二人目の非常勤講師   作:238

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始まりの朝

 ――血で濡れている。

 

 目の前には胸元に大きな穴が空いた人間が一人。

 

「あ……あぁ……」

 

 少年は恐怖に震え、絶望した声を漏らす。

 断末魔が耳から消えない。殺した感触が手から消えない。絶望した彼の顔が脳から消えない。

 

 少年は涙を流す。自分は取り返しのつかないことをしてしまったのだと。

 しかし、そうせざる終えなかった。

 死んだ彼は少年を殺そうとしてきた。戦わなければ殺されていただろう。

 戦いを拒めば、少年は殺される決まりにあった。

 

 仕方がなかったのだ。

 それでも、少年の脳裏から罪悪感は消えない。

 ――消えない。消えない消えない消えない。

 

「流石、類稀なる才能でと言うべきでしょうか?」

 

 突如、少年の背後から何者かが現れる。

 彼はニヤニヤと笑みを浮かべ、少年のことを舐め回すように見つめる。

 こいつが、少年が戦いを拒んだ時、少年を殺すと決まりを決めた人間だ。

 

 彼は大粒の涙を流し続ける少年に寄り添う。

 

「何をそんなに泣いているのです? 貴方は素晴らしい戦果を挙げた。もっと誇るべきです」

 

 少年の耳にはそれは狂言でしかなかった。

 人を殺したことが素晴らしい?

 人を殺したことをもっと誇るべき?

 

 意味がわからない。理解するのに脳が追いつかない。

 彼はそんな少年の前に立つ。

 

「ふむ? 何がそんなに悲しいことなのですか? 貴方は我らの主君の役に立ったと言うのに……仕方ありませんね。少し待ちますか」

 

 泣き止まない少年に、呆れたような声を出す。

 

 時間が経った。

 少年は泣き止んだが、その顔から表情が消えていた。

 そんな少年に彼は絶えず話しかけるが、少年から表情が現れることはなかった。

 

 諦めた、という言い方が最も正しいだろう。

 少年は悟ったのだ。自分は彼に、そして組織から逃げることはできないのだと。

 どうしてこんなことになったのか。

 どうして自分は才能を持って生まれてきてしまったのか。

 呪えるなら呪いたい。呪い殺したい。

 しかし、そんな思いは全て虚空に消え去るだけだった。

 

 そんな少年に最後、呪詛のような言葉を唱えるのであった。

 

 

「――――」

 

 

 ***

 

 

 カーテンから差し込む光かほんのりと暖かい。

 そんな部屋の中、サイフォス=ミリダントは起き上がった。

 

「……嫌な夢見させやがって」

 

 忌々しく呟く。最後の言葉、聞こえなかったが、その口の動き方が鮮明に思い出せる。そして、何を言っていたのかも理解できてしまう。

 

 一つ、大きく息を吐き全てを吐き出そうとする。

 

「はぁ……ってもうこんな時間か!?」

 

 時間を見たサイフォスは慌てて支度をする。

 制服に身を包み、急いで小さなパンを食べ、家を飛び出した。

 

「たく! あんな夢見させるから!」

 

 走り、駆け抜け、街に到着する。

 ここはアルザーノ帝国の中の一つの都市、フェジテ。

 そしてサイフォスが向かっているのは、そのフェジテを発展させてきた、国内魔術学院最高峰のアルザーノ帝国魔術学院だ。

 彼はそこで非常勤講師をしている。

 

「さてと、今日は近道すっか!」

 

 割と本気で急いでいるサイフォスは普段は行かない路地裏に入っていく。

 そして、入り組んだ道を駆け抜ける。

 サイフォスが持つ秘密の近道だ。普段は使わないのだが、こういった緊急時に使用するように心がけている。

 

「普段からこんな道使ったら絶対怠けるからな! 無遅刻無欠席舐めんな!」

 

 息を切らしながら、ようやく路地裏から広場に出た。

 その瞬間。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁ!」

 

 一人の男が一人の少女に吹き飛ばされるのを目撃した。

 男は世界法則に従い落下、そのまま噴水にダイブする。

 

