違うんです。
今回は、出撃編?
束アンチかも。注意。
次の日。つまり臨海学校の二日目。
専用機持ち達は、大忙しだった。
なにせ、それぞれの所属国から大量のISの装備が送られてきているのだ。その運用データを取るため、丸一日使う。
……っというか、一日だけで足りるのか?ってぐらい送られてきた者もいる。
IS装備が積まれたコンテナの山を見て、ガクーンっと項垂れているその姿には、さすがに同情する。
しかし、限られた総数しかないISを使う身。代表でなくとも、その候補生だ。弱音を吐いてはいられない。項垂れていた者もすぐに気を取り直して、作業に移った。
箒は、ふと、一夏の様子がおかしいことに気づいた。
「どうした、一夏?」
「なんだろ…?」
「えっ?」
「嫌な予感しかしねぇ…。」
「ちーーーーーちゃーーーーーーーーん!」
そこに束が走ってきた。
しかも泣きながら。
「どうした?」
「あの…えっと…。」
束が狼狽えている。あの自分が興味あること以外には無関心で、天災などと言われるほどの天才が、涙を流し狼狽えている。
「…た、助けて…。」
「えっ?」
「織斑先生!」
顔をしかめる千冬のもとへ、他の教員が駆けつけた。
そしてナニかを伝える。途端、千冬は目を見開いた。
それから千冬は、周りを見回してから、IS装備のテスト稼働中止の知らせと、特殊任務が入ったことを伝え、一夏を含めた専用機持ちに集合をかけた。
専用機を持たない他の生徒達は、割り振られた旅館の部屋で待機となった。
混乱が広がる中、千冬が室外に出たら懲罰すると言い渡し、強制的に落ち着かせ黙らせ、専用機持ち達以外を待避させた。
「篠ノ之、お前も来い。」
「なぜです?」
「箒ちゃん…、お願い…。」
「姉さん?」
涙を浮かべて震えている束に、箒は訝しんだ。
***
非常事態の全容を簡潔にまとめると……。
アメリカの軍用IS・銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)が、突如暴走し、日本に向かって飛んできているということだった。
装着者であるナターシャの状態は不明だが、おそらくは意識がないだろうとのことだった。
飛行経路からして、このままだと今臨海学校が行われている旅館の上を通過する予定なので、現地にいるIS学園の総力を挙げて止めて欲しいという緊急任務が入ったのだ。
説明中も、同じ室内にいる束が、エッグ、グスンっと泣いていた。
「あの、織斑先生。なぜ、束博士が泣いているのですか?」
「それは…。」
「違うの違うの! こんなはずじゃなかったの!」
束が子供のように泣きわめきながら言い始めた。
まとめるとこうだ。
一夏のIS・白式を第二形態に移行させることと、箒に紅椿を受け取って貰うため、銀の福音を使い戦いの舞台を作ろうとしたが、細工中に何者かの横槍が入り、束の制御を離れ、銀の福音が暴走を始めてしまったのだと。
「あんたって人は…。」
一夏は、怒り半分、呆れ半分で頭を押さえた。
「って、ことは、銀の福音は、コアネットワークをぶっちぎって単独で動いてるってことですか? どうにかならないのか? ISはあんたの作品だろ? 束博士?」
「やったよ! やったけど、他のISコアを守るので手一杯で…!」
「どういうことだ?」
「分かんない! けど、あれは、ウィルスとは違うよ! ナニか…別の何かの意識がくっついてて、他のコアまで支配しようとしてた! コアネットワークを切らなかったら、今頃世界中のコアが“アレ”に奪われてたよ!」
「なにかのイシキ?」
束ほどの天才にあるまじき、曖昧な答えに、一夏達は顔を見合わせた。
「ネットワークに直接ダイブして、直接叩こうとしたけど…、そしたら逆に食べられかけて…、ネットワークを切るしかなかった! ねえ、お願い! 銀の福音を助けて! あのままじゃ、日本を壊したら、他の国まで壊しに行っちゃうよ! 束さんのISを怪物にしないで!」
「助けるって言ったって…。」
「ようは、ぶっ壊せってことだ。」
困惑する一夏達に、千冬がそう言った。
「武装をすべて破壊するなり、コアを機体から切り離せばなんとかなるだろう。」
「けど、装者は?」
「……最悪の事態は想定しておけ。」
つまり、銀の福音を装着している現状のIS装者を見捨てることも考えておけということだ。
「最悪だぜ…。」
一夏は、ジトッと束を睨んだ。
束は、ビクッと震え上がって涙をまた流した。
束がコアネットワークを介して、戦いの舞台を作ろうとする細工などしなければ起こらなかったことだろうから。
おそらく、束もまったくの想定外のことであっただろう。横から何者かが入り込んでくるなどとは……。
束の力でも及ばない、その介入者が何者なのかは今は置いておくしかない。今は、やるべきことがある。
「ですけど、織斑先生、いくら暴走状態とは言え、単独で動き続けていれば、いずれエネルギーが尽きるのでは!?」
「それが…。」
