もう一人の家庭教師が口悪いです   作:メルフェン

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すみません題名詐欺です。

相も変わらず天宮家は賑やかです


※次回予告を追加しました。

※私が想像した天宮輝を描いてみました。(下手くそです)
皆さんの思い浮かべるものとかけ離れているかもしれませんが、御容赦ください
※シチュエーションは姉と妹の買い物に付き合わされ、少しイラついている輝です


【挿絵表示】



Ep.06 夏の夜 恋の始まり

「今日は待ちに待った花火大会!お姉ちゃん楽しみ!」

「夜からなのに随分とテンション高いね、お姉」

「知能が猿以下たぁこの事だなぁおい」

「なんとでも言いなさぁい。今日の私はどんな悪口にも動じないのだから!」

「ブス」

「殺すッッ!」

「ブレブレじゃねぇか」

「優は誰かと行くの?」

 

遥が尋ねると、目線を逸らしながら言った。

 

「実は・・・・・クラスの男の子に誘われて・・・・・・」

 

なんとまぁ可愛らしい。ほっぺが真っ赤っかですよ。

 

「あら」

「おや」

「へぇ・・・・・」

「そう・・・・・・」

 

遥、透、輝、凛の目がギラ付き、優はしまった!と言わんばかりに口を塞ぐ。しかし、時すでに遅し。言質はもう取られている。

 

「優にも春がとうとう訪れたのね」

「はっはっは。親冥利に尽きるねぇまったく」

「いい事じゃねぇか。なぁ姉貴」

「ほんとよ。羨ましいわ〜」

(あ、よかった・・・・・気のせいだったみたい・・・・・・)

 

安堵の息をつくが、悲しいかな。やはりこうなる事は避けられなかったようだ。四人が一斉に立ち上がった。何やらサングラスと黒い帽子を持って。

 

「ーーーーーー四十秒で支度するんだ。焼き討ちに行くよ」

「俺の妹に手ぇ出すたぁいい度胸じゃねぇか。血祭りに上げてやらぁ!!」

「狙撃はお任せ下さい」

「腕がなるなぁ!」

(デスヨネー)

 

何となくそんな気はしてたけどさ。

優が遠い目で物騒な物を手に取る野蛮人たちを見る。

 

「行くわよ野郎ども!優を誑かした小僧に、絶対本懐を遂げさせるなぁ!!」

「「出陣じゃぁぁああ!!」」

「ふふふ、今日はいい夢が見れそうだよ・・・・・・・・!」

「もういい加減にしてぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

今日も天宮家は平和です、おばあちゃん

by 天宮 優

 

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

 

輝は真っ赤なもみじ色に染った頬を擦りながら通学路を歩く。

 

「いってぇ・・・・・・優のヤロォ、思いっきり打ちやがって・・・・・・だってしょうがねぇだろ、兄貴としてはお前に近づくクソ共を駆除する役目が・・・・・・・」

 

ブツブツ独り言を言いながら交差点で信号を待っていると見知った人物が片手に飲み物を持ちながらケータイを弄っていた。

 

「あ、輝くん!おっはー!」

「何がなんでも本懐だけは阻止しねぇと・・・・・・・!」

「あ、あれ?輝くん?」

 

無視されたのが不服なのか、頬を膨らませ輝の目を手で覆った。

 

「あぁ!?なんだ!?前が見えねぇぞ!?」

「誰でしょ〜か。当ててみて」

「一花か、さっさと手を退けろ」

「当たり〜!おはよ!輝くん」

「おう」

「ってどうしたの、そのほっぺ。真っ赤だよ?」

「優に打たれた」

「え!?優ちゃんに!?もぅ、今度は何したの?」

「焼き討ちに」

「え・・・・・・?や、焼き討ち・・・・・・・?」

「うし、決めた・・・・・・・・一花」

「う、うん?」

 

輝はガシッと一花の肩を掴み、顔を近づける。

 

「行くぞ」

「ど、どこに・・・・・・・・?」

(わわわわ、顔近いよぉ・・・・・・・!これって期待していいよね・・・・・・?いいんだよね・・・・・・?うん、私も覚悟を決めたよ!さぁ、どんと言ってきなさい・・・・・・・!)

