないよ、生まれた時から神だったからね。俺にとってはこれが当たり前なんだ」
エレボスは闇の剣をなぞると、我を見つめながらため息を吐き先程まで座っていた椅子に視線を移す。神が座る割には簡素なそれを見ながらエレボスは話を続けた。
「君はね、神になるには人の心が強すぎる。神なんてどっかネジが外れてるようなやつがやるようなもんなんだ」
「貴様もそうだと言うのか」
「そうだよ。だから君が怒るようなことを平気で出来るんだ」
我は神になりきれていない。神として、元々は三人の人だった我と初めから神として生まれたエレボスでは天地の差があるのだ。
自らがエレムストの神としてこの世に君臨するとして、それに、その一人ぼっちの寂しさに我は耐えられるのだろうか。
「迷いがあるやつに俺と戦う資格はない」
「……迷いがあるからなんだというのだ」
「は?」
それでも、と我は剣を強く握る。人らしさが神に必要ないもの誰が決めた。確かに凡人にはできないかもしれない、全てを統べるのは重いかもしれない、まがい物の神には務まらないかもしれない。
だからと言って諦めるわけにはいけない。我は──
「人らしい神として、今より少しでも幸せな世界にしてみせる」
迷っても、恐れてもいいのだと自らに語り掛けると、再び意志の剣の輝きが増しより強固な剣となる。
エレボスはその光に不快そうな顔をすると、剣を強く振った。怒りから溢れる闇はさらに大きさを増して、それは飲み込まれそうな程の漆黒となった。
「折角親切に説得してあげたのにさぁ……やっぱり殺すしかないか」
「死ぬのは貴様だ、引導を渡してやろう」
剣を構えると距離を詰めエレボスに斬りかかる、エレボスはそれを受け止め笑ったが……我の意志の剣に闇が侵食することはなかった。神の放つ闇さえ乗り越えるほどの決意が、我の中にはある。
エレボスがどれだけ連撃を叩き込もうが、頭の中に声が聞こえることはない。
「〈ルミナ・ダウン〉!!」
「〈アビス・シールド〉ッ!!」
我が放った降り注ぐ光線を闇の魔法壁で防ぐと、エレボスは再び確かめるように剣を振るう。何度やっても同じことだ。やはり意志の剣は闇に侵されることなく煌めいている。エレボスは舌打ちをし、力で我の剣を押し返すと後ろに下がろうとした我の体に手を当てた。
「これで終わりだ……‼〈インテンション・クラッシュ〉ッ‼」
「なっ──」
精神を不安定にさせる魔法を使われ、まずいとエレボスに蹴飛ばしすぐに離れる。しかしもう我の体は闇に包まれ不快な感覚が……しない。胸を押さえていた手を放し、怪訝な表情で我を見るエレボスに笑いかける。
「なんで……俺の…神の使った魔法だぞ!?なぜ効かない!?」
「我も、徐々に本物の神に近づいているのだろう」
人間らしい神でいると先程決めたばかりだが、その意に反して我の心は人を辞め始めているようだ。元の人格がごちゃ混ぜになり一つとなったこのファタリタという神の完全体に近づいている。長時間の融合のせいだなとトリムルティの宝に触れ、剣を振りかざす。
「〈戦士の心得・強撃〉〈業火の斬撃〉ッ!!」
「〈ディクティター・スラッシュ〉‼」
強化された炎の斬撃と、赤黒い禍々しい深紅の斬撃がぶつかり合い大きな爆発が起こると、その爆煙も消えぬうちに剣が交じり合う。互いに譲らない、力の押し合いをしているとパキッと音を立てエレボスの剣にひびが入った。
それを見て我を睨みつけたエレボスはわざと強く剣を押し破壊すると、それに力の行き場を失った我は大きくよろける。
「ここだっ‼」
「──がぁっ‼」
エレボスは我の腹部の近くで剣を生成させ、それが腹を貫いた。すぐに引き抜き二撃目を放つエレボスの剣を素手でつかみ、手から血を滴らせながら次の手を考える。このままでは埒が明かない。
「〈瞬間回避〉〈魔力強化Lv5〉〈イノセンス・レイ〉ッ‼」
「ああっ‼うざったいなぁ‼」
