輝「あ?例えば?」
四葉「いいから見ててください!行きますよぉ!スンッ( ˙꒳˙ )」
輝「?」
四葉「立ち向かうは魑魅魍魎、悪鬼羅刹・・・・・否、七騎の英霊剣豪!参りましょう、屍山血河の死合舞台!フェイんぐっ!?」
輝「それ以上はやめなさい。中の人が同じなだけだから」
四葉「んんんんん!!」
Ep.12 どうぞ!
夏から秋へと変わりつつある十月。
都心部に近いためか、昼間の暑さはまだ夏の名残がある。しかし、早朝と夜は秋特有の温かさと寒さの中間の温度。中々過ごしやすくなってきた今日この頃。
徐々に木々が色付き始め、上を天蓋のように覆う葉の隙間から差し込む木漏れ日に風太郎は、手に持っていたテキストを閉じ、目を細めた。
「秋か・・・・・・・・・・」
「登校中も勉強かよ」
後ろからの声に応えるようにまた再度、テキストを広げた。
「登校しているこの時間も、俺にとっては貴重な時間だ」
「勤勉なこって」
声の主が風太郎の隣へと移動し、同じ歩幅に合わせる。
「後悔してるか?」
「・・・・・何が」
風太郎の突然の問いに、ストローから口を離した。
「家庭教師を続けることに、だ」
テキストから目を離さず、ページをめくる音が妙に耳に響く。輝はそれを横目で見ながら、視線をまた前に戻した。
「別に、してねぇよ」
「そうか」
「おう」
「もう少しで林間学校もある。その前に少しだけでも詰めていくぞ。今度は期末試験の為に」
「わーってるよ」
✦‧✧̣̥̇‧✲゚✧✽*✼✼✽*
「・・・・・・・という訳なんだよ。頼まれてくれないかな」
「却下」
「そう言わないでくれよ〜。今日中までに決めないといけないんだ」
ホームルームが終わった後、担任の教師に呼びだされ現在職員室で懇願するように頭を垂れる大人と、不機嫌さMAXの少年がそれを見下ろす異様な光景に、周囲の教師陣の目線を集める。
近々行われる二学年の林間学校。どうやら、それの実行委員をやって欲しいという話であった。当然、やりたい奴など居るはずがない。高校生活の修学旅行、文化祭に次ぐビッグイベントの一つをなぜ役員という形で参加しなければならないのか。更に今年の林間学校は趣向を凝らしたらしく、目玉のキャンプファイヤーに加え、前年行われなかった肝試しに各クラスの出し物等、思いつく楽しそうな事を全乗せした結果、当初予定していた実行委員会の人数では足りないというのだ。
後先を考えずに行動に移す教師あるある(作者談)。正味な話、頼まれる身からしてみればいい迷惑である。
「考えた奴アホだろ」
「その考えた人が学年主任なんだけどね・・・・・・」
「んで、なんで俺なんだよ」
「いやね。うちのクラスってさ、ヤバいじゃん?」
「ハッキリ言うな」
実際、そうなのだからあまりキツくは言えないのだが。
「唯一マシって言うか・・・・・・安心して任せられるのが君か中野さん、上杉くんぐらいじゃん?でも今回の林間学校、実行委員会の仕事が肉体労働が多いみたいなんだよね。それを考慮すると、女の子の中野さんはなし。上杉くんは見るからにヒョロヒョロ」
「そんで俺か」
「まあ、そういう事だね」
消去法のすえ、辿り着いたのが自分だったらしい。
「はぁ・・・・・・・・・・実行委員って、具体的に何すんだよ」
「えーっと、確か林間学校中の全生徒の点呼確認。食材の準備から肝試しに使うルートの確認と立ち入り禁止場所の整備。キャンプファイヤーで使う木材の確認と準備くらいかな」
「ほとんど雑用じゃねぇか」
「僕達教師陣もある程度協力するけど、如何せん生徒たちの自主性を伸ばすためらしいから、そこまで協力出来ないんだ」
聞けば聞くほどやりたくない衝動が湧き上がる。完璧な肉体労働、ブラックだ。
役得なんてものではない。
