「あ~、もうっ‼」
広い執務室の椅子、そこには身長140程度の少年が座っている。その場には相応しくないと愚者は笑うだろうが、彼がどんな人物か知る者は彼こそがこの場に相応しいと言うだろう。
少年がだんっと机を叩くと、机に乗っていた資料が一瞬浮く。落ちなかったのはそれを予測してすぐに横に控えていた女性が抑えたからだが、少年はそれが気に入らなかったのか女性を睨む。
「スターシャ、その資料もう君がやって」
「お言葉ですがムームア様、『自分でやるから絶対止めるな、もし投げ出しそうになったらそれは止めろ』とご自身で仰ってからまだ24分しかたっておりません」
「ボクそんなこと言ってない」
スターシャはそれに何と言っていいのか迷った。昨日までの自分なら「そうでございますわね私の不出来な記憶力をお許しください」と聞いたことを無かったことにして、その国王が目を通しサインしなくてはならい重要な書類にムームアと全く同じ筆跡でサインしただろう。
「……言いました。確かにこの耳で聞き、記憶しております」
「む……」
ムームアはこのままスターシャが分かりましたと自分の作業をやってくれるものだと思っていた。立ち上がろうと浮かしていた腰を下ろし、スターシャをじろじろと観察する。スターシャは何でもないような顔をしているが、ムームアは一瞬泳いだ目を見逃さなかった。
「ティムルだな?」
「い、いえ……?」
「やっぱりか‼あのスパルタ執事長め、どうせ甘やかすなって言われたんだろ?」
スターシャが目をそらし何も言わないのを見てやはりかを確信する。ティムルは前王……ムームアの父の代から執事をしているベテランだ。どうも運命に選ばれし王はみな執事長に弱いらしい。弱いというか、逆らえないのだ。
「もう怒った。スターシャ、十秒目を瞑って」
「か、畏まりました……‼」
叩かれるとでも思ったのかぎゅっと目を瞑るスターシャを確認すると、ボクはため息を吐く。最近休みがない。確かにそれを望んだのは自分だが、それでも限度というものがあるだろう‼ボクはもう疲れました‼と、いう事で……
「〈テレポート〉」
ムームア・シヴァ十八歳、家出します。
…………
がやがやと騒がしい街を歩きながら、ボクは周りを興味津々に見ていた。いつもの格好にフード付きのマントを被っただけというお粗末な変装で、ディアストリク王国の都市の様子を見に来たのだ。自分の国が実際どう動いているのか自ら確認するのも大事だと、別に家出してきた訳ではなくこれは仕事なのだと何度も自分に言い訳をした。
「少しは治安はが良くなってきたのかな……」
「お、おい!泥棒〜!!俺のマジカルボックス返しやがれぇ!!」
言ったそばから。ボクはこちらに向かってくるしてやったり顔の泥棒男に足を引っ掛け転倒させると、手に持っているボックスを奪い取る。ボクの国で簡単に泥棒なんて千年早いぞ全く。
「〈リストレイント〉」
魔力でできたロープで瞬時に泥棒男を拘束すると騒ぎを聞き付けた警備兵に男を引き渡した。警備兵はボクに礼を言うとすぐに男を連行する。ちゃんと仕事をしているようでなにより。
「はい、これ」
「ありがとう……」
駆けてきたボックスを盗まれた人にそれを返すと、その人はボクをじろじろと見てくる。少し目立つことをしてしまったかと焦り、すぐにその場を去った。
泥棒男をとっ捕まえたせいで少し人の目を集めてしまい、すれ違いざまにボクを見る人が多い。しかし暫く歩き続ければそれを無くなり、ボクはほっとした。
「(でも、一人だけ付けて来てるな……)」
ずっとボクの後を着いてくる人物がいる。少し回り道をしたりして確認したが、相手は尾行を隠す気が無いのか単に下手なのか丸分かりだった。ならばと人気のない道へ進み、角を曲がった時に不可視化魔法を使う。行き止まりの道でボクがいなくなったことに焦る相手を見てボクはため息を吐いた。
「子供がなんの用?」
「ひぇっ!ど、何処にいるの……?」
どんなやつかと思えば少年がそこには立っていた。ボクは不可視化を解いて少年に姿を見せると、彼は目をきらきらと輝かせながらこちらを見ている。……嫌な予感。
「ねぇ、今のどうやったの⁉さっきの男の人を拘束した魔法ってLv3の魔法だよね⁉どうしてそんなに凄い魔法を──」
「はいはいストップ、質問は一回だけ。それ以上は受け付けないよ」
早く適当に誤魔化してまた街を見て回ろうとボクは少年にそう告げる。少年はこくりと頷きあれがいいかこれがいいかと考え、あまりの長さにボクは足をとんとんとしながら待つ。すると少年はちゃんと纏まったのかじゃあとゴクリと喉をならした。
「僕と友達になってくれない……?」
「………は?」
友達。少年はボクを真剣な眼差しで見ながら返事を待っている。正直言うとこんなよく知らない少年、それを見るからに庶民な彼と友達なるメリットないしそもそもボクは子供が好きではない。
「ボク子供嫌いだから嫌だ」
「子供嫌いって……君も僕と同じくらいの歳じゃないの?」
「君いくつ」
「十二歳」
