アンディートが病み気味でメリバっぽいのでちょっと無理だなと言う人は読むのをオススメしません。
「〈メサージュ〉」
「なっ、もしかして‼」
「ああ、スターシャか?ムームアならうちの城にいるぞ、迎えに来てくれ」
にやりと笑ったアンディートにムームアはわなわなと体を震わせた。告げ口はしないでおこうと思ったがこの話から逃げようというのなら別だとアンディートは扉の方を見る。最大強化した空間施錠を使ってあるこの部屋は神器でも出さない限り出ることはでいない。
ムームアは破壊してでも逃げようかと思ったが、人の城を壊すのは出来るだけ避けたいと大きくため息を吐き、諦めたように両手を軽く上げお手上げだをアンディートに告げた。そして少し間を置いたあと、ムームアは改めて真剣な表情でアンディートに向き合った。本当なら聞かないでおこうと思ったが、さっきのアイテムの効果を聞いて心配に思ったことがあったのだ。
「ねぇ、さっきのアイテムの事だけど」
「なんだ」
「……君、使ったりしないよね?」
ムームアの言葉にアンディートは一瞬きょとんとした後、笑いだす。何を言い出すかと思えばバカな話だと彼は腹を抱えた。アンディートが笑った事にムームアは不満に思い、その不機嫌な顔を見てアンディートはふっと鼻で笑う。
「さっき言っただろ、使用者は死ぬ。それに人生ってのは一回きりだから尊いんだよ」
「そう、だよね……ボクの考えすぎか……」
「何考えたか知んねぇけど、あれは人が使っていいもんじゃない」
ムームアはアンディートのいつも通りの様子に嘘ではないと判断して、こちらも笑った。
現在の運命に選ばれし王には共通点がある。それは一番大切だと思う人を自らの手で殺してしまったという事だ。しかしレナータの師匠は記憶を失いながらも生きており、ムームアは兄の死を悲しむ気持ちはあるがもう受け入れている。
しかしアンディートは違う。ムームアは彼が親友……ミラの死に対して大きな後悔の念を持っているのをトリムルティの宝で記憶共有した時に知っていた。それがどうしても気になったのだ。
「心配ならお前が持つか?」
「嫌だよ、そんな厄介事の卵みたいなアイテム手元に置いとくなんて」
「だろうな」
アンディートはそう言った後ふと何かに気づき動きを止めた。そして指を鳴らすと部屋にかかっていた全ての魔法とアビリタを解き、ムームアに視線を向ける。
嫌そうな顔をしたムームアだったが、しょうがないと彼の意図に気づき立ち上がるとその瞬間ノックの音が聞こえる。
ムームアが扉を開けるとそこには息を切らせ必死な表情をしたルナティスが立っており、その意外な様子にムームアはぽかんとする。
「や、やあ……」
「ム、ムームア様‼嗚呼、よかったです‼ご無事で‼」
泣きそうな顔のルナティスをムームアは宥めながらこれほど心配をかけてしまっていたのかと反省した。最近急に姿を消すのが多かった上にコンパスもいつの間にかなく無くなっていて、本気で出ていったのではと探し回っていたらしい。
「悪かった、悪かったから。あー、泣くなよ……」
「よ、よがっだです……私たち、は……すてら、れたのではないがと……うぅ゛っ……‼」
「……不安にさせてごめんね。じゃあ、帰ろうか」
ムームアはルナティスの背を軽く摩った後、アンディートに別れを告げるとテレポートで消えた。それを見送り、アンディートはしんとした部屋で一人佇んだ。
「……お前が嘘を見抜けないなんて、珍しい事もあるんだな」
小さくそう呟くと、アンディートは中途半端に着ていたコートをしっかりと羽織りなおした。
………………
俺はある場所へ歩き出した。
誰にも見られないよう細心の注意を払い、薄暗い場所を進んでいく。まだ引き返せる、だが俺にもう迷いはない。呼吸をするのが嫌になるほどの淀んだ空気のこの場所……監獄に俺は不可視化で警備兵の前を難なく素通りすると、牢の前に立つ。
