幼馴染みと志摩リン   作:カカオ天下

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本栖湖

ーー11月中旬。プロ野球も高校野球(対外試合はできるけど)もキャンプもオフシーズンに入る季節。

そんな時期に俺こと星流 ゆう(ほしながし ゆう)は寒空の中、本栖湖のキャンプ場に陣を張っていた。

湖畔の先に見える雲の傘を被った富士山からは、暖かさをあまり感じない太陽が半端に顔を出している。

小さな背もたれのついた組立椅子は、男子高校生の身体を預けるには少々心もとなく思えるが、これが意外に問題なく座れる。軽くて丈夫、さすがはmade in Japan。

イヤホンから聴こえてくる地元東海ラジオ放送は、ドラフトで指名された有望選手のインタビューを流していた。

東海は地元じゃない? ファンが地元って言えば地元に入るから(暴論)。

ピュウ~と風切り音が聞こえると、後ろのテントが揺れる。気温は10度以下、かなり寒い。しかし、野球部で鍛えた身体に、貼るほっかいろとコートを着込めばあら不思議とばかり寒さに耐えられるのだ。

と、自分の身体の丈夫さを空に自慢していると、携帯がバイブした。

画面にはラインの着信。

名前はリンと映されていた。幼馴染みで同級生の志磨リンだ。

 

リン 『ゆう、ちょっといいか?』

 

ホシ 『どした~? 起きたら体が縮んでたか?』

 

リン 『謎の組織に毒薬盛られた経験はない』

 

ホシ 『それ以上小さくなったら困るしね(笑)』

 

リン 『ぶっころ』

 

ぶっころと送られて来るのは、ちょっと怒っている時の合図だ。

ちなみに本気で怒ったら、既読スルーされる。ちょっと傷つく。

これ以上へそを曲げられると洒落にならないので、用件を聞いた。

 

ホシ 『それでどうした?』

 

リン 『寒い』

 

ホシ 『そりゃあこの時期ですから。ここはオーストラリアじゃないよ』

 

オーストラリアは季節が逆なので今が夏。海をかけるサンタクロースなどが有名である。

 

リン 『焚き火がしたい。薪を拾ってきてくれ』

 

ホシ 『自分で行けよ』

 

わりと素で返信した。すると一分もしないうちに。

 

リン 『……寒い』

『凍え死にそうだ』

『ああ、斎藤。今私もそちらに逝くぞ(-_-)』

 

ホシ 『帰ってこ~い』

『あと、斎藤さんはまだ死んでないから。ご存命だ』

 

それにあの人寒いの苦手だから、多分凍死はしないだろ。

 

リン 『本気でほしい』

『お願いします優様m(__)m。テントの立て方とか教えた恩を返すと思って……』

 

ホシ 『その恩は買い物付き合ったり、キャンプ道具運んだりして、返してる気がするがな』

 

リン 『ふっふっふ。あの程度じゃ、まだ利息分も返せてないぜ』

 

ホシ 『なん……だと……?』

『くっ、元より俺の身体だけが目当てだったんだな』

 

リン 『その通りだぜ』

『大人しく言うことを聞きな』

 

ホシ 『俺の身体は自由にできても、心まで自由にできると思うなよ』

『くっころー!』

 

と茶番をしつつ。

 

ホシ『まぁ、ちょっと退屈してたしいいよ~』

『ついでに夕飯の材料も持ってくわ』

 

リン 『サンキュー』

 

返事が来たのを確認する。

俺は、夕飯の材料が入ったリュックを担いでリンがテントを張っている拠点まで向かった。

 

 

 

 

 

リンの拠点に到着した。

少し年季の入った吊り下げ式のテントが張られている。

その側にプランケットにくるまり口元まで隠してミノムシのようになっている少女がいた。かろうじで見える見覚えのある防寒の帽子。リンである。

この様子だと相当寒いらしい。でなきゃ、普段服が臭くなるとかでやりたがらないのに、焚き火をするなんて言わないか。

リンは口元を隠したまま。

 

「くっくっくっ、よく来たな小僧」

「お前が呼び出したんだろ……。まあ、いっか。たしか乾燥してる枝を選べばいいんだっけ?」

中二病なノリはスルー。おそらく斎藤さんとラインをしていたのだろう。あの人もけっこうノリがあっち系だからな。

レジャーシートを引きながらりんに確認する。そのまま、シートに材料が入ったリュックを置く。重石と荷物置きで一石二鳥だ。

 

「うん。あと、松ぼっくりもお願い」

 

松ぼっくりは火種として使えるらしい。面白い形をした動物の餌の実くらいの認識しかなかったから、最初教えてもらったときは驚いたものだ。

俺は了承する。そして枝or松ぼっくりを拾うために木々の方に入っていった。

ーー15分くらい経ち。俺は、戦利品を持ち帰って来た。

地面に広げると、カランカランと音をたてて転がる。

その光景をみたりんは、眉をひそめながら一言。

 