回避系のアビリタで大きく後退すると、魔力を強化し剣の先から渦巻いた光を纏う光線を放つ。それをエレボスは待ち構えている。この動きの場合は……
「〈インヴィンシブル・ゴッド〉ォッ‼」
派手に足を地面を叩くとエレボスを中心に衝撃波が発生して光線が消え去る。やはりこの無効化魔法を使ってきたかと予想が的中し、再び同じ魔法を我はエレボスに向ける。それをされると予測していなかったエレボスは驚いた顔をしていた。
「〈リフレクショ──あ゛ぁあッ‼」
「やっとまともにくらったか」
光線はわき腹を内蔵ごと焼き貫通し、エレボスはそこを押さえながら大きく息を吐いた。彼が怒れば怒るほどに彼を覆う闇は大きくなっていく。
「〈オーバー・ヒール〉、このぐらいで満足してるわけ?」
エレボスが回復魔法を使うとその傷は完全に癒える。どれだけ攻撃しようがこうやって回復されるのは目に見えているのだ。
「〈マジカル・クレアボヤンス〉」
エレボスの魔力量確認するが流石神といったところだろう、これまでに上位の魔法を使ったはずだがまだ半分以上は残っている。対してこちらの魔力は三分の一を切っており、よい状況とは言えない。このまま戦っていたらこっちが先に魔力が枯渇してしまう。
「〈戦士の心得・休息〉」
「もう諦めなよ、俺には勝てないって分かってるんだろう?」
回復をしながらエレボスの挑発を無視して剣を構えた。まだ、まだ戦える。
勝って本当の神になるまで、立ち止まってはいけない。我にエレムストの全てがかかっているのだ。楽しく裕福に生きる人々も、貧相に絶望しながら生きる人にも等しく生きる権利がある。それを消し去るなど、許されるはずがない。だから我はこの剣を捨てることは出来ない。
「ああ、分かったぞ。なんで気づかなかったんだろう」
「何がだ」
「君は……今の君だから立っていられるんだ」
高笑いしながら、エレボスは剣を投げ捨て消し去った。戦意喪失したようにも見えない。我は次に何が来るか身構えながらエレボスの一挙一動に神経を張り巡らせた。
今の我だからこそ立っていられる。どういう意味かと考えていると一つの答えに辿りつく。しかし我がそれに気づき防ぐより、エレボスの方が早かった。
「〈アカシックレコード・オールマイティ〉‼さぁ、俺の世界へようこそ‼」
体が動かない。エレボスはこの空間の全てを支配すると、にやりと笑い勢いよく我に向かって接近した。彼が狙うはトリムルティの宝。
それに手を押し当てるとある魔法を発動させた。
「元に戻せばいいんだよなぁ!!〈フュージョン・キャンセル〉‼〈ブレイク・マジカルアイテム〉ッ!!」
「くそっ‼──あぁああ゛ぁあッ‼」
エレボスに向かって剣を振るがもう遅い。体内が燃えるような熱を感じ、我の体から二つの光の球体が飛び出すとそのまま後ろ倒れこむ。意識が朦朧とするような激しい頭痛と吐き気に耐えながら、"私"はエレボスを見上げた。
「はは…あははははっ‼俺の、俺の勝ちだ‼ただの人が神である俺に敵うはずがない‼」
「やってくれたね……正直お手上げだよ」
私は同じように頭痛と吐き気に耐えながら立ち上がったアンディートとムームアを見ながらため息を吐く。神だからこそ対等に戦えた、人でなくなったから恐怖を乗り越えられた、しかし今はただの三人の王だ。
「もう二度と元には戻れないと思ったんだがな。喜んでいいのか悲しむべきなのか半々だぜ」
「悲しむに決まってるでしょ!?ボクらこれで勝算なくなったんだよ!?」
アンディートは頭をかきながら神器を取り出す。ムームアも神器を取り出し怒りながら銃口をエレボスに向けた。私はトリムルティの宝を一度はずし、再び首にかけるがその瞬間トリムルティの宝は砕け散ってしまった。
「アカシックレコード・オールマイティ。全知全能の力でトリムルティの宝は破壊させてもらったよ。一度しか使えない魔法だったけど……まあいいや。さあ絶望しなよ、もう君たちは死ぬんだから」
