触りたがりだから、実は…って単純な理由。
ラウラは、目を覚ました。
「ここは…。」
「目が覚めたか?」
「きょうか…。」
「織斑先生だ。」
「…織斑先生。私は…、っ!」
「無理に動くな。体に相当な負担がかかっている。打撲と筋肉疲労…。二、三日は安静にしてろ。」
「はい…。あっ。」
ラウラは、離れた位置にある隣のベットに、一夏が寝ているのに気づいた。ここは、保健室だった。
「なぜ彼が?」
「ああ…。日頃の寝不足と疲労が溜まっていたらしくてな。あの後、眠ってしまって、今休ませてる。」
「なにが…あったんですか?」
「……本来は機密だが…。」
それから千冬は、大きな声で言えないことをラウラに説明した。
シュヴァルツェア・レーゲンに、条約で禁止されている技術であるVTシステムが積まれていたらしく、それが発動してラウラが支配され、暴走したが、それを一夏が止めたのだと。
「そうですか…。」
「このことでドイツは責任を追及されるだろう。シュヴァルツェア・レーゲンも、最悪凍結されるかもしれん。」
「…仕方ありません。」
ラウラは、ふうっと息を吐いた。
「そうなれば、私は除隊でしょうか?」
「そうはならんだろう。お前は何も知らなかったのだ。」
「ですが…。」
「お前じゃなく、VTシステムの研究者と研究所の首が飛ぶだろうがな。」
それを指揮していたであろう、ドイツ国家機関も逃れられんだろうなと、千冬は腕組みして言った。
「う~ん…、箒~、めし~。」
「一夏。何を寝ぼけている?」
「う? 千冬姉?」
一夏が起き上がり、ぼんやり顔で周りを見回した。
一夏は、ラウラが自分を見ているのに気づいた。
「おう。ボーデヴィッヒ。だいじょうぶか?」
「ああ…。体が痛むが問題ない。」
「ラウラのことを心配するのはいいが。一夏、お前もいい加減自分の身を省みろ。」
「えっ?」
「疲れが溜まっているだろう? あの後、すぐに寝たのを忘れたのか?」
「あ…う…。」
「己を鍛えるのはいいが、加減を知れ。体を壊してしまっては意味がない。」
「ごめん…。」
一夏は、シュンッと落ち込んだ。
「織斑一夏…。ありがとう…。私を助けてくれて。」
「ん? ああ。」
「これからは、ラウラと呼んでくれないか?」
「分かった。俺のことも、一夏って呼んでくれていい。」
「いいのか?」
「織斑先生と被るだろ?」
「分かった…。」
ラウラは、嬉しそうに微笑んだ。
「一夏ーーー!」
そこへバーンッと保健室の扉が開かれて、箒が入って来た。
すかさず千冬が出席簿でスパーンと箒を叩いた。
「他に休んでいる生徒がいたら、どうする気だったんだ?」
「す、すみません。」
「おう、箒。」
「一夏! だいじょうぶか!?」
「ああ。ぐっすり寝たら治った。」
「胸の傷は!?」
「これくらいかすり傷だって。」
「バイ菌が入ったら大変だぞ!」
「安心しろ。ちゃんと消毒して治療した。それに切られたと言っても、ほんの皮膚の表面だ。血も出ていない。」
心配する箒に、千冬が言った。
千冬の言葉を聞き、そして、一夏の胸の傷の具合を見て、箒はホッとした。
ラウラは、ジーッと箒を見ていた。
「ラウラ。」
千冬が言った。
ラウラは、ハッとして千冬を見た。千冬は首を横に振る。
ラウラは、再度箒を見た。箒は泣きそうな顔で一夏と会話している。一夏はそんな箒を慰め、そして豪快に笑った。実に仲が良さそうだ。羨ましくなるほどに…。
気がつくとラウラの目に涙が浮かんでいた。
「ラウラ…。お前にもいつか春が来るだろう。」
「はい…。」
