茨木童子の腕を見たとき……勃起……しちゃいましてね   作:トマトルテ

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情報が全然ないけど、開き直って書きます。
答えが出るまでは正解も不正解もないからね。


2話:切り落とされた右腕

「渡辺様……これから歌会があるのですが、ご一緒にいかがですか?」

 

 十二単を着込んだ美女達が、ある一人の男に声をかける。

 彼女達の身分は男と比べれば、高くもなく低すぎるということも無い。

 要は、気軽に接することのできる立場である。

 加えて美女となれば、男性ならば二つ返事で了承を返したくなるところだ。

 だが、男は困ったように愛想笑いを浮かべる。

 

「すまないね。頼光様に羅生門の鬼の件で呼ばれていてね。またの機会にしてくれないかな?」

 

 言葉だけ見れば、温和に。

 しかし、声色は一方的に話を打ち切る強さをもって。

 男は、女達の誘いを断り、そそくさと歩き去っていった。

 当然、女達は残念そうな顔をするが、そこに別の声が割り込んでくる。

 

「やめとけ! やめとけ! あいつは付き合いが悪いんだ。『蹴鞠をしようぜ』って誘っても楽しいんだか楽しくないんだか……『渡辺綱』23歳、独身。仕事はまじめで、そつなくこなすが、今ひとつ情熱のない男……。元皇族の血を引く上流貴族っぽい、気品ただよう顔と物腰をしているため、女中には()()()が、頼光様からは戦働きとか、護衛ばかりさせられているんだぜ。悪いやつじゃあないんだが これといって特徴のない……影のうすい男さ」

 

 と、怒涛の渡辺綱トークを披露したのは、彼の同僚だ。

 散々な言い方ではあるが、長い時を共に過ごした同僚の言葉なので、真実を射ている。

 

 綱は光源氏のモデルとなったとされる、(みなもとの)(とおる)の子孫であるため、当然イケメンだ。しかし、二回目の人生という惰性にも似た無気力さ故か、周りからの評価が高いとは言えず、それが血筋では、そう変わらない頼光の下につく原因ともなっている。もっとも、本人は未来での頼光の評価を知っているため、全く不満に思っていないのだが。

 

 そんな綱であるが、今回ばかりは正当な理由で美女達の誘いを断っている。

 

「それにしても、羅生門の鬼の件とは一体何なのでしょうか?」

「何でも、大江山の鬼で逃げ延びた鬼が羅生門に巣くっていたらしいんだが、1人でそいつの腕をぶった切ったらしいぜ」

「まあ、それは凄い!」

 

 同僚の説明のように、綱は羅生門にて見事、茨木童子の右腕を切り落とすことに成功している。

 今回は、その件の報告と腕の処遇を話すために、頼光から呼ばれているのだ。

 

「と言っても、無傷とはいかなかったみたいだがな。あの()()を見たか?」

「ええ、指まで包帯で覆って……それだけで鬼との闘いがどれだけ激しかったか、察せますわ」

「たく、鬼退治をするなら、俺達も呼べって言ってるのによ。本当に……付き合いの悪い男だぜ」

 

 そう言って、心配そうに目を細める同僚達を尻目に綱は歩き去っていくのだった。

 

 どこか、慈しむように右腕を撫でながら。

 

 

 

「私に物忌み(ものいみ)をしろと?」

 

 源頼光の屋敷にて、綱は確認の意味を込めて問いかける。

 それに対して、御前の頼光は威厳たっぷりに頷く。

 

「ああ、安倍(あべの)晴明(せいめい)殿に聞いてみたところ、鬼は必ず腕を取り返しに来るらしい」

「安倍晴明殿が……」

 

 未来でも名前の知られるビッグネームに、綱の耳がピクリと動く。

 実は、頼光の屋敷から出て橋を渡ると、すぐに晴明の屋敷につくという立地なのだ。

 つまり、2人はご近所同士なのである。

 

 ついでに言うと、茨木童子はその橋に出現するという伝承もあるのだが、流石に前門の虎、後門の狼どころではない場所で戦う気にはならなかったらしい。

 

