鈴、オカンぶり発揮。(?)
銀の福音のコアに張り付いていた謎の生物の細胞の解析のため政府に提供をしろと、千冬が束に言ったが、束はそれを拒否し、手早く機材を撤収させると、ロケットで逃げて行ってしまった。
しかし、残った銀の福音の機体にも細胞が僅かに残っていて、機体ごと解析に回すこととなった。
一夏達の知るところではないが、銀の福音を開発したアメリカと、被害を被った日本側で解析の権利の所在でかなりもめたらしい。そりゃ、開発したアメリカ側は、機体の構造や積んでいる兵器の秘密を知られたくないし、日本側は攻撃をして来た敵の正体を知りたいし……、そしてアメリカが謎の細胞を悪用しないという保証もないとして、互いの主張は平行線だったらしいが、それは、別の話である。
波乱の臨海学校は、終わった。
IS学園に帰った一夏達は、やがて夏休みを迎える。
「あっつぅ…。」
「これぞ、日本の夏。」
「暑苦しいから、ちょっと離れてよ。できれば視界に入らないで。」
IS学園内のグラウンドでだれる鈴が、大汗かいて元気にトレーニングに励む一夏にそう悪態を吐いた。
日本の気温と湿度にやられ、世界中からやってくるIS学園の生徒達の大半は、夏休み期間中は帰っている。一夏に言わせれば、軟弱!らしい。
「何を言うか、凰! 夏は汗をかていこそだぞ!」
「あんたは、一夏に感化されすぎよ。」
同じく大汗かいてる箒に、鈴は呆れて言った。
「箒、鈴、しっかり水分補給だけはしろよ。ただの水じゃダメだ。ミネラルの入ったスポーツドリンクをしっかりとな。」
「分かってる。」
「言われなくても分かってるわよ。」
一夏を見れば、トレーニングと気温でかいた汗で濡れていた。
太陽の下、汗がきらりと光っているようで、程よく日焼けた肌に、なんて…汗の似合う男だろう…っと妙な感想が思い浮かぶ。それもこれも、無駄なく鍛えられた筋肉によるものだ。完成された形があるからこそ、それ以外が輝くためのスパイスとなる。
ところで。
「白式は、これからも使うことになったのね?」
「白式ってか、雪羅(せつら)だ。」
一夏は、腕に付けている、待機状態のIS・雪羅を見た。相変わらずのガントレット型だが、まったく邪魔にならない。
収縮性を持ったガントレットとなった白式は、セカンドシフトをしたことで、ナックル型の新武装を備え、さらに、遠距離攻撃手段として荷電粒子砲・月穿(つきうがち)が付いた。
白式改め、雪羅は、真の意味で一夏の専用機となった。
これまで、唯一の武装である雪片に依存し、拘束具にしかならなかったISが、これまでの短い一夏に装着時間による交感により、コアが一夏に合わせて自らを再構築するに至ったのだ。
刀型の武装である零落白夜だけじゃなく、ナックル型の零落白夜が新たに構築された点が特異である。
一夏は、ウルッと涙を溜めた。
「どうした!?」
いきなりのことに箒がびっくりした。
「いやな…。今まで俺、ISって全力が出せなくなる枷だって思ってたんだわ。けど、ようやく自分に合ったISが手に入ったのかと思うと感動して…。」
「この世界でISがそこまで邪魔になるのって、あんただけよ。」
「新しい武装もついたしな。」
「ワンオフアビリティだっけ?」
「ああ。」
千冬がその武装を見て、名付けてくれた。
零天破甲(れいてんはこう)。と。
一夏の拳に、零落白夜と同じ原理でシールドエネルギーを被せ、絶対防御を無効化してISを攻撃できる、強いて言うならナックル型の零落白夜だ。
さらに、ピストル拳と合せることで、中距離攻撃も可能となっている。ピストル拳の破壊力にシールドエネルギー破壊が加わるので、距離も含めて応用も効くので、実質的に刀型の武装・零落白夜を越えるだろうとみられている。
なお、刀型の武装・零落白夜もある。
しかし……、圧倒的に一夏は、肉弾戦派だ。そのせいか、近頃夢で白いワンピースの少女や、女騎士などがシクシク泣いてるのが出る。だが一夏は、夢だと割り切って気にしてなかった。
そんなこんなで、昼が過ぎれば夕方になり、日が落ちれば気温も下がって、やっと過ごしやすくなる。
過ぎしやすい時間帯になれば、一夏は夏休みの宿題にとりかかる。