「おい」
「………」
「聞こえるだろ、こっちを向け」
牢の中にいる囚人は空を見つめながら死んだようにそこに居る。もう人生を諦めているのか、こうして呼び掛けても反応がない。それに舌打ちをすると、牢の扉に手を当てる。
「〈解錠技術〉」
「──!?」
「鍵は開けた、出ろ」
カチャンと鍵の開いた音に、囚人の目に少し光りが戻りこちらに視線を向けた。そしてゆっくりと開いた扉を見て勢いよく立ち上がるとすぐに外に出る。興奮状態なのか息を荒くしながら、きょろきょろと周りを見渡すそいつの肩に手を置きこちらを向かせる。
「お前、何をしてここに居る」
「は?ぇ、あ、あんた……誰だ?」
「三秒以内に答えねぇとまたそこに入ることになるぞ」
俺の脅しに慌てた囚人に静かにしろと告げ、囚人はそれを聞くと何度も頷いた。答え次第で助けてもらえると思っているのか、慎重に言葉を選んでいる。
「……普段から、窃盗を少し……」
「他には」
「さ、殺人罪。妻と、娘がいたんだが……ある日、カッとなって……」
なるほど、死んでいいクズだ。"丁度良い"。
俺はマジカルボックスからジュエリーボックスを取り出しかけてあるアビリタを次々と解除していく、どうしていいか分からない囚人はただそれを見ていた。
そして中から取り出したネックレスを、囚人に渡す。
「こ、これは……?」
「これに込められたある魔法を使って欲しい。そしたら……この監獄から出してやる」
「ほ、ほんとか!?」
囚人の目に完全に光が戻った。馬鹿で助かる、そんなうまい話しあるわけがないのに。囚人は完全に信じ切ったようで、その魔法の代償を伏せて話すと目を見開き驚いている。
「これ、だいじょぶなのか……?」
「ああ、大丈夫だ」
「で、誰を生き返らせればいいんだ?」
ついに、ついにこの時が来た。最初は使う気などなかった。でも、それでも手元にミラにもう一度会える希望があるのに、それを無視したまま生きる事なんて俺には出来なかった。使用者は死んでしまうが、それなら死んでもいいクズに使わせればいい。俺ははやる気持ちを抑えながらコートを握る。
「ミラ・エナーレ」
「よ、よし。本当にここから出してくれるんだよな!?絶対だからな!?」
「ああ、勿論」
ここじゃないどこかに行くという意味でここから出すというのは嘘ではない。囚人は嬉しそうにネックレスを握りしめた。
さあ、彼女のために──死んでくれ。
「〈ベネティクション・リヴァイバル〉‼」
詠唱を終えると、囚人の体が光り出す。足元から徐々に消えていく自分の体を見てやっと俺に騙されたと気づいたのか、俺に殴りかかろうとするがもう遅い。その拳が俺に触れる前に囚人は消え去りその場が静寂に包まれた。まさか失敗したのか、そう不安に思っていると羽織っていたコートがすっと消え焦りだす。
そして俺の隣に魔方陣が浮かび上がると、そこから人型の光が浮かび上がる。
「成功したのか……?」
それは少しずつそれは色づき、そして俺の目の前には一人の女性が立っていた。
薄く水色かかった白髪の、紺と赤色をしたコートを着た彼女は瞳を閉じたまま張っていた糸が切れたかのようにふと俺に向かって倒れこむ。
俺は彼女を受け止めると、その頬に手を添える。そしてゆっくりと目が開き、懐かしい俺の大好きだった黄金色の瞳が俺を見つめた。
「──っ」
「……アンディート?」
彼女は眉を顰め俺の顔を不思議そうに見ている。その後周りをきょろきょろと見てここが監獄だと気づくと更に訳が分からないというような顔をした。姿は記憶にある彼女より成長しているが、確かに俺の知っているミラだ。
その存在を確かめるように、俺は彼女を抱きしめた。
「ミラ……ミラ……‼」
「へ?ア、アンディート……?」
「ごめん、ごめんな。あの時気づけなくて……俺も、お前が好きだ」