「7日間の物忌み中は家に籠り、穢れのつく食事も控えろ。もちろん、その間は誰を入れてもならん」

「それは頼光様であってもですか?」

「無論だ。仮に私が訪ねてきたとすれば、それは十中八九で鬼だ。切り捨てて構わん」

「……承知いたしました」

 

 色々と考えながらも、条件反射的に頭を下げて、頼光からの命を受ける綱。

 七日の間、家から一歩も出てはいけないというのは普通に考えればつらい。

 特に、現代とは違いテレビもネットもない平安時代だ。退屈で気が病んでもおかしくはない。

 

 しかしながら、綱からすれば休暇を貰ったようなもの。

 否、茨木童子の腕と二人っきりで過ごせるのだ。

 彼にとっては、ぶっちゃけハネムーンみたいなものである。

 もし、この場に居るのが自分だけだったのなら、彼は間違いなくニヤけていただろう。

 

「さて…話は変わるが、切り落とした腕はどうしてある?」

「酒吞童子の首のように飛ばれては困るので、既に箱に厳重に封印しております」

「そうか、ならば良い。……して、鬼にやられたという右腕の調子はどうだ?」

 

 一度言葉を切り、綱の右腕に心配そうな、訝しむような視線を送る頼光。

 それに対して、綱は何を思ってか若干表情を崩して答える。

 

「御心配には及びません。今は違和感がありますが、直に()()()でしょう」

「……それを聞いて安心した。では、家に戻り次第物忌みを始めよ」

「は!」

 

 こうして、渡辺綱の物忌みが始まるのだった。

 

 

 

 

 

「さて、どうしたものか……」

 

 女中すら居ない広い屋敷の中で、私はポツリと独り言を零す。

 いや、正確には1人ではないか。私の傍には常に鬼の腕(かのじょ)が居る。

 と言っても、話し相手にはならないので結局は独り言になるのだが。

 

「物忌みの7日間。茨木童子が腕を取り戻しに来るのは()()()()()

 

 私は伝承を知っている。

 鬼の腕を切り取った渡辺綱は、今の私のように家に閉じこもる。

 そして、茨木童子はそこに腕を取り返しに来る。

 

「物語の最後は、鬼が腕を取り戻すという悲劇」

 

 6日間の間は、何とか耐える渡辺綱だったが最後の日に、伯母(おば)に化けた鬼に騙されてしまう。

 そこで、鬼の腕は失われてしまい、人間の歴史からは消える。

 物語としてはそれでも構わないだろう。

 単なる武勇伝よりも、失敗談も混ぜた方が教訓性と面白みが増す。

 だが、しかし。これは私の人生だ。

 

「君を渡すつもりなど毛頭ない。奪われるぐらいなら共に死ぬことを選ぶさ」

 

 鬼の腕(かのじょ)を取り戻されるなどもってのほか。

 何より、失敗の原因が分かっているのに同じ失敗をするなど愚の骨頂。

 

「単純な話だ。7日の間、誰も入れなければ物語の結末は変わる。ならば、私のすることは晴明殿の言いつけを決して破らないこと。……しかし」

 

 それでも不安は残る。

 私がただ単に、鬼の復讐を乗り切るのを目的としているのならそれでもいい。

 

「それだけで、永遠に鬼の腕(かのじょ)と共に居られるだろうか?」

 

 私の願いは彼女と共にこれからも平穏に過ごしていくこと。

 誰にも邪魔をさせるわけにはいかない。それが、彼女の本体であったとしてもだ。

 故に、7日間を乗り切るだけではダメなのだ。

 

 あの、安倍晴明が7日間で大丈夫だと言っているのだから、7日が過ぎれば、鬼はどう足掻いても手を出せなくなるのかもしれない。もしくは、7日で腕が腐って取り戻しても意味がなくなるのかもしれない。しかし、確証はない。

 

 それどころか、後者の方であれば私自身も不利益を被ることになる。

 だから、私は一計を案じることにしたのだ。

 

