トリムルティの宝   作:▷akua◁

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アナザーストーリー
俺に贈る鎮魂歌


意識が朦朧とする。森の中、一人の男はふらふらと歩きながら行くあてもなくさまよっていた。なぜこんな状況になったのか、今ではよく思い出せない。ただ前に、前に進まなくてはならないという事だけは分かった。

しかし男はついに力尽き倒れこむ。瀕死の状態で歩き続けたのだからその結果もしょうがないのだろう。力なく伸ばした手は、ドサリと地に落ちた。

 

「おい、大丈夫か兄ちゃん」

 

声が聞こえる。しかし男にはもう目を開ける力も、助けてくれと声を出す力さえない。返事のない男を見て、声の主はため息を吐くと男を抱えた。

 

「既視感が凄いんだが……まあこれもなんかの縁だろ‼」

 

声の主──ガタイの良い長身で青い瞳をした元戦士、ウェンビルは自分が森で瀕死の人を助けるのは二度目だと、一度目に助けた人物のことを思い出しながら家に戻った。

 

 

          ──

 

 

暖炉の火の音が聞こえ、俺は目を覚ました。あまりの体のだるさに最初は目覚めることを拒んだが、知らない匂いの空間にすぐに瞑っていた目を開くと体を起こす。

しかし体中が痛み思わず顔を顰めた。体には手当の跡があり、自分をここに連れてきた人物は少なくとも敵対心はないと分かり安堵の息を吐く。

周りを見渡すと、恐らく一人で住んでいるのか一人分の生活用品しかなく、雑に置いてある衣服を見るとその大きさから男性であることが予測できる。

 

「(そもそも最後に聞いた声は野太い男の声だったな……)」

 

俺に大丈夫かと問いかけた人物がここに住んでいて、そして介抱するためにわざわざ担いで連れてきてくれたのだろうとその男性をきょろきょろと目で探す。

そして、俺が気になったのは……丁寧に手入れされた一本の剣だ。それを見ると、今負っている傷のことを思い出し、寝かされていたソファーから降りようとする。

 

「よかった、目が覚めたか」

 

丁度その時、男性が奥の部屋から姿を見せる。想像通りの逞しいその男に俺が軽く頭を下げると、男はにかっと笑い俺に何かを差し出した。

木の器に、不格好な野菜の入ったスープが入っている。男がニコニコとしたままこちらを見ているという事は、食べろという事だろう。

俺は器に口をつけ、丁度良い暖かさのスープを一口飲んだ。優しい味がする。

 

「どうだ?俺の弟子がなぁ、忙しいくせにわざわざこれ食いにくるんだ。てことはそんだけ美味しいってことだろうな‼がはははっ‼」

 

……いや、特別美味しいというわけではない。どちらかと言うと普通だ。

多分その弟子というのは、スープを食べるという口実でこの男に会いに来ているだけだろうと豪快な笑い声を聞きながらまた一口すすった。

 

「あり、がとう…ございます」

「礼なんていいよ。俺はウェンビルだ、よろしくな」

 

差し出された手を握るとこくりと頷く。名乗られたからには、自分も名乗り返したいところだ。しかし、俺にはそうできない理由があった。どうしようか俺が悩んでいるのを見ると、ウェンビルさんは俺の向かいに椅子を持ってきてどすっと座る。

 

「言いたくねぇんだったら深入りはしないぜ?傷が癒えるまでここにいたらいい。まあこのむさ苦しいおっさんと一緒だがな‼」

 

再び笑い始めるウェンビルさんに、俺は戸惑いながらも助けてもらったのだから事情を話すべきかと悩んでいた。しかし話せば巻き込むことになるかもしれない。

しかし俺は──誰かに助けてほしかった。

 

「俺は……名乗りたいですが、名がありません」

「ほう、名前ねぇのか。珍しいな」

「これまで、ずっと、ずっと一人で生きてきました。だから名がなくても特に問題がなかったのです」

 

なるほどとウェンビルさんは頷き、先程とは違い真剣な顔で俺の話を聞いている。こうして救ってくれた彼に、さらに助けてほしいと言うのはあまりにも図々しいかもしれないが、俺は今まで我慢してきたものを吐き出すように話を続ける。

 

「しかし実際にはずっと一人ではなかったんだと思います」

「……と、言うと?」

「記憶が……無いんです」

「へぇ、俺と一緒だな」

 

ウェンビルさんの言葉に目を見開くと、彼は記憶がないことを何でもないように話した。彼は今の生活に満足しているので、自分の記憶を戻すことについては興味がないらしい。記憶がないことが怖くはないのかと聞くと、頷いた後弟子もいるからと笑った。

 

「俺は……過去に自分がどんなことをしていて、どんな人生を送っていたのか知りたいんです。お願いします……どうかお力を貸しては頂けないでしょうか」

「いいぞ」

「躊躇うのはわかりま──え?」

 

あまりの返事の速さに思わず聞き返すと、ウェンビルさんは笑顔で俺に協力することを承諾した。俺にとっては願ってもない事だが、彼は大丈夫なのだろうか心配になる。詐欺と簡単に引っかかってしまいそうだ。

 

「つっても俺の世界って言ったらこの森の中ぐらいだ。だから、頼りになる人を紹介するってことでいいか?」

「頼りになる方ですか?」

「ああ。俺の弟子、レナータっていうんだが王様だし力になるだろう」

「レナータ……あの運命に選ばれし王のヴィシュヌの称号を持つ王ですか!?」

 

これまた何でもないようように話をするウェンビルさんに、力が抜ける。運命に選ばれし王の師匠に助けられたなんて、俺はかなり運がいいらしい。

レナータ・ヴィシュヌ女王。なんでも博識な上に威厳があり慈悲深く、揺るがない精神の持ち主で国民の間では完璧な王と称賛されているのだとか。そして歴代最高の八人の従者の召喚を成功させ、一年前に起こった世界規模の大災害を収めた張本人……会う前から胃が痛くなる。

 

「あいつ優しいから二つ返事で受けてくれると思うぞ」

「そ、そうですか……?」

「ああ、大丈夫だって。じゃあ行くぞー」

 

え、今から……?とスープをすぐに食べ終わると身支度をし終えたウェンビルさんに続き家を出る。アポなしで運命に選ばれし王に会いに行くその度肝の強さに、感心していいのか呆れたほうがいいのか分からずにウェンビルさんの後をついていく。