奴隷だった時のコートを見せてくれたあの日、俺は彼女が俺に好意を抱いていると気づけなかった。ミラも恥ずかしがって俺に伝えられないまま、その翌日──
「もうどこにも行くな、俺の傍に居てくれ……!!」
「急にどうし──」
その時遠くから声が聞こえ、俺は小さく舌打ちをすると再び不可視化を使いミラの手を引いて走り出した。俺達の声に気づきこちらに向かって来ている警備兵と入れ違いに監獄から出る。ミラを引き寄せ横抱きにすると暗くなった空に飛んだ。
「ん〜?なんで監獄にいたんだっけ?」
「後で話す。それより今は城に戻ろう」
むむっと眉間に皺を寄せながら考え込んでいるミラの体温を感じながら、本当に生き返ったのだと喜びで涙が出る。それに驚き心配そうに指で拭う彼女を愛おしく思い飛行スピードを速め中庭に降り立つ。
「え、ぇ、なんでこんなに中庭荒れてるの!?」
自分がここに居ることに疑問はないようだが、どこまで記憶があるのだろうと考えながら彼女を横抱きにしたまま自室に向かう。すれ違った使用人は驚いたような顔をしながらも不審人物を見るような顔ではない。
あの魔法はその者が死んだことを無かったことにする。つまりミラが死んだという事が無かったことになっている。今の彼女はもしかして……俺の妃なのだろうか。
自室につき扉を雑に開けると、ミラを降して椅子に座るよう促す。
「ねー、アンディートなんか変な物でも食べたの……?」
「どういう意味だ」
「急に、その……好きとかさ……」
ミラは悲しそうな、戸惑ったような笑みを浮かべながら向かいに座った俺を見た。日頃は愛を伝えたりしないのかと思いながらも、彼女の表情が気になる。
「昔、友達としてしか見れないってアンディート言ったのに、お互いそのことは忘れようって言ったのに……今更突然、そんなのずるいよ……」
「──そ、うか……」
そんな事を俺は言ったのか。確かにミラがあの日死なずに生き続けていたのなら、そういう未来もあったかもしれないと彼女の記憶にある俺に苛立つ。失ってからしか彼女の大切さに、そしてこの好きという気持ちに気づけなかった。だが今彼女は目の前に居る、もう触れられるし気持ちの返事も聞くことが出来る。
「……夢を見たんだ」
「夢?」
「お前が死ぬ夢を」
彼女の命が散った瞬間を思い出す。俺の手に伝わったナイフに肉が刺さる感覚、血に濡れ涙を流した彼女の最期を──
「本当に今更だ。お前がどれだけ俺にとって大切な存在だったか、俺は気づけなかった。ずっと俺の傍に居てほしい、もうお前を失いたくない……」
「……そんな顔しないでよ。もう失いたくないって……夢の話でしょ」
ミラは立ち上がると、扉の方へ向かっていった。
彼女の記憶の俺はミラの気持ちを拒絶して、それを忘れろと言った。それをいつ言ったのかは分からないが、最近の話ではないのなら彼女はもう俺を好きではなくなったのかもしれない。
それならば、もう一度その気持ちを思い出させるために俺は何度でも愛を伝えようと決意した時、カチャリと音が聞こえた。
俺が後ろを振り返ると、ミラは出ていったわけではなく部屋の鍵を閉めた。
「確かに今更自分勝手だし、そんなの我儘だよ」
「……ああ」
「だけど……それは昔からだったね」
ミラは笑みを浮かべる。俺は椅子から立ち上がると彼女に駆け寄り強く抱きしめた。もう離したくない、ずっと、ずっと俺の傍に……。
「ちょっと、苦しいよ‼自分が運命に選ばれし王なの忘れてない?」
「……」
「いいよでも。アンディートにならこのまま抱き締め殺されても」
なんてねと笑った彼女に俺は体を少し離し頬を撫でた。それに嬉しそうにするミラが目を瞑ったのを見て、ゆっくりと唇を重ねる。
幸せだ、もう手に入らなかったはずの幸せが俺の腕の中にある。もう一度、もう一度と何度も口づけるとミラは頬を赤らめた。