確かにボクの肉体年齢は十二歳だ。運命に選ばれたのは六年前なので中身はもう十八、目の前の少年より六つも年上なのだがそれを説明するにはボクが運命に選ばれし王、不老の存在だと明かさなくてはならない。それは普通に面倒な事になる。
「ボク忙しいから、質問には答えたしもう行くね」
「え、ぇっ!ねぇ、もうちょっと魔法のこと聞かせてよ!!」
しつこい少年をどうしたら良いだろうかと彼に背を向け歩き出しながら考える。完全に無視するボクに負けじと話しかけながら隣を歩く少年は、本当に何処までも着いてきそうだ。テレポートでどっかに飛んで巻けばいいかもしれないが、あまり噂になるようなことはもう避けたい。つまり、お手上げだ。
「分かった、分かったから……じゃあ君がボクの友達相応しいか証明してよ」
「証明……どうやればいいの?」
「そうだなぁ、この国の事聞かせて。あとは街の案内とか。ボクはこの国来るの初めてなんだ……協力してくれる?」
それを聞き少年はブンブンと首を縦に振り頷くと嬉しそうに先導して歩く。平民の視点からこの国がどう見えるのか、子供なのが残念だが聞いておくのは悪いことではないだろうと少年の後をついて行く。少年は歩きながらまず何から教えようかと周りを見渡している。
「そう言えば名前言ってなかった、僕はフルト!!君は?」
「……ミエール」
適当に偽名を名乗るといい名前だねと少年、フルトは嬉しそうに笑う。
「何か聞きたい事とかある?」
「うーん。じゃあこの国の王ってどんな人?」
フルトは腕を組み考え込むと、暫く固まる。そんな悩むほどの質問だったかと返事を待っているとそうだなぁと彼は城がある方角に視線を向ける。
「実は僕あんまり知らないんだよね。丁度僕らと同じくらいの子供が即位したって聞いたけど、僕は最初の声明の時寝坊しちゃって聞きに行けなかったから……」
「そうなんだ。……何だか子供が王様なんて心配だね」
「そんな事ないよ!!」
笑いながら言ったボクにフルトは大きな声で否定すると、ハッとして小さく謝った。何故そんな全力で否定するのだろうと疑問に思いながら、フルトをじっと見つめる。
「……先代のアルヴァ王様から今のムームア王様に変わって、僕らの生活がいい方向に変わってきたんだ。僕のお父さんもお母さんもムームア王様の方が好きだって言ってたし、僕もそう思う」
「……へぇ」
「それにね!子供の運命に選ばれし王なんて、そのー、なんかカッコイイじゃん!」
格好良いだけでは王は務まらないんだけどねと心の中で言うと、ボクの行動が少しは国に良い影響を及ぼしているのが確認できて、それだけで収穫があったと言えるだろう。フルトはボクの手を引き色々なところを案内した、お気に入りのおもちゃ屋さんやお菓子屋さん、両親がよく連れて行く服屋、そして……
「ここが僕の家!」
「なるほど、じゃあボク帰るね」
「ちょ、ちょっと待って!ちゃんとおもてなしするから!」
家に行くなど親しくなり過ぎるのはNGだ。あんまり印象に残って後々正体がバレた時問題が起こるかもしれない。自分は運命に選ばれし王の友人なんだと自慢でもされようものならフルトの評価がこっちにまで関わってくる。
しかしフルトの必死の引き止めと、捨てられた子犬のような潤んだ瞳にボクは渋々頷き彼の家にお招きされた。
「今日お父さんもお母さんも居ないんだ。少し遠くで仕入れたマジカルアイテムを売ってて、遅くまで帰らないって」
「へぇ、マジカルアイテムね」
「たまーにLv3の魔法が篭ったクリスタルも売るんだ、凄いでしょ!」
彼は魔法が好きなようだ。ふんすと自信満々に胸を張った彼にボクは適当にそうだねと返事をすると、通されたリビングのテーブルにつく。フルトは台座に上りキッチンで何かをいじると、ボクの前にティーカップを置いた。
「はい、ミルクティー。お菓子も食べる?」
「いい、お腹空いてないから」
結構裕福な家庭らしい。少し高めの茶葉を使っただろうミルクティーを1口飲むと部屋を見渡す。裕福と言っても貴族ほどではない、マジカルアイテムでの儲けはそこそこなのだろうか。ちょっと奮発しましたとでも言うかのような高価な絵画が、部屋の雰囲気から少し浮いているのが気になるぐらいで特に面白みもない。
「ねぇ、ミエールの話も聞かせてよ」
「……ああ、うん」
一瞬誰のことだと思ったがそう言えば自分でそう名乗ったのだったと思い出し、咄嗟に頷いてしまった。しかしボクの話など何を話せばいいのかと考えていると、フルトはボクの向かいの椅子に座ると前のめりになる。
「さっきみたいな上位の魔法、どうやって習得したの?」
「あれね……クリスタルを使ったんだ。ボク自身は習得してないよ」
見え透いた嘘にフルトは不満そうにしている。そこは話したくないようだと察して話題を変えてくれたら嬉しかったのだが、少年の好奇心というのは止まらないものだ。目を細めボクをじっと見る彼に、ボクはため息を吐く。
「勉強。才能が関係してくるアビリタと違って魔法は本人の努力次第でどうにかなるってボクは思うよ」
「誰かに習ったりした?」
「いいや、誰にも。独学で習得したものだ」
まぁ少しは才能もあったかもしれないと幼いながら伝説級と言われるLv5の魔法を独学で習得した自分は凄いなと実感したボクは、再び目を輝かせたフルトから視線を離しミルクティーを飲む。
