そして鈴との再会。
「では、クラス代表は、織斑で異論は無いな?」
……なぜこうなった?っと、一夏は思った。
確かにセシリアには勝ったが、勝った後はセシリアに代表の座を譲る気でいた。
なのだが、それをセシリアが辞退し、自分より強い者がやるべきだと高々に言ってのけ、他の生徒達は何も言えず、そして一夏が代表を務めなければならなくなったのだ。
セシリアは、すっかり一夏のファンになっていた。熱狂的な。
クラスメイトとは仲良くなりたいとは思っていたが、酔狂されたいと思っていたんじゃない。
「なぜこうなった…。」
「いいではないか、一夏。嫌われるよりは。」
「まあ…そうだけど…。」
「一夏さん! 聞きまして! 隣のクラスに転校生が来たそうですわよ!」
そこへ問題のセシリアが駆け寄ってきた。
「ああ、そう…。」
「なんでも中国からの代表候補生だそうですわよ。」
「へえ…。」
中国と聞くと、思い出す。
小学校時代、中国人を親に持つからと虐められていた少女がいた。
もちろん一夏は彼女を助けた。
それ以来、仲良くなった。しかし、彼女はやがていなくなってしまった。
いなくなる前……。
『毎日、酢豚を作ってあげる』っという、言葉を自分に言っていたのを覚えている。
「あれって…。」
その意味が分からないほど、一夏は鈍感ではなかった。
しかし、なにもややこしく言わなくてもっと、今更ながら思う。
ところで、話を変えるが、クラス代表トーナメント戦では、優勝クラスには、デザートの半年分のフリーパス券があるらしいのだ。
甘味は嫌いじゃないが、体作りのため控えめにしている一夏は、そこまでデザートがいいのか?っと思うところだ。
耳を澄ませば、クラスの女子生徒達が、織斑君なら勝てるかもっとか、一組と四組くらいしか専用機がないとか話しているのが聞こえる。
「一組と、四組くらいって…、専用機だからって勝てるとは限らないだろ?」
そう一夏が独り言を呟き机に突っ伏していると。
「その情報。古いよ。」
すると、教室の戸が開いて、ツインテールの髪型の少女が入って来た。
「誰だ?」
「だ、だ、誰だって!? あんた、私を忘れたの!?」
「ん?」
言われれば、見覚えがある面影があり、そして華奢な肢体から香るこの匂いは……。
「鈴(りん)?」
「そうよ、一夏! 私よ、凰鈴音よ!」
「久しぶりだなー!」
一夏は立ち上がり、鈴に駆け寄った。
鈴は、一夏を前にして、下から上までジロジロと見た。
「う~ん。成長したわね~?」
「おう。お前も背ぇ伸びたじゃねぇか。」
「相変わらず、筋トレしてるわけ?」
「おう。」
「イギリスのニュース見てびっくりしたわよ。」
「あ、見てたのか?」
「これでも中国の代表候補生よ。他の国のことは気にしなくっちゃ。」
「あ、転校生ってお前のことか。」
「一夏…。」
「あら、そっちは誰?」
「俺の幼なじみで、俺の彼女の箒だ。」
「あ、ああ…。」
「……ふーん。二組で聞いたわよ。人目もはばからずイチャついてるって。」
「そうか? 一緒にいるだけだぜ?」
「……。」
「……。」
首を傾げる一夏。
一方、鈴は、箒をジーッと見た。箒は居心地悪そうに俯いた。
やがて、チャイムが鳴り、鈴は二組に戻っていった。
「どうした? 箒。」
「いや…なんでもない。」
一夏が怪訝そうに聞くと、箒は俯いたまま首を横に振った。
***
そして、昼食時間になる。
「いっちかー!」
「鈴か。」
鈴が手にしているお盆にラーメンを乗せた状態でやってきた。
「聞いたわよ。クラス代表になったんでしょ?」
「ああ…。そのことか…。」
「なに? 不本意なの?」
「本当はセシリアに譲るつもりだったんだ。だって、俺、ISについてはド素人だぜ?」
「けど、勝ったんでしょ? 勝ったんならやるっきゃないじゃない?」
「そうなんだよな…。」
「ねえ、……ソレ…、どうしたの?」
「ああ、俺専用の筋肉増強食(?)だ。」
「相変わらずねぇ。」
一夏専用に作られた筋肉増強食(?)なる食事に、周りの生徒達の注目が集まっていた。
一夏の前の席で、箒は、モソモソっときつねうどんの揚げを食んでいた。
「じゃあ、負けられないわね。」
「ん?」
「私、二組のクラス代表になったの。」
「そうか。おめでとう。」
「うふふー、当然でしょ!」
「け、けど…、一夏が勝つ!」
ずっと黙っていた箒が言った。
「それは分からないわよ?」
「一夏が勝つ!」
「本人は、ド素人だって認めてるのに?」
「勝つと言ったら勝つんだ!」
「落ち着けよ、箒。」
「一夏…、お前は…。」
「箒?」
ワナワナと震えた箒は、食べかけのきつねうどんを残して走り去って行ってしまった。
「箒!」
「別にいいじゃない。頭冷やさせなさいよ。」
「けど!」
「はあ……、相変わらずね。」
鈴は、ヤレヤレと肩をすくめ、ため息を吐いた。
一夏は、箒を探しに行ってしまった。
その後ろ姿を見送り、鈴は再びため息を吐いたのだった。
「……つけいる隙…全然なさそうね。」
そう呟いたのだった。
***
箒を探して、寮の部屋に入った一夏は、ベットの上で、布団を被って丸くなっている箒を見つけた。
「箒? どうしたんだよ?」
「来るな!」
「おい…。」
「私なんかより…、アイツと仲良くしてれば良い。」
「鈴とか? なんでだよ?」
「だって…。お前は、アイツのこと好き…。」
「ああ、好きだぜ。」
「っ!」
「けど、友達としてだ。箒への好きとは違う。」
「い…一夏…。」
ゴソゴソっと、箒が涙でグシャグシャになった顔を出した。
「怖かったんだ…。」
「うん。」
「私…、ずっと怖かったんだ。」
「うん。」
「六年間…不安だった。」
「そうだったのか…。」
「国家機関によって、私の身柄が監視下に置かれて……、一夏が他の女に目移ししているかもって不安だった。」
「そうか…。」
「だから、ずっと不安だった。IS学園で一夏と再会するまで不安だったんだ…。けど再会できて、一夏も私を想っててくれていて、安心してたら…。」
「鈴が転校してきて、不安が爆発したってわけか。」
「怖かった…、怖かったんだ! ごめん、ごめんなさい…!」
「バカだなぁ…。」
「ば…!?」
「俺がそんな移り変わりするような男だと思ってたのか? 俺の方こそ、不安にさせてたのに気づいてやれなくて、ごめんな。お前の彼氏失格だよ。」
「そ、そんなことない!」
ガバッと箒が飛び起きた。
「一夏は、最高の男だ! 私にはあまりにも、もったいない、男だ!」
「俺にとって、箒はもったいないくらい、一番だよ。」
「い、一夏ぁ…。」
「よしよーし。」
泣きじゃくる箒を一夏が抱きしめ慰めた。
六年間も離ればなれになってたら、それも大人達の身勝手とかに振り回されりゃ、精神的にも不安定になるわなって、思って。それも思春期に。
このネタの一夏は、鈍感じゃない。