それにしても自分は己の血に濡れた服を着ているし、ウェンビルさんに至っては部屋着だ。俺は胃がキリキリしながら彼を信じてイデアーレ王国に向かった。

 

          …………

 

「ほら、帰った帰った。あんまりしつこいと牢屋に入れるぞ‼」

「だからぁ、ウェンビルが話があるから会いに来たって一言伝えてくれるだけでいいんだって‼」

「女王殿下はお忙しいんだ、冷やかしは許さんぞ‼」

 

やはりこうなったか。ウェンビルさんは〈メサージュ〉を習得していないらしいので事前に会いに行くとも伝えられず、みすぼらしい格好をした俺達は当然門兵に止められた。もしかしたらヴィシュヌ女王の師匠というのは妄言なのではと失礼なことを思いながら、俺は彼の必死の交渉をただ見ていることしかできない。ウェンビルさんは同じことを何度伝えているが門兵は聞く耳を持たず、俺も同じ立場ならそうするだろうとウェンビルさんの肩を叩く。

 

「ウェンビルさん、その……ちゃんとまともな格好をして出直したほうが──」

「ウェンビル様でございますか?」

 

門の前に一人の男が門を飛行魔法で乗り越え降りてくる。赤いマントを纏い仮面をつけたエルフの男は、ウェンビルさんを見た後俺に視線を向け門兵に門を開けるように指示を出した。

 

「あんたは……?」

「お初にお目にかかります。俺はレナータ様の従者、エンド・ストーリアと申します」

「ああ、あんたがあのレナータのかれし──」

「〈テレポート〉‼」

 

ふと視界が暗くなると、いつの間にか俺達はお城の中にいた。テレポート、Lv4の空間転移魔法だ。門を開けてもらった意味はなんだったのだろうと疑問に思ったが、ウェンビルさんの言葉とストーリアさんの安堵したような様子を見てなるほどと理解した。

 

「手荒な真似をして申し訳ございません。俺がレナータ様と恋仲にあるのは内密にしておりますので……」

「おっと、そうなのか。わりぃ事したな」

「いえ、お気になさらず。本日はどのようなご用件でしょうか」

 

ストーリアさんがそう聞くと、ウェンビルさんは事情を話す。それに頷いたストーリアさんは俺達を広い部屋に案内するとそこで待つように言われた。高価そうな服を来た使用人が入ってきて飲み物を出すと、ウェンビルさんは「なんだか落ち着かねぇな」と笑いながら俺に耳打ちをする。

 

「そうですか?なんだか俺は──」

 

逆に落ち着くと言おうとした時、部屋にはストーリアさんではなく白いフードを被り口元を布で隠した赤目の男性が入ってくる。

 

「初めてお目にかかります。エンドに代わりまして、謁見の間には僭越ながら私がご案内いたします。どうぞよろしくお願いいたします」

「おう、よろしくな‼」

「よろしくお願いします」

 

彼もその格好や立ち振る舞いからヴィシュヌ女王の従者なのだろうと見ていると、彼はそれに気づいたのか俺に微笑んだ。従者というのは誰もが整った顔をしているなと軽く微笑み返す。

 

「では失礼して……〈テレポート〉」

 

再び空間転移魔法が発動すると、今度は大きな扉の前に立っていた。この扉の先、謁見の間にヴィシュヌ女王が待っているのだろう。今更緊張してきた。

フードの従者さんが一歩前に出ると、その大きな扉は俺達を迎えるようにゆっくりと開いていく。

その先に広がる光景に、思わず息をのんだ。

豪華な装飾が施された神秘的な謁見の間、そこにある長い階段の上に置かれたこれまた豪華な金の縁に青を基調とした玉座には一人の女性がまさにその場に相応しく堂々と座っている。

 

「レナータ様。ウェンビル様、そしてお連れの方においでいただきました」

「ご苦労、お前はさがりなさい」

「──っは」

 

白いフードの従者さんがヴィシュヌ女王に深く一礼すると、俺達にも軽く頭を下げ去っていく。ヴィシュヌ女王に視線を向けると、彼女も俺を見ていてドキッとした。何か失礼なことをやらかしていないかとお城に来てからの行動を思い返しながら、ウェンビルさんが跪いたのを見て俺も慌てて跪く。

 

「して、その者の記憶を取り戻してほしいというのが願いか」

「はい、もしお力添えいただけるのであればそれ相応の対価をお支払いいたします」

 

ウェンビルさんの対応に師弟と言えど身分の違いでちゃんと言動を変えるのかと思っていると、ヴィシュヌ女王は急に立ち上がり階段を一歩一歩降りてくる。距離が近づくほど心臓が脈打つのが早くなる気がした。

 

「お前にそれほどの対価が……ふっ、対価が……あははっ‼」

「はいお前の負けな‼やっぱ女王向いてないんじゃないか?」

「酷いなあ‼師匠が面白いから、ついね」

 

先程までの緊張感はどこへ行ったのやら。ヴィシュヌ女王はにこにこと笑顔でウェンビルさんに軽く抱き着いた後、べしべしと背を叩いてくるウェンビルさんに笑っている。さっきまで威厳溢れる王だったが、俺の目の前にいるのは同じ人物だが雰囲気が全く違う。一瞬別人に変わったのではないかと錯覚するほどだ。

 

「それで、記憶喪失の青年っていうのが貴方であってるかな?」

「はい。その、よろしかったら記憶を取り戻すのを手伝ってもらえないかと……」

「うん、いいよ」

「確かに女王殿下はお忙しいかと──ぇ」

 

デジャヴ。本当に二つ返事で承諾してくれて若干拍子抜けした。これでも説得のシミュレーションをしていたのだが、無駄になってしまったようだ。しかしありがたいことなので、俺はヴィシュヌ女王に頭を下げる。

 

「どうかよろしくお願いします。どうしても……思い出さなければいけない気がしてならないのです」

「う~ん、一応記憶を戻すのに一番簡単な方法が少し前までは出来たんだけどなぁ……」

 

簡単な方法とはどういうものだろうと少し興味が湧きながらもヴィシュヌ女王の渋い顔を見て聞くのはやめておいた。ヴィシュヌ女王はぶつぶつ呟きながらうろうろとしており、それを見たウェンビルさんはまたばしぃっとヴィシュヌ女王の背を叩く。とても痛そうだが叩かれた本人は特に痛がるような様子はない。

 