(どうりでやりたがらねぇわけだ・・・・・・・)
「ま、君なら何とかなるでしょ?てことで、放課後に委員会の集まりがあるから遅れないようにね」
なし崩しで実行委員会に選出された輝は思い切り息を吐いた後、職員室を後にした。
放課後ーーーーーーー
「輝、行くぞ」
「わりぃ、実行委員」
輝の返答に風太郎は目を丸くした。
「え、マジ?」
「おう」
「家庭教師どーすんだよ」
「お前に任せる。林間学校終わるまで行けそうにねぇ」
実行委員の資料を片手に持ち、教室に固定してある時計を見る。集会が始まるまであと残り十分を指していた。
「ま、そーゆー事だから」
「あ、おい・・・・・・・!」
逃げるようにその場を後にする輝は、風太郎の制止を聞かずに出て行った。
夕焼け色に染まる教室に風太郎のため息が響いた。
程なくして集会も終わりを迎えた。そのほとんどが全く関係ないものだった。『肝試しをするとガチの幽霊を呼び寄せるから面白そう』やら、『キャンプファイヤーの伝説って本当なのかなぁ』やらこんな感じの雑談が一時間にも及んだ。
既に外は徐々に夜の帳が居り始めている。
「帰るか」
時間を見ると17時を回っていた。家庭教師をやりに行こうかと頭の片隅で考えていたがこの時間ならもう終わっているだろう。
自身の教室へ着くなり、ささっと帰る支度を始めていると隣のクラスから会話のような声が壁越しに聞こえてくる。普段なら絶対聞こえないような声量だが、今この学校に残っているのは実行委員会と少数の教師。おまけに二学年の教室が並ぶ廊下は不気味なくらい静まり返っている。明かりが徐々に夜の帳に支配されつつある夕焼けだけのため、その不気味さをより一層際立たせていた。
柄にも無く恐る恐る隣のクラスを盗み見た。
視認出来るのは精々三人という人数だけ。顔は自分がいる所からでは分からない。
(誰だよ、こんな時間まで残ってんの・・・・・・)
「返事くらい待ってやれよ。少しは人の気持ちを考えろ」
(あ・・・・・?喧嘩か・・・・・?)
暫し逡巡する。
このまま帰ってもハッキリ言って暇だ。ならここで知らない奴の喧嘩を盗み聞きするのも悪くないと思い、近くで聞くために移動する。
傍から見れば泥棒さながらの抜き足の腕前。副業で始めようかしら。
なんとか会話を聞き取れる位置に移動し、聞き耳をたてる。
✦‧✧̣̥̇‧✲゚✧✽*✼✼✽*
ふんふん、なるほど。
どうやら一人の女の子を巡って論争をしているらしい。キャンプファイヤーの伝説を信じているなんて、男の癖に中々メルヘンチックな頭をお持ちのようだ。
先程から『んだコラ』とか『やんのかコラ』とか『ジョトダコラ』とか言っているあたり、男の一人はオラオラ系だ。対するもう一人の男は冷静に対処している。女の子はさっきからあたふたしていた。
(さてさて、どんなヤツらだ・・・・・・・・ん?あのオラオラのヤツ、隣のクラスの前田か?そんで、女の方は・・・・・・・・・・・一花?その隣は、ガリ勉・・・・・・・?なんだ、修羅場か?いや、そもそも一花とガリ勉って・・・・・・・・)
ドアの小窓からそっと顔を出し、三人の顔を見ながら考える。
(んなことどうでもいい。いいもん見れたし、帰るか)
これで一花の弱みを握り、扱いやすくなると思うと自然と足取りが軽くなる。不敵な笑みを浮かべながらその場を離れようとした瞬間、思い切りドアにぶつかってしまった。
「あ」
物音に気づいたのか、閉じてあった教室のドアが開く。
そこで丁度三人の目線と輝の目線が合致した。
「「「・・・・・・・・・」」」
「・・・・・・・よ」
ものすごい苦笑いを浮かべながら手を振った。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
おのれ天宮ァァァァァ!