「ミエールみたいな子がいて両親はさぞ鼻が高いだろうね!羨ましいなぁ……」
「君だって時間はかかるかもしれないけど、努力すれば上位の魔法を使えるかもしれない。自分で可能性を狭めてはいけないよ」
「そ、そうだよね!ボクも頑張ってみるよ!」
一瞬悲しそうな顔をした事に少し気になったがそこまで深くは考えずに、意気込むフルトを見ながら自分の首にかかる懐中時計に軽く触れる。
両親はボクのことを自慢に思っていただろうか。父の方は無いとしても母が生きていたのならそう思ってくれたかもしれない。兄とも関係が拗れなければ今頃は自慢の弟だったかもしれない。しかしボクはみんな無くしてしまった。
「ミエール?どうかした?」
「いや、何でもない」
思い耽り黙ったボクを心配そうに見たフルトにそう返すと、ボクはミルクティーを飲み終えた。おかわりをするか聞いてきた彼に首を横に振り断ると、ふうっと息を吐いた。
「ねえ、僕がミエールの友達として相応しいか証明できた?」
「……及第点ってとこかな」
「やったぁ‼これで僕ら友達だね‼」
椅子から降りてぴょんぴょんと跳ねるフルトは肘をテーブルにぶつけ悶えている。僕がそれを見て笑うと、彼も笑う。その時、ノックの音が聞こえた。
ボクはフルトと顔を見合わせ、フルトは玄関に近づくと扉をゆっくりと開けた。
「こんにちは、突然申し訳ございません。こちらに私の息子がお邪魔しておりませんか?」
「息子?もしかしてミエールの事ですか?」
「……ええ、そうです」
ボクは壁に隠れながら焦っていた。見た目は違うがあの声はルナティスだ。何より彼が手に持っている運命に選ばれし王を探すためのコンパスがそうだと物語っている。昔のように隠しておけばよかったとため息を吐きながらボクは隠れるのをやめ、おとなしくフルトの隣に並ぶ。
「探したぞミエール。さあ、家に帰ろう」
「……嫌だって言ったら?」
いくら演技をしようと中身はルナティス、もしボクが本気で嫌だと言えばそれは命令だと受け取り撤退するだろう。実際困った顔をしている。
フルトはボクの顔を見ると背を軽くたたき、にこっと笑った。
「もしよかったら明日も来てよ、僕待ってるから」
「……分かった。今日は帰るね」
ボクはフルトに見えないようにルナティスをぎろっと睨んだあと、手を振るフルトに見送られながら彼の家を後にした。暫く歩き二人で人気のないところに行くとテレポートで城に戻る。
「で、誰が誰の父親だって?」
「申し訳ございません、それが適役だと思いまして。それに貴方様の父親面をする機会などもう二度とないかもしれませんから」
元の姿に戻り、はははっと笑うルナティスのわき腹をどつきながらボクは執務室向かって歩く。全く、少しの休みも与えれれないのかとぶつぶつ文句を言い執務室に入ると、そこには執事長のティムルが笑みを湛え待っていた。
「ムームア様、少々お話が」
怒りのオーラが見える気がするティムルに苦笑いを浮かべ、後ろでぱたんと扉の閉まる音が聞こえボクは覚悟を決めた。
────
そこからは忙しかった。ティムルのいつにも増してスパルタなレッスンに、国王としての仕事、少しサボっていた分の皺寄せが来たのだ。前王の時は兵器の売買で繋がっていた国とは現在険悪な関係。それもそうだ、ボクが即位した数日後突然乗り込んで「君らの国とは縁を切ります」と一言告げて喧嘩を売ったのだ。
「あの頃は若かったなぁ……」
いくら父親のやり方が嫌いだったとしても、もっとやりようはあっただろうと昔の自分に呆れながら書類に判を押していく。
そもそも、ボクは自覚はなかったがずっといい子を演じてきた。そのせいで来なかった反抗期とやらが父が死に、兄に裏切られたあの日から来たのだろうとため息を吐きまた判を押す。
反抗期ならば人は誰しも来るものだから、ちょっと調子に乗ってもボクのせいではないのではと頷き再び判を──
「恐れながらムームア様」
「何?」
「同じ場所に何度も判を押されていますが、そのままでは真っ赤になってしまうかと」
ボクの手元を見ると確かに何度も判が押されている紙がある。上の空のまま仕事をするとこういう事になるのはもう何度も経験した。幸いこれはスターシャが出した法案の記してある用紙なので何の問題もない。また書き直させればいい。
「ちょっと10分ぐらい休憩させて。ミルクティーが飲みたい」
「ではメイドを──」
「君が作ってきて」
畏まりましたと深々と頭を下げた後、スターシャは扉から出ていく。確かにメイドの入れた紅茶も美味しいが、彼女の物は格別だ。
しかし、従者二人はよくボクに従う気になるなと先程まで彼女がいた場所に視線を向ける。その気になれば自らは一切の手も出さずに国一つ潰せるだけの知恵を持つスターシャに、一人でも物理でそれが出来るルナティス。彼らは自他共に認める優秀な従者だ。
「は~憂鬱。いつ見捨てられるんだろ」
そんな事直接二人に言えば大変なことになるだろうなと憂鬱な気持ちを消し去るように笑い、そして思い出す。
「ミルクティーといえば……フルトは何してるかな」
