「おっかえり~! 私にします? 私にします? そ・れ・とも…。」
バターン!
っと、一夏は、廊下と自室を繋ぐドアを閉めた。ゴンッ、へぶっ!っという音と声が聞こえたが無視した。
隣にいる箒をチラリと見ると、箒はなにが起こったのか分からず、ぼう然としていた。
「箒…部屋間違えたみたいだ。」
「いや、ここは…私達の部屋だぞ?」
「いいや、あんな痴女がいる部屋が俺らの部屋なわけ…。」
しかし、視線をドアの番号に向けても、そこには自分達の部屋であることを示す番号しかない。
「酷いよ~。」
「出てくるな! そんな格好で!」
鼻をさすりながら出てこうようとする裸エプロン姿の少女を、一夏は慌ててドアを閉めようとしたが、彼女も負けじと出ようとドアを押さえ踏ん張る。
「一夏! このままでは目立つ。一旦部屋に入ろう!」
騒ぎを聞いて、他の部屋の生徒や廊下を歩いていた生徒が立ち止まりだしたので、箒はそう言って加勢し、なだれ込むように二人で部屋に入ってドアを後ろ手で閉めた。
「で? 何のご用ですか? 生徒会長さま。」
「いゃん。そんな堅苦しくならなくっても。楯無ってよ・ん・で?」
「仮にも先輩ですよね?」
彼女の名は、更識楯無(さらしきたてなし)。
このIS学園の2年生で、生徒会長を務めている女子生徒だ。
なぜ、その偉い(?)人が、自分達の部屋に、裸エプロン姿で、待ち構えていたのか……。
次に吐き出された楯無の言葉に、絶句することになる。
「私も、今日からここに住もうと思って。」
その言葉を理解し、リアクションするまで、たっぷりと1分ほど。
「な、なぜだああああああああああああああああ!?」
箒の絶叫が部屋に響き渡った。
楯無との出会いは、最近のことだ。
実習の授業では、一夏のみが後にロッカールームでISスーツに着替えるのだが、その時に背後から来たので思わず応戦。しかし楯無は単に悪戯半分で目隠しぐらいするつもりだっただけに、裏拳が来るとは思わなかったようだが、それでも十分対応していたため実力は相当なものだろう。
警戒する一夏に、降参だと手を上げ、けれど、どこか楽しそうにしている様には敵意はなく、一夏はひとまず臨戦態勢を解いた。
「ごめんね。ひとまず今日は退散するわ。」
「あっ、おい!」
あっという間に逃げられ、その後、1分授業に遅れ、千冬に怒られた。
一夏が遅れた理由としてロッカールームで不審者に襲われかけたことを言うと、千冬は顔をしかめ、相手の特徴を問い詰めてきた。
その迫力に押されそうになったが、特徴を言うと、千冬は酷くホッとしたように息を吐き、おそらく生徒会長の更識楯無だろうと言った。
授業後、千冬に何かあったのか聞いたが、黙秘された。
更にその後の、全校集会にて。
問題の楯無が生徒会長として現れ、今年の学園祭の大イベントを発表した。
特別ルールを導入するとして…。
「名付けて! 『各部対抗織斑一夏争奪戦』!」
……………俺に拒否権はないのか?