「その……優しくしてね。私、は、初めてだから……」
「………何が?」
何のことだと思うと彼女はポカンとした後恥ずかしそうに顔を真っ赤にして俺の胸を強く叩く。少し間が空いた後、俺はやっと彼女の言葉の意味を理解した。
「部屋に連れてきたからそういう、いや、なんでもない‼今のなし‼私自分の部屋に──」
「なしは却下だ」
ふっと笑いミラの頬に軽く口付け横抱きにすると俺の無駄にでかいベッドに彼女を寝かせ、俺もそこに乗り上げ彼女を組み敷く。まさか再会1時間程度でこんな展開になるなんて思ってもみなかった。恥ずかしそうに顔を逸らす彼女の顎を掴みこちらを向かせ、彼女の瞳をのぞき込む。それに更に顔を赤らめた彼女に俺は笑みを深めた。
「あ、あんま見ないでよ。恥ずかしいから」
「じゃあ目ぇ瞑ってろ」
「でもアンディートは結局見て、んっ……」
彼女のタートルネックをずらし首筋に顔をうずめ、そこを軽く吸う。顔を上げ今度は先程と違い淫らに口付けながらミラの見たことのない顔に興奮を覚え、俺は見慣れたコートに手をかけた──
──
鳥の鳴く声が聞こえ、朝日の眩しさに俺は目を覚ました。ぼんやりとした意識のまま隣を見るとそこにはミラがすーすーと小さく寝息を立てている。
彼女の顔にかかった髪を起こさないように指で払うと、彼女の顔をじっと見つめる。
「……夢じゃないよな」
彼女を抱き寄せ、髪に顔をうずめながらその体温の心地よさにまた目を閉じた。涙が出そうになる。もう、もう絶対に同じ運命を辿らせたりはしない。俺が守ってやる。
「愛してる」
これから彼女に何度でも愛を伝えよう、後悔しないように。顔を離しその額にキスをすると、寝ているはずのミラの顔が赤く染まる。じっと見つめると彼女は明らかに不自然な寝息を立て、俺は小さく笑った。
「ミラ、愛してる」
「ぐー、ぐー」
「なあ、起きてんだろ?」
「……寝てる」
反対方向に体を向けようとした彼女の両脇に腕を置き再び再び跨ると、かぶっていたシーツが捲れる。何事かと目を開き俺を見上げる彼女の体についた昨日の印に口付け、親指でそのピンク色の唇をなぞった。
「もっかいするか」
「やだよ‼昨日何回もしたじゃん‼」
「足りねぇ。なぁ……駄目か?」
ぐぬぬっと俺の表情に迷っている様子の彼女の鎖骨をつうっと撫で、何度も口付ける。最初はきゅっと口を閉じていた彼女も次第に薄く口を開き俺に応えると、首に腕を回してきた。俺の勝ちだ。
「……一回だけだからね」
「ああ」
しかしその約束は簡単に破られると、散々好きにされぶつぶつ文句を言うミラを風呂に入れて俺達は部屋から出た。その時丁度部屋をノックしようとしていただろうリヴェルダと目が合い、リヴェルダは手を下ろす。
そう言えば従者達はミラとどういう関係なのか、彼女の死がなかったことになったのなら誰ですかとはならないだろう……多分。
「……口外しない方がよろしいでしょうか」
「いや、別にいい」
状況を見て察したのかリヴェルダはなんだか温かい目で俺達を見ながら去って行った。結局何の用だったのかと不思議に思っているとミラは恥ずかしそうにしている。
「い、いいの隠さなくて?リヴェルダなら口硬そうなのに」
「問題無い。隠すことでもねぇだろ」
ミラがリヴェルダの名を知っているという事に、やはり彼女は従者達とも交流があるのかと安心する。昨日自分の部屋に戻るとも言っていたし、この城に住んでいるのだろう。昔どちらかが運命に選ばれし王になったら選ばれなかった方は補佐官になると約束した。その約束通りになっているのかもしれない。
「俺は執務室で仕事を始めるが……お前はどうする?」
「どうするって、こないだ宝物庫のアイテム全部確認しろって鬼命令出したのアンディートじゃん」
「……そうだったな」