私は神器を取り出し余裕顔のエレボスに斬りかかる、アンディートは薙刀を振りかぶり、ムームアは魔力弾を放った。それをエレボスは剣の一振りだけで防ぐ。圧倒的な力の差に、私達は立ち尽くした。
「〈アビス・ショッ──くそ、魔力切れか。まああれを使ったんじゃしょうがないか」
エレボスは優しく微笑みながら剣を振りかぶる。私はそのまま受け入れることはせずに立ち向かうが、双剣は容易く弾き飛ばされて斬りつけられる。服が避けて、そこから血が溢れる。何度も、何度もエレボスは私を斬りつけると、アンディートはそれを止めるようにエレボスに斬りかかった。
「〈瞬間回避〉、もう諦めなって」
それをアビリタでかわすとアンディートの腹を貫き、全力で蹴り飛ばす。血を吐きながら宝の山に衝突したアンディートは必死に起き上がろうとするが、体が思うように動かないのか起き上がれないでいた。
ムームアは手を震わせながら銃をエレボスに向けている。自分の全力であるクアリタをアイテルに一撃で防がれたことを思い出し、動けずにいたのだ。力なく膝をつくと、神器を床に落とし顔を伏せる。
その二人の様子を見て、私は死ぬ覚悟をし血をながらそれでも立ち上がった。
──その時、脳内に声が聞こえた。
…………
「いいねぇ、その絶望っぷり……俺の勝ちだ‼」
「こんなとこで……終わってたまるかよぉ‼」
アンディートは無理やり体を動かし悪魔化すると俺に向かって走り出す。そんな事をしても意味がないとまだ分からないのかと俺は軽く剣で薙刀を受け止め笑った。無駄だ、お前れのなにもかもが無駄なんだ。アンディートの首を飛ばしてやろうと剣を大きく振りかぶる。
「〈チェンジ・ラージェ〉」
──しかし、瞬きの間に目の前には……笑みを浮かべるレナータの姿が。
「は?」
「油断してくれてありがとう。本当にそれには感謝しかないよ」
彼女の首には──破壊したはずのトリムルティの宝がさがっている。
何故、何故だ何故だ!?あれは修復不可能なはず‼
レナータはファタリタとなると、がら空きだった俺の懐に入り込み、
俺の心臓を意志の剣で貫いた──。
「──な、んで……」
「貴様の失敗はアノルマ達をトリムルティ化させた事だ」
どういうことだと引き抜かれた剣を見ながら考える。ああそうか、それはアノルマ達が使っていたトリムルティの宝か。俺はそれを回収もせずに放置したうえ、それをレナータ達の誰かが持っている可能性なんて考えていなかった。ムームアのあの諦めたような行動も演技、アンディートの無謀といえる攻撃もわざとだったのだ。
油断してくれたことに感謝しかないというレナータの言葉を痛感する。
「神といえど心臓は修復できないだろう」
「あ、ああぁ゛ああぁ゛っッ‼‼」
血を吐きながら剣で斬りかかろうとするが、それは意志の剣に払われ砕けてしまった。魔力の切れた今、再び剣を作ることは出来ない。
それでもと何度も何度も回復系のアビリタを使うが血は溢れて止まらない。立つ力すらなくなった俺は後ろに倒れる──
「待て」
──ことはなく、俺の手をファタリタは掴むとゆっくりと地面に横たわらせる。何のつもりだと睨みつけるが、ファタリタは何を思っているか分からない瞳で俺を見つめる。このまま死んでいく俺を見てどうするというのだ。
「〈アカシックレコード・オールマイティ〉……ほう、やはり我も使えたか」
まるで世界はこの部屋だけと錯覚するような不思議な感覚に囚われる。何故こいつがこれを使ったかは分からない。本当に最後まで予想を裏切るやつだ。
更に、ファタリタは意味の分からないことを言い出す。
「貴様を助ける」
「──ここま、で、きて……なにを、いまさ、ら‼」
「不可能すら可能に出来るこの空間ならば出来るだろう?」
確かに出来る。しかしあれだけ俺を殺すことにこだわっていたこいつが何のためにそんなことをするのか分からなかった。意味不明だ、それに……