「今日は花火大会あったよな」

「う、うん」

「今日の勉強会はなしだ。花火大会に行くぞ」

「え、あ、うん。それはいいけど・・・・・・・えっと、その、二人っきりで、ですか・・・・・・?」

「なわけねぇだろ。ポンコツ共とガリ勉野郎も連れてくんだよ」

「あ、ああ・・・・・!だよね、そうだよねっ!」

(そうなりますよねぇ・・・・・・まぁ今日は仕事入ってないからいいけどさ・・・・・・)

(何をビビってやがる、天宮輝!そうだ、俺はアイツの兄貴だ!優、お前の純潔は兄貴が守ってやっからな!)

 

怪しく笑う輝と、見て分かるほど落胆する一花。傍から見れば、物凄く奇妙である。

 

「ねぇママ。あのお兄ちゃん、何も無いのに笑ってるよ」

「バカ!見ちゃいけません!」

 

それぞれの思惑を含んだ波乱の花火大会が幕を開けようとしていた。

 

 

✦‧✧̣̥̇‧✲゚✧✽*✼✼✽*

 

 

「それで、なんでお前が正座させられているか分かるか?」

「・・・・・・・・・・」

 

場所は中野家 リビング。

放課後早速家に帰ろうとしたところを風太郎に見つかり、無理やりここに連れてこられた。

先に帰り、浴衣に着替えていた五姉妹も見つかり『風太郎には内緒』という約束をまんまと奴らは裏切り、こうして正座をさせられている。

 

「俺の目が黒い内は、好き勝手にはさせないからな」

「鬼畜生が・・・・・・!」

「何かよそよそしいと思っていたら、花火大会に行こうとしていたなんてな。家庭教師でありながら」

「コイツらにも、ガス抜きは必要だろうが・・・・・・」

「まぁ、そこは認める。だが、まだ時間が有り余っているだろ!勉強せずして何をする!職務放棄をしたお前は罰として、コイツらの勉強が終わるまで携帯没収だ」

「あー!ずるいよやめろよ返せよぉ〜!」

(ヒカル、かわいい・・・・・・)

 

一時間後ーーーーー

 

「やっと終わったぁ!」

「花火って何時から?」

「19時から20時まで」

「じゃあまだ一時間あるし、屋台行こー!」

 

花火大会の開催場所は思っていた通り物凄い人混みだった。屋台から漂う食べ物の匂いに風は思わず生唾を飲み込んだ。

 

「あれ?姉妹ちゃんたちじゃない」

「あ!凛さんだー!」

 

四葉が手をブンブン振る方には、軽い服装の凛が『やっほー』と言いながら歩いてくるのが見えた。

 

(誰・・・・!?あの美人!?)

 

風太郎は心の中で驚愕した。長くサラッとした髪。柔らかそうな唇。そして何より目を引くのがあの胸。何もかもが風太郎にとっては刺激が強すぎた。

 

「元気してたー?あれ、君は?」

「う、上杉風太郎でひゅ!」

「あー!輝ともう一人の家庭教師クン?いつも輝がお世話になってるねー」

「い、いえ!」

「なに動揺してんのよ、気持ち悪い」

「し、してねぇし!」

「はー、浴衣姿も可愛いわ〜」

「んな事より、姉貴」

「わーってるわよ、優の事でしょ?」

 

輝と凛はコソコソと話ながら周囲を見渡す。

 

「な、なぁ、五月。あの人は・・・・・・・」

「あ、上杉くんは初めて会うんですよね。天宮くんのお姉さんですよ」

「え!?輝のお姉さん!?」

「そうですよ、すごい美人さんですよね」

 

すると、話し合いが終わったのか輝と凛がこっちに来た。

 

「わりぃ、ガリ勉野郎にはまだ紹介してなかったな。うちの姉貴だ」

「ども〜」

「えっと、社会人、なんですか・・・・・?」

「違ぇよ、大学一年生」

「え!?凛さん大学生だったんですか!?」

 

『ビックリです・・・・・・』と四葉が驚いた用に声を上げた。

 

「あ?言ってなかったか?東大の一年生だって」

「と、東大!?」

「そうよ〜」

「と、東大ってあの東京大学の!?」

(超エリートじゃねぇか・・・・・・!)