知ったかぶりをして執務室に向かおうとするが、あとでねと手を振って宝物庫に向かおうとする彼女の手を掴む。自分でも無意識だったが、俺は寂しさを感じ手を掴んだまま彼女も執務室に連れていく。
「ちょ、ちょっと!?」
「お前もこっちだ」
ミラはおとなしく手を引かれながら俺と執務室に入ると、俺はゆったりとした大きめの椅子に座り彼女を膝に乗せた。しーんと彼女は固まったままで、それはそのまま仕事を始めようと机の引き出しに手を伸ばすとミラはハッとして俺の手を軽く叩く。
「なんだ」
「それはこっちの台詞‼私は私でやることがあるの‼」
「知らん。俺の傍を離れるな、以上だ」
椅子から降りようとした彼女の腰をホールドするとミラはじたばたと暴れた後、俺には敵わないと理解したのか大人しくなった。それでいいと俺は紙とペンを取り出し、イデアーレ王国に送る手紙の内容を箇条書きで書き出す。
伝えたいことさえ書いておけば後はハイドがうまい事文章にしてくれるのだ。
「ねえこれイデアーレ王国に送るの?」
「ああ、そうだが」
彼女は俺が書き出していくのをじっと見ながら何か考えている。何かおかしなことでも書いたかと書き出したものを読み返していると、ミラはこちらを見た後目を伏せた。
「あのさ……」
「どうした」
「アンディートはレナータさんの事どう思ってるの?」
レナータの事をどう思うか、改めて聞かれるとどうだろうなと悩む。最初はミラと似ているのが気に入らなくて殺そうとして、国まで攻め込んだがミラが生きているこの世界ではその事はどうなったのだろうと考える。もし攻め込んだことがなかった事になっているのなら今同盟国になっているのか、それも怪しくなってきた。
ミラの質問にまだ答えていないことを思い出し、慌てて答えを探す。
「どうって、ただ同じ運命に選ばれし王としてしっかり仕事してるなって感心するが、結構精神不安定なとこあるから心配ではあるな」
「……それだけ?」
「ああ、いい友人だと思ってる」
なるほどと頷いたミラは満足そうだ。何が彼女の機嫌を良くしたんだと疑問に思いながら、また仕事に戻ろうした時なるほどと理解する。
「お前レナータに嫉妬してるのか?」
「……してる」
「正直でよろしい。心配しなくても俺はお前しか見てねぇよ」
可愛い奴だと彼女の腰を掴み持ち上げると体をくるっと一回転させ俺に跨らせるように座らせると、頬を赤らめる彼女の髪を撫でた。
自分と似た容姿をしているから気になるのか、ただ単純女性として尊敬しているからなのかは分からないがミラは気になってしまったのだろう。
「なんだ、俺の気持ちが信じられなかったのか?」
「だって本当に急だったから……」
「まだ足りないなら言えば俺も応えたのに」
「ぇ、あ、ちょっと‼揺さぶらないで‼違うから‼」
彼女の腰を自分と密着させるように押さえつけながら下から突くように体を揺すると、彼女は赤面したまま俺の胸を叩いた。……今度椅子に座ってするのもいいかもしれない。
「ほら、早く仕事して‼」
「おう」
レナータにはイーニット王国の事で迷惑をかけたようなのでなにか詫びなくてはいけない。なんでも言えとは言ったが、どんな無理難題を要求されるのだろうと不安に思いながらため息を吐く。あまり無茶なものは要求してくれるなと書き加えると、ノックの音が聞こえ俺は入室許可を出す。
「せ、せめて椅子から降ろしてから──」
「失礼しま………お取込み中失礼致しました」
「気にするな、入れ」
ハイドが執務室に入り俺達を見た瞬間出ていこうとしたのを見て引き留める。丁度イデアーレに送る手紙の内容が書き終わったところだ。それを渡して、説明不足な点をハイドに話しながらミラの背を撫でる。ある程度補足説明し終えると、彼を退室させて俺は次の仕事に取り掛かる。
「ね~私もそろそろ宝物庫のアイテム確認に戻りたいんだけど」