「……拾いすぎだろ」

「いやぁ、拾ってたら段々楽しくなっちゃって……つい」

 

どうせ拾い放題だし、と思い調子に乗ったのが悪かった。

もちろん他に利用客もいないし、松ぼっくりも枝もまだまだ大量に落ちている。

だが、焚き火するには多すぎる。明らかに使いきれない。集めたのに使わないかもしれないのは、少々罪悪感があった。

なので、責められると少しへこむ。

 

「まあ、頼んだのは私だし。これ以上は言わないでおく」

「サンキュー」

 

さすがは幼馴染み。

小さい頃(リンは今でも小さいが)にお風呂に一緒に入っていただけあって、俺のことをよく理解しておられる(関係ない)。

閑話。

リンは、焚き火を起こす準備を始めた。てきぱきと段取りを進める姿には憧れを覚える。俺は、まだキャンプはビギナーなので焚き火のやり方などは勉強中だ。

そうしてあっという間に火が起こっていた。この鼻を刺す独特な匂いにはまだ慣れない。服に移りそうで、少し火に当たることに拒否感を覚える。しかし、それ以上に温度の誘惑。……抗えなかった。

俺は火に手をかざす。冷えきっていた指の先に血がめぐるような感覚を覚えた。

 

「あ~、暖かい」

「これだから焚き火はやめられねえぜ」

 

俺の向かいで火に当たっているりんも満足そうに呟いた。

 

「なんか焚き火見てると焼き芋食べたくなるな」

「おいやめろ。想像したら食べたくなるだろ。責任とって買ってこい」

「どこでだよ……。一番近いスーパーでも、チャリで30分かかるぞ。寒い寒い坂の中、チャリを押して買ってくるのか? お前は俺を殺す気か」

「だよね……」

 

リンはあっさりと諦める。元から冗談のようだ。まぁ、そんな理不尽な命令するやつと何年も友達できないけど。

だが、リンは未練がましい目で焚き火を見つめている。いまだに焼き芋の幻想に苦しめられているようだ。

仕方ない。

 

「少し早いが夕食作るか。リンもお腹減ってるみたいだし」

「わ、私を腹ペコキャラみたいに言うな!」

 

そんなつもりはなかったんだが。女心は繊細で複雑である。

俺はリュックを開ける。中から取り出したのは漆器色の鍋。Amazonで注文して3000円と少しとお手頃価格。それにリンに聞いたところけっこう性能がいいものらしい。

そして更にネギ、白菜、人参(一口大に切ってある)、豆腐、肉団子が総括して入ったビニール袋、そして出汁が入ったペットボトルを取り出した。

 

「今日は何を作るんだ?」

「へっへっへ。お嬢ちゃんが大好きなあれだよ」

「あ、あれだと……まさかっ!」

「そうさーーー

 

ーーーちゃんこ鍋だ」

 

 

若干不満げに睨まれた。

……別に大食いとかけたわけではないのだが。

 

 

 

火にかけていた鍋の蓋がカタカタと揺れ始めた。湯だった合図である。

あちっ、あちっ、と悶えながら蓋を取る。すると中には入れた具材たちがグツグツと音を立てていた。

今日作ったのは鶏と塩ちゃんこの素をベースにした自己流ちゃんこ鍋。

鶏ガラスープの旨味を凝縮した匂いが風に運ばれる。

ごくりと唾を飲み込む音が向かいから聞こえた。まあ、そう慌てるでない。と待てをされている犬のようになったリンに心の中で語りかける。

お玉を鍋に沈めて、味見用の小さな皿にスープを移す。

そして一口啜る。うん、俺的にはちょうどいい。だが、今日は一人ではなく二人鍋。相手の舌の意見も聞かなくてはならない。

ほいっと、リンに小皿を渡す。リンは何の疑問もなくスープを口にした。

 

「味どうかな? こんなもんか?」

「うん。ちょうどいいよ」

「オッケー」

 

口に合ったようで何よりだ。

確認が取れたので、俺は2つ取り分け皿に具材を注ぎリンに1つ手渡した。

準備はすべて完了だ。

 

「ではっ」

「「いただきます」」

 

手を合わせて、食材に感謝を捧げた。

まず始めに箸が捕まえたのは、熱されてくったくたになった白菜。持ち上げると染み込んでいた汁がだくだくと滴り落ちる。

こんなの、うまくないわけがない。

人参は旬野菜だけあって甘味がとても強い。一口かじるだけで、口の中に人参らしい甘味が広がる。

こんなの、うまくないわ……etc。

そしてメインディィィッシュ。肉団子。しかも今回はスーパーで買ったような量産品ではない。肉屋のおばちゃんに頼んで特別に作ってもらった、いわばオーダーメイドォォォ肉団子。そんじょそこらの肉団子とは違うのだよ。

