どう考えてもおかしい、たかが薬草の採取で、その支払いにオリハルコンを、何か裏があってもおかしくないと思うのは当然だろう、周りの連中だった、そう思っている筈だ。
ギルドマスターのフランクは魔法使いを何か裏があるのではといぶかしむような目で、まるで睨みつけるような視線で見た。
というのも、この魔法使いはギルドには登録もせず、自称魔法使いと名乗っているだけで普段、何をしているのかわからない人物だ、その素顔を見た者もいない。
だが、多少、腕に覚えがあるのか、頼まれれば薬を作ったりしてする、はっきりいって何をしているのかわからない人間だった。
「あ、あの、本当に買ってくれるんですか」
それは魔法使いに向けての言葉だった、自分は頼まれて薬草を採取したわけではないし、薬草を売るために採取というの初めてだと言葉を続けると魔法使いは頷いた。
「ギルドは制約も厳しい、都合のいいときに採取した薬草を、これから先、私に売ってくれるというのはどうだい」
「独占契約ということですか」
「察しがよくて助かる」
突然、魔法使いは女の足下置かれた籠に手を伸ばし、薬草の束の中からごそごそと、一束の草を取りだした。
「これだけで十分な価値がある」
「なんだ、それは」
尋ねたのはフランクだ、普段から強面の顔つきなのが、一層険しくなるのは、それが何かわからなかったからだが、魔法使いは大事そうに、その一束を自分の胸元、ローブの中にしまいこんだ。
「エリクサーの原料といえばいいかな、香りが薄くて見つけるのは難しい」
その言葉にフランクだけでなく周りも、しんとなった。
どんな病気も治せる、万能薬と言ってもいい、しかも、この国で作れるのは高位、王宮に属する魔術師ぐらいだと言われている。
「薬の材料ですか、それ少し、しなびてません、新鮮な方が」
「植物にも知恵がある、擬態だよ、よく見つけられたものだ」
「それ香りがよくて、料理に使おうかと」
笑いながら、魔法使いは背を向けると入ってきたドアに向かって歩き出した。
「おい、あんた」
女が魔法使いの後を着いて行こうとする、咄嗟にフランクは手を伸ばすと、その腕を掴んだ、しっかりと。
「おい、聞いたか、オリハルコンの剣を、あいつが持ってたって」
「信じられんが、見たよ、ギルドマスター慌ててたな」
「当たり前だ、戦士として仲間を見捨てた奴が」
「ああ、ギルド登録しようと思ってたけど、なんか馬鹿らしくなってきたぜ」
街の噂が王宮に届くのに、それほどの時間はかからなかった、無理もない、そして、元、冒険者だつたアルバンが城へ来る様にと通達を受けた、だが。
「行く必要はない」
魔法使いの言葉に男が難しい顔になったのも無理はない。
「連中の目的は元、冒険者のおまえではない、オリハルコンの剣だ、城の騎士団でさえ所有している者は少ないだろう、興味があるのはわかるが、構う事はない、しつこいようなら、これを見せろ」
手渡されたのは一枚の紙だが、書かれてある文字がなんなのか、男にはわからない、契約書だと言われたら納得するしかなかった。
「ところで、おまえ、家は見つかったのか」
「んっ、まだだ」
「金がないのか、だったら出してやるぞ」
怖いなと思ったのも無理はない、魔法使いが親切にするときには絶対に裏があるからだ、女と一緒に暮らすんだろうと、読みかけの本から目をそらすことなく呟いた。
あれは勘違いしている、魔法使いの家を出たアルバンは説明した筈なのにと思いながら、その足で自宅ではなく宿舎へと向かった。
「ハルならキノコを干してるよ」
宿舎に行くと、顔見知りになった老女が声をかけてきた。
「あんた一緒に暮らすんだろ、さっき、客が来てね」
声が低くなった。
「顔を隠してたけど上流の人間だよ」
そう言って老女は肩を竦めた。