明日来ると言ったのが丁度一か月前だ。あれから多忙になり忘れていたが約束を破ってしまったことに罪悪感を感じる。そもそも容易く来れないことは分かっていたのだから、できない約束など最初からすべきではなかったと椅子から降りる。
「また叱られるんだろうなぁ……〈テレポート〉」
今は運命に選ばれし王ではなく、ただの一人の少年として誰かと話したかった。あれだけ疎ましく思っていたフルトにわざわざ会いに行く日が来るなんてとマントを羽織り、城の裏口から出ると街に向かった。
「急に来たらびっくりするだろうな」
自分が笑っているのに気づき、誰も見ていないのに咳ばらいをすると真顔に戻る。別に楽しみにしているわけではない。ただボクが運命に選ばれし王だと知らない知り合いが彼しかいないだけだと言い訳しながら、あの日の道順を思い出しながら彼の家の前につく。
あの日と変わらないフルトの家がそこにはある。彼の両親はボクの顔を知っているかもしれないとフードを深く被りなおすとノックをする。暫くして、一人の女性が出てきた。フルトは母親に似たのかとその女性を見て思うと、女性は急にボクに抱き着いた。
「ちょっ、何して──」
「フルト‼帰ってきてくれたのね‼」
「は?」
ボクが突き飛ばさない程度に女性を押し返すと、彼女はフードで陰るボクの顔を見てフルトではないと知ると落胆した様子を見せる。人の顔を見てその反応は失礼だろうとムッとするが女性の顔をよく見ると痩せこけ隈も酷い、体調でも悪いのか。女性は急に泣き出し奥から出てきた男性、恐らくフルトの父親が彼女を宥めている。
「ボク、フルトの友達のミエールって言います。約束をしていたので会いに来たんですけど……」
「──そ、うか……君がミエール君か……」
男性はボクを見て表情を曇らせる。何があったのだろう、二人の様子を見てボクはだんだんと不安に──
「フルトは……天国に行ってしまったんだ」
一瞬、ボクは彼がなんと言っているのか理解できなかった。
いや、雰囲気の暗い家の前に立った時から、ボクは何となくわかっていた気がする。あれ程元気だった彼が死んだと、言われる気がしていたのだ。嫌な予感と言うのか、胸騒ぎがしたというのかよく分からない。でも、それでも彼が死んだという実感は湧かなかった。
男性はボクを家の中に入れるとフルトと同じようにミルクティーを出してくれた。女性、フルトの母親は寝室に連れられ、彼女はまだフルトが死んだという事を信じきれていないらしい。
「フルトは病を患っていてな……医者は90%成功すると言った手術が、上手くいかなくて……」
「ボ、ボクにはそんな事一言も……!」
「もし聞いていたら、君は知る前と同じ態度が取れたか?」
それを聞いてボクは黙り込む。フルトは自分が病気だからと周りから哀れまれ、腫れ物のように扱われるのが嫌だったのだろう。ボクももし彼が病気で手術を控えていると知っていたら、今とは違う態度をとったかもしれない。
そうか、ボクが時間をかければ上位の魔法を習得出来るかもしれないと言った時悲しい顔をしたのは、彼にはもう時間が無い可能性があったからだったんだ。
「フルトは、君に会うのを楽しみにしていたよ。凄い友達が出来たんだって散々自慢しきてな……」
「ごめんなさい、ボク……」
「こちらこそ済まないな、少し……俺達も受け入れられなくて、辛くて……」
俯き目元を強く押えた男性は、深呼吸をしたあと顔を上げボクに悲しげな笑顔を見せる。
「良かったらフルトに会いに行ってやってくれないか?」
そう言い男性はフルトのお墓がある場所をボクに伝える。ボクは前と違う味のするミルクティーを飲み終えると、フルトの父親に頭を下げ家を出ていく。
フルトのお墓の前につくまで、ボクは抜け殻のようだった。フルトと過ごした短い時間を思い出しながら、ボクはぼんやりと歩き続けて、そしてお墓の前につく。
「そうか……君は死んだのか」
お墓に刻まれた彼の名を見て、やっと涙が出る。
ああ、そうか、本当に居ないんだ。
もっとやってあげられるとこがあったんじゃないか。言ってあげられることがあったんじゃないか。今更考える。あれや、これや、もう出来ないことばかり。
「ほ、ほんとは、君の病……治せる、方法があったん、だよ。少し前、までね」
ははっと笑いながら、泣きながら、そうお墓に……フルトに話しかける。ファタリタであれば治せただろう、しかし今のボクに病を治す手段はないし、フルトはもう居ない。
「ボクの方が、君の友人には相応しくなかったよ……」
君からの返事が欲しい。でもそれはもう聞けない。
ボクは踵を返すと歩き出す。前に、前に進まなくては。彼の分まで。
気づいたら僕の前にはルナティスが立ってて、ボクはゆっくりと彼の傍に近づく。ルナティスは何も言わない、いつも通りの微笑みではなく珍しい真剣な顔でままボクを待っていた。
「また勝手に飛び出して、今度はティムルになんでどやされるか今から憂鬱だよ」
「……申し訳ございません」
「なんでお前が謝るんだ」
ルナティスは再び謝った。
彼は何も悪くない、悪いのは、ボクの方だ。謝るのはボクの方なんだ──!