「ちょっと、天宮」

「あ?なんだよ」

「あれ。なんか男たちに絡まれてるの、優ちゃんじゃない?」

「「あぁ!?」」

 

輝と凛が同時に振り向いた。そこには、浴衣に着替えた優がガラの悪い男三人に絡まらていた。何やら必死に抵抗しているみたいだが、どうも聞き入れてくれていないようだ。

 

「わりぃ、お前ら。ちょっと待ってろ」

「ごめんね〜。ちょっと、シメてくるから」

「え?し、シメ・・・・・?」

 

風太郎が動揺しているのを他所に、五姉妹は『はーい』と言っている。

 

(え!?なんでお前ら驚かないの!?)

 

「い、いい加減にしてくださいッ!」

「いいじゃんか、俺たちと遊ぼうよ」

「どうせ一人なんでしょ?」

「俺たちと遊んだ方が余っ程楽しいよぉ」

 

三人の内の一人の男の手が伸び、優は咄嗟に目を瞑った。

 

(助けて・・・・・・お兄、お姉・・・・・・!)

「ふへへへ・・・・・・可愛いねぇ・・・・・・」

「「よぉ」」

「あ?」

 

男がお楽しみを邪魔されたのか、イラついた顔で振り向いた先にはーーーー

 

「楽しそうだなぁ、(あん)ちゃんらよ」

「あたしらとも遊んでくんない?」

「「「ひぇ・・・・・・・・・」」」

 

手をゴキゴキ鳴らし、青筋を浮かべた輝と凛が笑みを浮かべていた。

 

「あ、あの・・・・・・・・」

「ご、ご家族の方ですか・・・・・・・」

「よ、よかった!この子、迷子になってたみたいなんで・・・・・・・!そ、それじゃ俺たちはこれでーーーー」

「「死に晒せぇぇぇえええ!!!」」

「「「ほぎゃあああああああ!!!」」」

 

三人に一発ずつパンチを入れると、逃げるように走って行った。

 

「輝!塩撒け塩!」

「失っせろ!クソ共がぁ!」

「ちょっと兄ちゃん!それ(ウチ)の塩!」

 

振り撒き終わったのか、丁寧に塩を返す姿が何ともシュールで、優は思わず吹き出した。

 

「お兄、お姉、ありがとう・・・・・・」

「気にすんな」

「優の純潔は輝とあたしで守るからね!」

「お前、そーいやー男と来んじゃなかったのか?」

「えへへ、断ったよ」

「あら、なんで?」

「まだお兄とお姉に甘えてたいから、さ・・・・・・・ダメ、かな・・・・・・・?」

「「・・・・・・・・・・・・・」」

 

いつもはあまり甘えて来ない妹に、兄と姉のハートは撃ち抜かれてしまったようだ。

 

「「抱きしめてもいいですか」」

「止めてよ変態」

「「あ、はい」」

 

凄まじい手のひら返し、手首が捻じきれんばかりである。先程の可愛らしい妹はどこに行ったのだろうか。

 

「あ!二乃さんだ!」

 

落ち込んでいる二人を他所に、優は五姉妹の所に行ってしまった。

あーね、思春期だもんね仕方ないね。

 

(今度は美少女!?)

「あ、上杉さんですよね?いつも兄がお世話になってます」

 

丁寧にお辞儀をされ、風太郎も咄嗟に頭を下げた。

 

「ちょっと上杉!優ちゃんのこと変な目で見ないでよ!」

「見てねぇよ!」

 

二乃が庇うように抱きしめ、残りの四人も二乃と同じように優に抱き着き、上杉を睨む。

 

(うわぁ、フカフカだ・・・・・・)

 

優も押し寄せる五つの豊満な胸に、顔がキラキラしている。うらやま。

 

「俺の妹だ」

「妹さんか。つかぬことを聞くが、頭もよろしいの・・・・・?」

「それは知らねぇけど、ついこの間中学の全国模試で一位になったとか言ってたな」

(え、何なの。この顔面偏差値高いハイスペック姉弟妹(きょうだい)は・・・・・・ん?)