高度なIS関係の数式などに苦戦する箒を助けながら、時間が来れば夕食を食べて、また宿題、そして時間になれば就寝。
夏休みの最初は、こんな感じであった。
後日、部屋の机に置かれていたアルバムを、箒が見つけた。
「一夏のか?」
「ん? ああ。出しっぱだったな。」
「見ていいか?」
「別にいいぜ。」
許可を取ってから、箒はアルバムを開いた。
「あれ?」
「どうした?」
「これ何枚冊目かか?」
「いや、それが最初だ。」
「なんで、小学生からなんだ?」
「ん? そういや、そうだな。」
箒に言われて今気づいたとばかりに、一夏が言った。
一夏は、変なところで鈍いというか…、良くも悪くも割と自分のことを気にしない面がある。
自身の肉親が…、親と呼べる存在がひとつも映っていない写真だらけのアルバムを持っていても違和感を持っていなかったのが良い例だ。
箒はヤレヤレと思いながら、一夏から聞いていた一夏の両親の顛末を思い出す。
確か…、蒸発してどこかへ行ってしまったと言っていたはずだ。その後は、千冬が保護者として頑張ってきたらしい。そんな姉の背中を見て、そして、自分も強くあらねばと思う一夏は、千冬の剣を学ぼうと箒がいた道場で稽古していた。だが、やがて箒が束のせいで監視下に置かれて離ればなれになると、今度は、女尊男卑の世の中を嘆き、そして、自身をこれ以上無いほど痛めつけるように鍛え始めて……。
「差がすごいぞ。」
中学生からの成長過程がすごいことになっている。男子の成長期に鍛えに鍛え始めたのだ。そりゃ変わる。
箒は、中学生初期の写真と、今の一夏を見比べた。
「どうよ? 俺成長しただろ?」
「ああ。」
そんな会話をしていると、部屋の戸がノックされた。
『いっちか~、いる?』
「鈴か。入れよ。」
一夏が入室を許可すると、鈴が入って来た。
「はい、これ。」
「なんだこれ?」
「何って、チケットよ。」
「おい…、これは…。」
「ふっふっふっ…。箒、駅前のパフェで手を打つわよ。」
「むっ!?」
一回は差し出したチケットを意地悪く自分の口元の方へ持って行き、鈴が悪役のように笑った。
チケットは、今月出来たばかりのウォーターワールドのチケットだった。
確か、前売り券は全売、当日券も開場二時間前に並ばないと手に入らない人気ぶりだと聞いていた。鈴がこれを持ってきたということは、つまり……。
「いくらだ…?」
「2500円。」
「むむ…。」
確か、駅前にあるパフェで有名な喫茶店の特に高いパフェは、それぐらいしただろうか?
しかし、それにしたって、結構な出費になる。最重要監視対象として国家の監視下に置かれている箒にすれば、支給されるお小遣いにかなり痛い。
だが、こんな機会そうそうない!
箒が意を決して買うと言おうとすると。
「じゃ、買った。」
「あんた、金あるわけ?」
「バイトしてた時の貯金ぐらいあるさ。」
「それって、箒との結婚資金とか…?」
「ああ。」
「!」
「使ってもいいの?」
「未来も大事だ。だけど、現在(いま)を楽しむのも大切だろ? 金なんてまた稼げばいい。」
「…分かった。」
ふうっと息を吐いた鈴が、ズイッとチケットを押しつけるように一夏に手渡した。
「じゃあね。」
「おい、今からサイフ…。」
「いいの。気が変わった。その代わり……、結婚式には絶対呼ばないと承知しないわよ?」
「あ、ああ。」
「凰…。」
思わず泣きそうになる箒に向け、鈴はニッと明るく笑う。
「それと…、思いっきり箒に綺麗なドレス着せなさいよ。」
「当たり前だ。」
そこだけキッパリ即答する一夏。箒は、想像したのかカーッと赤面した。
鈴は笑顔で手を振りながら、部屋から出て行った。
「…で? 箒、行くか?」
「も、もももも、もちろんだ!」
一夏に話を振られ、箒はプスプスと煙が出そうなほど顔を真っ赤にしてどもりながら返事をした。
鈴からのプレゼントで、思わぬデートが決まったのだった。
ナックル型の新武装の名前は、千冬が付けてくれたという流れにしました。
応募ありがとうございます。
ここからは、オリジナル展開かも。
原作だと鈴が一夏とデートしようと企むけど、一夏に急用ができてセシリアにチケットが渡る流れでしたから。