「ボクは、どうすればよかったんだ⁉」
「そのままで良かったのです」
「そんな事ない!もっと何か、なにか出来たはず……!!」
ボクはルナティスの上着を掴みながら彼に怒鳴る。何も悪くないルナティスに何度も怒鳴り、叩き、そしてボクはしゃがみ込んだ。ルナティスは屈んでボクを抱きしめ、体を優しく撫でた。その温かさに涙が余計に止まらなくて、ボクは泣き疲れてルナティスに寄りかかったまま寝てしまった。
…………
目が覚めて、いつの間にか寝室のベッドで横になっていた。やっぱり一番にフルトの事を考えた。さっきよりも落ち着いたが何かを失ったという気持ちが胸を締付ける。ボクは暫く天井を見つめながら、何も考えずに横になっていた。暫くしてノックの音が聞こえ返事をすると、失礼しますとスターシャが入ってくる。
「ご気分はいかがですか?」
「……最悪だよ」
ボクは体を起こし、額に手を当てながらため息を吐く。頭が痛いし喉も乾いた。サイドテーブルに置いているピッチャーの水をコップの満杯まで入れると一気に飲んだ。まだ頭がぼんやりとして、ボクはまだ横になっていた方がいいと言うスターシャを無視してベッドから降りる。
「何かしていたい」
「……畏まりました。すぐにスケジュールを調整致します」
それからフルトの事を考えないようにわざと忙しくして、それでも寝る前は思い出してしまい寝れない日々が続く。ボクのせいじゃないのかとどんどんマイナス思考になっていって、こんなに人の死に囚われたのは初めてだと毎日悩んだ。
わざと仕事を入れたくせに上の空、また同じ資料に何度も判を押すとスターシャに指摘される。
「ムームア様、少しお休みになられた方が……」
「そうだなぁ……じゃあミルクティー入れてきて」
そう言って執務室から出ていったスターシャを見て少し経つとボクはテレポートで外に出る。運命に選ばれし王を探すためのコンパスはティムルがレッスン中一瞬気を抜いた時に奪ってやったので今度はボクを探すことは困難になるだろう。
全くボクは何度家出をすれば気が済むのか、自分に呆れながら街を歩く。マント一つで国王が街を堂々と歩いても気づかれないなんて、街の人々は鈍感にも程があると行くあてもなく歩き続けた。
「……暇だ」
今日は平和だ。とてもいい事だが気がまぎれるわけではない。どうしようかと考えていると、ふとある人物が脳内に浮かび上がった。
「レナータとアンディート、何してるかな」
二人とも自分と同じ身分、共感する出来る事もなかなか多いのでたまに国王として話すのではなく関係ない話もメサージュでしたりする。
もしかしたら、今の僕のもやもやも解決してくれるかもしれないとまずはキーパーソンのリーダーであるサージェに連絡を取る。
「ムームアだけど、今レナータは城にいる?」
『申し訳ございません、只今外出中でございます。急用であれば直ちにご連絡いたしますが』
「あーいいよ、暇だったら話したかったってだけだから。これは伝えなくていいからね」
『畏まりました。では失礼いたします』
相変わらず従者というのは硬いなとメサージュの切れた音を聞きながら今度はリヴェルダにメサージュを飛ばす。しかし、何故か切られた。国王直々の連絡を何の断りもなしに切るのは珍しいと思いながら、もしかしたら忙しいのかもしれないと納得する。
「でもやっぱりおかしいよな……」
前にもアンディートが忙しい時リヴェルダに連絡をしたが、サージェのように断りを入れたぞと不審に思う。なんだか嫌な予感がする。今までのボクなら無視したかもしれない、でも今のボクは──
「様子を見に行こう……‼」
何かあってからでは遅いと痛感したばかりのボクは人気のない場所へ向かうとマントを脱ぎ去りヴォラーレで空に飛びあがる。全速力で飛ばせばアズモンド王国の城まで十分もかからない。魔力の急激な消耗と脈の速さで気分が悪い。でも少しでも速度を落とすのは駄目な気がした。
「これで優雅にお茶でも飲んでたら八つ当たりしてやる‼」
勿論その方がいいのだがとやっとアズモンド王国の領域に入り、城まで猛スピードで飛行する。すると何故か戦闘音が聞こえ、その音の発生源……多分中庭だろうと予想してそこに向かった。
そこにはアンディートとプローヴァリー、そして見たことのない青年がいる。問題はその青年とアンディートが戦っていて、まさに決着が着きそうなところだ。青年はアンディートの心臓に向けて剣を突き、プローヴァリーは魔法で吹き飛ばされ動けない状態にある。
──今ボクが動かないと、アンディートは死ぬ。
「〈クレイジー・キャノン〉ッ‼」
神器を取り出し、何もない空間から大砲を出すまでの数秒は心臓が止まったのではないかと思うほど苦しかった。どかんっと大きな発砲音がなり、青年が宙を舞い戦闘で荒れ果てた中庭の中央に落ちるのを見てボクは彼の傍に降りた。
泣きながら謝っている青年にボクは苛立つ。彼の体を跨ぐと頭に銃を突きつけ今すぐにでも発砲したい気持ちを抑えた。
