かなり悩んだ。
展開は、原作とは違います。
一夏は、貸し出されたアリーナで、簪と対峙していた。
実戦しようするための、データを取るための相手をするためだ。稼働は無事にできると分かり、あとはタッグマッチに向けた実戦トレーニングも兼ねた稼働データが必要だったのだ。
「いつもで来い!」
「…ん……。」
仁王立ちで腕組みしている一夏に、簪は小さく頷いた。
のほほんさんこと、布仏本音さんは、見学席で簪を応援してる。
試合開始のブザーと同時に、簪は、打鉄弐式のミサイルの砲門を開いた。
一斉発射されるミサイルを、一夏は素早くかいくぐり、簪に接近した。
「かかった…。」
「!」
簪がそう呟いた直後、背中に先ほど発射されたミサイルが一発。
そのすきに距離を取った簪。その後、立て続けにすべてのミサイルが一夏の背中に容赦なく命中した。避けようとしても、避けた先でまた命中する。
「くぅ…、なるほど…、これが、マルチロックオンによる誘導ミサイルか!」
「そう。」
しかしこれだけの数のミサイルを自動ではなく、自分の目と感覚でコントロールするのは、簪の能力によるものだ。
「ピストル拳!」
「…それ、知ってる。」
何度も見たことがある技だと、簪が呟くと、フワ~っと風船のように漂うようにスラスターの出力を調整し、ピストル拳の風圧に乗って微調整しながら回避してみせた。
「やるな! コレ(ピストル拳)を回避しきったのは、あんたが初めてだぜ!」
「……何度も見て…シュミレートした…から…。」
「けど、さすがだぜ!」
「……どうも…。」
簪は褒められて、ポッと少し赤面した。
しかし、直後、打鉄弐式のブースターの片側が爆発した。
凄まじい数のエラーが発生し、スラスターが誤作動して簪ごとアリーナの壁に向かってムチャクチャに飛んでいった。それを一夏がハイスピードで先回りして身体で受け止めた。
「ぁ…。」
「止められそうか!?」
「う…うん…。」
緊急で止めるシステムを作動させ、打鉄弐式を強制停止させた。
一夏に受け止められた時もスラスターは暴走していて、ずっと噴出していたのだが、一夏は動じず受け止め続けていた。
「だいじょうぶか?」
打鉄弐式を止めて解除した簪をお姫様抱っこ状態で下ろし、一夏が聞いた。
「…平気…。それより…。」
「俺はなんともないぞ? 鍛えてるからな。」
心配する簪に、一夏は笑顔でそう言ったのだった。
「……ーパーマン…。」
「ん?」
「なんでもない…。」
ハッとした簪が慌てて首を振り、一夏の腕から飛び降りた。
本音が走ってきて、簪を心配した。
一夏は、そんな様子を見て、ポリポリと指で頬を掻いた。
***
打鉄弐式の修理はすぐに終わり、一夏との実戦データは、素晴らしい結果を生んだ。
これまで構築したシステムの間違いが分かれば、あとは合わないパズルを組み直すように合せて行けば良い。
そのおかげで、劇的に打鉄弐式のシステムは、良くなり、二度目の実戦トレーニングでは、エラーも無かった。
タッグマッチが、あと1週間と迫った時、簪は、綺麗にラッピングされた袋を手に、一夏と箒の部屋の前でウロウロしていた。
胸に抱えるように抱きかかえられた袋の中身は、数少ない簪の料理のレパートリーである抹茶のカップケーキ。
「…がぅ…、違う……お、礼…お礼…。」
頬どころか、耳まで赤くして、ブツブツと呟きながらウロウロしている。
簪は、打鉄弐式の感性を手伝ってくれた一夏に憧れに似た感情を抱いていた。
ヒーローというものに憧れを持つ簪の目に、一夏は、まるでヒーローの原典とも言うべきスーパーマンのようなものを感じていた。
誰よりも強くあろうとし、けれど自惚れず、そして他人のためにすべてをかけようとする姿勢。完璧なまでに鍛え抜かれた肉体もスーパーマンを彷彿とさせた。
しかし、簪にとって一番の不幸だったのは、一夏にはすでに思い人がいて、将来を約束し合っていることだった。
自分が入れる余地もないし、そんな勇気も無い。自分の感情はあくまでヒーローへの憧れだと断じようとしていた。
抹茶のカップケーキだって、打鉄弐式を作るのに協力してくれたお礼だと自分に言い聞かせているのだ。
早くしないとせっかく焼きたてを持ってきたのに冷めてしまう。簪は、勇気を振り絞って、チャイムを鳴らそうとした。
「?」
こちらに向かって歩いてくる二人組の気配を感じ、気がつくと慌てて柱の陰に逃げていた。
「……で…、簪ちゃんの機体…完成した?」
その声を聞いて簪は、心臓が跳ねた。
姉…楯無の声だった。その隣にいるのは……。
「ええ。なんとか完成しましたよ。…一度壊れかけて危なかったこともありますけど。」
「そう! 本当にありがとうね! 大好き!」
「抱きつかないでください。」
