でも、扱いが軽い? 酷い?
今回の騒動は、臨海学校の中止を呼びかけられるほどに重大なことであった。
しかし、IS学園の重要行事を止めるわけにいかず、予定通り行事は行われることになった。
臨海学校の宿泊先に行くための乗り物は、爆発物などの仕掛けがないか、徹底的に調べられた。もちろん道中も警戒は怠らず。なので今年の臨海学校はかつてないほどの厳戒体勢で出発となった。
だが、それでも臨海学校を楽しみにしている生徒は多く、一夏達のように水着を新調したりして、バスの中で、キャッキャッとしている姿が見受けられた。
一夏は、ドッシリと座り、腕組みして窓の外を眺めていた。
「一夏?」
「……嫌な予感しかしねぇな。」
「気を張りすぎだ。」
「過激な連中のこともだが…、なんかそれ以上に…会いたくない相手がいそうで…。」
「あいたくない?」
「箒も用心しとけ。」
「なんだ? 私と因縁がある相手が来ると?」
「……念のためだ。」
一夏はそういうと、再び窓の景色を見つめた。
箒は、そんな一夏の様子に、自分自身も大きな胸騒ぎを感じ始めていた。
***
臨海学校は、三日間。
宿泊施設である海に面した旅館に、何事もなく到着した。
バスから降りた一夏や、他の生徒達。
そして、旅館の女将さんの挨拶の後、部屋割りとなった。
「俺、織斑先生と?」
「そうだ。……念のためだ。」
「分かった。」
臨海学校開催中に、何が起こるか分かったものじゃないため、護衛をかねて姉の千冬と同室となったのだが、一夏は素直に頷いた。
箒は、名残惜しそうにしていたが、仕方ないと納得し、自分に割り振られた部屋に荷物を運んだ。
「泳ぎに行きたければ自由にしろ。初日は自由行動だ。」
「分かった。箒~。」
「な、なんだ?」
「泳ぎに行かね?」
「! わ、分かった。待っててくれ!」
「更衣室は、別館だ。」
千冬はそう言い部屋に入っていった。
一夏は、箒と共に着替えと水着を持って別館へ向かった。
なのだが……。
「一夏…。」
「無視だ。」
「一夏…。」
「無視無視。」
不安げに一夏の名を呼ぶ箒に、一夏はそう言って首を振る。
そして二人は、道ばたに埋まっている“ウサ耳”を無視して通り過ぎる。
「……ひどいよおおおおおおおおおおお!!」
道ばたに埋まったウサ耳が飛び出してきた。
いや正確には、ウサ耳を付けた女性が現れたのだ。
「…チッ。」
「舌打ち!? 酷いよって、イッ君!」
「あーあ…。あんたを目にしなければ、殴らずに済んだのによぉ?」
一夏は、立ち止まり拳を握ると、ウサ耳女性に拳を振るった。
「なんの!」
ウサ耳女性は、背中のジェットで一瞬にして距離を取った。
「チッ! 大人しく殴られやがれ、束!!」
「ひっどいよぉ! 昔みたいに束姉って呼んで~?」
ウサ耳女性……、改め、篠ノ之束が、うぇ~んとわざとらしく泣き真似をしている。それが余計にイラッときた。
「姉さん…。」
「やっほー。箒ちゃん! 君のお姉ちゃんの、束さんだよ~!」
「歯ぁ、食いしばってください。」
「ぅきゃーーー! 箒ちゃんまでーーー!」
竹刀を出して、束を追い回す箒。束は、ヒョイヒョイ避けながら逃げる。
騒ぎはやがて、二人と同じく更衣室に向かっていた生徒達に知られ、人だかりができる。
「束!」
騒ぎを聞きつけた千冬が叫んだ。
「やっほー。ちーーーちゃーーーん!」
「死ね!」
「ひっどいよぉ!」
千冬が出席簿で殴ろうとしたため、束はすぐさま逃げた。
「冗談だ。そして、何の冗談でここに?」
「なんか束さんの扱い酷くない!?」
「誰の…。」
「せいで…。」
「んぎゃああああああああ!!」
背後から一夏と箒に捕まり、束の悲鳴が木霊したのだった。
***
十数分後……。
束は、シクシクと膝を抱えて泣いていた。
「いい加減泣き止め、大人だろ。」
「だってぇ、だってぇ…。」
えっぐえぐと泣く束の様に、千冬はため息を吐いた。
「それで? 何をしに来た? ただで来たわけではないのだろう?」
「そうだよ!」