「こいつ殺していいの?」
「やめろ……俺の、客だ……‼」
「いつから客に殺されるサービス始めたの?」
「つい、さっきだ。そんで……今やめた」
アンディートの腹部には避けきれなかった青年の剣が突き刺さっていて、それでも青年に対して敵意がないのを確認すると青年から銃を離し、治癒魔法をかけられながら剣を抜くアンディートを見ながら自分の胸騒ぎを信じてここまで来て正解だったと安心する。
「心配すんな。腹貫かれるのは二回目だし、なにより一回目の方が断然痛かった」
「で、でも、俺……俺は、貴方を殺そうと、して……‼」
「まあ若干八つ当たりな所もあったが……俺も似たようなことしたことあるからお前を責める資格はねぇよ」
アンディートは笑いながら青年と話しているが、こっちは肝が冷えたんだぞと思いながら呆れて笑い神器を体内に収める。青年はそれを見て驚いた様子を見せたが、アンディートの知り合いならば正体を明かしても問題はない。
「聞いてよ。アンディートの八つ当たりって相手が死んだ親友と目の色が似てたから、気に入らなかったって理由なんだよ。それで国滅ぼそうとしたの、面白くない?」
「……あながち間違ってるわけでもないからなんも言えねぇな」
「そんで返り討ちにあってお腹ぶっさされて、それが一回目ってわけ」
トリムルティの宝で記憶共有をしたのでアンディートの一回目に腹部を突き刺された理由は知っている。全く彼の言う通りとんでもない八つ当たりだ。余計なことを言うなと睨まれたがボクに心配かけたのだ、少しは仕返しをしてもいいだろう。
まだびくびくと震えている青年にボクは手を差し伸べる。困惑している彼に構わずさらに手を突き出すと青年はボクの手を取ったので立ち上がらせた。
「さっきの技、ドラゴンの頭を消し飛ばすほどの威力はあったんだけどなぁ」
「お、俺……その、どうすれば……」
ボクの使う魔法の中でも威力の強いものをくらったのにも関わらず、致命傷にはならなったのを若干不満に思いながら彼の体をぽんぽんと叩いた後、青年の言葉にボクは鼻で笑った。
「この流れでじゃあ死んでくれとはならんだろう。許すっつってんだよ」
「そーそー。……まあ従者たちは死ぬほどキレてるみたいだけど、そこはどうにかしなよ」
「あ、お前ら‼武器と殺意どっかにしまっとけ‼」
さっきから青年の事を殺す気満々でアンディートの指示を待っていたプローヴァリーは渋々といった様子で武器を収めている。まあ腹が立つ気持ちはボクも同じだが、アンディート自身が許すと言っているのだ。そうするしかないのだろう。
青年は泣きそうな顔をしながら何かを考えているようで、そんな彼にアンディートはデコピンをした。
「申し訳ないと思うなら何かしてもらうか。肩たたきとか」
「庶民の父親じゃないんだからもっとマシなこと頼みなよ‼」
「誰が父親だ」
確かにアンディートはいいお父さんになるだろうろ思うが、親友への思いの拗らせ方を見る限りもう婚期は逃したのではないかと思う。アンディートをからかっていると青年は笑いだし、そして辛そうな顔をした。
「ごめんなさい……俺、肩たたき出来そうにありません」
「──お前……なんで死にかけてんだよ……‼」
体が光り始めた青年を見て、これは従者の消滅と同じ現象だと不思議に思いながらアンディートと青年の傍から離れ二人の別れを見届ける。
青年は最後は幸せそうに笑っていた。何があったのかは知らないが、誰かが見届けてくれるのは幸せなのだろうとボクはフルトのことを考えた。
「……見送るのは辛いな」
空を見上げたままのアンディートの傍に行くと、彼はぽつりとそう零した。ボクは……見送ることさえできなかった。
「運命に選ばれし王になったからにはこれから何度も経験するだろうね」
不老の存在。そうなったのなら大切な人の死を見届ける事しか出来ないのだ。確かに不老というのは便利かもしれないが、その分つらい事もある。アンディートが眉間にしわを寄せるのを見て、ボクは彼の顔をじっと見る
「……もしかして泣いてる?」
「泣いてねぇよ」
はぁと大きく息を吐いたアンディートは最期に青年が渡したジュエリーボックスを強く握った。何かのマジカルアイテムだろうかとそれをじっと見つめる。
「それなに?」
「……教えねぇ、俺とあいつだけの秘密だ」
「何それ‼余計気になるんだけど‼」
アンディートの手からそれを取ろうとすると、彼はひらりとかわしてマジカルボックスに仕舞う。二人だけの秘密なんて、女子じゃないんだから教えてくれたっていいのに。まあアンディートを助けることが出来たので良しとするかとボクは気なるけど今はそれ以上聞かないことにした。
「つーか、なんでお前ここに居るんだ?」
「……ちょっと疲れたから息抜きに散歩してたんだよ」
「分かったぞ。お前家出してきたな?」
「家出って、子供じゃないんだから‼」
