今回は、千冬の一夏と箒への思いと、謎の敵との会話。
サイド:千冬
「真那…、私はな…あの二人の恋路を邪魔したいわけじゃないんだ。」
「はい。」
「大事な弟と同じぐらい、私は篠ノ之妹も大事なのだ。国家機関と束の勝手のせいで6年も振り回されてなお、一夏を思い続けてくれた。そして一夏も同じく…。篠ノ之と離ればなれになってから、一夏は本気で笑った顔を見せなくなったのだと、再開してからの笑顔を見て思い知ったよ。」
千冬はそうブツブツと言い、グイーッと黒ビールを一気飲みした。
「私はそのことに気づかなかった。酷い姉だ。」
「そんなことないですよ。」
ここは、バー。山田真那と千冬が並んでカウンターに座っている。
酒が入ってブワッと感情が出てしまった千冬が、さっきから一夏と箒のことばかり話していた。
「よ~く、よ~く分かりますよ。お二人、とっても仲が良いじゃないですか。もう見ているこっちがほっぺた真っ赤になって熱が出そうなほどアツアツじゃないですか。」
「私はな、私はな! ただ! 二人の幸せを願っているだけなのだ!」
ダーンッと空になったビールが入っていたコップの底をカウンターに叩き付けるように置いた。
「しかし、それが二人の恋路を邪魔しているのなら、私はどうしたらいい?」
「二人とも、分かってると思いますよ?」
「しかしだな…、臨海学校の初日に凰から言われた…。『男って、多少スケベな方が健康的』っとな。私が堅すぎるのか!?」
「いえいえ、公衆の眼前で押し倒そうとしたのを止めないと大変なことになってましたよ!」
「うむ…うむ…、そうか…。そう言ってもらえて、少し気が楽になった…。」
千冬は、酒の力も手伝って、グスンッと涙ぐんだ。
真那は、思った。これは、相当疲れてるし、思い詰めていたんだなっと。
「お二人とも、まだ16歳ですから、心身共にまだまだ若いですから、切羽詰まって過ちを起こしかけることもありますよ。」
「それも青春なのだろうな…。」
「織斑先生にもあったでしょう?」
「……ない。」
「えっ?」
「私は私でそれどころじゃなくてな…、色々とな。私は恐らく一般基準でいう青春というものを謳歌していない。」
「あ…、そ、そうだったんですか。」
マズいことを聞いてしまったと、真那は気まずくなった。
「そのせいかもしれんな…。堅いことばかり言ってしまうのは…。」
『“こっちの千冬”も、ブラコン…か。』
「…………………ところで、貴様、いつからそこにいた?」
『さてね?』
二席ほど離れた位置に、赤毛に金が混じったような髪色に、マフラーで顔を隠した中肉中背の男が座っていた。
千冬は、ハッとする。店が…、周りが…、すべて鈍い灰色に変わり、時間が止まったようなっていることに。
『邪魔が入ると、面倒でしょ?』
「…名のひとつぐらい名乗れ。」
『ふーん。こんな異常事態でもそこまで落ち着いてられるのか。』
「貴様にはそれだけのことができる、得体の知れなさがある。一々驚いてられん。」
千冬が席から立ち上がり、護身用の短い木刀を取り出した。
『残念だけど、名前は教えない。この宇宙には俺という可能性がないからね。名乗ったところで見つけることはできない。』
「なるほど…、ここにいる貴様は幻影か何かか?」
『せいか~い。これは実体じゃない。今の実験段階じゃ、肉片を送るのがやっとだ。』
「ウォーターワールドでの事件は、やはり貴様の仕業か!」
『そうだよ。別宇宙への攻撃実験をかねた転送実験だよ。』
「貴様らは、侵略者か?」
『さ~て? その予定は今のところないけど、もしもの…時は…ね?』
「っ!」
つまり必要とあらば、こちら側の世界を侵略するということだ。
『だからこその、攻撃と、それに必要な転送。実験は成功。銀の福音と、今こうして、会話も成立しているし、別宇宙への干渉は可能だという立証もできた。あとは、転送量とそのための技術さえできれば、いつでもそちら側への侵攻はできる。』
「貴様ら…!」
千冬は怒りによって表情を歪めた。
『今回は、こちら側がそれぐらいできる状況だって事を言いに来ただけ。そして、侵攻する予定自体はないから、別宇宙との戦争が起こることはないって思ってくれていいよ。』
「ならば、銀の福音と、ウォーターワールドでの件はどうなる! あれこそ敵対行為ではないか!」
『備えあれば憂いなし。って、言葉があるじゃん。なにもそちら側じゃなくても、いいんだ。ただ、実験に成功したか否か。その結果が欲しかったから、その過程でたまたまこの宇宙が選ばれただけに過ぎないんだ。まあ、あえて理由を付けるなら、俺という干渉のための力の媒体が、この宇宙に存在しないというのも、選ばれた理由かな? 現段階じゃ、俺という存在がいないと別宇宙への干渉は今のところ不可能だ。けど、技術進歩が進めばいずれ、俺がいなくても干渉は可能になる。そのためには、これからもそちら側を利用させてもらうかもね。』
「私達の世界を実験場にする気か!」
『早い話が、そういうことだね。』
「おのれ!」
『おおっと。』
千冬が木刀を振るってきたが、赤毛の男の幻影をすり抜けただけだった。
『そうそう、この間、一夏が倒れたでしょ? あれ…、俺が精神干渉を行ったせいなんだ。ごめんね。』
「なっ!」
千冬はあの時一夏が熱中症で倒れたと聞いていたが、まさか謎の敵の干渉のせいだったとは思わなかった。
『あ、そろそろ終わりだ。じゃあね。』
「待て!」
「…………………織斑先生?」
男の姿が消えたと同時に、真那の声が聞こえた。
ハッとした千冬は、慌てて周りを見回した、木刀を手にした千冬をバーのマスターも、他の客達も怪訝そうに見ている。
千冬は木刀を収め、痛む頭を押さえてふらつきながら、カウンターに手をついた。
「織斑先生! だいじょうぶですか!」
「あ、ああ…。すまない。トイレ…行ってくる。」
心配して駆け寄ってきた真那を手で制し、千冬は頭を押さえながらフラフラとトイレに向かった。
そして便器に手を置き、盛大に吐いた。
「……っ、ふ、ふざけている…!」
アレは、別宇宙からの敵の警告なのか、単なる遊びなのか、それとも実験の一環なのか…その答えを出す要素がない。
自分達の世界を、別宇宙への干渉という侵略の準備のための実験に利用されているなど、あってはならない。だがどうする?
敵はそれほどの技術力を持っているのなら、世界中のISをすべて出撃させたとて、勝てる見込みはあるのか?
そもそも、なぜ自分にあの敵は干渉してきた?
そういえば、こっちの千冬と言っていなかったか? つまりあちら側の宇宙には自分も存在するということか? 同一にして別人の自分が。
「……クソッ!」
すべてがまるであの敵の掌の上で遊ばれているような錯覚がある。
それを想像した千冬は強烈な嫌悪感がこみ上げ、また吐いた。
とりあえず、原作4巻は、これで終わりかな……。
アイツが何をしに来たのか…、まあ謎行動はいつものことだし。別作品でも。
ただひとつ言えるのは、準備さえ整えば、いつでも侵略が可能だということを言いに来たことですね。
千冬が吐いているのは、精神干渉による後遺症です。酒も入っているのでメチャクチャ脳を揺すられた。