急に立ち直った束が立ち上がり、クルッと振り向く。
「箒ちゃんに、スペシャルプレゼントがあるんだよーーー!」
「いらない。」
「えっ? そう? 嬉しい? ………………あれ?」
束は、表情を凍らせ、小首を傾げた。
箒は、至って真面目な顔である。
「どうせ、私に専用機を押しつけに来たのでしょう?」
「よく分かったね? そうだよ~、箒ちゃん専用のピッカピカの新品! 名付けて紅椿(あかつばき)!」
「いらない。」
「どうしてーーーー!?」
束はあり得ないと声を上げる。
「ねえ、箒ちゃん、冗談で束さん言ってるわけじゃないよ? 本当に本当に用意したんだよ? 箒ちゃんきっと喜んでくれるかな~って、喜ぶ顔想像しながら夜なべして作ったんだよ? 誕生日プレゼントだよ、ほら!」
「いりません!」
待機状態の紅椿を無理矢理渡そうとして、箒にたたき落とされた。
「私が欲しいのは、ISじゃありませんので!」
「じゃ、じゃあ何が欲しいの? 束さん分かんない…。」
「……包丁とまな板…。」
「えっ?」
恥ずかしそうに、そう呟いた箒の言葉に、束は、自分の耳を疑った。
「その…、一夏に料理を振る舞うのに…、新しい包丁とまな板が欲しくって…。」
「な~んで、そんなつまらないもの!」
「つまらない? 妹が欲しいものひとつ分からない人が姉だなんて思いたくありません。」
「ガーン!」
「おお、言うな箒。」
ズガーンっとショックを受けた束の様に、一夏は愉快そうに笑い、腕組むした。
「イッ君…、相変わらず身体なんて鍛えて、何が楽しいの?」
「楽しいさ。分からないだろ? 引きこもって、努力のドの字も知らない天災様にはな。」
「そう! 束さんは、天災なのさ! イッ君の白式も見てあげ…。」
「ああ。そのことなんだが…。近いうちに白式を凍結して、量産機のISに切り替える予定になっている。」
「どうしてーーーーーーー!?」
千冬の言葉に、束が再度叫んだ。
「一夏の身体に、白式が合っていないのだ。このままでは、一夏の力の半分も出せん。だから汎用性の高い量産機を調整する予定だ。」
「えっ、まさか…! イッ君! 白式見せて!」
束が、一夏が一応持っていた白式の待機状態であるガントレットを渡した。腕に付けるものだが、腕が太いため、付けずに腰に引っかけていた。
「いやあああああああああああああああ! なにこれなにこれ!? この程度の稼働時間じゃ…第二形態移行すら…。しかも、なにこの…亀裂…?」
「だって、窮屈すぎて、使おうにも使えねぇんだもん。亀裂はたぶん、俺がリミッター解除をしようとして、ギチギチいってた影響か?」
「そんな馬鹿な! ISは、使用者の体型にも合うようにコアがきちんと計ってぴったりはまるようにしてくれるのに…。まさか…そんな…、白式のコアの計算力を越える肉体の強さだなんて!?」
「その通りだ。雪片に容量を食われている白式では、一夏の肉体にあまりにも合わないんだ。…諦めろ。」
「うっそだーーー、ドンドコドーーン! んぎゃっ!」
「作品が違う!」
「何の話だ?」
「さあ?」
コントみたいなことしてる束と千冬の様子を見て、箒と一夏が顔を見合わせたのだった。
束は、ギャーギャーと、信じられない、そんなことあり得ないっと、叫んでいて、野次馬の生徒達からヒソヒソされていたが、気づいているのかいないのか…分からなかった。
「どうでもいいが、海行っていいか?」
「ああ、行って良いぞ。」
「無視しないでーーーーーー!!」
束を放っておいて、更衣室へ行こうとする一夏と箒の後ろから、束が泣きながら飛びついたのだった。
ウサギは放っておくと死ぬって、誰が言ったんだ?
かまってちゃんな束。黒いか白いかは決めてない。
白式、涙目な感じに実は話が進んでいた回でした。白式を凍結して、量産機のISを使おうという流れになっていたということで。
このネタの箒は、力を望んでおらず、あくまで一夏の伴侶になりたいとだけ考えています。紅椿、涙目?
次回あたり、福音かな?