楯無が無邪気に一夏に抱きつこうとしたので、一夏がその顔に手を置いて、拒否していた。
その会話を聞いていて、簪は理解した。
一夏は、楯無に頼まれて簪に近づいたのだと。
「でも、ま、私の機体データ役に立ったでしょ?」
「あのですね…。」
さらに追い打ちをかけるように簪を絶望させる言葉が飛び出る。
完璧無比の姉に追いつきたい一心で、自分の力で機体を組み立てたかった。
一夏や本音達の強力こそあれど、自分の力で打鉄弐式を完成させた……つもりでいた。
すべては、姉の掌の上で行われていたのだと、そう理解した簪は、その場にズルズルとへたり込んだ。
「言っときますけど、俺の白式はあなたのデータなんて1個も使ってないですよ?」
絶望に沈もうとしていた簪の心に、ひとすじの光のように、一夏の言葉が聞こえた。
「そりゃそうよ、一夏君の白式にそんな余裕なんてこれっぽっちもないもんね。」
「確かに、きっかけは、あなたの言葉でした。」
一夏は、腕組みして言った。
「俺は、ISについては、ド素人。ましてや代表候補生のことなんて最近までこれっぽっちも知らなかったんだ。日本代表候補生がいることだって知らなかったんだ。きっかけこそあなたの頼みであれ、俺はあなたの妹さん…簪さんに出会えて組めたのはよかったって思ってるんだ。心から。」
「それって、簪ちゃんのこと買ってくれてるの?」
「当たり前だろ。俺のピストル拳を避けられた相手なんて、今のところ簪さんだけなんだぜ?」
「へえ! あの攻撃を!」
「なにその反応? そんなに意外かよ?」
「え…いや、そういうわけじゃ…。」
「なーんか、引っかかってたんだよな。あんた簪さんになんか言ったか? こう……、強くなるな、みたいなこと。」
「っ!」
「…言ったな。」
一夏がジト~っと楯無を見る。楯無は、言葉が出ず、パクパクと口を動かし落ち着きが無かった。
簪は、信じられなかった。あの完全無比の姉が一夏に押されている。一夏が楯無を圧倒している。
「あ~あ、俺、あなたのこと軽蔑するわ。」
「あーーー! そんなこと言わないでーーー!」
「知るか。」
「一夏くーーーん!」
部屋にさっさと入っていった一夏。ドアは閉められ、追い出された楯無はドンドンとドアを叩くが開かない。そして諦めた楯無は、トボトボと去って行った。
楯無が完全にいなくなってから、簪は、立ち上がり、おぼつかない足取りで一夏の部屋のドアに近づいた。
恐る恐るチャイムを鳴らすと、やや時間をおいてドアが開き一夏が出てきた。
「どうした?」
「あ、あの……。」
「それ、どうした? 潰れてるぞ?」
「あ……。」
言われて簪は気づいた。せっかく作ってきた抹茶のカップケーキが力んで抱きしめていたため、潰れてしまっていたことに。
それに気づいた簪の目にブワッと涙が浮かんだ。
ひっぐ、えぐ…っと嗚咽を漏らす簪を見た一夏は、簪が手にしている抹茶のカップケーキが入った袋を奪い取った。
簪が、あっ!と言う間もなく、袋を開けた一夏が潰れてしまった抹茶のカップケーキを口に放り込んでいた。
「うん。美味い!」
ペロッと手を舐めて、笑顔でグッと親指を立てた。
「……ホント…?」
「ああ。手作りか?」
「う、うん…。」
「美味かったぜ。ありがとな。」
「…嘘…じゃない…?」
「嘘吐くかよ。マジで美味かったんだぜ?」
「あ、あの…!」
「ん?」
「また…作ってきて…いい? 今度は…焼きたて……持ってくる…から。」
「ホントか? 歓迎するぜ。」
「…うん!」
簪は、強く頷き、気がつけば走って自分の部屋に帰っていた。そして、ベットにダイブしていた。
顔を両手で押さえてゴロゴロ転がる。その顔は耳まで真っ赤だった。
彼は…、一夏は、簪にとってのスーパーマン(ヒーロー)だ!
簪はそう確信し、枕を抱きしめて恍惚とした。
一方その頃。一夏は……。
「どうした、一夏?」
「いや…、なんかな…、どうしたものかと思ってな。」
「タッグの相手とか?」
部屋に帰ってきた箒と簪のカップケーキを食べながらそんな会話をしていた。
「お前のことだから気づいてやってるだろ?」
「あ~…。」
一夏は、頭を抱える。分かっている箒は、簪が近くにいると匂いで理解しててなんかやったなと、ジトッと一夏を呆れた目で見ていた。
打鉄弐式の稼働データを取るために実戦トレーニングをしたのは、原作にはありません。
あと、抹茶のカップケーキを作ったけど、楯無との会話を捏造しました。
簪の存在を知ったきっかけは、楯無だったが、一夏は簪と組んだことは後悔はなく、簪が近くにいることを知った上で悟られぬようフォローし、楯無を軽く軽蔑。
箒は、簪が一夏と組んだ相手だと知った上で、対戦相手として見ています。別に嫉妬はしません。