「駄目だ、ここに居ろ」
彼女に何かあってはいけない。目の届く範囲に居ないと不安になるのでそのままにして数時間作業を続けていると、時折抵抗していた彼女が大人しくなり顔をのぞき込む。
ずっと座らせているため飽きたのか、ミラはいつの間にか寝てしまっていた。それに微笑み俺は彼女を起こさないように抱え俺の部屋のベッドに寝かせた。彼女の部屋がどこなのか分からないのでしょうがないと思いながら執務室に戻る。
「アンディート様」
「ん、おう。どうした」
執務室にはいつの間にかリヴェルダが立っていて、俺は彼の表情に嫌な予感がした。
「ムームア様が至急お会いしたいと仰っています」
「いつ頃だと聞け」
「それが……もうこちらにお見えになっています。何かあったのでしょうか?」
「……応接室に通せ」
嫌な予感は当たりそうだ。ただの愚痴ならいいがと思いながらも俺は覚悟決め、一度自室の扉に視線を向けた後、応接室に向かった。
…………
「やあ、アンディート」
応接室のソファーにムームアはいつも通りの生意気な笑顔で座っている。俺は返事もせずに向かいに座ると、ムームアの様子を伺う。まさか気づいているのか、彼は。
「単刀直入に聞こう。君、例のネックレス使ったね?」
「あんときも言ったが使わねぇって言っただろ」
ムームアは俺の返事に目を細める。気づかれた、やはり気づいていたのだ。唯一俺以外にネックレスの存在を知る彼には何か感じるものがあったのだろうかと焦る。俺が死者を生きらえらせたと知ったら彼はどう思うのか。
「最初はね、分からなかったよ。君の嘘が」
「……」
「そして、もしあの時の君の言葉が嘘だとしてネックレスを使ったのなら、誰が生き返ったのか。……ミラさんだよね?」
ただ俺があの時嘘をついていたかもしれないという疑いだけでムームアはそこまでたどり着いた。それもこの一日で。しかしミラの死がなかった事に全てが改竄されたこの世界で、彼女が死者だった証拠は何もない。
「馬鹿なこと言うなよ、あいつは14年前から俺と一緒だ」
「……信じたい、君を信じたかった」
「なら──」
「でもボクは、アイテルに確認しに行ったんだ」
この世界を常に見ており、元々そのネックレスを作ったであろう神。彼女に確認しに行ったというのならもう全て知っているのだろう。俺はため息を吐く、彼にネックレスの効果を明かしたのは間違いだった。
「ああそうだ。俺はミラを生き返らせた」
「……アイテルの言ってた通りか」
「それでお前はどうする、ミラに何かするってなら容赦はしねぇ」
俺の言葉を聞いて、ムームアは悲しそうな顔をした。悲しそうというよりは、哀れみだろうか。しかし誰にどう思われようと俺はこの選択を後悔しない。もう二度と離れないと誓ったのだ。そのことで誰と敵対することになっても構わない。
「生き返らせた人を再び殺したとしても、その人が死んだという事実のあった世界にはもう戻らない」
「……ならお前は何をしに来た」
「ボク達はエレムストで二度目の人生を送った人の最期を見た。それなのに、君は沢山の人の記憶を捻じ曲げてミラさんを生き返らせた。『人生は一度きりだからこそ尊い』、そう言った君を……ボクは信じたかったんだ」
ムームアは顔を伏せながらいつになく弱い声でそう言った。それに何も感じないわけでは無い。しかし、自分の言ったことだが所詮は綺麗ごとなのだ。失ったはずの愛する人にもう一度触れられる。例え悪人と呼ばれようが、人を辞めようが、俺は昨日に戻ったとしても何度でも同じ選択を繰り返すだろう。
「騙して悪かった。だが俺は後悔しない」
「……そう。ただボクは、君がどれほどのものを歪めてしまったのか、自分が犯した罪を理解してほしかっただけだ」
「それを聞いた上で、理解した上で……それでも後悔はない」