「分かんないの! 今の銀の福音は、エネルギーがまったく尽きる気配がなくって…! まるで支配している奴からエネルギーを受け取ってるみたいに見えて…。」
あり得ない事態だった。いくら絶対防御などのオーバーテクノロジーを抱えた逸品とはいえ、限界はある。なのに、その限界がないというのはおかしい。
エネルギーを尽きさせて、行動不能にさせるという作戦は通用しないと分かり、こうなっては、本当に破壊して止める以外にないということだ。
「ですが、エネルギーが尽きないということは、シールドエネルギーも尽きないというこでは!? どうやって絶対防御を突破すれば?」
「そこで、白式だ。」
「ああ…。」
一夏はすぐに思い至った。
「白式のワンオフアビリティである、零落白夜は、絶対防御を突破し、本体を攻撃することができる。ただし、白式のシールドエネルギーを消費するがな。」
「じゃあ、一夏が唯一の手段ってことね。」
「けど、失敗した場合は? 回避されてエネルギーを無駄に消費した場合だ。」
「そこで、紅椿だ。」
「紅椿が?」
「紅椿の仕様だが。これの単一仕様能力に、エネルギーの倍加能力がある。これを使えば、残り少ないエネルギーを一時的だが、フル状態にできる。これを使い、エネルギー提供を行えば、多少は戦闘時間を長引かせられるだろう。しかも、本来ならシンクロしなければできないエネルギー提供を接触しただけで行えるのも大きい。」
「もしかして…。」
「そうだ。箒。紅椿は、おまえのデータに合わせて作られている。おまえじゃなければできないのだ。」
「…結局、あなたの思い描いたとおりになるわけですね?」
「違うの違うの…。こんなの、束さん望んでない…。」
「箒。そのことは後回しだ。」
「一夏…。」
「織斑先生。日本政府は、この一件を学生に委ねるってことか?」
「唯一の攻略手段である白式がこちらにある以上、やむを得ん。それに、時間が無い。」
「分かりました。」
「…すまん。」
「やるしか…ないぜ。」
「先生。私達は?」
「お前達も、援護として回って欲しい。唯一の突破口となる二人を守ってくれ。二人のどちらかが倒れてもダメだ。それに、場合によっては、紅椿にエネルギー提供をして倍加させることもできるだろう。」
「はい!」
鈴達は、声を揃えて力強く返事をした。
「覚悟は良いか? では、これより銀の福音のデータを開く! 決して口外するな!」
そして、銀の福音のデータが開示された。
相手は、軍用として開発されたIS。
アメリカ側は全てを公開できなかったらしく、オールレンジ攻撃が可能なことと、攻撃、防御両方が可能なタイプであることしか分からなかった。鈴達はせめて偵察だけでもと意見を出したが、現行の銀の福音の速度では、一回が限界だろうと言われた。
しかも、旅館の上空まで来るまでの時間は、わずか50分。
「やっぱ、一撃で落とすしかないのか…。」
「国内にある全ISや自衛隊も動く予定だが…。」
「被害を最小限に抑えるには、俺と箒にかかってるんだな?」
「…すまない。」
千冬は、辛そうに顔を歪め頭を下げた。
「束博士。」
「ひぅ…!」
「…この戦いが終わったら、横槍を入れてきた敵の解析をしっかりやってくれよ?」
「わ、分かってる!」
「頼むぜ。」
「では……、作戦を開始する!」
千冬の号令により、銀の福音撃破の任務が始まった。
***
急ピッチで、箒が紅椿の最適化を行い、装着した。
「…ああ、腹が立つほど馴染むな。」
「箒に合わせて作られてるなら、当たり前だろうな。」
「では、作戦通り、箒は紅椿で一夏を乗せて飛べ。一夏は、白式のエネルギーを温存しろ。」
「了解!」
「各自、出撃の準備は整っているか!?」
「はい!」
鈴達は、それぞれ専用機の準備を整え、いつでも出撃できるようにしていた。
束は、自身の豊かなバストの上で祈るように手を組んでいた。
「では、武運を祈る!」
「はい!」
一夏達は、力強く返事をして、出撃した。
『ふふふふ…、待ってるよ。』
「!?」
「き、聞こえた…か?」
ISのチャンネルから聞こえたのは、無邪気な悪意を孕んでいるような、男の声だった。
「こ、コアネットワークを切ってるのに!? 誰だよ!? お前、誰だよ!?」
束が喚いた。
しかし、返事はなかった。
千冬は、汗を垂らしながら、出撃した一夏達が無事に戻ってくることを祈った。
「一夏! いたぞ!」
「あれが…銀の福音か…。」
ハイスピードで空を飛んでくるソレは、まさしく、天使。
軍用ISなどという分野でなければ、本当に美しい…、銀色のフルスキンのISがいた。
『ふふふふふふ…。さあて…、この宇宙の君達は、“こっちの君達”とはどう違うのかな?』
謎の男の声は、間違いなく銀の福音から聞こえていた。
別連載している、インフィニット・ストラトス作品のアイツなら、これくらい出来るかも……。
なぜそんなことをしたのかは、後々。
次回は、アイツに支配された銀の福音との戦闘。