「こりゃあ、ヒビだな」
騎士の剣を見た小男は、一言、あっさりと呟いた。
朝一番で店に来た客は城の騎士だが、その表情は明らかに普通ではなかった。
「これはオリハルコンの剣なんだ」
「俺のところに来たのはお門違いというもんだぜ、お偉い騎士様」
「皆驚いている、今までこんなことはなかった」
騎士は昨日の事を話し始めた、森の中で魔物に遭遇し、いつもの様に戦ったことを。
オリハルコンの剣は特別、いや。別格だ、高位の魔物などは危険を察して剣を拭いた瞬間に逃げ出すこともあ
る、ところが今回は違っていた、魔物は向かってきたのだ、最初から。
鋭い爪を持つ巨大な熊、最初の一撃で伸びてきた爪を切り落とすつもりだった。
ところが、それはできなかった。
「オリハルコンの剣が全て同じだと思っていないか、騎士さん」
自分はドワーフの血が混じっているが、普通のドワーフと同じような鍛冶師の腕を持っているわけではないと答えた。
「元のオリハルコンはどこで手に入れたかわかるか、ダンジョン、魔物が隠し持っていたものなら無理もないけどな」
宝石、鉱石だって質の良さってものがあるだろうと小男は皮肉めいた笑いを漏らした。
自分の使っていたオリハルコンの剣はたいしたことがないということか、そんな馬鹿な、これはギルドから城へと献上された中で。
騎士は落胆した、店を出て城の宿舎へ戻る間も心は晴れなかった。
というのも剣を元通りにする事はできないだろうといわれたからだ、たとえ、腕のいい、人間ではないドワーフの鍛冶師でもだ。
いや、それ以前にドワーフのところに持っていったところで、見てくれるどころか、会ってもくれないだろう、三年前の災害以来ドワーフたちは森の奥に隠れ住んでしまったからだ。
もともと人間に対して好意的ではない種のドワーフだったので当然といえばそれまでだが、困ったのは彼らが貴金属の目利きで細工を得意とする腕前を持っていた。
それで貴族達の間に問題が起きた、貴金属の値段が跳ね上がったのだ、そして、これは未だに解決していないのだ。
オリハルコンの剣を所有している者は自分くらいなものだ、城の中、王の権威として何本かあるらしいが、城の式典や行事出ない限り、見る事は叶わない。
ところが城に戻ると早急に追うから呼び出しがあった、一体何事かと思えばオリハルコンの剣だ。
部屋には王と側近の者しか入れないように魔法で鍵がかけられていた、にもかかわらずだ。
「オリハルコンの剣にヒビが、本当ですか」
騎士は驚いた、そして自分の剣を見せた、王は落胆した、すると側近一人の魔術師がオリハルコンの剣を持つ者がいると、その者を城に呼んで調べてみればどうか提言した。
城に行くなら少しは見栄を張ってもいいだろうと魔法使いは女の身支度の用意を始めた。
古い木箱から取り出したのは見た事のない衣装だった。
「これは着物、でしょう」
女は驚いた、着物と言っても自分が知っているものと同じではない、魔法使いは楽しそうな笑いを漏らし、これは北の国の職人が作ったものだと説明した。
黒い布地には銀色の刺繍で花や動物の刺繍が施されているが、とても細かい。
驚く女に、魔法使いは、髪飾り等の装飾品をつけるようにとすすめた。
その姿を見たとき二人の男は驚いた。
古い色あせたズボンやシャツを着た姿しか見た事しかなかった女は、まるで別人だ。
魔法使いが貸してくれたというか、付き合いのあるアルバン・ズーラントが不可解に思ったの無理もない。
自分の知っている魔法使いの普段の生活というものは決して裕福ではないのだ、どうしてと不思議に思ったのは無理もないだろう。
だが、そんな二人の男の心情など知るよしもなく、三人は城へと出向いた。
城の広間、王宮に集まった貴族達は驚いた。
特に女性達の視線は女の衣装と装飾品に、否、男達もだ。
女の黒髪を飾る銀細工が光に反射し不思議な輝きを放っている、細かな宝石が組み込まれているのだ、その輝きに、オリハルコンじゃないのかと誰かが囁く様な声を漏らした。
「まさか、装飾、髪飾りなどに、人間では」
人の技ではどんな熟練者でもあってもできるわけがない、もしできるとしたら、ドワーフだ、それも熟練の腕を持っている者だ。
だが、この国では。
「よく来た、オリハルコンの剣を持つ者、そして」
王は興味深げに三人を見た。
「まだ、公にはされておらぬが」
王は個々数日の城にあるオリハルコンの剣に起きた異変を説明した。
アルバンは驚いた、だが、自分の剣は異変はないと告げると王は首を傾げた。
「王よ、その者の剣を調べて見てはどうでしょう、原因がわかるかもしれません」
一人の側近が進み出たが、それに意義を唱える者がいた。