「そんな、屈辱的、だ……この、まま……おれは、しぬ……‼」
「決定権は勝者にある、すこし黙っていろ」
なんだこいつ急に偉そうだなと思いながら、俺は目を閉じた。
…………
「まずは……〈オーバー・ヒール〉。そして、〈オーソリティ・ロック〉」
「──くそっ、お前なんてことを……‼」
我はこの……言い方は悪いがやりたい放題の空間で好き勝手にした。まずはエレボスの心臓の修復、全回復。そして……神としての権限の制限だ。
これまでのように下界を見て人類が滅ぶのを避けようと少し手を加えることは出来るだろう。しかし無意味な殺生や蘇生は出来ないようにロックした。本当に我が考えるような慈悲深い神のような行動しか出来なくなったのだ。ざまぁみろ。
しかし……
「もう我は元には戻れんな」
アカシックレコード・オールマイティの効果時間が終わり、トリムルティの宝に触れながら小さく呟く。一度トリムルティ化を解いたとしても、すぐにまた融合してしまったのが原因で人格固定が早く始まったのだ。元の人格の片鱗を感じながら我は徐々に無感情になっていくのを感じる。
「……君はそれでよかったのか──」
「スト~~~~ップ‼」
背後から聞き覚えのある声が聞こえ、我は振り返る。
そこにはアンディートのクアリタで眠りについていたはずのアイテリアの神、アイテルが立っていた。何故ここにいると聞く前に、アイテルは我に近づきビンタを炸裂した。痛みに頬を押さえながら頭の中は疑問符だらけだ。
「ばっかじゃないの!?いっちょ前に神になる覚悟とか決めちゃって‼」
「しかしこんなクズ野郎を神にしておくわけには──いてっ‼」
「私の友達をクズ野郎呼ばわりするな‼」
ぷんすこと怒るアイテルに困惑しながら、なぜか彼女のペースになっている。しかし一つ疑問が浮かんだ。
「貴様は確か塔を出れないと言っていなかったか?」
「そうよ。神があの塔を出ると管理者がいないと世界が判断して徐々に崩壊していくの」
「では早く戻らんか愚か者め‼なぜここに来た‼」
我が怒鳴るとアイテルは耳をふさぎ、そして我の手を取った。そしてエレボスに何かを投げると、彼はそれを受け取る。
「新しい通信手段よ。それとこいつもう連れて帰るから、またね‼」
「ア、アイテル!?」
「〈グレート・テレポート〉」
ふっと視界が暗くなり気づいた時には塔の外にいた。アイテルは我の手を引きながらぶつぶつと文句を言っている。二人でアイテリアに向かい飛行していると、アイテリアとエレムストの境界に徐々に結界が戻っているのが見える。
二つの世界が区切られるギリギリのところでアイテリアの領域に入り、我の手を引いたままアイテルはスフィーダの塔に向かった。
「間に合って~~‼」
「お、おい。手を放せ」
アイテルは螺旋階段を素早く上ると試練の間を抜け、いつもの部屋に戻ってきた。そして目を瞑り、暫くして開く。
「そこまで崩壊は酷くならなくて済んだみたい、よかったぁ……」
「よくないだろう。何故そこまでしてエレムストに来たのだ」
それを聞くとアイテルはため息を吐きながらまた我を叩こうと手を振り上げる。しかしその手は下されアイテルは二回目のため息を吐く。
ゆっくりと階段を上っていくと彼女は椅子に座り、我を見下ろした。
「……エレボスを殺そうとした事には心底腹が立ってるわ」
「当然だろうな」
「でもそうしなくてはならないだけの何かがあったのね。あんた達が怒ることって言ったら……どうせ私と同じように簡単に世界をやり直そうとか言ったんじゃない?」
それもあるが、アノルマ達を無理やり蘇生させ道具のように扱ったのも理由だなと思いながら頷いた。アイテルはやっぱりねと言うと話を続けた。
「それで、あんた達はトリムルティ化すれば記憶共有と神としての人格固定がされるのを分かっておきながら、その姿でいるってことは……三人に戻れない人生を歩むと決めたのね」
