そして一夏の理性は、ギリッギリッ。
大きなトラブルが起こったIS学園学園祭は、終わった。
その後日。
「そういえば、そろそろ誕生日だな一夏。」
「ああ。」
「えっ? そうなの?」
みんなで食堂で夕食を食べていたら、箒が一夏の誕生日の話を切り出し、シャルロットが聞き返した。
「そうなのですのね、いつですの?」
「九月二七日。次の日曜日だな。」
「あれ? その日って…。」
「ああ…。キャノンボール・ファストと被るんだ。」
ISを使った高速バトルレース、その名も『キャノンボール・ファスト』。
国際大会も行われる一大競技であるが、IS学園では少し状況が変わる。
市の特別イベントとしてのそれは、学園の生徒達は参加するのだが、どうして専用機持ちが有利になってしまうので、専用機部門と一般生徒向けの訓練機部門とが別にある。
学園外でのイベントであり、使われるアリーナは、市のISアリーナを使用する。そこに入れる人数は、おおよそ2万人以上だとか。
基本的にこのイベントのために、生徒達はISを高機動調整を行うのだが……。
「俺の白式は相変わらずだからな…。」
なんの罰ゲームだっと言いたいぐらい、容量がないのは相変わらずで、高機動パッケージをインストールできないのだ。
「その場合は、駆動エネルギーの分配の調整や、スラスターの出力調整をすればいい。」
ラウラがそう言った。
そういえばっと、一夏は思い出す。
ラウラから説明を受けたが、あの時襲ってきたオータムが名乗っていた亡国機業であるが、あれは、正体が分かっていないテロ組織であることであった。
どこの国にも属さず、思想を持たず、信仰もなく、民族に偏らない。
古くは第二次世界大戦中には存在していたらしい。
その存在は確認されているものの、思想も理念もなく、国でもなく民族でもないため、全容が明らかでなく、まさに亡霊(ファントム)と呼ばれる所以はそこから来ているようだ。
最近のその組織の狙いはISであり、一夏の白式からコアのみを引き抜いた兵器も、本来はどこにも存在しない兵器であったらしく、つまり国家最高機密の兵器であったのだ。
ふと見ると、セシリアが浮かない顔をしていた。
「どうしたセシリア?」
「あ…、いえ、なんでもないですわ。」
「そうだ、セシリアのブルー・ティアーズには、高機動に優れてるんだろ? 超音速起動について教えてくれないか?」
「すみません…。それは、ちょっと今は…。」
「ああ、そうか。」
「なら、私が教えよう。シュヴァルツェア・レーゲンの姉妹機の『シュヴァルツェア・ツヴァイク』を使う予定となっているのでな。」
「じゃあ、頼む。」
「お前もだぞ、箒。このまま紅椿の性能に振り回されてばかりではいられんだろう?」
「あ、ああ…。」
紅椿の性能は、高機動パッケージに匹敵するものだ。そのため、箒はついて行けず振り回されていた。
束が箒の誕生日プレゼントにと作ったという新型ISは、蓋を開けてみたらとんでもない代物で、確かに箒の体には合っているが、箒の実力では扱いきれるような代物ではなかったのだ。ワンオフアビリティ、絢爛舞踏は問題なく動かせるのだが、なにせ機動性がすごすぎる。そして、展開装甲も、現在は防御にしか使えず、他の仕様、つまりエネルギーソード、スラスター、ビットなどに使い分けられないのだ。
箒は箸を置き、はあ…っとため息を吐いた。
「ため息を吐く暇があるのなら、経験を積むことだ。」
「……。」
ラウラが軍人としての顔で言う。箒は黙って俯いていた。
「けど、防御は上手くなってるらしいな。箒。」
「一夏?」
「あの状況で更識先輩を守り切ったんだからたいしたもんだよ。」
「……うん!」
箒は少し涙ぐんだ。
「あ、そういえば、あんた生徒会に入ったんでしょ?」
「ああ。結局、投票でシンデレラの劇が一番になったからな。」
「あれって、無効だよね。僕らが頑張ったおかげじゃないのかな?」
「まったくですわ。」
トラブルは相次いだものの、投票の結果、生徒会主催の劇が一番になってしまい、一夏争奪戦の結果は、生徒会の一員になることで決まったのだった。
もちろんブーイングは上がった。主に部費について。