「よし、あとは任せたぞ‼」

「え、師匠もう帰っちゃうの!?……泊まっていけば?」

「自分の家じゃねぇとなんか安心できないんだよ」

「え~、じゃあまた遊びに行くね‼」

 

ウェンビルさんはヴィシュヌ女王と俺に手を振って謁見の間を出ていった。……出ていった!?という事はつまり──

 

「じゃあ、さっそく記憶探しを始めようか」

「は、はい‼」

「そう固くならないで大丈夫だよ」

 

王様と二人きり。緊張している俺にヴィシュヌ女王は微笑むと、ついて来てとどこかに向かい始める。暫く歩くと応接室につき俺達はそれぞれ向き合って座る。彼女は俺をじっと見ると、眉を顰めた。

 

「その服と手当の後……何かあったの?」

「ああ、これは……住んでいた小屋が襲われてしまって」

「襲われた?それはなんで?」

 

俺は言葉を詰まらせる。殺意をもって俺に襲い掛かる人達……長年暮らした小屋が破壊される光景。正直思い出したくない。しかし記憶を取り戻したいと願い出たのは自分だ。俺は簡潔に説明できるように考えながら、ヴィシュヌ女王に伝える。

 

「俺は人間種ですが、今のこの姿から歳を取らないんです。もう数十年外見は変わらないですし、それに自分の中に強い力を感じます。俺の存在を知っていた人は、俺を異端な恐ろしい存在として……殺そうとしました」

「……そう」

「分かっています。人は自分が理解できない事には敏感で、脅威とみなすという気持ちは。それでも、俺は周りに干渉せず自給自足の平凡な暮らしをしていただけです。なのに、なんで……俺の何がいけなかったのでしょうか……?」

 

俺は顔を伏せた。みっともなく泣きそうになり、堪えられなかった涙が俺の太ももに落ちる。ヴィシュヌ女王は立ち上がると俺の隣に座り、ゆっくりと俺を抱きしめた。その温かさに、余計に涙が出る。しかしこうして吐き出して泣くことで、少し楽になった気がした。

 

「貴方は何も悪くなかったのに襲われてしまった。それでも復讐に囚われずにこうして前に進むために努力をしている。貴方は優しさを持つとても勇敢な人だよ。だから自信もって、記憶を取り戻すために頑張ろう」

「ありがとう、ございます……‼」

 

ヴィシュヌ女王が差し出してくれたハンカチを受け取り涙をぬぐうと、俯いていた顔を上げる。ヴィシュヌ女王は先程の元気そうなにこにこ顔とは違う微笑みを浮かべている。威厳はどうなのだろうと思ったが、慈悲深いというのは本当のようだ。

 

「まずは着替えを──っとごめん。メサージュだ」

「いえ、お気になさらず」

「ありがと」

 

そう言うとヴィシュヌ女王は部屋を出ていく、扉越しに音が聞こえるが何と言っているかまでは聞き取れない。暫くしてヴィシュヌ女王は慌てたように戻ってくると、俺に申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「え?ど、どうかしたんですか……?」

「ちょっと問題が起きてるみたいで……詳しくは話せないけど、私が向かわないと収まらないみたいだからすぐ行かなきゃ」

「俺は待ってますからどうぞ行ってください。王としてのお仕事の方が大事ですから‼」

 

俺は慌てて大丈夫だと伝えると、ヴィシュヌ女王はそうだと手のひらにこぶしをポンと当てた。俺はそれに……なんだか嫌な予感がした。

 

「私が頼まれたことだから私がお手伝いした方が本当はいいんだけど……」

「だ、大丈夫です。俺待ってます──」

「アンディートにも協力してもらおうか‼」

 

ヴィシュヌ女王の名案を思い付いたぞという顔に、俺は首を縦に振るしかなかった。

 

 

         ──

 

 

「で、お前がここに来たわけだ」

「はい……」

 

ぎろりと隈のできたその鋭い目つきでブラフマー王は俺を見る。滅茶苦茶怖い。今すぐ逃げ出したい気持ちだ。ヴィシュヌ女王には「睨んでるように見えるけどあれが普通の顔だから安心してね」と送られたが、それにしても完全に睨んでいる。俺は同じように応接室にと通されると、事情を説明した。

 

「そうか。辛いことを何度も話させて悪いな」

「あ、いえ……大丈夫、です」

「だからそんなに怯えたような顔してんだな……」

 

いや、それは貴方が怖いからだとは言えずに苦笑いを浮かべどうにか場をやり過ごす。ブラフマー王は俺を見ると立ち上がり、来いと一言俺に告げ応接室を出る。

 

「まずは着替えろ。城には余ってしょうがねぇほど衣服があるし、なんか貰っていけ」

「いいんですか!?」

「沢山あるし、服も着てもらった方が幸せだろ。多分」

 

暫くブラフマー王の後を着いていくと、衣装部屋についた。中に入ると色とりどり、沢山の服が溢れかえっている。アクセサリーや帽子、靴、鎧まで。ここでトータルコーディネートができる。

 

「お前には何が似合うか……」

 

ブラフマー王は俺を上から下まで眺めると服をあさり始める。もしかしてこれは選んでくれるのだろうかとその光栄さと、また別の意味でドキドキする。もし、可能性は低いがもしブラフマー王のファッションセンスがアレだったとしても、王が直々に選んでくれる服だ。ノーとは言えない。

 

「こんなんはどうだ」

 

すっとブラフマー王が差し出し俺の体に当てた服は、ダサいどころか俺にしっくりくるものだった。それにおしゃれだ。しかしブラフマー王はあれだこれだと俺に色々俺の体に当てた後、やはり最初のものがいいと俺にそれを着けさせると鏡の前に立たせた。

 

「胸元が寂しいな。ネックレスでもつけるか……」

「あ、ネックレスなら持ってます」

 

そう言い元着ていた服のポケットからネックレスを取り出し首から下げる。ブラフマー王から渡されたものを着て、軽く髪を整えると自分で言うのもなんだがさっきとは見違えるほど綺麗に変身できた。ブラフマー王はそれに満足そうに頷いている。思ったより優しい人なのかもしれない。

 

「そのネックレスちょっと見せてもらっていいか?」

「はい、勿論です」

「〈アプレイザ・マジカルアイテム〉」

 