 

風太郎の携帯に着信が届いた。相手は妹のらいはからだった。

 

「悪い、輝。妹から電話来て今すぐに帰らなきゃならん」

「・・・・・・・家の事情か?」

「・・・・・・・・・まぁ、そんなとこだ」

「わかった。アイツらには適当に言っとくから行ってやんな」

「悪いな」

 

そう言って風太郎は駆け足で帰っていくのを横目で見送り、視線を戻した。

 

「おら行くぞー」

 

『何食べよっかー?』『綿あめ一択』『リンゴ飴!』『チョコバナナ』『優ちゃんは何食べる?』と楽しそうに会話する五姉妹と優の後を輝、凛が続く。

 

「花火大会なんざ何年ぶりだ?」

「うーんと、五年とかそこらじゃない?最後に行ったのが優がまだ小学生の頃だから」

「だからあんなはしゃいでんのか」

「嬉しいのよ。今までは優が誘ってもあんたが行かねぇの一点張りだったから」

「・・・・・・・・・」

 

優の顔を見ると、確かに小学生の頃によく見せていたとびっきりの笑顔だった。

 

「悪かねぇな、こーゆーのも」

 

すると、優が何かを持って近寄ってきた。

 

「お兄、見て!四葉さんが取ってくれた!」

「食えんのか、これ」

「あんたこれ金魚よ」

 

五つの袋に金魚が大漁に入っていた。

 

「後これも!」

「いや、それ今日一番要らないやつ」

 

『花火セット』と書かれた袋を大事そうに抱え、満面の笑みを向ける妹にため息をつきつつも優しく頭を撫でた。

それを遠くで見ていた五姉妹は微笑ましく思うの同時に羨ましくも思った。

 

「天宮くん、あんな風に笑うんですね」

「私たちの前じゃ全然笑わないのに」

「ちょっと、優ちゃんが羨ましいです」

「あれ?そう言えば一花は?」

 

四葉の言葉に全員がキョロキョロ見渡す。

 

「三玖もいない・・・・・・・」

「もうすぐ花火が始まるのに・・・・・・」

「どうしたお前ら、葬式帰りみてぇな顔しやがって」

「あ、天宮くん!一花と三玖が・・・・・・!」

「まさかはぐれちまったのか?」

「どうしよう。花火が・・・・・・・・」

「お前らはここで固まってろ。俺は一花と三玖を探してくる。優、コイツらと一緒にいろよ」

「うん、早く行ってあげて」

 

輝は来た道を人混みを避けながら戻って行った。

 

(へぇ。輝、あんた何だかんだ言ってちゃんと気にかけてんじゃん)

 

凛は笑みを浮かべながら輝の背中を見送った。

 

 

✦‧✧̣̥̇‧✲゚✧✽*✼✼✽*

 

 

輝は人混みを掻き分けるが、それらしい人物が全く見当たらない。

 

「クソが・・・・・・どこをほっつき歩いてやがる・・・・・・!」

 

また人混みに入り、注意を払いながら周囲を見渡すと人混みの間から一花の姿を捉えた。

 

(見つけた・・・・・!)

 

一花を目指し、雑踏を掻き分ける。

 

「はい、また後でかけ直します。はいーーー」

「おい!てめぇどこをほっつき歩いてやがった!早くアイツらのとこに戻んぞ!」

 

一花の腕を掴もうと使用とした瞬間、横から別の手にそれを防がれた。

 

「あぁ?」

「君、誰?」

「てめぇこそ誰だよ、クソオヤジ」

 

髪をワックスで固めたような髪型の中年男が輝を凝視した。

輝は一花を見るが、一向に目を合わせようとしない。

 

「一花ちゃんと、どういう関係?」

「うっせぇよボケが。てめぇこそ、そこのアホとどういう関係なんだよ」

「それはーーーーーー」

「ヒカル・・・・・・?」

「あ?」

 

後ろを振り向くと、そこには三玖が息を切らしながら輝を見ていた。

 

「お前、三玖か?ったく、はぐれてんじゃねぇよ」

「ご、ごめん・・・・・・・」

「三玖は見つけた。後はてめぇだけだ、クソおん・・・・・・・・どこ行きやがった!?」

 

さっきまでそこにいた一花と中年男が消えていた。輝の脳裏に嫌な予感が過ぎる。

 

(幾らアホとは言え、自分の身体を売るようなヤツじゃねぇはずだ、アイツは・・・・・・!)

