一夏は、大きなため息を吐いた。
入学しなければ、強制的にモルモット……。
そんな選択肢を出されれば、入学を取らざるをえない。
世界初の男のIS装者。
それが今の一夏の肩書きだった。
まさかこんな形で、今の世界の風潮の元凶となったモノに深く関わることとなるとは……っと、再びため息を吐いた。
「まいったな……。」
教室に入ってからの女子達からの好奇の目線は別に構わない。なにせ、ここはIS学園。本来は女子学校なのだ。そこに男が紛れ込むこと自体おかしいのだ。
今一番困っていることは、この学校の教員として働いている、実の姉・千冬のことだ。
「うむ。一夏。ますます肉体に磨きがかかっているようだな?」
「おう。あったり前だ千冬姉。」
「私は感動しているぞ! おまえの努力に!」
お互いのスケージュールの都合で数ヶ月ほどまともに顔を合せられなかったため、久しぶりに顔を合せ、一夏の成長に感涙している千冬に、一夏は苦笑した。
モンド・グロッソというISの大会で、一夏は、千冬の優勝を妨害しようとした者達により誘拐されたことがあった。
辛うじて助かったものの、助けに来た千冬が優勝を棄権するという事態になった。
しかし、それでも千冬の実力と人気は凄まじいモノで、同級生の女子達が、千冬様、千冬様…っと、まるで神のように崇められているのだ。
表面上は、クールに振る舞っている千冬だが……蓋を開ければ、ただのブラコンだ。
誘拐事件以来、過保護にはなっていて、一夏が独り立ちさせてくれと言ったときは、号泣されたほどだ。
そんな千冬の真の姿のことを口に出せないので、姉に持つ一夏を羨み、妬む視線や言葉に否定を出せなかった。……言ったところで信じるかどうかも微妙なところであるが。
ところで…、教室に入ってから、懐かしい匂いを感じていた。
鼻も鍛えている一夏は、人より鼻がいい。
この匂いの正体はなんだろうと、教室を見回すと、ふいに、プイッと顔を背けたポニーテールの少女がいた。
やがてチャイムが鳴り、クラス担任の千冬と、副担任の山田が入って来た。
そして、生徒達それぞれの自己紹介をすることとなり、織斑という名であるため早い段階で出番が回ってきた一夏は、重い腰を上げて、教卓の前に来た。
「織斑一夏だ。名前の通り、担任の織斑先生とは姉弟にあたる。だからといって、公私混同はしないつもりだ。もう知っての通りだが、不注意でISを動かしちまって、この学園に来たが、できたら仲良くなりたいと思っている。趣味は筋トレ。嫌いなことは曲がったこと。特に、虐めは嫌いだ! 特技は……。」
すると、一夏は、バッと上半身の制服を全部脱いだ。
びっくりする生徒達や千冬達を後目に、一夏は、リミッター解除をして筋肉を膨張させた。
「筋肉を自在に操る筋肉魔法! 以上!」
様変わりした姿でムキッとポージングを取った瞬間、キャーっとか、ギャーっと生徒達から悲鳴が上がった。顔を赤面させたり、青くしたり反応は色々だ。
「この馬鹿もんが!」
後ろから千冬が出席簿で一夏の頭を叩いた。
「なんだよ? 織斑先生。」
「年頃の娘達の前で裸になるバカがどこにいる!」
「ここにいる!」
「堂々と言うことじゃない!」
叩かれても全然痛くない一夏は、ケロっとした顔で堂々と言うので、プルプル震えた千冬が顔を赤くして怒った。
なお、副担任の山田は、赤面した顔を両手で隠していた。
その間に、一夏は、自分向けられる悲しそうな視線を感じて、生徒達がいる方を見た。
すると、またあのポニーテールの少女が顔を背けていた。
「あ……。」
その横顔には、見覚えがあった。
***
全員の自己紹介が終わり、またチャイムが鳴ると、一夏は、教室から逃げるように出て行ってしまったポニーテールの少女を追いかけた。
「待ってくれ!」
「っ…。」
「ほうき…。」
「いち…か…。」
廊下で腕を掴んで止めて名を呼ぶと、ポニーテールの少女…、篠ノ之箒は、ゆっくりと振り向いてくれた。
その目には涙が浮かんでおり、顔を紅潮させている。
「………………久しぶりだな。」
「……ああ。ああ!」
ブワッと涙を零した箒が、一夏に抱きついた。
「会いたかったぞ、一夏!」
「俺だって!」
一夏は、箒の体を抱きしめた。
「背ぇ、伸びたな…。髪も伸ばして…。」
「そっちこそ、ますます肉体に磨きがかかってるな。すごかったぞ!」
「おおよ! 鍛えてるからな!」
「一夏…一夏…。」
「箒…。俺、正直ここ(IS学園)に来て、あーめんどくせぇって思ってたけど、撤回するわ。箒に再会できたんだから。」
「私も…、ここに来てよかった…。篠ノ之束の妹だからと、強制的にココに来らざる終えなかったのだが…、私は、今、人生で一番幸福だぞ!」
「なあ、箒……、頼みがあるんだ。」
「私の方こそ……。言いたいことがある。」
「あのな……。また付き合い直してくれないか?」
「それは私の台詞だ!」
「いや…か?」
「そんなことはない! 喜んで!」
箒はこれ以上ないほど幸せだと笑った。
「箒!」
「一夏!」
「このバカップルどもが! 予鈴が鳴っているぞ、教室に入れ!」
多くの野次馬をかき分けて、千冬が赤面しながら、二人の頭を出席簿で叩いたのだった。
6年も離れてたら、成長と共に姿も匂いも変わってるはず。
すぐに箒の存在を認識できなかったのはそのため。
千冬は、一夏が箒と好き合っていたことは知ってます。