ブラフマー王がアビリタを使うと彼の眼がライトグリーンに光り、俺のネックレスも同じように光りだした。

アプレイザ・マジカルアイテム。マジカルアイテムのランクや効果を鑑定するアビリタだ。最初は真顔だったブラフマー王が、急に眼を見開き俺とネックレスを交互に見た。

 

「お前これ……隠せ。絶対にもう誰の目にも触れさせるな」

「ど、どうしてですか……?」

「もしこのマジカルアイテムの存在が知れればまたお前の命が危うくなる。……それに、これは人が持っていい物の域を超えてる」

「そうなんですか!?俺はなんてもの首にかけて……‼」

 

俺が急いでネックレスを外すと、ブラフマー王はシンプルなジュエリーボックスを取り出しそれを俺にくれた。そのあと盗難防止用のトラップに強固な封印、マジカルアイテム感知阻害、ネックレスが俺以外の手に渡らぬように何重にもアビリタをかける。

 

「こんなもんか……。早くマジカルボックスに仕舞っとけ。絶対無くすなよ」

「はい。それで……これにはどういった効果があるんですか?」

 

ブラフマー王はわざわざ部屋に盗聴防止、防音のアビリタを重ね掛けすると俺にアイテムの効果を教えた。その場が静まり返り、俺が震えているのを見てブラフマー王は俺の方を軽く叩く。

 

「大丈夫だ、俺が死なない限りソレの封印は解けない。まあ……お前が使いたいって望むのなら解除するが」

「いえ、いいです……これはこの世に無い方がいい物だ」

「同感だ。本当は破壊したいが、少し前なら出来たんだけどな……」

 

何かを思い出したのかブラフマー王はヴィシュヌ女王と似た渋い顔すると、もう行くかと衣装室を共に出て城内を歩く。イデアーレ王国のお城もそうだったが、床にはごみ一つなく高級そうな置物も沢山あるのに埃は一切なくどれも手入れが施されている。毎日掃除が大変そうだと丁度すれ違った使用人に敬意を込めて会釈した。

 

「それで、お前の最後の記憶は?」

「えっと、八十年以上は前ですね。気づいたら傷だらけでエリチ森に立ってたんです」

「傷だらけ?お前トラブルに巻き込まれやすいんだな」

 

廊下を歩きながら話を聞くと、ブラフマー王は軽く笑い進み続ける。その足取りから適当に歩いているのではなくどこかに向かっているのが分かった。しかし廊下の途中でブラフマー王は急にぴたりと止まると俺に振り替える。

 

「なんで隣を歩かねぇんだ。まだ俺が怖いか?」

 

まだ、という事は最初からブラフマー王を怖がっていたことはバレていたようだ。なら最初のあれは彼なりの冗談だったのだろう。俺はブラフマー王の言葉に首を横に振った。もう怖くはないしそれどころか好感を持っている。

 

「いえ、そうではないのです。……うまく説明できませんが、こうして後ろを歩くのが当然というか落ち着くというか。それが当たり前だった気がするんです」

「当たり前か。……なら昔は貴族の家の使用人とかだったんじゃねえか」

「なるほど、ありえますね……‼」

 

これで少し過去に近づいたなとブラフマー王は言い再び歩き出した。ヴィシュヌ女王の時もそうだったがこうして後ろを歩いたり、誰かに仕えることが当たり前だった気がする。そう考えているうちに、お城の中庭に着きブラフマー王はそこで止まった。

 

「綺麗だろ、あそこにガゼボがある。そこで話そうか」

 

頷いた俺を確認するとブラフマー王はガゼボに歩き出し椅子に座る。彼に促され俺は彼の向かいに座り見事な中庭の整えられた木々や花々を見る。ブラフマー王はこれを自慢したかったのだろうか、満足げな顔をしている。

 

「庭師がなかなかの凝り性で、俺も、俺の従者達も気に入ってんだ」

「凄く綺麗ですね……‼ブラフマー王殿下がお気に召すのも分かります」

「だろ?」

 

ブラフマー王は初めてとても優しい笑みを浮かべている。こういう顔も出来るんだとじっと見つめていると、彼は軽く咳ばらいをして自身の胸元を指でとんとんと叩く。

 

「話を戻すが、さっきのネックレスをどこで手に入れたか覚えてるか?」

「いえ……ですが、誰かに貰った気がします」

「貰った?そうか……効果を知らなかったのか、それともそれに見合うだけの価値がお前のあると判断したのか。もしかしたらなんかの手掛かりになるかと思ったんだがな」

 

ブラフマー王は再び考え始めると、いくつか質問を投げかける。名前はあるのか、年齢はいくつか、趣味は、特技は──

 

「特技というか、普通とは違うところが……」

「ほう、普通とは違う?」

「運命に選ばれし王やその従者しか使えないという人を超越した力……Lv5の魔法やアビリタがいくつか使えます」

 

それを聞くとブラフマー王は本当かと俺を興味深そうに見つめた後、それが嘘ではないと判断してくれたのか頷いた。

 

「三大能力値見せてもらうぞ。〈オール・クレアボヤンス〉」

 

じっと俺を見るブラフマー王に緊張から不自然に肩を上げ視線を泳がせていると、ブラフマー王は俺の三大能力値を見終わったのか椅子の背もたれに体を預け、なぜか唖然とした表情で俺を見ている。

 

「どうかしたんですか……?」

「いや、でもそんな事あるのか……?だがこれはそうじゃないと納得できねぇし……俺が知らないだけなのか?」

「あ、あの……ブラフマー王殿下?」

 

一人で自問自答し始めたブラフマー王に声をかけると彼はハッとしてため息を吐いた。何か不快にさせるような事をしてしまっただろうかと小さく謝ると、ブラフマー王は手を振り違うと俺に言う。

 

「自分の知識不足に呆れてただけだ。お前の三大能力値を見てある可能性が浮上した……つっても俺の予想に過ぎないがな」

「ある可能性……?」

 

ブラフマー王は少し前かがみに座りなおすと、俺の顔をしっかりと見つめる。何と言われるのか、俺は少し怖かったがそれでも聞くのをやめたりはしない。

 

「Lv5の魔法、アビリタは確かに運命に選ばれし王やその従者しか習得していないが、稀に才能あるものはそれを習得できることがある。だが……お前の能力は才能ってレベルじゃねぇ」

「と、言うと……」

「能力こそ運命に選ばれし王程に近いが……お前はその従者だった可能性がある」

 