「……あいつ、何やってんだ?」

 

 サイフォスはその男を知っていた。

 彼の名はグレン=レーダス。サイフォスと同じアルザーノ帝国魔術学院の非常勤講師だ。

 そんな彼は実は今日から抜けた教師の穴を埋めるべく初出陣をするのであった。

 

「遅刻しかけてるけどな。まぁあいつらしいっちゃらしいけど」

 

 呆れたようにその光景を見る。

 その後、グレンは噴水から出ていきグレンを吹き飛ばした銀髪の少女と金髪の少女が謝罪を口にする。

 

「ほほーん? つまりなんだ? お前らは自分に非があり、俺はぜーんぜん悪くないと認めることだな?」

「私達が下手に出た瞬間に」

「ダメだよシスティ。魔法を打ったのは私達の方なんだから」

「その通りだ。だいたいお前ら学院の生徒だろ? 学院の外で魔法を使うのが禁止だってこと……ん?」

 

 グレンが少女達に注意しようとした時、グレンの口が止まる。

 そして、金髪の少女を見つめ、髪の毛を触り、体を触り、頬を摘む。

 

「お前、まさか……」

「何してんのよ!!!?」

「ぎゃぁぁぁぁぁ!?」

 

 銀髪の少女が再びグレンのことを吹き飛ばし、再び噴水に落下した。

 その光景を「そりゃそうなるだろ……」と呆れた様子で見るサイフォス。

 

「信じられない! 女の子の体を無遠慮に触るなんて! 行きましょ、ルミア! こんな変態ほっときましょ!」

「えっ? ちょっと、システィ」

 

 半ば強引に銀髪の少女は金髪の少女の手首を掴み、その場から去った。

 そして、その場に残ったのはずぶ濡れになったグレンだけになった。

 

 サイフォスはそれからグレンに近づく。

 

「何やってんだよ、グレン……」

「ああ? なんだよサイフォスかよ」

 

 グレンは起き上がり服を絞り水気を取る。

 

「あいつら本気で魔法撃ちやがって、加減ってもんを知らなぇのかよ?」

「いや、さっきのは君が悪いだろ?」

 

 サイフォスのもっともである言い分に言い返せないグレン。

 

「はぁぁぁあ。あーあ、折角遅刻しないように走ってたってのに、行く気なくなったわ」

「初陣で遅刻しそうになる方がおかしいんだけどね」

「大体、こういう時はいつもお前の出番だっただろ? なのに今回はどうして俺なんだよ」

「そりゃあ、セリカの熱烈なオファーがあったからだよ」

「クソ、セリカの奴余計なことしやがって」

 

 一通り水気を取ったグレンは、しわができたシャツを力ずくで真っすぐに伸ばす。

 

「で、今からなら急いだら間に合うけど?」

「こんな格好で行けるかよ。俺は遅刻するぜ。何ならバックレてやるよ! だーっはっはっは!」

「……そんなこといたらセリカに殺されるかもね」

「だーはは……は。そりゃ笑えねぇな」

「加えて、初陣でバックレるなんていたら減給どころじゃないかもね。下手したら数か月給料停止なんてことも」

「なん、だと……!?」

 

 衝撃の事実を告げたサイフォスの言葉に驚愕を隠せないグレン。

 まさか、何のお咎めがないと思っていたのか。

 

「そりゃまずい。フェジテにあるシロッテの木がなくなっちまう」

「まぁそう言うことだから、行くなら急いだほうがいいよ」

「はぁ、どうしてこうなったんだよ。この服乾かしたら行くわ。はぁ、やっぱ働きたくねぇな」

「そんなこと言わずに。じゃあ僕は先に行ってるからね」

 

 そう言ってサイフォスはグレンをその場において魔術学院へと走った。

 

 

 




何となく思いついたものを勢いで書いてみました。
続くかどうかは分かりません。続くとしても更新は遅くなると思います。

まぁ、ゆっくりになると思いますが、どうぞよろしくお願いします。
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