という言葉が聞こえてきそうな程、睨みをきかせた前田が横切り、そのまま昇降口に行ってしまった。
「・・・・・・・・いいのか?アイツ行っちまったぞ?」
「いい。助かった、輝」
「お、おお・・・・・・・・」
完全にお邪魔をしてしまった輝は何とも言えない顔で頷く。
「こんな時間まで何してたんだ?」
「実行委員の集会があるつったろ」
バックを肩にかけ、風太郎の横にいる一花を見た。
「な、なに?」
「いや、なんでもない」
「・・・・・・・?」
「んじゃな」
そう言って輝は風太郎の横を通り過ぎる瞬間に、耳打ちした。
「ちゃんと線引きはしとけよ」
「・・・・・・っ!」
風太郎は勢いよく振り返り、弁明しようとしたが輝の背中は暗闇が覆う廊下の中に消えてしまった。
「どうしたの?フータロー」
「盛大な勘違いをされた」
「え?」
風太郎は額を抑えながら項垂れた。
この勘違いが解かれるのはもう少し先の話。
「あのガリ勉野郎、性根の腐ったチキン野郎かと思ったけど存外隅に置けねぇな」
絶賛勘違い中の人物は軽い足取りで口笛を吹きながら帰路を歩いていたとさ。
✦‧✧̣̥̇‧✲゚✧✽*✼✼✽*
何の気なしに家の玄関を開けると、見知らぬローファーが一足あるのに気づく。
姉か妹の友人でも来ているのかと気にもとめずリビングのドアを開けた先にいたのは、予想外の人物だった。
「おかえり、お兄」
「遅かったじゃない」
「ちょっとな」
凛と優の顔を横目に捉えながらソファーへ足を運ぶ途中に視界の隅に、長い髪を蝶を模したリボンで結った人物を捉えた。
「お邪魔してまーす」
「おう・・・・・・・・・・って、何してんだよ。お前」
凛の隣に座る二乃を見ながら眉間にシワを寄せる。
「あー、実はね。二乃ちゃん、ピアス開けたいらしいの。でも一人で開けるの怖いらしくて」
妙に色づき出した生徒に怪訝な顔を向ける。
「うちの学校、ピアスはアウトじゃなかったか?」
「う、うっさいわね!」
「そうだよ!お兄!女の子がオシャレして何が悪いの!」
「そーだそーだ!朴念仁は黙って指をくわえて見てなさい!私が二乃ちゃんの耳にピアスの穴を開ける瞬間を!」
人の耳に穴を開けることのを指をくわえて見てろという人を初めて見た。
しかし、ああは言っているがピアッサーを持つ手が震えているのを見逃さない。
恐ろしく速く震える手、俺でなきゃ見逃しちゃうね。
「い、行きます・・・・・・!」
「お、お願いします・・・・・・!」
「ドキドキ・・・・・・・!」
いつまで経っても一向に行動に移さない凛に輝は業を煮やし、ピアッサーを取りあげた。
「貸せ」
「あ、ちょ・・・・・!」
目をつぶってビビっている二乃の左耳にパチンッと軽やかな音が響いた。
「姉貴、ファーストピアス」
「え、あ、はい」
凛から渡されたピアスを受け取り、先程開けたピアスホールにそっとはめた。
「おら、出来たぞ」
「え・・・・・あ、終わり?」
手鏡で見ると、左耳の耳たぶに確かにピアスがあった。
「ホールが落ち着くまではずっとそれ付けてろ」
「ずっと?お風呂も?学校も?」
「ったりめーだろ、いちいち取り外してるとホールの完成が遅れんだよ」
『へぇ〜』と関心するように手鏡でいろんな角度から見ている二乃はふと思った。
「あんた、なんでそんなに詳しいの?」
「あ?あ〜・・・・・・・・・・」
「コイツ、中学の時に一回開けてんのよ」
「マセてたもんね〜、お兄」
「うっせぇな・・・・・・・」
輝にとってはあまり思い出しくない事なのか、明後日の方向を向いていた。
「あ、二乃ちゃん。ファーストピアスの間の耳のケア教えてあげるから洗面所に行きましょ」
「あ、はい」
凛の後を追ってリビングを後にする二乃の背中を見送った後、制服を乱雑にハンガーに掛けた。
「二乃さん、どうしたんだろうね。急にピアスを開けてほしいなんて」
「林間学校が近ぇからじゃねぇの?知らねぇけど」
「もしかして・・・・・・!好きな人でも出来たのかな・・・・・・」
「さぁ?」
「憧れちゃうな〜」
輝はおもむろに自分の左耳の耳朶を触った。
ピアスのホールはすっかり塞がっており、少し凹んでいるのを指先で感じる。
「好きな人ねぇ〜・・・・・・・・」
耳を弄りながら学校での一件が頭をよぎった。
「家庭教師として、生徒さんの恋愛をどう思っていますか?」
「どうって・・・・・・・」