しかしと俺が言おうとすると、ブラフマー王は分かってると一度目を閉じ何かを考えるそぶりを見せると目を開く。

 

「確かに、従者は主が死ぬと消滅する。だがお前は誰かに仕えるのが当たり前のように感じると言っていたし、歳も取らない。それにさっきのネックレスももしかしたら運命に選ばれし王から受けった物かもしれねぇ。あまりのも突飛な話だがな」

「俺が……従者?信じられない、そんなことが?でも──」

 

確かにそう言われると今までのもやもやが納得できる気がした。自分が運命に選ばれし王の従者、主が死んでも消滅しなかった……消滅できなかった哀れな存在。

そう思うと、胸が痛かった。もし敬愛する主が死んだのなら共に消えたかった。何故、のうのうと生き残ってしまったのだろう。

 

「悪いが俺は消滅しなかった従者については知らない。それに前例がないのかもしれない……だが、その顔を見ると俺の考えが当たってたのか?」

「そうなんだと思います。誰かに……そう、誰かにこの命を捧げると強い忠誠心を持っていた気がします」

「そうか。しかし……記憶が戻った訳じゃないのか」

 

ブラフマー王は再び考え始める。従者だったかもしれなと分かったのなら記憶の取り戻すのがもっと進みそうだと俺は期待と不安に大きく息を吐く。何の手掛かりもなくさまよっていたが、どんどんと進むべき道が見えてきた気がする。ブラフマー王は立ち上がるとついて来いとガゼボを離れどこかに歩き始めた。慌てて俺はついて行く。

 

「ヴィシュヌは15、ブラフマーは20、シヴァは37、総数……俺達を引くとして69人」

「これまでの運命に選ばれし王の数ですね」

「ああ。その69人の内の誰かの従者だった可能性があるなら、ピンとくるやつがいるだろう。俺が言うのもなんだが従者にとって主は何よりも大切な存在だからな」

 

そうだとして、これからどうするのだろうと思っているとブラフマー王はある部屋の前で止まるとにやりと笑った。

 

「69人分、あるだけの資料集めて全部確認するぞ」

 

図書室。そのこの大きな扉を開きだだっ広い室内を見て俺は苦笑いを浮かべた。

 

 

          …………

 

 

ブラフマー王は資料集めを司書と手伝ってくれて、膨大な量の羊皮紙や本の山を見て俺は何から手を付けていいのかわからなかった。ブラフマー王は椅子に座りながらただ俺が資料に手を付けるのを待っている。というのも、ブラフマー王が見ても実際記憶を取り戻すのは俺なので、彼がそれらを読んでも意味がないからだ。

 

「で、では始めます……」

「おう。何か手伝えることがあったら遠慮なく言ってくれ」

 

そう言うとブラフマー王は俺の邪魔にならないように少し離れた場所に座ると何かの本を読みだした。俺はとりあえずと一つの本を取り読み始める。

書かれているのは現ヴィシュヌ女王の一つ前の運命に選ばれし王、クリファス・ヴィシュヌ王についてだ。彼が運命に選ばれたのは32歳の時、王として生きたのは54年。ヴィシュヌの歴史から見ると早くに亡くなったらしい。

しかし国民からの人望は厚く、鎖国状態にあっても上手く立ち回ったのだとか。……じっくりと読んでいたが、これでは切りが無い。

次々と資料を手に取って読んでいくが、数時間経ってもどれもピンとくる人物は居らずに一向に減らない資料にため息を吐く。

 

「少し休憩挟むか。あんまり根を詰めても体に悪い」

「でも記憶を取り戻したいと願ったのは俺なので……」

「ごちゃごちゃ言うな、国王命令だ」

 

ブラフマー王は軽く笑いそう言って本を閉じるとぐっと伸びをした。彼の読んでいた本が気になりちらりと盗み見ると、運命に選ばれし王の従者についての本だった。何も言わずに彼も手伝ってくれていたのかと嬉しくなると、ブラフマー王は置いていくぞと言いながら図書室を出る。

 

「今度はどこに向かうんですか?」

「食堂」

 

そう短く返事をするとブラフマー王はすたすたと今までと違って早足で食堂へ向かう。恐らくさっき読んできた本を俺に見られ恥ずかしがっているのかもしれない。不器用な人なんだなと俺は気づかれないように小さく笑う。

食堂につくと適当に座り、ブラフマー王は料理長に何か作ってくれと頼むと俺に視線を向けた。

 

「そういや従者は食事の必要がないとか言ってたな。お前もそうなのか?」

「確かに……今まで空腹を感じたことがないです。眠くもなりませんし、疲れもしません」

「……お前それ不思議に思わなかったのか?」

 

呆れたようにそう言ったブラフマー王に俺はすみませんと笑う。それにブラフマー王も笑い返した。その笑顔に俺は温かい気持ちに包まれる。俺のまだ名の知らぬ主には悪いが、俺は……この人が俺の主だったらよかったのにと思った。

 

──そう、俺は心からそう思っていた。

 

 

          …………

 

 

軽く食事を済ませ、俺とブラフマー王は世間話で盛り上がるとあまり遅くなってもいけないと図書室に戻った。そこには相変わらずの大量の資料。それでも俺はため息などつかずに、やる気満々でそれに立ち向かった。ブラフマー王……アンディート様も従者についての本を読み続けてくれた。

暫くして、資料の五分の一ぐらいに目を通し終わった頃だろうか、俺はある名前を見てその名を口に出す。

 

「アイハルド・ヴィシュヌ……」

「見つかったか?ピンとくる名前」

 

アイハルド・ヴィシュヌ。イデアーレ王国12代目国王。齢20で運命に選ばれし王となり、その12年後死亡。召喚した従者はただ1人だったが、才を持ち全能な従者だと噂された。アイハルドは国民よりも従者のことを最優先に考え彼自身の評判は良くなかった。未だに死因は分かっておらず、暗殺されたと予想された。

 

「ああ……そうだ、俺の主……アイハルド様」

「記憶は戻りそうか?」

「その唯一の従者だった俺は、俺は……?フロスト、そう、フロストだ……」

「それがお前の名か」

 

よかったなと笑い俺の方に手を置いたアンディート様の手を俺は強く払った。彼の驚いた表情を見ながら俺は涙を流す。頭が痛い、こんな事をしたいわけではない。嗚呼、徐々に思い出す。俺の過去を、何を忘れていたかを──

 

「おい、どうした。気分が悪いのか?」

「あ、あぁ、駄目、駄目だ駄目だ……‼いやだ、いやだ……‼」

「フロス──」

 

彼の口から俺の名を聞きたくなくて、俺は椅子から立ち上がると机から零れ落ちた資料も無視して図書室から飛び出た。早く、早くここを離れなくては、そうでないと、そうしないと……‼

走って、必死に走って中庭に出ると空を見上げる。早く離れなくては──!!