少々割高ではあるが、それを損に感じさせない。

いざ、実食……俺は肉団子を口に運んだ。

その瞬間口の中が幸福感に満たされた。シンプルなスープが肉の本来の旨味を引き立てている。更に噛むごとに旨味が出てくる。時おり軟骨のこりっという感触がアクセントになっていて、これがまた堪らない。

気がつけば夢中で鍋をほうばっていた。

「ふう~。食った食った」

「うん、すっごく美味しかった」

「本当は締めにほうとう入れるつもりだったけど、入る?」

「無理、お腹いっぱい。私少食だし」

 

最後の言葉に変な意地を感じた。まだ気にしているらしい。

「まあ、出汁はまだあるから。ほうとうは明日の朝食べよう」

「分かった……でも時間あるかな?」

「朝10時までだろ? 余裕余裕」

「ゆうは朝練で早起きに慣れてるだろうけどさ……」

「起きてなかったら起こすよ。冷水ぶしゃーでいいか?」

「凍死するわ」

 

俺のジョークにリンの静かななつっこみが入ったところに、携帯のバイブ音が響いた。

俺の携帯ではないから、リンの携帯だろう。

 

「誰から?」

「斎藤。さっき、ちゃんこ鍋の写真送ったから、その返事みたい」

「へぇ~、何て返ってきたん?」

 

そう聞くとリンはライン画面を見せてくる。

 

 

斎藤 『ちゃんこ鍋か~、おいしそうだね~』

『ゆう君今度は私にも作ってよ』

 

リン 『いいよ~。だが、高くつくぜbyゆう』

 

斎藤 『10円くらい?』

 

リン 『そのくらいでいいよ』

 

安すぎるだろ。うまい棒1本分の価値しかないのか、俺の鍋。

 

斎藤 『ちなみに私は今日炒飯だったよ~』

『美味しかったよ(*´∇`)』

しかし、送られてきた画像は炒飯ではなく、愛くるしい瞳をしたチワワが上目使いしている写真だった。

たしか斎藤さんが飼っている犬だ。名前はチクワ。

 

リン 『……!?』

『貴様チクワを食べたのか?』

文面は驚いているが、リンは真顔だ。どうやら斎藤さんの間違えを弄っているようだ。

斎藤 『あ、間違えた』

『本物はこっちね』

 

と、次に送られてきた画像にはおいしそうな炒飯とピースしている斎藤さんが写っていた。

どうやら小さな命は犠牲にならなかったようだ。一安心。

リンは平然としている斎藤さんの返信に少し悔しそうだった。

まあ、いつも弄られてるからね。髪とか色々。

 

斎藤 『じゃあ私そろそろ寝るね~』

 

リン 『はや!?』

 

現在6時半を少し過ぎたぐらい。寝るにはかなり早い時間だ。

 

斎藤 『気を使ってるんだよ~』

『あまり、デートの邪魔するのは不粋だからね』

 

リン 『デートじゃねえよ』

『変なこと言うな』

 

斎藤 『はいはい、二人は同じ場所でソロキャンしてるだけだもんね』

『じゃあ、頑張ってねリン~』

 

リン 『何をだよ』

 

本当にナニをだよ。

いや、まあね。俺とて健全な男子高校生。夜に仲のいい男子と女子が人気のない場所で二人っきりという状況に、色々と妄想を働かせてしまうこともある。

しかもリンはわりと押しに弱いから、好感度的には小さい頃から一緒の俺ならワンチャンあるだろう……いや、だからワンチャンあるだろうじゃねえよ!

とんでもない爆弾を落としてくれたもんだな斎藤さん! おかげでさっきまでそんなムード1つもなかったのに気まずくなってるじゃないか!

俺は頭を抱えながら、今ごろ俺たちの狼狽ぶりを想像してにやにやしているだろう斎藤さんに呪詛を送る。

リンはリンで空気が変わったことを察したのか、顔を赤くして困ったように茂みの方を見ていた。

その姿は明確に拒否もしないし、誘うわけではないから、選択肢に困る。

どう言えば正解なんだ。どうすれば……ッッ!

……俺は悩むのはやめた。

「……リン」

「な、何?」

「俺、テントに戻るわ」

「……あ、うん。鍋ごちそうさま」

「おう。何かあったら呼べよ。それじゃあ」

 

俺は逃げた。全速力でテントまで走った。

だって、恥ずかしいんだよおォォォ!

その後斎藤さんに文句のメッセージを送ったら、ヘタレと罵られよけいにへこむのは別の話。

 

 

 

 

 




次回はリンちゃん目線。なでしこ出演予定
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