「あ、そうだラウラ。」
「な、なんだ?」
一夏から急に話を振られてラウラは戸惑った。
「お触りの件だが…、まあ別にいいぜ。触るぐらいなら。」
「ほ…本当か!? ぐぉ!」
それを聞いて目を見開き飛び起きたラウラは、全身の痛みに呻いた。
「ただし触るだけだぞ。それ以上はダメだからな?」
「う…。」
言われてラウラは、ドキッとした。少しでも一夏とお近づきなれればなんて…少しだけ夢見なかったと言ったら嘘になるのだから。
だが一夏にはすでに箒という存在がいる。自分が入り込む余地はないのだ。そう思い知った。
一夏は、そんなラウラを見て、苦笑する。
ラウラは、自分の気持ちを見透かされてしまったと思い、顔を赤くした。
箒は二人の様子を見て首を傾げていた。
そして、二、三日後、体の痛みが取れたラウラは、復帰する。
それと、ラウラの専用機、シュヴァルツェア・レーゲンのことだが、コアは無事だったため、IS学園にある部品で補強して再び使うことが許された。
***
学年別タッグトーナメント戦は、事故(※ドイツの条約違反によるもの)により中止。
だが今後の個別の能力値を計るため、一回戦だけはやるということになった。
「私は、結局何も出来なかった…。」
「ん?」
「お前と戦い、私が守られてばかりの女でないことを示したかったのだが、結局はボーデヴィッヒの足を引っ張っただけだった。」
「今回はタッグなんだから、仕方ねぇよ。」
「しかし、あの一撃は本当に凄まじいな。」
「ピストル拳のことか?」
「まともに受けなかったとはいえ、シールドエネルギーの半分以上は削られた。生身で受けたら確実に死ぬぞ。アレは。」
「だろうな。」
「まさか…実際に人間を粉砕したとか…?」
「してない。まだやってねぇよ。」
「やるな!」
「車ぐらいは粉砕はしたけどな。追っかけられたから。」
「そうか…。って、まさか命を?」
「分からねぇ。ただ良くない気配を感じたんでな、誘い込んでぶっ壊してやった。」
「そ、その後は!?」
「別に咎められたりはしなかったぜ。たぶん、女性権利団体か、IS関連の過激派だったかもな。」
「無事で、よかった…。」
「殺されてたまるかよ。でも…、ま、ここ(IS学園)も安全地帯とは言えないかも知れねぇけど。」
「どういうことだ?」
「ほら。」
一夏が顎をしゃくって示す。
箒がそちらを見ると、数名の女子生徒と教員が慌てて逃げていったのが見えた。
「過激派ってのは、どこにでもいるもんだろうな。」
「!?」
「落ち着け、箒。」
「しかし!」
「ああいうのは、向こうから手を出してきたら反撃すればいい。こっちが手を出したら思うつぼだ。」
「…分かった。」
「よしよし。」
俯き拳を握る箒の頭を、よしよしっと一夏が撫でた。
「一夏ーーーー!」
すごい速度で走ってきたラウラが、一夏に後ろから抱きついた。
そしてグリグリとほっぺたを一夏の背中に擦りつける。
「ああ…、素晴らしい背筋だ…。」
「こら、ボーデヴィッヒ! 一夏が許したからって、図々しいぞ!」
「触るだけだ。それ以上はせん。」
「む、ぐぐ!」
そう言われたらそれ以上言えなくなる箒。
「箒。」
「い、一夏。」
「俺は、お前のモノだ。」
「!」
背中にラウラをくっつけた状態で真顔でハッキリと、一夏がそう言った瞬間、箒は目を見開いてダーッと泣いた。
「泣くことないだろ?」
「だ、だってぇ…。」
えっぐえぐと、子供のように泣く箒の頭を、一夏はよしよしと撫でたのだった。
でも結局は、一夏と箒の当て馬?
箒、第一、一夏さんです。