 

「〈ヴォラー──」

「待て‼」

 

飛行魔法を使う前に、アンディート様が俺に追いつく。息を荒げながら立ち去ろうとする俺の腕を掴み、何故俺が逃げるのか分からず不思議そうにしている。

 

駄目だ、早く彼から離れなくては、気持ちが抑えられない。アンディート様は俺に何か話をかけているが、俺にはそれが聞こえないほどこの溢れる思いを押さえ続ける。でも駄目だ、我慢できない。

 

 

俺はマジカルボックスから片手剣を取り出すと、俺をつかむ手を斬り払うように剣を振った。

 

 

「──っ!?」

「あんまり触らないでください。じゃないと、俺、俺は──

 

 

あんたを殺したい気持ちが抑えられないじゃないですかぁ‼‼」

 

 

もう堪えるのはやめだ。俺はバックラーを取り出し左腕に装備して剣を構えた。

全て、全て思い出した。俺の過去、アイハルド様と過ごした時間、そして最後にされた命令──

 

「ア、アイハルド様は、アイハルド様はぁ……ブラフマー王に暗殺された‼俺は、は、敵わなくて、でも、それでも、ブラフマー王はころ、殺さなきゃ……‼」

「だがそれは俺じゃないだろ‼」

「『ブラフマーを絶対に許すな』そう、そういった、アイハルド様は‼だから、アイツじゃなくても、ブラフマー王は、ぜ、全員殺害対象…………そうだ、ブラフマー王はみな殺さなくてはならない。俺はお前を殺して、次のブラフマー王も殺す。ずっと、ずっと……」

 

ああそうだ。それが俺の役目だった。申し訳ございませんアイハルド様。愚かにもそれを忘れ、こいつと慣れあった俺をお許しください。しっかりと清算いたします。こいつを殺して。全てなかったことに──

 

「アンディート様に武器を向けるなど……身の程を知れ」

「──リヴェルダ、そいつに手を出すな」

 

ブラフマー王の従者だろうか、アズモンド王国の兵士の服をきた男が現れる。ソレに続き四人。やつの従者、プローヴァリーと言ったか……しかし関係ない。殺すのはブラフマー王で十分。あいつさえ殺せば、従者達も道連れに殺せる。

 

「落ち着けフロスト。ゆっくり話し合おう」 

「気安く俺の名を呼ぶなぁ‼」

「……しょうがねぇ」

 

ブラフマー王は体内から神器を取り出す。やっと戦う気になったか、しかし勝つのは俺の方だ。必ずアイハルド様の仇を取り命令通り殺して、殺しまくる。

ブラフマー王は何故か従者には俺に手を出さないようにと命令し、俺を最初と変わらない目つきの悪い顔で見ている。

 

「舐めるな……一対一で戦うつもりか?」

「ああ、ケジメってやつか?先代がやらかしたのならその尻拭いをしてやらねぇとな」

「ふざけるな、ふざけるなぁ‼」

「俺は真剣だ。お前の怒り……俺が受け止めてやる」

 

なら受け止て死ね。

俺は地を蹴りやつに接近すると剣を突き出す。しかし確実に当たると思ったスピードで放ったが彼は瞬間回避を使い避けたのだろう、俺の横に回ったやつの炎を纏った薙刀が俺に迫る。

それをバックラーで受け止めて分かった。この力量差、やつは俺の能力は運命に選ばれし王が程ではないと言っていたが、分かる。

 

──この戦い、勝てる。

 

俺が笑うとやつはそれが気に入らないのか薙刀で大振りに薙ぎ払う。それ大きく後ろに避けると一旦更に下がって距離を取る。どう殺してやろうか、従者が手出ししてこない今、やつらが戦闘に参加する前に仕留めたい。

 

「〈魔力強化Lv5〉〈アイシクル・カルヴィリー〉ッ!!」

 

幾つもの氷柱がやつの足元から突き出てそれを避けるため飛び上がったやつに氷柱を何本を放った。しかしそれは薙刀払われ、ヴォラーレを使い俺に向かってくる。

あまり接近戦は得意ではないので遠距離からの攻撃が望ましいが、仕方ないと攻撃能力向上を使うとやつを迎え撃つ。

 

「〈技力強化Lv3〉〈業火の斬撃〉!!」

「効かないなぁ!!」

 

炎の斬撃を剣で振り払うと、上段からの斬りつけを受け止める。刃が擦れる音が鳴りぐっと力を込めるとやつを少し押し戻す。

 

「〈マジカル・シールド〉〈ヘイル・エストレア〉ァ!!」

 

自らにシールドを張り、数百の雹が隕石のように俺達に降り注ぐ。しかし俺はシールドを張っているので無傷だがやつは防御が間に合わずその雹の雨に打たれる。

怯んだその隙を狙って素早く剣で切りつけ、俺は返り血を浴びた。

 

「──ぐっ!!」

「ほらほら、あんまり舐めてると死にますよ?」

 

顔についた返り血を拭い、再び斬り掛かる。それを弾かれ、また斬っては弾かれと攻防が続く中、俺は違和感を感じた。勝てるとは思ったが、弱い。弱過ぎるのだ。

1度手を休めると、やつを睨みつける。まさかこいつ──

 

「手加減をしているのか……!!」

「さあな」

「とことん舐めきって……本気で戦え!!」

 

屈辱的だ。手加減しているやつに調子に乗って攻撃を仕掛け、どうせ裏では俺のことを笑っていたに違いない。腹が立つ。それをぶつけるようにまた剣を振るう。気に入らない、気に入らない……!!