「7日を過ぎても取り戻しに来るのなら、取り戻したいと思わさなければ良い。

 7日が過ぎると腐るのならば、腕を生き続けさせれば良い。

 そうだ。離別の運命など捻じ曲げてしまえば良いのだ」

 

 腕を取り戻す気を無くさせる策は、最後の一日に行う。

 早すぎれば罠を疑われるので、相手が時間が無いと焦っている所を狙う。

 さらに言えば、やっと取り返したと思った所から落とすことで、精神的ダメージを与える。

 茨木童子には悪いとは思うが、これも彼女との輝かしい未来のためだ。

 小さな犠牲は仕方がない。

 

「そして後者の策は既に……フフフ」

 

 思わず笑いが零れ、無意識のうちに右腕を撫でてしまう。

 これならば、腐ることも無く、いつも、いつまでも彼女と共に居られる。

 思いついた時は、思わず自分が天才ではないかと思ったものだ。

 

「いつでも、待っているよ……茨木童子」

 

 罠は張った。後は獲物がかかるのを蜘蛛のように……待つだけだ。

 

 

 

 

 

「綱よ! 何故、この年老いた伯母を中に入れてくれんのだ!?」

「ですから、物忌みの最中で人を入れることが出来ぬのです。ご理解ください、伯母上様」

「ああ…! 幼い頃にあれだけ大切に育てた報いがこの仕打ちか……綱よ、私は失望したぞ」

 

 門を挟み、喧嘩のように叫び合う2人。

 外に居るのは年老いた老婆であり、中に居るのは綱だ。

 

「もう先は長くないと、遠路はるばる可愛い子の顔を拝みに来たというのに……これでは死んでも死に切れん。綱よ、このような恩を仇で返す行為を地獄の閻魔は見逃さんぞ」

「………分かりました。伯母上だけは特別です」

「おお! やはり、お前は優しい子だのぉ!」

 

 遂には涙を流して嘆き始めた伯母に折れたのか、渋々と言った様子で綱は門を開け彼女を迎え入れる。

 

「物忌みの際ですので、大したもてなしもできないことをお許しください」

「よいよい。お前の武勇伝の1つでも聞かせてもらえれば、これ以上ない土産話になる」

「武勇伝ですか……」

「そうとも。都の噂で聞いたがお主……鬼を切ったらしいではないか」

 

 鬼を切った。その言葉に、ピクリと綱が体を固くする。

 

「ああ、いや。話せぬというのであれば、話さんでいいぞ。……是非とも聞いてみたかったが」

 

 綱の反応に、伯母は慌てたように笑ってみせる。

 しかし、本音は隠しきれずにボソリと小さく、綱には聞き取れる程度の音で声を零す。

 そんな伯母の様子をジッと見つめていた綱であったが、やがて包帯を巻いた右手で頭を押さえ、ため息を吐く。

 

「はぁ……分かりました。他ならぬ伯母上の頼みです。()()()()()()()もお見せしましょう」

「おおっ! 流石は私の可愛い綱じゃ!」

「では、こちらへどうぞ」

 

 心底嬉しそうに笑い、伯母は軽い足取りで綱の後ろに続いて行く。

 故に、彼女は気づくことが出来なかった。

 彼の顔が酷く歪んだ笑みを浮かべていることに。

 

「……この箱の中に腕があります。どうぞ、お開けください」

「この中に腕が……」

 

 厳重に封をされた箱に手をかけ、伯母はどこか無機質な表情になる。

 さて、もう分かっていると思うが、この伯母は茨木童子が化けた偽物だ。

 本来の物語であれば、この後、老婆は鬼へと姿を変え、腕を持って逃げる。

 しかし、ここではそうはならない。

 

「これが……鬼の腕?」

 

 蓋を開けて、すぐに茨木童子は違和感に気付く。

 それもそうだろう。入っていた腕は女性の腕ではなく、男性の腕だったのだから。

 

 ―――偽物を見せられた。

 

 そのことに気付いた茨木童子は、すぐに次の策を練ろうとして。

 

「いや…まて……この腕は―――お前の腕だろう…?」

 

 箱の中の腕が、綱の物であることに気付く。

 気づいた理由は簡単。自身が傷つけた傷に見覚えがあったからだ。

 

「流石は、伯母上……分かりますか」

 

 自分の腕はどこにあるのか?

