一夏は、メッチャ鼻歌歌って、ISによるランニングを行っていた。
他の生徒達が釣られてペースを上げてしまい、ぐったりしている中、一夏だけはピンピンしていた。
簪は、自己ペースを守って周回し、先に休んでいた。
「なんか飲むか?」
一夏が来て、自販機を指差す。
「あるから…、いい…。」
そう言って簪は、水筒に入ったスポーツドリンクを飲んだ。
「その匂い…、手作りか。いいよな、手作りって。自分でその時の体調に合わせられるし。」
一夏も持ってきていた水筒を空けて、中に入っているお手製のドリンクをグビグビ飲んだ。
「……犬…?」
「ん?」
「なんでもない…。私…候補生…だから、体調管理…大事。」
「そっか。」
一夏は、少し離れた位置にドカッと座ってタオルで汗を拭いていた。
やがて簪が、スッと立ち上がり、ランニングコースから学園に帰って行こうとした。
「一夏!」
その声を聞いて、ピタッと簪がつい立ち止まった。箒の声だったからだ。
「聞いたぞ! パートナーが決まったのだな!」
「そっちは?」
「秘密だ。」
「楽しみにしてるぜ。タッグマッチの日を。」
「私もだ! 今度こそ私が勝つ!」
「いいや、俺が勝つね。」
「なにお~!」
「アハハハハ!」
じゃれ合う一夏と箒の様子を、振り向いた簪が見つめていた。
確かに一夏の言うとおり、箒が一夏のパートナーに対して 嫉妬している素振りはない。
しかし、なぜだろう?っと簪は思う。
一夏と箒の仲の良い光景を見ていると、胸の辺りがざわつく気がしたので、思わず手を添えていた。
ヒュウっとふいに強く吹いた風が、簪は正気に戻し、簪は慌てて前を向くと、今度こそ学園に入った。
***
次の日。
一夏は、簪がいる整備科の設備の場所に来た。
「おーす。」
「!」
「あっ、ごめん。続けてていいぞ。」
「……なに?」
本来は、整備科が科目に入る二年生から使えるルームだが、今は簪しかいない。
「いや、聞いたんだけど。一人で専用機のISを組み立ててるんだってな?」
簪は、返事をしなかった。
「なんか手伝えることがあればって思ったんだ。」
「ない。」
簪は、即答した。
「そっか。けど、タッグマッチの時は、量産機に乗るのか? それぐらいは教えてくれよ。」
「ううん……。打鉄弐式(うちがねにしき)を使う。……予定…。」
「それが更識さんの専用機か。間に合うのか?」
「……たぶん…。」
「なんなら、俺の白式のデータ見るか? 参考になるかもしれねぇし。」
「……いいの…?」
「いいさ。減るもんじゃねぇし。」
そう言って一夏は、ディスプレイに、白式を繋ぎ、データを開示した。
その内容を見て、簪は目を見開いた。
「これ……。」
「代表候補生としては、どう見る?」
「…すごく……、無理してる…感じ…。」
ISコアには、それぞれ癖や好みがあり、白式が雪片のみの武装しか許さず、他のパッケージがインストールできないのもそのせいだ。
「そっか…。俺、白式に無理させてんのか…。」
「けど、すごく譲歩してくれてる…っと見ることも…、できる…。」
この稼働時間で、ここまでのデータをたたき出すなんて…っと簪が呟いた。
「最初の頃はさ……、マジで拘束具かってぐらいキツくってな。俺の肉体に耐えられなくなって壊れかけてたんだよ。」
「あり得ない……。あなた…異常。」
「けど、臨海学校以来、急に俺の体に合った形態になってくれたんだ。おかげで、空を飛ぶの気持ちいいし、邪魔になってないんだよな。」
ワハハハ!っと豪快に笑う一夏に、簪は目を丸くした。
「で? なんか参考になったか?」
「さ…、さすが、倉持技研の機体…、打鉄弐式にすごく使えそう…。ワンオフアビリティが、…これ…。」
我に帰った簪が、ディスプレイの項目のひとつを指差した。
「零天破甲か?」
「面白そうな武装……。殴るのも…あり…かも…。」
「おう。接近戦がいけるならいいじゃね?」
「けど、この武装……、あなたの肉体がないと…ダメ…。武装は…付け足し……、うどんのネギと…同じ…。」
「うどんのネギ扱いかよ。白式。」
簪の例えに、一夏は笑った。
すると無表情だった、簪の口元が僅かに緩んだ。
「私も……あなたほど…強ければ…。」
「…更識さんは、姉さんを越えたいのか?」
「……どう、なんだろ…。ただ、このままじゃ、影も踏めない…。」
「なるほど。」
「……あなたは…、織斑先生に…追いつきたい…?」
「いや。」
一夏は首を横に振った。
「千冬姉は、千冬姉。俺は、俺だ。誰がなんと言おうとな。」
「!」
「どうした?」
「……本当に…強いんだね…。」
すると簪の目から、ポロリポロリっと涙がこぼれ落ちた。
「おいおい!」
一夏は慌ててハンカチを出した。
「み~ちゃった。おりむ~~~。」
「のほほんさん?」
「お嬢様を泣かせるな~~!」
「おわっ!」
いつものほほんとした本音が、このときばかりは怒って一夏に飛びかかってきた。
そんな一夏を後目に、簪は渡されたハンカチで涙を拭いていた。
その後、誤解を解き、本音の協力と、一夏の白式のデータのおかげで、未完成だった機体・打鉄弐式は、完成するに至る。
バンザーイ!バンザーイ!っと豪快に喜んでくれる一夏に、簪は俯き、僅かに頬を染めていたのだった。
簪が一夏に向ける感情は……?
正直、筆者もよく分からん。(笑)