 

「〈パーゴス・オクターレ〉!!」

 

氷の塊を放つとそれがやつの体に触れた瞬間氷柱を飛び散らせながら破裂する。いくつかが体に刺さり血が流れるのも気にせず、やつは俺に向かって斬り掛かる。

それをバックラーで受け止めようと前に出すが、それはブラフで俺の腹に強烈な蹴りが叩き込まれる。

 

「がぁっ!!」

 

かなりのスピードで後ろに降ったんだ俺は何かにぶつかり止まる。俺がぶつかった事によって半壊したガゼボの瓦礫を見て、俺は立ち上がる。

 

 

『綺麗だろ、あそこにガゼボがある。そこで話そうか』

 

 

 

少し前までここで話していたやつと、今ではこうして戦っている。しかし、何も感じない。悲しくもないし、辛くもない。俺が感じるのはブラフマーに対する怒りだけ。だから、この胸の痛みも気のせいなんだ。

 

「戦ってる時にぼぉっとするじゃ、ねぇっ!!」

「──っ!!」

 

炎属性魔法が放たれ、瞬間回避で避けると俺が先程までいた場所が爆破する。ヴォラーレで飛びやつに向かって急降下し剣での刺突を試みる。

 

「〈ブレイジング・グレネード〉!!」

 

手の中に生成された炎の塊を俺に投げると、俺はそれを剣で払う──が、それが剣に触れた瞬間大爆発が起き俺の体を焼く。落下しながら見えたやつの顔は……何故か焦っている。

 

「(敵の心配なんて……!!)」

 

再びヴォラーレを使い地面に衝突することを避けて剣を構える。爆破の瞬間バックラーで少し防いだため軽傷で済んだが、無傷とはいかない。爆破の衝撃で、中庭は荒れている。

 

 

 

『庭師が中々の凝り性で、俺も、俺の従者達も気に入ってんだ』

 

 

 

うるさい…うるさい!!何故やつの言葉を思い出す。俺は……俺は使命を果たさなくてはいけないんだ。アイハルド様の意志を、俺が継ぎその志願を叶えなくては!!

俺は迷いを断ち切るようにやつに斬り掛かる。それを受け止めるやつの瞳は俺をまっすぐ見ている。

 

「くそぉっ!!!〈パーゴス・オクターレ〉!!」

 

それを見るのが嫌で俺は至近距離で魔法を発動させ弾け飛ぶ氷柱に自分が巻き込まれるも気にせずやつにくらわせる。お互いに傷だらけになりながらも、俺の方が優勢と言えるだろう。

 

「〈イグナイテッド〉!!」

「──っ」

 

薙刀から炎が放たれ俺は後ろに下がる。やつはやはり、その真っ直ぐな瞳で、真剣な顔で俺を見ている。それがどうしても気になり、俺を迷わせる。

 

 

 

『少し休憩はさむか。あんまり根を詰めても体に悪い』

 

 

 

こうして刃を交える度に思い出す。短い時間だったが不器用なりに気遣い時折優しい笑みを見せるやつを。ああ、この胸の痛みは気のせいじゃない。でも忘れなければ、全て、全て──!!

 

「や、めろ……やめろ!!その目で俺を見るなぁ!!」

 

自分が涙を流していることにさえ気づかずに、剣を振るい続ける。俺は、俺は結局何がしたかったんだ。俺の剣を、怒りを受け止め、傷つきながらも真剣に向き合う彼に……俺がしたい事はこんな事なのか?

 

「あ、ぁあ……ぁあ゛あぁ!!!!」

 

血を流す彼はもう薙刀で受け止めるのではなく、ただただ俺の攻撃を受けていた。それにが更に俺の怒りに火をつける。早く殺して楽になろう、早く。早く。

 

「この、おぉ!!!!」

「──くっ!!」

「〈キル・ウォーニング〉」

 

薙刀を弾きとばしその手から放させると手を突き出し、彼の急所に照準を合わせ剣を引いた。彼は防御魔法を唱えようとしているが俺のこのクアリタを避けられた者は居ない。彼の従者達が命令を無視して動き出すが、もう遅い。

 

「〈フォーカス〉〈リジェクト・インパクト〉」

 

向かってきた従者達を限定して衝撃波で吹き飛ばす。彼らは届かない。どんな手段を取ろうとももう俺には届かない。

終わる、全てが終わる。

 

やつは、それでもまっすぐ俺を見つめている。

 

何故、なんで、こんなにも俺に本気で向き合ってくれるこの人を殺さなくてはいけないのか。俺は……本当はどうしたいんだ?

 

いやだ、本当は嫌なんだ。だけど今更、剣を突き出してしまった俺はどうすればいい。

 

だれか、俺を止めて────

 

 

 

 

「〈クレイジー・キャノン〉ッ!!」

 

 

 

 

どかんっと大きな発砲音がなり、激痛が走る。今日はこんなに綺麗な空だったのかと宙を舞いながら他人事のように思い、勢いよく地面に叩きつけられた。

 

「────」

 

何が起こったのか理解できなかったが、誰かが……俺を止めてくれた。手に剣を持っていないことを確認すると俺は安堵から涙を流す。

アンディート様を殺さずにすんだ。さっき彼は自分が死ぬと理解して、それでも俺を憎むような顔もせず、悲しそうな顔もせず、最後まで俺の怒りを受け止めようとしてくれていた。

 

「ぅ…ぁ……ごめんな、さい……ごめんなさい……!!」

 

ただ怒りに任せて大切な人に剣を向けてしまった。あんな事をして、許されるはずがない。自分に向かってくる足音が聞こえ、俺は流れる涙を拭いながら謝り続ける。

カチャリと頭に何かが強く突き付けられ俺は閉じていた目を開けた。

俺を跨ぎ、銃を突きつける灰色の髪をした少年が俺を見下ろし睨みつけている。

 

「こいつ殺していいの?」

「やめろ……俺の、客だ……‼」

 

苦しそうなアンディート様の声が聞こえ視線をそこへ向けると、彼の腹部に俺の剣が突き刺さっている。確かに心臓は避けたが、完全に無傷ではなかった。

 

「いつから客に殺されるサービス始めたの?」

「つい、さっきだ。そんで……今やめた」

 

少年は茶化すように話しているが、俺に向けられる殺気からアンディート様がもし敵だと言えば俺はすぐに殺されていただろう。従者に治癒魔法をかけられながら剣を腹から引き抜いたアンディート様は口から血を流し、そんな重傷を負わされながらも俺に笑いかけた。

 

「心配すんな。腹貫かれるのは二回目だし、なにより一回目の方が断然痛かった」

「で、でも、俺……俺は、貴方を殺そうと、して……‼」

「まあ若干八つ当たりな所もあったが……俺も似たようなことしたことあるからお前を責める資格はねぇよ」

 