一夏は、絶句していて、その後の説明をほとんど聞いていなかったが、あとで箒に聞いたところ、学園祭では毎年各部活動ごとに催し物を出し、それに対して投票を行って、一位の組は部費に特別助成金が出る仕組みだった。しかし今回はそれじゃあつまらないので、帰宅部の織斑一夏をその部に強制入部させることになったのだとか。
しかし、生徒達の反応はびみょ~だった。それを見て、楯無は、あれ?っと首を傾げていた。
その理由を一夏だって分かっている。箒だって理解している。
一夏の存在は、恋に夢見る乙女達には微妙な存在なのだ。なにせまず本命がいて、付き合っている。そして、一に彼女である箒、二に筋肉、っな男だということが知れ渡っているからだ。
「まあ、運動部なら、全国一位狙ってやってもいいけど…。いっそ世界狙っても…。」
一夏がポリポリと頭を掻きながら呟くと、運動部の生徒達がそれを聞いたらしく、急にやる気を出してきた。
一夏の運動能力の異常性もまた知れ渡っているので、もし運動部に入れば即戦力どころじゃないだろう。
おそらく今年の学園祭イベントで一番やる気出すのは運動部で、残りの文系部は部費のことでやる気出すだろう。この後、あんまりにも反応が微妙だったため、その場で緊急会議していた楯無達が部費のことも入れた上で一夏争奪戦をルールに入れると叫んだので、文系もとりあえずやる気出してくれたようだ。
その後、クラスで出す催し物について話し合い、意外なことにラウラの提案でメイド喫茶となった。
「織斑君の分のメイド服も…作る?」
「むっ! それはいいな! ぜひ、作れ!」
「それ見て嬉しいのはボーデヴィッヒさんだけだよーーー!」
クラスの女子生徒の冗談を聞いて、別な形で一夏の筋肉が拝めると思ったラウラが一人鼻息荒く興奮し、セシリア以外の女子生徒達から総ツッコミを入れられていた。
っというわけで、一夏は厨房となった。セシリアが一夏に執事役をっと言い出したが、ムッキムキの執事を想像した他のクラスメイトが執事はスマートなイメージがあるからと、却下したのだった。
一夏は別に厨房でもよかった。最近コーヒーに凝っていた一夏は、バター焙煎をしたコーヒー豆とコンデンスミルクを使ったベトナムコーヒーを出してみないかっと提案。
ベトナムコーヒーってどんな味っとなって、休み時間に人数分ベトナムコーヒーを作って紙カップに入れて持ってきて試飲してもらい、即採用となった。
まあ、バター焙煎のコーヒー豆は普通では手に入らないので、試飲に使ったものと同じ普通に焙煎したコーヒー豆にバターを乗せてレンジで温めて作ったバター焙煎のコーヒー豆もどきを使うことになり、せっかくベトナムコーヒーを売るならアジア風なお菓子を添えて提供しようという挙手が上がるなど盛り上がった。
まあ…そんなこんなで色々と決まったところで寮に帰ったら、裸エプロン姿の楯無が部屋にいたわけである。
「で? なんで貴女が一緒に住むことになるんですか?」
「内緒。」
「それだと困ります。ここは二人部屋ですよ?」
「じゃあ、箒ちゃんベット詰めて?」
出て行くという選択肢はないらしい。
しかし、一夏はなんとなく事情を察してきていた。
「自分の身ぐらい、自分で守りますよ。」
「それで怪我でもしたら大変だから。」
「そういうことですか。」
「あ~ん。一夏君ってば誘導上手。」
楯無がわざとらしくペロッと舌を出して、テヘッと額に手を置いた。
「まさかまた過激派が…。」
「その事については、もう一掃されてるよ。安心して。」
「そうですか…。」
悪い予感を覚えた箒に、楯無がそう言った。
「ただね…。君達はもうイヤというほど知ってるはずだけど…。」
「……………アイツか。」
「そう。別宇宙からの敵の襲撃。」
楯無は、表情も声も引き締めて言った。
「片や世界初の男性IS装者。片や篠ノ之束の妹さん。この二つは決して欠いてはならない要素なの。」
「だから、IS学園における最強の称号を持つ生徒会長の貴女が護衛として来た。」
「簡単に言えばそういうこと。」
「率直に言えば良いじゃないですか。」
「それじゃあつまらないでしょ~?」
真面目な顔をとろかして人懐っこい顔と声で言った。
「……これは、仕方なさそうだな。箒、悪いけど我慢できるか?」
「私は…。う~。」
「だいじょうぶ! ナニかしてても見ない振りしててあげるから!」
「な、なななななななな、何の話だーーーーー!?」
再び箒、絶叫。顔真っ赤で。そんな箒を、楯無は、楽しそうに見ていた。
ベトナムコーヒーのもどきの作り方などについては、とあるコーヒーの漫画を見て参考にしました。筆者は飲んだことないけど、バターは好きだから美味しそうだなぁって思ってる。
銀の福音、そしてウォーターワールドで一夏と箒に対して、別宇宙からの敵の攻撃を受けているので、楯無が護衛にっということにしました。もちろん過激派の存在も忘れていません。