まあ家出といっても間違いではないが、アンディートが心配になり見に来たと素直には言えなかった。だってなんだか恥ずかしいし。アンディートは従者達を通常勤務に戻すと、どこかへ歩き出したのでついて行った。さっきの青年の詳細を聞きださなくてはいけない。
「それで、さっきの人誰だったの?」
「ああ、あいつはな──」
…………
「ふーん、消滅しなかった従者……言わばはぐれ従者だね‼」
「お前ネーミングセンスねぇな」
ぴったりだと思ったんだけどなと不満に思っていると、アンディートはそれでとソファーにもたれ掛かりながらボクをじっと見る。なんだとボクが黙ったまま見つめ返すと、アンディートは大きくため息を吐いた。
「なんかあったんだろ?俺だけに話させて自分は何もって言うのは無しだ」
「なんかって……まあ、少しね」
確かにそれを、フルトの事を話しに来たのだがいざ話すとなるとどうにも言葉が出ない。ボクは人に弱いところを見せるのが好きではない、情けない姿を見せたくないのだ。しかしアンディートは急かすことなくボクが話し出すのを待ってくれている。
「……友達が、死んじゃって。病気だったんだけど、ボクは何も知らなくて冷たい態度をとったままで、お別れも言えなかった。会う約束もしてたのにそれも忘れてて、思い出して彼の家に向かった時にはもう……」
「……そうか」
「なんかもっと出来る事があったんじゃないかって、思うんだ。だけど……彼はもういない」
ボクは俯いた。アンディートの真剣な表情を見ているとその優しさに泣き出しそうだったからだ。ズボンを強く握りながら、ボクはぐっと涙を堪え黙り込んだ。
「確かに死んだやつは戻ってこねぇ。そいつが最後まで思っていたお前に対する印象は約束を守ってくれなかった冷たい友達だったかもしれない」
「……そう、だよね」
「だが、俺は死んだやつってのは、死後俺達の事見守っててくれてるんじゃねぇかって思ってる。だからお前がこうしてそいつの死を嘆き、そして何もしてやれなかったって後悔してるの見たらそいつも悲しいんじゃないか?」
ボクの今の姿を見たらフルトは何て言うのだろうか。優しい彼のことだ、ボクを責めたりはしないだろう。それどころかもしかしたら笑わせようとしてくれるかもしれない。ボクの太ももに涙が落ちる。
「死者の言葉は聞けない。だからそいつが何を思ったか、残されたものは勝手に想像して生きていくしかないんだ。すぐに受け入れて立ち直れなんて酷なことは言わねぇよ。こういうのは時間が解決してくれるからな」
あれだけ心の中を支配していた靄のようなものが、少し晴れた気がした。ずっと吐き出せなかった弱音を吐き、悪循環にはまっていたボクの気持ちはアンディートの言葉を聞きそれから抜け出せた。ボクの隣に座りハンカチを渡したアンディートに小さくお礼を言い、彼はポロポロと涙を零すボクが落ち着くまで何も言わずただ傍にいてくれた。
「もう、大丈夫」
「そうか。お前はなぁ、あんまり一人でどうにかしようとすんなよ」
「だって……」
「記憶共有したからお前がどう生きてきたのかは分かるが、今は俺もいるし、レナータだってバカそうに見えて意外と考えてるからな」
向かいのソファーに戻ったアンディートを見ながらレナータのことを考える。確かにレナータは一見バカそうだが人生経験は豊富だ、迷ったとき良いアドバイスをくれるだろう。弱虫で精神はもろいが。
昔は確かにだれも信用できなかったが、今は頼れる人がいる。それだけで幸せなのかもしれない。
「でもこうやって会いに来たんだ、お前にしては頑張ったじゃないか」
「上から目線で言うのやめてよ‼」
「年上なんだから少しは兄貴面してもバチはあたんねぇだろ」
「……父親面の間違いじゃない?」
彼ももう29歳だ。十分おじさんに近いだろうと茶化すとアンディートは本気で嫌そうな顔をした。レナータもそうだが、二十代後半になると何か焦りのようなものを感じるらしい。ボクにはまだ分からないが、素直に誕生日が祝えなくなるんだとか。
「不老なんだからさぁ、これから油断しなきゃ数百年、下手したら数千年生きれるかもしれないんだよ?今の年齢なんて赤ん坊みたいなもんじゃん」
「百超えたら諦めつくかもしれねぇが……いいさ、お前もいつか分かる時が来る」
不敵に笑うアンディートを見てぞっとする。ボクは話題を変えようと色々考えたあとやっぱり気になるとさっきのジュエリーボックスの事を聞いた。アンディートは教えないと首を横に振るが、ボクには分かる……あと一押しぐらいでいけるな。
「分かった、何かボクもその秘密に見合うだけの話をするから」
「これに見合うほどか。無理だろうな」
「……へぇ、それだけ希少なものなんだ」
じっと見つめると、アンディートは眉間に皺を寄せた後ため息を吐いた。そしてマジカルボックスからジュエリーボックスを取り出しテーブルに置く。ボクがそれに触れようとすると、焦った様子で止められる。
「トラップ系も仕掛けたから下手したらLv4の攻撃魔法が……」
「ちょっと‼最初にそう言うの言ってよ‼」