「……我にはそれしか道がなかった。結局エレムストの神にはならなずに済んだが、どうこう言ってももう遅い」
アイテルは椅子から立ち上がると、大きく息を吸ってゆっくりと吐いた。そんな事には構わず、ファタリタとなり従者達にはなんと言ったらいいだろうかと、国はどうすればいいだろうかなどと考えているとアイテルは手を叩きパンッと部屋に音が響く。
「〈アカシックレコード・オールマイティ〉……〈フュージョン・キャンセル〉」
「──!?」
確か一回しか使えないはずの魔法を、アイテルは我に使った。我の体から光の球体が二つ飛び出るとアンディートとムームアの姿に戻り、私も無事レナータとして戻った。
そして──
「「「おえ゛ぇっ」」」
「ちょっと‼ここで吐かないでくれる!?」
私達は吐き気と頭痛を堪え……そして顔を見合わせると嬉しさに笑みは堪えられなかった。
「よかったぁ‼元に戻れたぁー‼」
「完全に神になる覚悟したが……もう二度としたくねぇ」
「怖かったよぉ‼はぁ……自分の体が一番……」
それぞれ喜びながら、また椅子に座ったアイテルを見て申し訳ない気持ちになる。神なのだから、たった一度しか使えない魔法はもっと重要な時に使うべきものだったのだろう。しかし彼女は私達を元に戻すために使ってくれた。
「……悪いと思うならもっとこの世界のためにこれからも貢献しなさい」
「ありがとう、アイテル……恩は必ず返すから」
アイテルはふっと笑うと、アンディートに視線を向けた。そういえばアイテルはアンディートのクアリタで寝ていたはずではと思い出す。
「あんた達が疑問に思っていることぐらい分かるわ。私と戦った時も言ったけど……あんた達は王、私は神。その差よ」
「つまり俺のクアリタ程度……」
「その気になれば簡単に解除できるのよ。寝心地がいいからそのままにしてただけでね」
なるほどとアンディートが納得すると、ムームアが何かに気づきハッとすると焦り始める。何事かと私聞こうとした時、私もアンディートもそれに気づいた。
なにか、なにか大切なことを忘れていると思ったが……
「「「従者たちエレムストに置いてきた……‼」」」
「馬鹿ね。当然とっくに避難させてるわよ‼」
私達は安心すると今まで忘れていたことを心の中で謝った。アイテルは従者たちはそれぞれの国に転移させたと言うと、そのまま目を閉じた。
何か探るように唸ると、ふっと笑う。
「従者どもはあんた達が心配でならないのか、かなり荒れてるわよ」
「え、じゃあ早く戻らなきゃ‼」
「あいつら……留守番も出来ねぇのか」
「ボクがいないと駄目なんてほんと子供だなぁ」
それぞれそういい笑いあうと、アイテルは目を閉じたまま私達を追い払うようにしっしと手を振る。今度は神としてちゃんと仕事をするのか、再びアンディートのクアリタを使うことは拒んだ。
最後まで目を瞑ったままのアイテルにお礼を言い私達はスフィーダの塔を出る。
「愛想ないなぁ」
「……多分、寂しんじゃねえか」
「私達は気軽に会いに行けないしね……」
試練の間を出て最後に振り替えると私達は名残惜しく思いながら、スフィーダの塔から出た。
…………
「またこれ!?」
「しょうがねぇだろ‼ファタリタになる前の状態に戻ってんだから‼」
「も~‼ボクもう絶対この塔来ない‼」
さっきまでの雰囲気が吹っ飛ぶほどのパラシュート無しのスカイダイビングを再び体験し、何故こんな高いところに塔を作ったんだと愚痴りながらまた地面ギリギリで飛行魔法を使う羽目になった。
勿論感想は、死ぬかと思った、だ。
──
「ただいまぁー‼」
私はイデアーレ帰るとすぐに城に向かった。アイテル言うにはみな荒れているらしいが、実際はどうなのだろうと恐る恐る城に入る。そこにはみんなでオロオロと同じ場所をうろちょろしているキーパーソンの姿が。
『レナータ様!!』
