けれど箒は……。
謎の敵の細胞によるトラブルは、早期に解決したものの、二日を無駄に消費したのは変わりない。
キャノンボール・ファスト本番までに何もできなかった時間を取り戻すべく、生徒達は必死だし、できなかった授業も詰め込まないといけない。敵が残したIS学園の爪痕は小さくなかった。
高機動実習として、中央タワーに繋がった第六アリーナを使う。
副担任の真那が授業を進めるが、まず専用機持ちに実習をしてもらうと言った。
まずストライクガンナーというパッケージを持つブルー・ティアーズ、つまりセシリアと、通常装備だが、全出力をスラスターに調整して仮想高速起動に調整した一夏がやることになった。
セシリアにハイスピードの切り替え方を教えてもらい、スタート位置につく。
「では…、3…、2…、1…GO!」
真那のフラッグを合図に同時に飛翔。
あっという間に音速にまで加速する。瞬時加速を常にやっているような感覚の中、一夏は超音速という世界を楽しんだ。
ISという機体があるからこそ到達できる世界。それは肉体のみでは到達はできないだろう。
ああ…ISはすごいんだなぁっと初めて実感した瞬間だった。
そして中央タワーの外周を周るのだが、ここは慎重にいかないといけない。なにせ超音速の世界。もしぶつかればとんでもないことになる。ぶつかった衝撃波でタワーを破壊すれば反省文どころじゃない。
手慣れているセシリアに習いながらタワーの頂上から折り返し、アリーナへと戻る。
「二人ともすごく優秀でしたよ!」
戻ってきた二人に、真那が笑顔で言った。
「いいか! 今年は異例の一年生参加だが…。」
千冬がパンパンと手を叩いて注目を集めてから言った。
今回のキャノンボール・ファストは、異例の一年参加が決まっており、謎の敵からの攻撃で無駄になった二日を取り戻すことと、キャノンボール・ファストの経験は今後大きな経験に繋がると言った。
そして、訓練機のキャノンボール・ファスト参加者を選出することを告げた。
本来は、キャノンボール・ファストは、整備課が登場する二年生からのイベントなのだが、今年は例年になく専用機持ちが多いことから異例として一年生もキャノンボール・ファストに出場することになったのだ。なお、訓練機組は一般生徒が参加するので優勝すればご褒美がある。
クラス対抗戦の時のように、デザート無料券だ。
異例の一年生参加に加え、敵の攻撃もあって予定が狂ったこともあり、指導する教師達は必死だ。教え子達に良い成績を残させてやりたいのは山々なのだ。
タッグトーナメントでは、ラウラのVTシステムの暴走もあり色々と無かったことになったりしてしまったが、国際大会も開かれるキャノンボール・ファストだ。当然だが世界中のお偉いさんやスポンサーが使いを出す一大イベント。しかも今年は異例の一年生の参加もあるので期待は大きいに違いない。
一夏としてもなんとかお偉いさんやスポンサーのハートをがっちり掴んで、自分の目標である筋肉による世の男性達の発破をかけられればと考えている。
セシリアから聞いたが、イギリスのマッスルブームは、少しずつだがヨーロッパ諸国にも伝わっているらしく、シャルロットの親の会社の筋肉関連品の事業も少しずつ軌道になってきているとか。
一夏の懸念はただひとつ…。
「トラブル起こるなよ~…。」
それでスポンサーとかに逃げられたんじゃ話にならない。
ふと見ると、箒が紅椿のデータが映された空中投影ディスプレイを睨むように見ていた。
「箒。だいじょうぶか?」
「ん、…ああ。」
「調整…難しいか?」
「いや、調整自体は問題ないと思う。だが…扱う者が未熟ではな…。」
「あ~、なるほど。」
並んでディスプレイを見て確認する。
紅椿は、装甲を展開することで、高速起動仕様にもなるという、従来のISでは考えられないほどの万能性を秘めている。
問題は、装者である箒が現在防御にしか展開装甲を扱えていないことだった。エネルギー増幅のワンオフアビリティ・絢爛舞踏は、扱える。奇しくも謎の敵との戦いの経験が、扱いが難しいワンオフアビリティの扱いを上手くしたのだ。
そのため、多目的動力で、絢爛舞踏が使えないとすぐにエネルギー不足になる紅椿の仕様を見事クリアしているのだが、セシリアのブルー・ティアーズのようなBT兵器のように使い方次第で攻撃にも防御にも、そして機動にも使えるという超優等生な機体である。そのあまりの万能性に箒は振り回されてしまっているのだ。つまり機動に展開装甲を回した状態を維持できないのである。つまり油断するとすぐに装甲が防御形態になってしまうのだ。超音速状態でそんなことになれば、確実にこける。