「おい!あのアホを追いかけんぞ!」

「あ、待って!痛っーーーー」

「お前、その足・・・・・・」

「足、踏まれちゃって・・・・・・・ヒカルは先に行って」

 

赤く腫れた足を庇いながら歩く三玖を見て、輝を舌打ちをしながらしゃがんだ。

 

「ほら、乗れ」

「え?」

「いいからさっさと乗れ、ぶっ飛ばすぞ」

「はい・・・・・・・」

 

恥ずかしそうに三玖が乗ったのを確認すると一気に持ち上げた。

 

「えっ・・・・」

「おい、そっからあのアホは見えるか?」

「一花・・・・・?見えないけど・・・・・このまま追いかけるの?」

「いや、お前を一回アイツらのとこに連れてく」

 

そう言って三玖をおんぶしながらまた来た道を戻った。

道中視線が痛かったが今は気にしていられない。

 

「それで、一花を見かけたのは本当?」

「ああ。俺に気づいてんのに目も合わせやしねぇ。あの髭のオヤジとどこかに行きやがった。なんか知らねぇか?」

「ううん・・・・・・・・・あ。前に一花が髭の人の車から出てきたの見たかも・・・・・・・」

「ますます嫌な予感がすんな・・・・・・・」

 

一先ず三玖を固まっている他の面子の所に置き、また人混みの中に飛び込む。

いい加減人酔いしそうだ。

 

「あんのアホ・・・・・・!どこに・・・・・・!」

「誰か探してるの?」

「あぁ?んだよ誰だーーーーっ!てめ、一・・・・・」

「こっち来て」

「あぁ!?」

 

一花に手を引っ張られるがまま、連れて行かれる。

 

「おい!いい加減にしろよ!どこに行くつもりだ!アイツらのとこに戻んじゃねぇのかよ!」

「はは。いーからいーから」

「・・・・・・?」

 

一花に連れてこられたのは建物の一角、路地裏だった。

 

「おい、てめぇには聞きてぇ事が山ほど・・・・・・」

 

そう言いかけたところで、一花の人差し指が輝の前に伸びる。

 

「さっきのことは秘密にしておいて」

「あぁ?」

「私はみんなと一緒に花火を見られない」

「・・・・・・・・ちゃんと理由があんだろうな、アホ女」

「急なお仕事頼まれちゃって・・・・・・・だから花火は見に行けない」

「仕事だと・・・・・?」

「ほら、同じ顔だし一人くらいいなくても気づかないよ?ごめんね、人待たせてるから」

「おい、待てよ。ちゃんと説明しやがれ。仕事ってなんだよ。てめぇはコソコソ何してやがる」

「・・・・・・・・・なんで?」

「あ?」

 

一花が壁に手を付き、顔を近づける。

 

「なんでお節介焼いてくれるの?私たちの家庭教師だから?」

「教師が生徒の面倒見んのはあたりめぇだろうがよ、アホが。おら、とっとと戻んぞ」

 

今度は輝が一花の手を引いて路地裏を出ようとしたが、

 

「あのオヤジ、てめぇと一緒にいたやつじゃねぇか」

「あの人、仕事仲間なの」

 

すると、中年男が輝と一花の居る路地裏の所にやってくる。

 

「チッ!こっち来やがった!」

「どうしよう!仕事抜け出してきたから怒られちゃう!」

「んな事知るかよ!とりあえず奥から逃げれば・・・・・・・」

「あー!間に合わないよ!」

 

中年男が路地裏の中を見ると、そこには抱き合っているカップルがいた。

 

「? 気のせいか。よっこいしょ」

(クソが!そこに座んのかよ!)