それを聞くと少年は笑いながら俺の上から退き、手に持っていた銃が体の中に吸い込まれた。そんなことが出来るのは運命に選ばれし王ぐらいだ。という事はこの少年は……シヴァの称号を持つ、ムームア・シヴァ王なのだろう。

 

「聞いてよ。アンディートの八つ当たりって相手が死んだ親友と目の色が似てたから、気に入らなかったって理由なんだよ。それで国滅ぼそうとしたの、面白くない?」

「……あながち間違ってるわけでもないからなんも言えねぇな」

「そんで返り討ちにあってお腹ぶっさされて、それが一回目ってわけ」

 

愉快そうに笑い「余計なことを言うなと」アンディート様に睨まれているシヴァ王は、俺に手を差し出す。困惑している俺に更にずいっと手を出され、その小さな手を取り立ち上がる。

シヴァ王は俺の状態を見てふーんと不満そうにすると、興味深そうに俺の体をぽんぽんと叩いた。

 

「さっきの技、ドラゴンの頭を消し飛ばすほどの威力はあったんだけどなぁ」

「お、俺……その、どうすれば……」

 

急な和やかな雰囲気にどうしていいのか戸惑っていると、アンディート様もシヴァ王も鼻で笑う。何か変なことを言っただろうかと謝ると、アンディート様は違うと一言言った。

 

「この流れでじゃあ死んでくれとはならんだろう。許すっつってんだよ」

「そーそー。……まあ従者たちは死ぬほどキレてるみたいだけど、そこはどうにかしなよ」

「あ、お前ら‼武器と殺意どっかにしまっとけ‼」

 

アンディート様の言葉にプローヴァリーは渋々武器をしまうが、俺に対する怒りは抑えきれないようだ。当然だ、俺も同じ立場ならそうなる。やはり死んで償った方がいいのだろうかと思っていると、それを見抜いたのかアンディート様は俺にデコピンをした。

 

「申し訳ないと思うなら何かしてもらうか。肩たたきとか」

「庶民の父親じゃないんだからもっとマシなこと頼みなよ‼」

「誰が父親だ」

 

本当に、本当にこの御方は許してくれるのか。アンディート様とシヴァ王のやり取りが面白くて、俺は笑う。楽しかった……ウェンビルさんに拾われ、ヴィシュヌ女王と出会って、アンディート様に優しくしてもらえて──

 

「ごめんなさい……俺、肩たたき出来そうにありません」

「──お前……なんで死にかけてんだよ……‼」

 

体が光り始め、徐々に消えていく。俺は記憶を取り戻したいという願いを叶えた。曖昧な存在が満たされた時どういう道を辿るかなど、どんなストーリーでも結末は一緒だ。

 

「俺は本気で……自分が貴方の従者だったらよかったのにって思っちゃいました。アイハルド様の従者失格です」

「じゃあ、ここに居たらいいじゃねぇか!!」

 

それは出来ないと首を横に振ると、アンディート様は一度辛そうな顔をしたあと大きく息を吐き笑みを浮かべた。悲しい顔で見送るのが嫌なのだろう、アンディート様は笑顔のまま俺を片腕で抱き寄せる。

 

「ありがとうございました。凄く、楽しかったです!!」

「ああ、俺もだ。……じゃあな、フロスト」

 

記憶のない日々は辛かったが、こうして俺の死を悲しんでくれる人に出会えた。俺は、それだけで十分だ。最初は逃げ出したいと思っていた彼のそばを、今は離れたくなかった。

 

だけど、最後は笑顔で。

 

 

「さようなら──‼」

 

 

マジカルボックスからある物を取り出しアンディート様の胸に押し付けると俺は空に消える。辛い、寂しい……だけど、誰かが俺を迎えに来てくれた気がして、俺は安心して目を閉じた。

 

 

 

          …………

 

 

「……見送るのは辛いな」

「運命に選ばれし王になったからにはこれから何度も経験するだろうね。……もしかして泣いてる?」

「泣いてねぇよ」

 

あいつも笑顔で逝ったんだ、俺に泣いて欲しいわけではないだろうとフロストが消えていった空を見る。ムームアはそれより俺が渡されたジュエリーボックスが気になるようでそれをじっと見ていた。

 

「それなに?」

「……教えねぇ、俺とあいつだけの秘密だ」

「何それ‼余計気になるんだけど‼」

 

俺はそれを取ろうするムームアに鼻で笑うとマジカルボックスに仕舞った。これを俺に託したのにも何か意味があるのだろうと、その意図は分からないがフロストに心の中で礼を言う。

 

「つーか、なんでお前ここに居るんだ?」

「……ちょっと疲れたから息抜きに散歩してたんだよ」

「分かったぞ。お前家出してきたな?」

「家出って、子供じゃないんだから‼」

 

隣国の城まで散歩しにくるやつがどこにいるんだと笑いながら、こいつが来なかったら死んでいたのは確実なのでスターシャに告げ口はしないでおく。従者達を通常勤務に戻すと、俺はムームアと歩き出す。

 

「それで、さっきの人誰だったの?」

「ああ、あいつはな──」

 

俺は話し出す。とある消滅できなかった記憶喪失の従者……友人の話を。

 

 

 





『俺に贈る鎮魂歌』1度あげたんですが矛盾点を発見してラストを書き直しました!!いやぁ、前のバージョンは自分でももやもやした終わり方にしたのでこうして書き直せて良かったです。

前のアナザーストーリーはレナータの話だったので、今回はアンディートのお話となります。彼は不器用なりに優しさのある人です、昔はちょっとやんちゃしてましたがね。
二部の話から一年経った頃のお話になります。少し落ち着いたあたりじゃないと色々問題の対処に忙しいんじゃないかと思って一年後にしました。でもまだ忙しいみたいで、レナータもすぐに退場しましたね。

フロストくん。アンディートが本気を出せなかったのと、相性のお陰で戦闘でかなり優勢に立つことが出来ました。あとは元々従者として優秀だったという所もあります。彼が途中で使った〈キル・ウォーニング〉は相手の急所を80%の確率で貫くことが出来る必殺の一撃を放てるというものです。

彼が持っていたマジカルアイテムの効果は次のムームアのお話で明かされます。次の話まで引き伸ばすというね……その割には「なんだその程度か」って思うものかもしれない……。

次回はムームアのお話です!!
ここまで読んで頂きありがとうございました!!
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