急に目の前に来ていた優に詰め寄られること数十分、凛と二乃が帰ってきた。
「大丈夫よ、二乃ちゃんなら」
「あ、あの・・・・・!別に、そういう訳じゃ・・・・・!」
「自信持ちなさいな」
笑顔を浮かべている凛となぜか顔を赤くしている二乃に輝と優は首を傾げた。
✦‧✧̣̥̇‧✲゚✧✽*✼✼✽*
「今日はありがとう。なんかお礼したいんだけど今手元になにもなくて・・・・・・・」
「別に気にすんな。んじゃな」
二乃を自宅の高層マンションまで送り、踵を返そうとした瞬間、
「ま、待って!」
「あ?んだよ」
「じ、実行委員頑張んなさいよね・・・・・・じゃなくて・・・・・・!しっかりしなさい、私・・・・・・!」
「・・・・・・・・?」
一人劇場を開演させた二乃を待つこと数分ーーーーー
なんとか、言葉を絞り出した。
「きゃ、キャンプファイヤー・・・・・・」
「おう、キャンプファイヤー」
「だから・・・・!キャンプファイヤー・・・・!」
「おう。キャンプファイヤーがどうした」
「〜〜〜〜〜〜ッ!!もう察しなさいよ!このバカ!」
そのままマンションの中へと駆け足で消えて行った二乃に取り残された輝は『わけがわからないよ』顔でその場に立ち尽くしていた。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
「ふぅ〜・・・・・すっかり遅くなっちゃったなぁ」
今日は学校が終わった後、女優の仕事があったため放課後の勉強会は参加しなかった。
前回の中間試験であの様だったため、勉強しなくてはいけないことは重々承知しているのだがーーーーー
(三玖の事も気になるし、帰ったら聞いてみようかな)
クラスの男の子から呼ばれていたが仕事があったため三玖に変装して行ってもらったのを思い出し、早足で姉妹がいるマンションへと向かう。
途中コンビニで買った姉妹五人分のデザートが入った袋を大事に持ち直し、いよいよマンションが視界に入った瞬間、
「あれ?」
よく知る人物がマンションの玄関前で立っているのが見えた。
「ヒカルくん?」
見知った顔に自然と足取りが軽くなる。
不意打ちのような形で出会いについ頬が緩む。
近くに行き話しかけようとしたが、
「え?」
心臓が飛び跳ねるような衝撃を感じながら、足を止めた。
もう一人、よく知る人物ーーーーー次女の二乃がそこにいたのだ。
「・・・・・・・っ」
理由はわからない。だが、二乃を見た瞬間、体は勝手に動いていた。近くの遊歩道に生えた木々に隠れ、頭だけをそっと出す。
何かを話しているようで、聞こえる位置に移動する。何か悪いことをしているようで背徳感を覚えるが、生憎と今の一花はそれすらにも構ってられなかった。
そして、なんとか聞こえる所まで移動を終え、一息着いた所に一花の耳にその言葉が届いた。
「きゃ、キャンプファイヤー・・・・・・」
「おう、キャンプファイヤー」
『キャンプファイヤー』という言葉を聞いた瞬間、一花の胸がザワついた。
「だから・・・・!キャンプファイヤー・・・・!」
「おう。キャンプファイヤーがどうした」
「〜〜〜〜〜〜ッ!!もう察しなさいよ!このバカ!」
そのまま輝を置いてマンションの中に消えた二乃。
置き去りにされた輝はその場に立ち尽くした後、首をかしげながらその場を去った彼を確認すると、何故か安心したかのように胸を撫で下ろす。
「キャンプファイヤー・・・・・・・・・・」
胸のザワつきが収まらない。いや、先ほどよりそのザワつきが大きくなっている気がする。姉妹の前では見せない先程の二乃の顔は、『恋に恋する』乙女の顔そのものだった。
デザートが入った袋を握る手に力が籠る。
すると、携帯に一通のメールが届いた。
内容は、姉妹からの催促。『早く帰ってこい』との事だった。
返信を終え、携帯の電源を切るとその無機質の画面に映った自分に驚いた。
そこには目を鋭くして表情を強ばらせた自分がいたからだ。
「はは・・・・・・・・参ったな・・・・・・・・」
とてもではないが、こんな顔はあの子達には見せれない。
いくら女優としての仕事をしているとはいえ、作り笑いを作ってもあの子達には見破られるだろう。
再度携帯を取り出し、『ごめん。もう少し遅くなりそう』とだけ送り、一花は未だザワつく胸を鎮めるのと気分転換のために来た道を戻った。
明日9巻の発売日だぞぉぉぉぁぉぉ!!
・・・・・・・発売日ですよね?