俺はムームアをしっかりと見ながらそう言い、彼はそれ聞き顔を顰めたあとさっきと同じような生意気な笑顔に戻った。
「分かったよ。ボクは今日のことを無かったことにして、何も知らなかったことにして生きてあげる。でも君には……失望したよ」
「……」
「じゃあもう行くね。次会ったときはお互い何も知らないボクらで」
ムームアはそう言うとテレポートで消えた。
一人取り残された部屋で、俺は暫く何も考えずにそこに座っていた。確かに世界を歪めた、それでも俺は彼女に会いたかったのだ。
──それ以外は、何もいらない。
「……戻るか。リヴェルダも急にムームアが来てビビってたみたいだし……言い訳を考えなきゃな」
俺は応接室を出ると、なにもなかったかのように執務室に向かう。ミラはまだ寝ているのだろうかと思いながら歩いていると、ランツェが向かいから歩いて来ているのを見つけ彼女もこちらに気づくと跪いた。
「いい、立て」
「──っは」
ランツェも他の従者と同様、ミラがいることに対して何の違和感もないのだろう。じっと見つめる俺を不思議に思ったのか、ランツェは戸惑っているようだ。俺は軽く笑い何でもないと告げると、彼女はほっとしている。
「ミラとは仲良くしているか?」
「はい。良くして頂いております」
「そうか。これからもあいつのこと気にかけてやってくれ」
そう言い俺は頷いたランツェの頭を軽く撫でた後去って行く。気分が良い、それもこれも全てミラがいるおかげだ。俺はすれ違った使用人達が奇妙なものを見る目を向けるのも気にせず、鼻歌を歌いながら執務室に戻った。
──
私は隣で横になっているアンディートがちゃんと眠りについたの確認してその髪を優しく撫でた。数年前私の告白を断り、今までそれを忘れるよう努力して生きてきたのに彼は突然私が好きだと言った。別人ではないかと疑うほどに変わった彼を不思議に思いながらも、長年想っていた彼に愛を貰い私は幸せだった。
しかし、その時気づいたのだ。私の中にある2つの記憶の存在に。私はアンディートと出会ってジャムダームの奴隷として過ごし、そして彼が貴族の地位を降ろされたとき解放さた。その後彼が運命に選ばれ、約束通り私は彼の補佐官として彼のそばに居ることになった。
しかし、あの奴隷時代に彼にこのお気に入りのコートを見せた次の日、ジャムダームに命令され殺し合い私が死ぬという記憶がある。最初は夢かと思ったが、あまりにも現実味がありすぎる。そしてアンディートの急な変貌。
「……貴方の夢は、本当に夢だったの?」
寝ているアンディートに小さくそう問いかけると、私はその不安をかき消すように彼の胸に顔を埋めた。今生きるここが嘘だとしてもいい、それでも彼の隣を歩んで生きられるこの世界を肯定しよう。
流れる涙の意味も分からずに、私はただ彼の鼓動を聞いていた。
以上、番外編病み病みIFルートでした!!
アンディートはフルトが亡くなって落ち込んでいたムームアにあんだけ死者は戻ってこない的なこと言ってたのにお前は生き返らすのかよって思いました。
でも折角ネックレスの存在を作り、そしてそれをアンディートが所持しているという現状でそれを使わない手はなかった……。
最初にどうにかネックレスを使わせる話と、カップルがただただイチャつく話のどっちかを書きたかったんですけど、どっちも叶って私はハッピーです。
IFにしたのは、アンディートの考え方が本来の彼と違うという所と、ムームアとアンディートがギクシャクするのが嫌という所、そして全体的にバッドエンド感があるからです。
でもミラが生き返ってアンディートと幸せになるのが見たいってなったので、じゃあIFで書こうかという事になりました。アンディート様童貞卒業おめでとう。
完全に私の好みの展開について来てくださった強者さん、ここまで読んで頂きありがとうございました!!