危ないじゃんと怒鳴るとアンディートは軽く笑いながら謝る。まったく、笑い事ではない。しかしなんの変哲もないジュエリーボックスだ。中にはサイズ的にネックレスが入っているのだろう。
「〈技力強化Lv5〉〈空間施錠〉〈サイレント・スパーツィオ〉あとは……」
「え、そんなにやばい物なのこれ」
「〈反撃体制〉〈地獄耳〉、まあ城の中だしこんなもんか」
アンディートがある程度魔法とアビリタをこの部屋や自身にかけると、はあっと息を吐く。このマジカルアイテムの情報が知れ渡ればまずいのだとそのアンディートの警戒する様子で誰でもわかる。
「このジュエリーボックス自体にも盗難防止がされてるから正直開けるのは手間だ。だから効果だけ話す」
「う、うん……どうぞ」
「見た目はありふれた少し高そうなネックレスだったんだが、それにとんでもねぇ魔法が込められた」
ボクがごくりと喉を鳴らすと、アンディートはジュエリーボックスをこつこつと指先でつつく。さっき自分で触るなとか言ってなかったかと思ったが術者である彼には発動しないのだろう。
「〈ベネティクション・リヴァイバル〉……死者蘇生魔法だ」
「死者蘇生!?そんな魔法がこの世にあるの!?」
「聞け、まだ話は終わってない。ただの死者蘇生じゃねえ、死者の致命傷を回復させ心臓を再び動かすんじゃなくそいつが死んだという事実を無くす、いわば時間操作に近い」
死者蘇生、時間操作は神しか使えない。それが人の手に渡るとなれば奪い合いで戦争すら起こりかねない、誰もが喉から手が出るほど欲しい物だ。死者はもう戻らない、先程それを話したばかりなのにこんなものがこの世に存在するなんて……。
「使用者と対象者の能力値にもよるが、俺達運命に選ばれし王なら平民を十万程度は生き返らせることが出来る。勿論代償として使用者は死ぬが十万も生き返るんだ、御釣りが来る」
「……やばいね」
「ああ、やばい」
アンディートはジュエリーボックスを再びマジカルボックスに仕舞うと額を押さえ目を伏せる。あれだけどんなものか知りたいと迫ったが、正直聞かなければよかったかもしれない。
「従者の持ち物はそいつが消滅すると共に消える。だから本当はフロストに持っていって欲しかったんだがな……」
「こんなのが存在するっておかしくない?」
「俺が思うに……アイテルの暇つぶしだろうな」
確かに彼女ならやりかねないと納得する。ボクらが醜くこのアイテムを取り合うのを天から見てあざ笑いたいのだろう。しかし残念ながら、アンディートが持っている限りそんな事態は起こらない。してやったりだ。
「つーわけで、この秘密に見合うだけの話をお前は持ってるか?」
「意地悪だなぁ」
あるわけがないだろうと言うと、アンディートはだろうなと苦笑いを浮かべた。もうさっき聞いたことは忘れよう、ボクはそう決心した。面倒ごとには巻き込まれたくない。
「おっと、聞いたからには勿論なんかあったら協力してもらうぞ」
「……ボクもう忘れちゃったな~」
しらーっと明後日の方向を向くと、アンディートはふっと笑う。何かおかしい事を言ったかと疑問に思っていると、アンディートは魔法を使った。
「〈メサージュ〉」
「なっ、もしかして‼」
「ああ、スターシャか?ムームアならうちの城にいるぞ、迎えに来てくれ」
にやりと笑ったアンディートは彼の種族に相応しくまさに悪魔だ。早急に逃げようとしたが最大まで強化された空間施錠を先程アンディートがかけたため神器で扉ごと破壊しない限り出ることはできない。……つまり詰みだ。
「ちくしょ~、アンディートめ‼覚えてろ‼」
自国に連れ戻されティムルから散々説教をくらったのは言うまでもない。
いつも通りのボクに戻り、またぼーっとしながら書類に判を押す日々が戻ってきたのだった。
以上、ムームアのお話でした!!
ちょっとだけアンディートの話と重なる部分がありますね。フロストと会った時のムームア視点が見れます。少し前に友人が亡くなったばかりなので本当はアンディートを殺そうとした事めちゃくちゃ怒ってました。でもそれは表に出さないで茶化していましたね。
フルトくん、最初は病気で死ぬ予定なんて一切ありませんでした。しかし思いつきで話をねじ曲げていくのが私です。ムームアに初めてできたムームアが運命に選ばれし王だと知らない友人。友人の大切さを強く実感させるために亡くなってもらいました。本当はムームアが運命に選ばれし王だとバレて、それでも変わらず友人でいるというルートも考えていたんですけどね。
そしてフロストくんが持っていたマジカルアイテムの効果が明かされました。普通の感覚で考えると死者蘇生はどうやっても出来ないこの世界でそれをできるアイテムというのはもはや恐ろしい物です。しかし私は神同士の人の力を超えたバトルを書いたせいで、それが「……別に凄くないくない?」と感じました。なんてこったい。トリムルティの宝以上の神の脅威となる効果が考えられませんでした。実際本当にアイテルの暇つぶしです。
ここまで読んで頂きありがとうございました!!