 

近くに置いてあった木材の上に腰をかける。

 

「・・・・・・・・おい」

「ん?」

「いつまでこうしてればいいんだよ」

「ごめん。もう少し」

「・・・・・・・・クソが」

「私たち、傍から見たら恋人に見えるのかな?」

「知らねぇよ」

「ふふっ・・・・・・本当は友達なのに悪いことしてるみたい」

「変な気起こすんじゃねぇぞ」

「お、起こさないよ!」

「もしもし」

 

すると、近くで座っている中年男が電話をしだした。輝を耳を済まし、電話の内容を聞く。

 

「少しトラブルがあって・・・・・撮影の際は大丈夫ですので」

「撮影?おい、一花。お前の仕事って・・・・・・」

 

一花は小さく息を吐き、観念したかのように喋った。

 

「実はあの人はカメラマンなの。私はそこで働かせてもらってる」

「カメラアシスタントってやつか?」

「・・・・・・うん。良い画が撮れるように試行錯誤する。今はそれが何より楽しいんだ」

(コイツ・・・・・・・・・・)

「大切な時期に、んな事して大丈夫なのかよ。お前たちは勉強しなきゃ進学すら怪しいってのに」

「だって、信じてるもん。君のこと」

「あのなぁ・・・・・・・・」

「一花ちゃん見つけた!」

「ッ!クソが!」

 

一花の手を引いて路地裏をダッシュ出かける。

しかし、いざ出てみればそこにはあの髭オヤジ。気持ち悪い。

 

「君は・・・・・なんだ、君は・・・・・・君はこの子の何なんだ!?」

「コイツは俺の生徒だ!いい歳したオヤジがガキに色目使ってんじゃねぇ!」

(ガキって・・・・・・!?)

「い、色目なんてとんでもない!その子は大切な若手女優なんだ!」

「・・・・・・・は?」

 

確かにこの瞬間、時間が止まった。

 

「カメラで撮る仕事って、そっちのことかよ」

 

一花の顔を見ると、若干渋い顔をしていた。

 

 

✦‧✧̣̥̇‧✲゚✧✽*✼✼✽*

 

 

「行こう、一花ちゃん」

「おい、待てよ!」

「止めないでくれ。君の生徒を連れ回してしまったのは本当に済まなかったね。でも、一花ちゃんはこれから大事なオーディションがあるんだ」

「んな事知るかよ!一花、お前ら五人にとって花火は大切なもんじゃねぇのかよ!」

「・・・・・・あの子たちから聞いたの?」

「ああ、前にな。死んだお袋さんとの大切な思い出なんだって」

「・・・・・・・・・みんなによろしくね」

「一花ちゃん、急ごう。会場は近い、車でなら間に合う」

 

そう言って、一花は中年男と一緒に歩いていった。

輝は時計を見る。花火の打ち上げまであと15分。なら迷う必要などない。

 

「そうは問屋が卸さねぇぞ・・・・・・!」

 

輝はまた駆け出した。

 

 

✦‧✧̣̥̇‧✲゚✧✽*✼✼✽*

 

 

一花はバス停で車の迎えを待っていた。

本当は申し訳ないと思っている。

だけどーーーー

 

(私、弱いな・・・・・・・・・・)

 

一度決めた事に、揺らぎを感じている。

だが、やっとここまできたのだ。ここで諦めるわにはーーーー

 

「おい!クソ女ッ!」

「ッ!」

 

振り向くと、階段の最上段に肩で息をする輝がいた。

 

「あ・・・・・?あのオヤジはどこいった・・・・・・・?」

「車取りに行ってるとこ」

「そうか・・・・・・・・」

 

そう言って輝は一花の所まで行くと、持っていた紙袋を押し付けた。

 

「食いもん、持ってけ」

「えっ・・・・・・・・」

「なんも食ってねぇだろ」

「あ・・・・・・・・」

 

一花は紙袋を受け取ると、輝に向き直った。

 

ヒカルくん(・・・・・)、もう一度聞くね」

 

一呼吸置いて、輝の目を射抜くように見た。

 

「なんで、ただの家庭教師の君がそこまでお節介焼いてくれるの?」

「パートナーだからに決まってんだろ、ぶち殺すぞ」

「ーーーーー」

 

その力強すぎて、最後が犯罪予告になりつつある言葉に一花は笑みを浮かべ、輝に一冊の本を差し出した。

 

「あ?何だこれ・・・・・・・」

「台本。半年前に社長にスカウトされて、この仕事に就くことが出来たんだ。それからちょくちょく名前のない役をやらせてもらってた。結構大きな映画の代役オーディションがあるって教えて貰ったのがついさっき。いよいよ本格的にデビューかもってとこ」

「それがお前のやりてぇことか」

「そう!せっかくだから練習相手になってよ。相手役がヒカルくんね」

「しゃーねーな」

(何だかんだ言って、付き合ってくれるんだ)

