ギルド内は大騒ぎだった、パーティ全滅に近いという報告は、ここ最近ではなかったことだ。
しかも、場所は街から最も近い普段、冒険者という立場にない者達も立ち入る場所だったからだ。
紅蓮のパーティは経験も決して浅くはないメンバーで、腕の立つ剣、槍を使う者だけではない回復魔法が使え
る術者もいた、ところが、二人の死者、残り三人もかなりの深手を負った。
委員に運ばれ、ポーションを飲んだが、傷が塞がらず、治癒魔法の効果も薄い、というか、効き目がなかった
といってもいい、こんなことは初めてで治療に当たった者は当惑の表情を浮かべた。
「どういうことだ」
「はい、このパーティに料理番の女が同行していたのですが、その女だけが無傷なのです」
「無傷だと、遭遇しなかったのか」
「詳しくはわかりません、ですが、怪しくありませんか」
「確かにな、だが」
「その女性ですが、聞くところによると異界の迷い人のようです、尋問や呼び出しはやめたよろしいのでは」
そう言ったのは最近、ギルドに入ってきた若い女だった。
その言葉に室内の者が不思議そうな顔をした。
別の世界から迷い混んで来た人の事を言います、だが自分も詳しい事は知らないのだと言葉を続けた。
「迷い人には国の法律を当てはめてはいけないと聞いたことがあります」
「どういう意味だ」
尋ねたのはギルドマスターのエヴァンだった。
「わかりません、長生きできないからだと聞いた事がありますが、どうなんでしょう」
数日前のパーティの依頼、ただ食事を作るだけと言われて引き受けたのはよかった。
皆が森の奥へと入っていった後、森の入り口で自分は食事を作っていた、それだけだ。
だから、中で何が起こったのかわからなかった、ドラゴンに襲われたらしいが、冒険者をやっていると、い
つ、何が起こっても不思議はない、それなのに。
ドラゴンの吐いた炎は森の一部を黒焦げに焼き払ったらしい、だが、自分が料理をしていた場所まで炎は届か
なかった、それなのにパーティの仲間達、全員ではないが、おかしいと言い出したのだ。
気配には敏感なドラゴンが自分たちだけ襲って、森の入り口にいた自分を見逃すなんてあり得ないといいだし
たのだ。
そんなこと、ドラゴンにだって理由があるだろう、感の鈍いドラゴンだっているだろうし、森の中には他の人
間、もしかして勇者のような力のある人間がいたのかもしれない。
見舞いに行ったとき、暴言、否、半ば八つ当たりの様な言葉を吐かれて彼女は辟易とした。
気の毒だとは思うが、自分には何もできないのだ、だから今日は森の入り口で草の採取、それも初めてギルド
の掲示板を見て、やっているのだか、正直、草の種類の区別がなかなかできない。
初めてギルドの建物の中に入ったときは緊張して掲示板を見るだけで精一杯だった、昼を少し回った頃によう
やく、籠に一杯の草を取ってギルドに着くと正直、足は棒の様に疲れてしまった。
掲示板を見ながら採取した草の情報がないかと調べていると、ふと気配を感じて振り返る。
頭から黒いフードをすっぽりとかぶった相手が、すぐ後ろに立っていた。
「失礼だが、あなたは金色の麦の宿舎に泊まっている、ハル」
「は、はい、そうです」
相手は、よかった、よかったと頷きながら、下げていた籠を覗きこんだ。
「その草だが私に売ってくれないか、ギルドの買値よりは、いいと思うがね」
「えっ、でも」
「別に、正規の依頼を受けたわけじゃないんだろう」
受付を見ると住人ほど並んでいる時間がかかるだろう、疲れているし早く帰りたい迷っていると相手が手を出
した。
「代金はオリハルコンでは」
その言葉にギルドの中がしんとなった、だが、それは言われた彼女自身もだ。
「そ、それって、凄く価値のある石ですよね」
「原石だからね、どうだい」
採取した草の中には価値のない草だってあるかもしれないと言いかけたとき、相手はフードの下から取り出した
ものを相手の目の前に差し出した。
「おい、オリハルコンって」
「本物か、だとしても」
周りの人間が注目したのも無理はない。
「原石だ、本物だぞ」
「いいんですか」
頷くフード相手に彼女は籠を渡そうとしたときだった。
「おい、待ってくれ」
遮る様に声をかけてきた男がいた。
「なんだい、ギルドマスター、取引の邪魔かい」