 何故、綱の腕が入っているのか?

 ここにあるのが綱の腕だとすれば、本人の右腕は一体何なのか?

 

 一瞬で様々な疑問が湧き上がるが、その全てを押し殺し、今を誤魔化そうと振り返る。

 だが。

 

「と、当然であろう。何年、お前の腕を見てきたと思って――」

「だというのに、先程から私の右腕を見ても何も言いませんね。伯母上……いや、茨木童子」

 

 今更そんな誤魔化しが効くはずもない。

 隠し持っていた短刀を左手で抜いた綱が、一切の情けも持たぬ表情で佇んでいた。

 

「な、なにを言っている…?」

「白々しい真似はよせ。私の知る伯母上ならば、甥が手を包帯で覆っていれば何があったか聞いてくる。いや、別に私の伯母でなくとも、家族であれば誰であれ心配するだろう。しかし、あなたは1つも聞かなかった。まるで、()()でも知っているように」

 

 ここに来て、茨木童子は自分が罠にはめられたことに気付く。

 思わず、怒りで顔が歪んでしまうが、もう取り繕っても遅い。

 鬼らしく正面から奪い返せばいい。

 

「ク…ククク…! そこまで分かっていながら私を中に入れるとはな! その勇気は買ってやるが、判断は間違いだぞッ! ここまでくればこっちのもの、貴様を殺した後にゆっくりと腕を探せばいいだけだ!」

 

 厄介な結界も何もない、内側なら十全に力を使える。

 腕を切り取られたリベンジもかねて、綱を殺してしまおう。

 そう考えていた。

 

「別に探す必要はない。君の腕(かのじょ)なら―――ここに居るよ」

 

 彼が右腕の包帯を解くまでは。

 

「お…まえ……」

 

 解かれた包帯の中身を見て、茨木童子は絶句する。

 それもそうだろう。

 本来、綱の右腕がある場所には。

 

「自分の腕を切り落として、私の腕をつけたのかッ!?」

「フフフ……なじむ。君の腕は、実に()()()()!」

 

 茨木童子の右腕がついていたのだから。

 

「君の腕を自分の腕として一体化する。これは私も良い案だと思っていてね。腕を取り返される恐れもないし、持ち運びに苦労することもない。何より」

 

 自分で、自分の腕を切り落とした上に、他人の腕をつけるという常軌を逸した変態行為。

 その余りの衝撃に、呆然とした顔で固まる茨木童子を置いて、綱は1人上機嫌に語っていく。

 そして、興奮がマックスに達したのか、おもむろに右腕を口に近づけ。

 

 

「―――いつでも君の腕(かのじょ)と愛し合える」

 

 

 ねっとりと舐め上げるのだった。

 

「イィィィヤァアアアッ!?」

 

 そこが茨木童子の限界だった。涙腺も限界だった

 自分の腕が、ヤバい奴のヤバいことに利用されている事実を直視できずに、悲鳴を上げる。

 そして、そのまま逃げるように、一目散に屋根を破って飛び去って行く。

 

 右腕? もう切り離されているんだから、自分とは関係ないという現実逃避である。

 世の中には忘れた方がよいことが多々あるのだ。

 

「逃げたか。左腕もどうせなら貰いたかったが……おっと、冗談さ冗談。私が愛しているのは君だけだよ」

 

 そんな彼女の姿を見送りつつ、綱は恋人を宥める様に右腕へ優しい接吻を落とすのだった。

 

 生まれてこの方、親にも見せたことの無いような恍惚の笑みを浮かべて。

 




腕だと吉良みたいにポケットに隠せんやん……せや! 自分の右腕にすればええやん!
こうして、今回の話が生まれました。
しかし、自分が書く華扇ちゃんはどうして、血の涙を流して角を折ったり、変態に腕を舐められて涙目になったりと散々な目にあっているんだろうか(真顔)

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