 

『あぁ!?教科書みてぇだなおい!』と文句を垂れながらパラパラ台本をめくる輝にページを指定し、そこを開かせる。

 

「うし、行くぞ」

「うん。お願い」

「あーっと・・・・・・・卒業おめでとう」

「先生、今までありがとう」

 

それはよくある学園モノの映画で、クライマックスの感動の卒業シーンだった。

 

「あなたが先生でよかった。あなたの生徒でよかった」

「・・・・・・・・・」

「あれっ?もしかして私の演技力にジーンときちゃった?」

「寝言は寝て言え、はっ倒すぞ」

「ですよねー」

 

すると、遠くから一台の車が走ってくるのが視界に入った。

 

「あ、社長の車だ。じゃあね、私行くよ」

「これだけでいいのかよ」

「うんっ。とりあえず、役勝ち取ってくるよ」

「ーーーーーおい」

 

輝が一花の頬を思いっきり挟んだ。

 

「お前、演技の才能ねぇだろ」

「ヒカルくんはちょっと遠慮って言葉を覚えよっか」

「うっせぇよ。んな事より、その作り笑いやめろ」

「ははは・・・・え・・・・?」

「余裕あるフリして、なんであの時震えてたんだよ。カマトトぶんじゃねぇ」

「・・・・・・・・」

 

それは路地裏で抱き合っていた時の事を言っているのだと理解するのに時間は掛からなかった。

 

「ーーーーこの仕事を始めて、やっと長女として胸を張れるようになれると思ったの。一人前になるまであの子たちには言わないって決めてたから。花火の約束があるのに、最後まで言えずに黙って来ちゃった。これでオーディション落ちたら・・・・・・・みんなに合わす顔がないよ」

「まだ受けてもねぇのに勝手に決めつけてんじゃねぇ」

「へぇ・・・・・・・てっきり怒るかと思ったのに・・・・・・・・」

「怒らねぇよ。お前がやりてぇ事ならやれるとこまでやってみりゃいい」

「ヒカルくん・・・・・・・」

「生徒の背中を押すのも、教師の務めってヤツだ」

 

確かにその時、

トクンーーーー

と、一花の胸が跳ねた、輝の笑顔を見て。

 

「一花ちゃん、何やってんの!早く乗って!」

「は、はーい」

「気張って行けよ!一花ァ!勝ち取ってこい!」

「・・・・・・・・っ! うんっ!」

 

そう言って、一花は車に乗り込み去って行った。

夜空を彩る大輪の花。それはまるで、彼らの未来を暗示しているようだった。

 

「ーーーーーー」

 

一花は車に揺られながら、渡された紙袋をさらに抱きしめる。

 

『食いもん、持ってけよ』

『生徒の背中を押すのも、教師の務めってヤツだ』

 

額に僅かに浮かぶ汗、上気する頬。

あんなになるまで自分を探してくれたと思うだけでも胸がいっぱいになりそうだった。

それに最後のあのエールとも取れる言葉ーーーーーどうやら彼は、女の子を本気にさせるのがお得意のようだ。

 

「ふふ・・・・・・覚悟してよね、ヒカルくん・・・・・・」

 

そっと瞼を閉じた。

 

「へっクシ・・・・・・!あぁ、誰か噂してんのか・・・・・・・?」

 

当の本人はまだ気づかない。

 

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

 

 

次回予告

 

異例のカリキュラム変更による二学年全組対抗のバスケットボール大会が開催される。野蛮の集団、輝たちのクラスは血気盛んに意気込む中、とある姉妹の中でも新たな戦いの狼煙が上がる。

 

「かちこみじゃぁぁぁぁあ!」

 

叫ぶ武田ーーー!

 

「他のクラスの奴なんざ素数にしてやるぜぇ!」

 

ほざく田嶋ーーー!

 

「アイッアムアッペェェェン!!」

 

吠える小野寺ーーー!

 

「この時の私の気持ちを答えなさぁぁぁい⤴︎︎︎!!」

 

どうした山田ーーー!

 

次回

 

とある学校の全組対抗(クラスマッチ)

 

目覚めろ、その魂ーーー!




ヘシンッ!
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