「みんな〜〜!!」
どんどんと私に飛びかかってくるみんなを受け止め、その勢いに床に倒れると大声で笑う。生きて、ちゃんと生きて帰れたんだ。それが嬉しくてみんなに潰されたまま両手を広げちょっと泣きながら笑っていた。
「申し訳ございません!!重いですよね……!!」
サージェの言葉にみな急いで起き上がり、私はエンドに手を引かれ起き上がる。みんな私より泣いて、本当に私に似たんだなぁとまた笑った。初めて女王として仕事をした日と同じようにみんなにハンカチを配ると城内を見渡して大きく伸びをする。
「じゃあ、取り敢えず謁見の間に行こう。そこでスフィーダの塔での話をするよ」
転移すればすぐに着くが、私は歩いて謁見の間に向かいながらアノルマと戦った時の話をした。ジェスチャーを加えながらあの時の攻撃は痛かっただのこの時は負けると思っただとか話しながら、みんなは私が面白おかしく話すのを真剣に聞いていた。
「それで使われた幻術が凄くてほんと吐きそうだった──ちょっと、恥ずかしいからメモしないで!!」
何故か興味津々にメモしていたエルバトを叱るとみながら笑う。そうこうしているうちに謁見の間に着くと、大きな扉をアタリルとディーフェルが押しゆっくりと開いていく。
「行こうか」
私の一言を合図に皆歩き出す。コツコツと複数の足音だけが部屋に響き、いつもの場所で皆が立ち止まると一つの足音が階段を上っていく。やっと戻ってきた、この場所に。
私は振り返り玉座に座ると、跪くキーパーソンを見ながら歓喜の息を吐く。朝日が差し込む謁見の間で、微笑みを浮かべる従者達を玉座から見下ろす王の私。
──そうだ、私の居場所はここなんだ。
私達の物語は終わらない。これからも困難が続くのだろうが、それを乗り越えるだけの意志を持ち、私は物語を紡いでいくのだ。
「じゃあ聞いてもらおうかな。この世の……神の話を」
そう言って、私は王冠を被ると笑みを浮かべた。
第二部、無事最終話を迎えることが出来ました〜!!
いやぁ、めちゃくちゃですね!!分かります……自分の中で書きたいものをどうにかまとめるのに必死でした。全知全能の魔法便利すぎてエレボスもアイテルも1度しか使えないのにぽんぽん使っちゃったりね。でもこれを使うだけの価値がレナータ達にはあるって判断したんじゃないかな!!
今までは王同士の1体1の戦闘、従者の戦闘、敵の王の過去と3構造で戦いの話は書いてたんですけど、エレボスと1体1の戦闘書いてたら4000字ぐらいで終わりそうだったんですよね。焦って尺を伸ばしてこれぐらいです。戦闘シーン難しい。
一応このまま融合してファタリタとしてエレムストの神になるって言うルートも考えてました。それでも良かったんですけど、私はこれからレトロ編みたいなアナザーストーリーも書きたいわけです。そうなるとファタリタでは困るんですよね。だからそのルートは却下になりました。
アノルマ達のトリムルティの宝をこっそり回収していたのはファタリタの中のムームアの意識です。「なんかに使えるかもしれないから貰っとこ」ぐらいの気持ちだったんですけど本当にあれがなかったら全滅でした。ムームアは完全に諦めたふりをしてレナータ、アンディートにテレパシーで作戦を伝え、そしてああなったと……その辺の描写は詳しくしてないので分かりづらい!!
ムームアはレナータにトリムルティの宝を渡し、アンディートはそこから意識を逸らすためにエレボスに攻撃を仕掛ける、そして宝を首にかけたレナータは魔法でアンディートと自分の位置を瞬時に交換し、ファタリタ状態でエレボスをグサッ!!みたいな感じです。
去年の2月に初め、そして4月に第一部終了。そして去年5月から二部が始まり、5ヶ月も空けたあと今年1月に二部終了となりました。
約1年、お付き合いありがとうございました!!すごい楽しかった!!
ここまで読んで頂き本当にありがとうございました!!