「鈴はどこに入ったんだ?」
「ラクロス部よ。」
「僕は料理部。」
「わたくしは、テニス部ですわ。」
「私は…茶道部だ。」
「で、箒は剣道部と。」
「ああ。」
そしてそれぞれの部について楽しく談笑した。
やがて食事も終わり、寮の部屋に戻る。
一夏が制服の上着を脱ぐ。すると、まだ痛々しく残る肩の傷を覆った包帯が現れた。
「まだ…痛むか?」
「ん? ああ、ちょっとだけな。」
傷は縫ってナノマシンによる治療も行われた。あとは自然治癒を待つだけだ。
「私が…もっと強ければ…。」
「箒のせいじゃないって。」
ソッと包帯に指で触れる箒に、一夏は微笑んだ。
「私は…もっと強くなりたい! 私だって一夏を守りたい!」
「箒…。」
気がつけば箒は泣いていた。
「うぅ~。分かってるんだ! こんなこと言っても一夏を困らせるだけだって!」
「そんなことないさ。…ありがとな。箒。」
「うぅ~うぅ~。一夏~。」
グスグスと泣いている箒を一夏が抱きしめた。
「あらあらあらあら。女の子を泣かしちゃダメじゃない。」
「……いつからそこに?」
箒が泣き止み、楯無に聞いた。
「『まだ…痛むか?』って言ったあたりかな?」
つまり箒の恥ずかしいところを全部見られてた。
「更識先輩…、殴らせてください。」
「ああん。箒ちゃんってば、暴力的。」
「私の醜態を見た記憶を消す!」
「だいじょうぶ! 誰にも言わないから!」
「信用できん!」
箒がぬオオオオおおっと竹刀を振り回して楯無を追い回した。楯無は、キャピキャピしながら軽やかに逃げ回る。
「ま、それはそうと、一夏君の包帯はキャノンボール・ファストまでには取れそうだね。」
箒が振り下ろした竹刀を真剣白羽取りして止めた楯無がそう聞いてきた。
「あ、それとね。」
「ふぎゃっ!」
竹刀ごとベットの方へ箒を投げた楯無が言い始めた。
「非公式の情報だけど、一夏君のISのコアを取ったあの兵器って、リムーバーっていうらしいけど、まだ未完成でどこにも出回ってなかった物なんだって。」
「はっ?」
「つまり、どこの国もまだ開発中で実用化できなかったってこと。だから…、可能性として、別の宇宙の敵の可能性もあるって考えられてるみたい。」
「それって…。」
「まさか、別の宇宙の敵がテロ組織に助力を?」
起き上がった箒が驚いて言った。
「あとね、亡国機業のISの装甲だけど…、現段階の解析だと、自爆前にはすでに寄生されてた可能性が高いって。」
「それもう関わりがあるで、確定じゃないっすか?」
「銀の福音の件もあるからね。いつ寄生されたのかまだ分かってないらしいし。もしかしたら向こう(亡国機業)も知らない間にやられた可能性もあるよ?」
「それもそうですけど…。」
今思い出すと、ウォーターワールドでの一件で転送されてきたあの謎の細胞みたいなモノは、水からはじき出した後、自分で跳びはねてなかったか?
つまり自立して動くことが可能な可能性が高い。もしISの格納庫に侵入されて、整備中のISに取り憑かれても気づかれないかもしれない。
なぜだろう? あの赤毛の男には、それだけのことをする力があると確信できてしまう。
それと同時に、一夏はあの赤毛の男の姿を思い出しめまいを感じた。
「だいじょうぶ?」
「あ、…だ、だいじょうぶです。」
なんでだ? なぜあの男のことを思い出すとこうも頭が痛くなるのか…。まったくもって謎であった。
「お姉さんのお胸で休む?」
「いえ、それなら箒の胸の方が…。」
「!」
「だってさ、箒ちゃ~ん。」
それはそれは楽しそうに笑った楯無が、真っ赤になっている箒に話を振った。
「一夏の…スケベ!」
「おお! スケベで悪いか!」
「いいや! いい! 健康な証だ!」
「お姉さんお邪魔?」
「いえ、理性がヤバいのでいてください先輩。ここで約束破ったら、俺が千冬姉にコロされる。」
一夏が素早く返答し、やんわりと楯無を止めた。
あら、大変ね?っと楯無は、ニヤニヤと口元を扇子で押さえながらほんのりと赤面して笑っていた。
頑張れ一夏。あと、二年と半年(?)ぐらいだ。
次回は、誕生日プレゼントのためのショッピングかな。