「防御に徹して、じっとしすぎたのが原因だ…。」
「いや、それは悪い事じゃないと思うぜ?」
「気休めはやめてくれ。」
箒は、プウッと頬を膨らませてそっぷを向く。こりゃ相当に参ってるな…っと一夏は思った。
「防御をいったん忘れて、機動に徹すればいい。」
そこへラウラが来て言った。
「お前は極端すぎる。」
「そう言われても…。」
「練習あるのみだ。機動状態を保つように。」
「言われんでも分かっている!」
うがっと箒が怒った。
「そういえば、一夏はいったいどのように調整したのだ?」
ラウラは、ぷんぷん怒る箒から視線を外し、一夏に話を振った。
「雪片を封印した。あと、零天破甲も。」
「それは…。」
「ああ、なにせ高機動パッケージを白式が受け付けないからな、そうでもしないとスラスターに出力を回せねぇ。」
「敵が来たら?」
「殴る。」
「攻撃が来たら?」
「躱す。もしくは、受け止める。」
ムキャッと一夏は二の腕の力こぶを膨らませた。
「一夏ならできそうだね…。」
「おう、デュノア。インストールは終わったのか?」
「うん。ラウラもね。」
猫耳を思わせるヘッドギアをつけたシャルロットが来てラウラに笑いかけると、ウサ耳のように長いヘッドギアをつけているラウラが頷いた。
よく見ると、インストールしたパッケージを読み込んでいるのか、そのヘッドギアが少しピクピク動いている。それがなんだか本物の動物の耳っぽくって、可愛い。
一夏は、そう思いつつも、代表候補生であるシャルロットと、現役軍人のラウラの機動を見たいと頼んだ。二人は快く受けてくれ、チャンネルを回してくれることになった。
直視映像と呼ばれるそれは、視界情報の共有、つまりシャルロットが見ている世界をISを通して見ることができるという便利機能だ。
そして、二人がスタート位置に付き、スタートする。
加速の仕方は二人とも個性があるが、減速のタイミングは似ていて参考になった。
「う~ん、さすが代表候補生だ。」
「これぐらい基本だよ。」
戻ってきたシャルロットが笑顔で言った。
一夏は、その後自分の白式の出力調整を見直すなどした。
順調な一夏とは裏腹に、箒はまだ紅椿のデータと睨めっこしていた。
見かねたラウラとシャルロットが、箒に助け船を出す。
そして、紅椿を高機動状態にして、外周をしようとする。だがスタートと同時に身構えた途端、防御形態になってしまった。
「むむぅ…。」
「馬鹿者! 機動状態を保てと言っただろう!」
「なるほど、力むと防御しちゃうんだね。今まで力みながら防御形態をしてたから、癖になってるのかも。」
「しかし身構えないと発進すらできん! それを直せ!」
「できたらやってる!」
「もう、喧嘩しちゃダメだよ。」
イライラが溜まって怒る箒と、厳しく指導するラウラが衝突すると、シャルロットが間に入る。
そんなことを繰り返している間に、一夏は真那に実戦でのキャノンボール・ファストを模した訓練をしてもらっていた。
キャノンボール・ファストは、ただスピードを競うではない。妨害有りのバトルレースなのだ。超音速で加速しながらの高機動戦闘。
一夏は、超音速の世界にすぐに慣れ、真那の妨害攻撃を防ぎつつ、グレネードやマシンガンを躱し、接近と同時に見ずに裏拳をして真那をコースアウトさせた。
コースアウトした真那を助け起こしに行き、アリーナに戻る。戻って箒の様子を見に行くと、箒は折りたたみ椅子に座って泣いていた。その隣にはシャルロットが必死に慰めていて、シャルロットの反対側でラウラがそっぷを向いて腕組みしていた。
どうやら、上手くいかなかったらしい。
その後放課後も箒はラウラとシャルロットの指導を受けて高機動状態を発動させた状態を保とうとしたようだが……、結局この日は上手くいかなかった。
こうして、一日は終わる。
このネタでの箒は、絢爛舞踏を早期に使いこなせていますが、他の展開装甲がうまく出来ていません。
また、謎の敵との戦いで防御に展開装甲を使いすぎたため、癖が付いて力むとすぐに防御形態に。完全に紅椿に振り回せています。
これは、本人が不本意で紅椿を手に入れてしまったことも大きいです。
アイツのせいで、二日無駄になっているので大変なことになってます。